サマータイム (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101237329

作品紹介・あらすじ

佳奈が十二で、ぼくが十一だった夏。どしゃ降りの雨のプール、じたばたもがくような、不思議な泳ぎをする彼に、ぼくは出会った。左腕と父親を失った代わりに、大人びた雰囲気を身につけた彼。そして、ぼくと佳奈。たがいに感電する、不思議な図形。友情じゃなく、もっと特別ななにか。ひりひりして、でも眩しい、あの夏。他者という世界を、素手で発見する一瞬のきらめき。鮮烈なデビュー作。

感想・レビュー・書評

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  • なんとも大人の雰囲気が漂うアンニュイな物語でした。 
    でも、主人公は子どもたちなのです。
    表題作の『サマータイム』は5年生の進が主人公。一つ上の姉・佳奈と、同じ団地に住む左腕を事故で失くした中1の広一との夏から秋にかけての物語。
    広一に憧れる進、生意気な態度をとりながらも広一に淡い恋心を寄せる佳奈、自身が持つハンディキャップと母親の恋人に対する苛立ちの中にいる広一。
    他三編の短編は佳奈や広一が語り手になる。歳の頃は幼稚園児から大学生と多岐に渡るが、常にアンニュイな空気が流れているように思う。
    広一の母がジャズピアニストで、母の弾く『サマータイム』が最高にカッコいいと言う広一。広一が右手だけで弾く『サマータイム』に痺れてピアノを習い始める進。
    全編を通してこの『サマータイム』が脳内を流れていて、なんともいえずアンニュイな大人の雰囲気なのです。登場人物は子どもなのに。不思議です。それはきっと、佐藤多佳子さんの文章力なのでしょう。
    冬のお話もあったにも拘らず、まったりした夏の午後のような雰囲気の一冊でした。
    ぜひ夏休みに読んでほしい一冊。

    • こっとんさん
      まことさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます♪
      まことさんのレビューを読んで、私と同じように「あーこの作品好きー」とまことさんも感...
      まことさん、こんばんは。
      コメントありがとうございます♪
      まことさんのレビューを読んで、私と同じように「あーこの作品好きー」とまことさんも感じてくれているような気がして嬉しくなり、いいね!をポチッとしました。
      自分と同じような感覚のレビューを見つけるととても嬉しくなりますよね♪
      まことさんは、佐藤多佳子さんにお会いになったことがあるのですね!羨まし〜い!
      また、まことさんのステキなレビューを楽しみにしています。
      これからもどうぞよろしくお願いしますね♪
      2022/07/28
    • しずくさん
      サマータイムの表紙絵を夫が気に入り、アレンジして絵葉書にしたのはいつだったかなぁ~。内容はすっかり忘れていましたがこっとんさんのレビューを読...
      サマータイムの表紙絵を夫が気に入り、アレンジして絵葉書にしたのはいつだったかなぁ~。内容はすっかり忘れていましたがこっとんさんのレビューを読んでいてうっすら甦りました。
      ありがとう!
      2022/07/31
    • こっとんさん
      しずくさん、こんにちは。
      表紙絵を絵葉書に!!!!!
      素敵な旦那様ですね♪
      羨ましい♪
      私も読書中、何度も表紙を眺めていました。
      しずくさん、こんにちは。
      表紙絵を絵葉書に!!!!!
      素敵な旦那様ですね♪
      羨ましい♪
      私も読書中、何度も表紙を眺めていました。
      2022/07/31
  • 夏にぴったりな作品と思っていたら、読むのがすっかり秋になってしまった。けれど、秋が来てこそ、余計に夏の余韻を感じとれたと思う。
    ずっとサマータイムのメロディーが、頭の片隅で鳴り続けていました。姉と弟、そして二人が出会った少年。三人の視点から、出会いからの繊細な感情が語られます。少し大人になった章では、三人の関係性が気になります。そして、傷を抱えている大人びた少年(広一)と、魅力的なピアニストの母。人の哀しさを背負ったような広一が、やるせなくも凛々しく描かれていて沁みた。大人の世界を子供(若者)が見る側から語られてる感じがした。
    思い出と呼ぶには、まだ近すぎて、なまなましくて、胸が痛いーそれでも、やはり特別の記憶には違いなかった。おそらく誰もが持ち合わせるこの感情が、とても瑞々しく描かれ。所々に散りばめられた、夏の匂いがする情景描写が心地よかったです。

