遅れてきた青年 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126050

感想・レビュー・書評

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  • 躊躇いを振り切っての再読。初期大江に付き物の挫折感が汚辱まみれに涌出、非常に痛みを伴う小説。自慰にふけり排泄された塵芥から立ち上る臭気に耐え、グロテスクなエゴイズムと向き合うには相当の覚悟がいる。少しでも共感したらアウト、共に苦しみを味わうしかない。大江はこの小説で戦いを挑み、そして糾弾されたであろう。付け入る隙だらけだ。生身のまま無防備にさらけ出す危うさ、そういう大江を私は愛する。終戦の当時の著者の心情が投影されており大江を知るには外せない一冊だが、自選の全集からも外されているし、文庫も絶版なのが残念。

  • 大江健三郎の本は3冊目だが、とにかくめちゃくちゃ文が上手いが、そのすごいうまい文で書いてあることが本当に気持ち悪くて、一時代の男性が持つ気持ち悪さの煮凝りみたいで、今の時代と相容れないなあと思います

  • 大江健三郎の描く戦後文学は、戦後生まれの僕達にとって、もはや神話である。
    鬱屈した自意識過剰な主人公。
    19世紀西洋小説的。
    ロマン・ロラン的。
    文庫本あとがきによると、大江健三郎自身が終戦当時、そのような感慨を抱いていたらしいが、この長編は、第2次世界大戦の戦線に立つのに”遅れた”という意識を持つ青年が主人公であるところが、戦争を全く知らない僕には興味深い。
    ある意味、必然的でない後半の犯罪が、小説に影を彩る。

  • 10年ぶりくらいに再読。以降の長い作家生活の中での作品を思うと、これは初期の総括と言える作品かもしれない。政治的と対比させた大江健三郎の性的な、負け犬的なモチーフが些か中二病的な趣きを讃えながら、漲っている。

  • 再読。作中にも一瞬顔を出すジュリアン・ソレルを下敷きに、そしてまた『芽むしり仔撃ち』の面影をも揺曳させつつ、逆説的に語られる「わたし」の自叙伝。「すでにわたしはいかなる人間の情熱をかきたてるヒーローでもなく、いかなる世代の証人でもない。わたしは、あなたとおなじだ。」―こうして閉じられるエンディングはまことに寂寥感に満ちている。大江自身にとって、それは同時に60年安保の敗北と終焉でもあったのだから。この作品は、ここでもレビューがそれほど多くはない。もはや、熱い共感を呼ぶことはないのだろうか。

  • 人間が自分の運命的な出自に対して、どこまで抗えるかの挑戦を描いた作品。

    戦後期という混乱の時代だからこそ成しえた生き様は、只々鮮烈。

  • 青年の純粋さが突き抜け過ぎていて狂気でした。
    みんな狂気。

    こういう本を定期的に読まないと、気が済みません。

    13.03.16

  • (1971.02.04読了)(1971.01.07購入)
    内容紹介
    地方の山村に生れ育ち、陛下の勇敢な兵士として死ぬはずの戦争に、遅れてしまった青年。戦後世代共通の体験を描いた半自伝的小説。

  • 04012

    02/12

    戦争の終結と少年の性の目覚めが同時に起きる序章から、エロスとロゴスの対立というテーマが暗示され、後に政治的人間として生きるか、性的人間として生きるかの葛藤につながっていく。

  • カルトっすわー

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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