雄気堂々(上) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101133034

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  • 渋沢栄一の生涯を描いた歴史小説。上巻は武州血洗島での誕生から、幕末、明治新政府での若き官吏時代に入るまで。
    攘夷強硬派→一橋慶喜家臣→フランス留学→明治新政府での大隈からの協力要請

    一介の農民が一橋慶喜に取り立てられる件は興味深い。慶喜の周りに開明的な側近、平岡円四郎や原市之進やがいたことはあまり知られていない。彼らが早くに暗殺されていなければ(しかも内ゲバ)、世の中も変わっていたかもしれない。
    本書では、渋沢栄一だけのことでなく、幕末維新の全体の動きもよく捉えられていて頭の整理にもなる。

    渋沢栄一のような偉人の生い立ちはどのようなものだったのか。
    若い時から「建白魔」であり、自分の意見を発信する意欲が強かった。
    フランスへの留学が、後世、偉大な実業家になるに大きな影響を与えていたことは間違いない。

    (以下引用)
    ・井上馨が総理になろうとするときであった。明治の元勲たちの中で、井上ひとりがまだ総理になっていなかった。・・・(井上)「渋沢が大蔵大臣にならなければ、引き受けぬ」といった。元老や重臣たちは、入れ代り渋沢説得にのり出した。「きみがやれば井上も総理になれるのだから」と。
    (渋沢)「わたしは実業家で通す決心です」

    ・(渋沢夫人)「お父さんも論語とはうまいものを見つけなさったよ。あれが聖書だったら、てんで守れっこないものね」
    論語には夫人の指摘する通り、女性に対する戒めはない。

    ・平岡もまた、京都へ来て以来、人材登用の必要性をいっそう身にしみて感じていた。薩摩・長州・土佐など、有力諸藩を動かしているのは、いずれも、身分の低い下士上がりの若手たちである。それに比べれば、一橋家も、幕府も、人材らしい人材が居ない。・・・若くて根性があり、頭の切れる若者が、欲しい。その手はじめの一人が、栄一である。

    ・「天下の権、朝廷に在るべくして在らず、幕府に在り。幕府に在るべくして在らず、一橋に在り。一橋に在るべくして在らず、平岡に在り」と世間にうわさされるほどの人物で、このとき、(平岡円四郎は)四十三歳の働きざかり。

    ・平岡円四郎も原市之進も、一をきいて十を知る聡明なひとであった。相手の顔色を見ただけで要件がわかるといわれた。先が見えすぎ、ひとの先廻りをする。そのため、かえって、ひとにきらわれるという面もあった。

    ・(大隈重信が渋沢を大蔵省に招聘する際の言葉)
    「新政府がやろうとしていることは、すべて知識も経験もないことばかり。何から手をつけてよいかわからぬのは、きみだけではない。誰もが、わからん。わからん者が智慧を出し合い、これから相談してやって行こうとしている。つまり、われわれみんなが八百万の神々なのだ、きみも、その神々の中の一柱として迎えた」
    「知らぬからやめるというなら、みな、やめねばならぬ。やめたら、国はどうなる」

  • 八百万の神々が知恵を持ち寄れば。
    渋沢栄一のその謙虚さと行動力に感心させられる。若いころの栄一がどのような経験をしてそこに至ったかを知るのも面白い。渋沢栄一のような社会になれば、万人がしっかり働いて生きていける。

  • 設立に関係した会社500、同じく関係した社会・公共事業600。日本資本主義の父と言われる渋沢栄一の伝記。

    上巻では百姓であった栄一とその妻との結婚から始まり、幕末の動乱から明治への転換までが描かれます。

    個人的に記憶に残ったのは「仕事は与えられるものではない、つくりだすものなのだ」という言葉です。栄一は単に反対するだけではなく、必ず彼自身の意見を出します。彼はこの頃から慶喜に建白して財政改革を担っており、それが後の第一国立銀行設立にも繋がっていくのかなあと思いました。

    そして、後半の大隈重信の「新政府のやろうとしていることは、すべて知識も経験もないことばかり。何から手をつけてよいかわからぬのは、君だけではない。誰もが、わからん。わからん者が知恵を出し合い、これから相談してやっていこうとしている。つまり、われわれみんなが八百万の神々なのだ。君もその人柱として迎えた」という言葉。多くの人物が力を合わせ新しい日本を作っていく姿は活気があります。


    一味変わった明治ー幕末期の小説。
    下巻へ続きます。

  •  澁澤榮一の伝記小説。妻が読んでたのを僕も。豪農の生れで,攘夷運動に身を投じるが,一橋家に拾われて幕臣となり,欧州留学のお供で身に付けた知識を買われて新政府で活躍,下野後は実業家として名をなした。
    小説は渋沢の結婚から最初の妻との死別まで。何だか中途半端な終り方。明治近代化に奔走した人々を「八百万の神々」になぞらえて描く。城山三郎の小説は,「彼も人の子ナポレオン」もそうだったが,文章がなんだか無邪気で憎めない感じがする。

  • 城山三郎の著書リストを見てて、ずっと探してた。
    なかなか無かったけど、浜松のイトーヨーカドーで発見。
    筋。
    渋沢栄一の伝記小説。
    あんな英傑が出たのは、時代のせいだけじゃないよね、という話。
    もともと農民なんだけど、あの時代の農民はあまり貧しくないのね。
    一人息子の長男で、おっとり育って。時代に奮起して、焼き討ちを企てるくらい尊皇攘夷に燃えて。でも、頭で理解できたら、筋を通すよりも正しいことをする。すごく冷静。人への判断も確か。明治維新の綱渡りさがよくわかるし、その中で実業家としてできることをやり抜いたのが本当にすごい。物語の底を淡々と流れる、千代の生き方もすごい。あー、すごい。

  • 近代日本最大の経済人渋沢栄一の一生を鮮やかに描いた伝記文学の上巻。上巻は出生から新政府に「租税正」として出仕するまで。常に自ら仕事を創り出す姿勢から周囲からは「建白魔」と呼ばれる。その姿勢は平岡円四郎、一橋慶喜、大隈重信といった要人に認められ、様々な組織で改革をなしていく。情熱だけでは世は動かせず、効果性を重要視する信条を筆者は「老練」と評し、これが栄一の強みであることが随所に描かれている。

  • [18][110830]<yi

  • 渋沢栄一の青年期から、慶喜に仕えた時代。
    過激な攘夷派がなんやかんやと機会をそがれ、ついに幕臣になり倒幕後に政府に出仕するまで。

  • どうも維新やら経済やらに興味がないせいか、なかなか進まず…。特に後半は、経済中心の話になるのでダメだった。攘夷から経済へ…怒濤の時代を、柔軟に賢く生き抜いた人なんだろうけど、個人的にはあまり好きな人物ではないかな。

  • 渋沢栄一を知るにはいい小説。

    なんといっても、奥さんの苦労に同情してしまうけれども……

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著者プロフィール

1927年、名古屋市生まれ。海軍特別幹部練習生として終戦を迎える。57年『輸出』で文學界新人賞、59年『総会屋錦城』で直木賞を受賞。日本における経済小説の先駆者といわれる。『落日燃ゆ』『官僚たちの夏』『小説日本銀行』など著書多数。2007年永眠。

「2021年 『辛酸 田中正造と足尾鉱毒事件 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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