路傍の石 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101060095

感想・レビュー・書評

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  •  苦労し努力を重ねる少年の物語と訊いていたため、淡々として地味な小説…とイメージしていた。ところが、すこぶる面白いのであった。
    舞台の展開が意外に速くてテンポが良い。呉服屋での丁稚奉公にしても、ここで苦節何年も耐えるのかな…と思いきや、早々に逃げ出して東京に出てしまう。上京後も、見る見るうちに、地歩を確保し「出世」してゆき、展開が速い。文章が平易ですらすら読み易いこともあり、570pの大部だが、4日で読みきってしまった。
     
    さて、主人公は愛川吾一という少年。冒頭では尋常小学校の生徒で十代前半、そして、終幕では、20代半ば頃の青年へと成長している。初めは、栃木県が舞台で、江戸期の名残が少し残っている明治の頃。その後、日中戦争の時代、軍国主義の時代へと至る。
     吾一の父は侍の家に生まれた士族で、ろくに働かず、土地の所有権を取り戻す「訴訟」に何年も掛かり切りになって家を空けている。母を多年にわたり内職させ、吾一が苦心して貯めた貯金を無断で費消する人でなし。だが、吾一の父が最も罪深いのは、近代(資本主義経済)の世に移った時代の変化を受け入れず、封建時代の遺産で不労所得を得ようと執心していることである。

     その他、吾一の周りには、多くの曲者たちが次々に登場する。努力して働く吾一を、妬み、ひがみ、足を引っ張る者、意地悪をする者などなど。
    親たちが本書を子に薦めてきたのは、かような「渡る世間は鬼ばかり」な現実を、子供たちにも知っておいて欲しい、という期待、効能もあるのかもしれぬ。
     
    吾一は、働くこと、しかも、ただ闇雲に働くのでなく、工夫し、自分にとって何が大切なのか先を読んで努力してゆく。そして、物語は、悪人や、同僚の妬みと、上手につきあう智恵も必要なのだと暗示している。

    終幕近く。「いかに生きるか。」が大事だと説く、恩師の次野先生。だが、吾一は、今の自分は「いかにして生きるか。」が大事なのだと考えるのであった。

    * * *
    人として生きる正しき道を説く物語である一方で、北清事変について語るくだりでは、大陸進出、植民地支配を正当のものとして論じている。時代の制約というか、当時の価値観の枠組みという限界として、やむを得ぬのかもしれない。


  • 何度も蹴られる 路傍の石。

  • 小川洋子さんのラジオで紹介されていて、今更ながら読んでみたが、とてもよかった。
    昭和15年、制裁を受け、未完にせざるを得なかったことは「ペンを折る」に書かれている。
    吾一の志が素晴らしい。

  • 吾一が今後どうなるのか続きが気になる。

    昔読んだことがあり、読み返すつもりが違う本と勘違いしていたのかもしれなかった本。

    運命に翻弄される不遇の少年の話と思って読み始めた。
    ところが、吾一は、思っていたよりも、強い上昇志向(倍働いて出世する、色恋よりも仕事を優先)と未来を掴み取ろうとする意志の強さを持っており、実際は、不遇の運命に挑戦し続ける話であった。
    一方で、無理して仕事をしても健康な吾一に対して、あっさり亡くなってしまった人間や、必死に吾一が身につけたスキルが変な方向に利用されるなど、頑張れば報われる話ではない。
    まさしく人生など自分など路傍の石でないか、なんのために生きているのかと考えさせられる。

    “いかに生きるでなく、いかにして生きるか、、のほうがおれたちのようなものにはもっと問題ではないのか。”
    平成の終わりまできても未だに、後者のレベルで人類は生きている気がする。どうやって食べてくかでなく、どんな人生をどんな風に生きたいかをちゃんと答えられるようにならないとなと思う。

  • 主人公の吾一と同年代である若いときに読むのもいいけれど、大人になって改めて読んだらまた、大人の登場人物の心情や日露戦争前後の社会の空気など、いろいろ違うものが見えて面白かった。

  • 艱難は汝を玉とす。

  • 感動。延々。

  • いわゆる教養小説である。

    実は未完の作品である。これくらいの作品でも検閲の網に引っかかったという。信じられん。

    立身出世的なストーリーは最近ではお目にかからないので、新鮮であった。

  • 山本有三記念館に行ったのをきっかけに、どんな文章を書く人だったのだろう?と思って読み始めてみた本。もっと古めかしい文章かと思ったら、意外と読みやすい。だけどタイトルの「路傍の石」の様に、この本も戦争によってあっちでけっとばされ、こっちでけっとばされ。結局完成しなかった。完成してないけど、それもまた良いかと思ってしまうのがこの本の不思議なところ。統制を受け、自由な表現が規制された時代。今でも何でもOKなわけではないけれど、作家にとってどんなにか息苦しい時代だったのだろう。今後二度と、そんな日本にはなって欲しくないな。作品も良かったけど、「ペンを折る」という文章がとても印象に残った。働くとは"はた(周り)"を"楽"にする事。そんなん無理!!傍に楽にして欲しいよ(笑)

  • 中途半端なところで一時中断、そして再開するも微妙なところで終わっているのが勿体無い。

    明治時代に生まれた少年の成長記です。時代的には日露戦争後?父親に振り回され奉公に出され、都会に出て身を立てる家主の娘といい雰囲気になるかな?と思ったらまた父親、またお前か!
    困難だらけの人生ですが、それでも上を目指していこうと頑張る吾一を見てると応援したくなります。

    そしてあんな父親いたら嫌だ...

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