  • 小学5年生の夏、ぼく(伊山進)は、自動車事故で左腕を失くした二つ年上の浅尾広一と、市民プールで出会った。
    進の一つ年上の姉の佳奈も加わって、団地で暮らす3人の交流が始まる。
    気だるさの漂う、夏の終わりの思い出。
    佳奈の作った、しょっぱい海の味のする大きなゼリーを3人で食べつくす。
    彼らをつないでいるものは、「ピアノ」と「自転車」。

    タイトルになっている「サマータイム」は、ジャズのスタンダード・ナンバー。
    ピアノの音が文章の間から聴こえてくるようです。

    この他に、三編の姉妹編が収められています。
    「五月の道しるべ」は、小学生の佳奈、「九月の雨」は16歳の広一、「ホワイト・ピアノ」は14歳の佳奈がそれぞれ語り手となっていて、妙に大人っぽいセリフが少女マンガのような雰囲気を醸し出していて、懐かしさに鳥肌が立ちます。

    • こっとんさん
      m.cafeさん、こんにちは♪

      “気だるさの漂う、夏の終わりの思い出“

      ですよねー
      この雰囲気にやられました。
      子どもたちの物語なのに、...
      m.cafeさん、こんにちは♪

      “気だるさの漂う、夏の終わりの思い出“

      ですよねー
      この雰囲気にやられました。
      子どもたちの物語なのに、なんだか大人な雰囲気なんですよねー
      2023/06/03
    • m.cafeさん
      こっとんさん、こんにちは♪

      ほんとにそうですよねぇ。
      この本、児童書って書かれてあったけど、児童書の枠超えてますよね(^^)
      他では味わえ...
      こっとんさん、こんにちは♪

      ほんとにそうですよねぇ。
      この本、児童書って書かれてあったけど、児童書の枠超えてますよね(^^)
      他では味わえない雰囲気、読んでよかったです。
      2023/06/03
  • 私の中では「一瞬の風になれ」だけでもう確固たるものがある、この作者さん。
    そのデビュー作となるこの本は、先日のm.caféさんのレビューを見て手に取ったが、こちらもとても良かった。

    ■サマータイム
    進(11)と佳奈(12)の姉弟が同じ団地に住む隻腕の少年・広一(13)に出会った夏から始まる物語。
    大人びた雰囲気の広一を挟んだ姉弟の微妙な距離感の描かれ方が、確かにそんな感じと思わす。
    6年後、急に引っ越していなくなっていた広一が再び団地を訪ねてきての再会に、ピアノの話をして真っ赤になる進と、二人乗りの自転車で広一と佳奈がキョウチクトウの桃色の中に溶けていくシーンが素敵。

    ■五月の道しるべ
    小学校に入りたての佳奈の女王様ぶりが微笑ましいお話。
    姉に命令されたがままに傷ついた花を元に戻そうとさんざん苦労して、どうにもならなくて、遂には頭にきた進のとった行動が愉快。

    ■九月の雨
    「サマータイム」で語られなかった期間における広一と母の暮らし。
    母の恋人で初めて父とは共通点のない男、風変わりで冴えない種田だったが、意外なところで格好良かった。
    Blue Moon,Little Brown Jug,Summertime,September in the Rain,読んでいる間は次々に奏でられるジャズピアノの曲が頭の中で流れ…ってふうにはいかなくて、これらの曲を知らない(YouTubeで探して聴いてもあぁこの曲かとならない)自分が残念。

    ■ホワイト・ピアノ
    同じく語られなかった期間における佳奈の日常。
    広一を好きになって、いきなりいなくなられてから、何かが氷みたいにカチンと固まってしまった彼女の胸の内の描かれ方が面白い。
    調律師のセンダくんがいい味。
    My Favorite Thingsなら分かるぞ。
    白いニットのドレスに太いブルーの革ベルトをした佳奈 girls in white dresses with blue satin sashes♪ の腰をつかまえて抱き上げようとするシーンにときめいた。

  • 11歳のぼくと12歳の佳奈の姉弟。

    姉の佳奈の真っ赤なサンドレス。

    どしゃぶりの雨のプール。

    左腕を失った13歳の同じ団地の少年、広一。

    佳奈の作った夏の小さな海のようなしょっぱい味の、ミント・ゼリーとリキュール・ゼリー。

    広一が弾くピアノのメロディー。「サマータイム」

    佳奈と広一の自転車の特訓。

    駆け足で過ぎた秋。

    こわされた自転車。

    引っ越してしまった年上の友だち。

    そして17歳、4年後の再会。



    まるで夏をうたう、一編の詩のような情景がさーっと駆け抜けていきました。
    夏だけど爽やかな風のような作品でした。

    姉妹編で「五月の道しるべ」「九月の雨」「ホワイト・ピアノ」収録。
    どの作品もとても素敵でした。
    「九月の雨」はずっとピアノが流れているようなかんじで、「ホワイト・ピアノ」もピアノのお話だったので、愛着がわきました。

  • 佐藤多佳子さんのデビュー作。こんな素敵な作品でデビューしたら、後々名作をたくさん手がけていることに納得しかない。

    進、広一、佳奈の3人を中心とした、夏の物語。
    話ごとに話者は変わり、それぞれの考えとか、性格がよくわかる。
    物凄く大きい出来事がある訳ではないけれど、緩急もあって続きを読む手が止まらない。
    しばらく置いて、また読みたくなる作品だと思う。

    ホワイト・ピアノは、佳奈のわがままな振る舞いや言動が佳奈目線で描かれていて、佐藤さんのキャラの立て方がすごく上手いと感じた。

    広一は事故で左腕をなくし、右手だけで生活している。ピアノを弾けなくなったということ以外には、あまり悲観的に考えていない。その姿勢はクールでもあり、人にうまく甘えられないという苦しさもある。
    広一の母友子がジャズピアニストということで、随所に音楽要素があり、お洒落な雰囲気を出している。(音楽的知識がなくても十分楽しめます!)

  •  表題作の作品名は、ジャズの名曲からとられている。読んでいるとバックに流れてきそうな雰囲気がある。

     初読みの作家さんの短編集。表題作は月間MOE童話大賞を受賞している。4つの話は、夏、秋。春と冬の四季に割り当てられており、表題作に登場する人物は小5の進と一つ年上の姉の佳奈、そして中一の広一。素直な進、勝気な佳奈、大人びた広一の三人が織り成す物語。三人の出会いの夏から別れの秋、そして再会の夏を17歳になった進が色彩豊かにふりかえる。

     鮮やかな色彩、そしてジャズの名曲が流れるイメージ。これからの季節に読むべき作品だろう。

  • 姉の佳奈と一つ下の僕が出会った、2つ年上の片腕の広一。三人のひと夏の物語。
    突然の雷雨や、佳奈の失敗したゼリー、夏の終わりにぴったりの話だった。
    センダくんのホワイトピアノはおばあちゃんという例えと、佳奈とのやりとりが良かった。

    自分が子供時代に我が家にもピアノがあった。姉とともにレッスンに行く度に嫌がり、結局自分だけは通わずに済んだ。
    にもかかわらず、発表会には正装させられていたな~。大人になってからは楽器が得意な友人を見ては、あの時習っておけばと後悔した。

  • 佐藤 多佳子さん、初めての本でした。ふわふわ、きらきらした文章で、全体的にキレイな印象。中身、よく分からずに読み始めたので、ストーリーが異なる短編が入ってるのかと思ったら、つながってたんですね。

    初めの物語に出てきた人物、それぞれが別々の年代の話しをしつつ、初めの話につながっていくという、手法としてはよくある形のものです。

    でも、なんというか、表現の仕方が難しいのですが、キラキラしてる感じがするんですね。タイトルになっている『サマータイム』は文字通りなんですが、ほんと、子供の頃の一夏の思い出って感じ。

    言葉の使い方なのかもしれないです。
    ー 蛍光灯がぼやぼや光る夜の自転車置き場…
    ー 急にほのぼのとおかしくなった。
    ー それでも、俺はシャクゼンとしなかった。
    カギかっこの中では無いところで、登場人物が考えていることを、まるで誰かとしゃべっているように書かれているのにも、引き込まれていきます。

    爽やかで、キレイなお話しでした。

  • 佐藤氏は本屋大賞をとった「一瞬の風になれ」や「黄色い目の魚」、「しゃべれども しゃべれども」等 とてもいい作品があります。
    この「サマータイム」は佐藤氏のデビュー作です。
    4篇からなっていますが、それぞれのキャラクターがしっかりと自分を持っています。
    子供から大人まで面白く読める本です。
    大切にしたい一冊です。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。1989年、「サマータイムで」月刊MOE童話大賞を受賞しデビュー。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で98年、産経児童出版文化賞、日本児童文学者協会賞、99年に路傍の石文学賞を受賞。ほかの著書に『しゃべれども しゃべれども』『神様がくれた指』『黄色い目の魚』日本代表リレーチームを描くノンフィクション『夏から夏へ』などがある。http://www009.upp.sonet.ne.jp/umigarasuto/

「2009年 『一瞬の風になれ 第三部 -ドン-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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