春になったら莓を摘みに (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101253367

感想・レビュー・書評

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  • 実家にあったのを持ってきて読み。

    ・彼女は自分の信じるものは他人にとってもそうなるはず、と独り合点するところはなく、また人の信じるところについてはそれを尊重する、という美徳があった。(p100)
    ウェスト夫人の温かい人柄。見習いたいわあ。

    ・ただひたすら信じること、それによって生み出される推進力と、自分の信念に絶えず冷静に疑問を突きつけることによる負荷。相反するベクトルを、互いの力を損なわないような形で一人の人間の中に内在させることは可能なのだろうか。その人間の内部を引き裂くことなく。豊かな調和を保つことは。(p115)
    筆者自身の求道者のような姿勢を見習いたいわあ。

    ・できること、できないこと。ものすごくがんばればなんとかなるかもしれないこと。初めからやらない方がいいかもしれないこと。やりたいことをやっているように見えて、本当にやりたいことから逃げているのかもしれないこと。――いいかげん、その見極めがついてもいい歳なのだった。けれど、できないとどこかでそう思っていても、諦めてはならないこともある。(p247)
    人生ってそんなものかもしれない。できないかもしれないけど、それでもトライし続けたい、と思った。


    こんな人が「西の魔女が死んだ」を書いたんだなあー、と思った。他の著作も読みたい。温かいだけでなく、自分に厳しい精神世界と豊かな人間性。求道者のような姿勢。見習いたい。

  • エッセイ…それも、作家さんの書くものは極力読まないようにしている。それなりの理由はあるのだが、それは私的なこととして。

    エッセイなのに、この本には梨木香歩さんの物語が吹き渡る。

    理解はしないが受け容れる。ウェスト夫人の振る舞いを評したこの言葉、梨木氏の言葉選びの正しさに唸ってしまった。

    理解しようとしたけれど理解できない…ではないのである。妥協点を見出そうとしたのではなく、あくまでも能動的な自己主張として、理解はしない。それがウェスト夫人の態度であり、全編を吹き渡る風…梨木氏のモラルなのだ。

    異文化理解、多文化共生は流行り言葉として多くの人々が口にする。しかし、ジョンとの会話の中で、梨木氏は何気なく本質に触れている。

    「分かり合えない、っていうのは案外大事なことかもしれない」

    世界の隅々まで心地よく吹き渡る風。
    梨木香歩さんの体の中には、それがある。

  • 小説?と思ってしまうくらいドラマチックですが、梨木さんの英国での体験を書いたエッセイでした。彼女のエッセイを初めて読みましたが、かなり好きな感じ。しみじみと、この人の考え方・感じ方にはすごく共感できるなあと感じました。自閉症の考え方にもすごく共感。だからこの人の書く小説も好きなんだなぁ。
    梨木香歩さんの作品でとくに共感した小説は『僕は、そして僕たちはどう生きるか』でした。このエッセイを読んで、『僕は~』はこういう体験をしてきた人が書いた物語なんだなあとしみじみ納得できた次第。
    他者の押しつけがましさに抗おうとする。いちいち言葉にしないさりげない親切に、心の中でそっと感謝する。そんな筆者の心の機微が感じられて、とても心地よいエッセイ。手元に置いておいてなんども繰り返し読みたい、そんな本でした。

  • 最近ずっと梨木果歩作品を読み直している。
    このエッセイを読んで、何故この人の書くものに惹かれるのかが少し分かった気がする。

    人のバックグラウンドに興味がある。
    だから人の基底になる、宗教や、家族や、育った環境の話を聞くことが好きだ。そういう惹かれるものの方向性が重なる部分があるのだと思う。

    ウェスト夫人の「自分の信じるものは他人にとってもそうなるはず、と独り合点するところはなく、また人の信じるところについてはそれを尊重する、という美徳」
    すべてを理解したり受け入れたりしなくても寄り添うこと、手をさしのべること。難しいけどそういう在り方に憧れる。
    2013/12/15

  • 英国S・ワーデンの
    ウエスト夫人のもとを出入りする、国籍や人種を超えた多種多様な人達。

    ウエスト夫人が持つのは
    理解する愛ではなく、
    受け入れる愛。

    作者と、ウエスト夫人をはじめとする様々な人達との出会いや交流が綴られているエッセイ。
    嫌みがなく、洗練された深みのある作品。

    ***
    読むと世界が広がって、
    もっとたくさんの人と交流をもってみたくなります。

    個人的には最後の2行がとても印象的。読んでいる側でも、なんだか5年の歳月を感じてしまいました。

  • たんたんとしていながら静かに情熱的で、決して押し付けがしくはなく自分の思いを伝えている。読み終わったあとじわじわ〜と良さが染み渡って来る滋養にいいエッセイ。もっと早く読んでおけばよかったなぁ。子供部屋とクリスマスが特によかった。近いうちにこんな雰囲気、空気感を感じにイギリスとか訪れてみたい。

  • 清廉、とか、瑞々しい、とか、、、「透明感」という言葉が似合いそうな言葉が光るエッセイ。
    英国を軸に、滞在先で体験した出来事や、出会った人々について淡々と語り続ける、という内容。その中に、時折、自分の内面をさらけ出すような、あるいは逆に、内側を見つめすぎて閉じこもってしまったかのような、静かで鋭い表現が顔を出し、そのたびに胸を突かれる。
    外国で、住み続けるのではない旅人の外国人として生活する中で感じる違和感を、どんなに些細なこともひとつひとつ生真面目に足を止め、ジッと見つめる視線はとても繊細。たとえば、庭先を走るリスの色にも気づくことができるような時間の過ごし方。

    直接にはそんな内容でないにも関わらず、大人になる過程でやり過ごしてきたものたちを拾い集めるような印象を残す一冊だった。

  • 内定先から読書感想文を提出するように言われており、参考図書の一冊として挙げられていたのがコレ。参考図書のリストの中で一際目立っていた。それもそのはず、参考図書のリストには「ザ・リーダーシップ」とか「働く君に贈る〜」などのビジネス本や自己啓発本が連なっていたのだから。

    私は梨木香歩さんの作品をすでに何冊か読んでおり「なんとなく手にとってなんとなく読める本」として彼女の作品を認識していたが、本作も期待を裏切らぬ心地の良い文体で私をウェスト夫人と過ごす日々へといざなってくれた。

    しかし彼女のエッセイを読んでいると、私は彼女の体験に激しく嫉妬してしまう。なんて羨ましいのだろう、と。私には英国に行ったことも、下宿に滞在して様々な人と出会ったこともないし、友人が海外から日本にいる私に会いに来ることもない。エッセイに書かれた彼女の体験の全てが羨ましくなってしまう。

    それでも、彼女が体験したことと彼女が抱いた感覚に何か近しいものを私も感じる。
    以下に、印象的だったフレーズを引用しながら、私の体験を綴ってみる。

    p.100
    ---神を信じているかと単純に尋ねられれば今でもそのたび真剣に考えこみ、それは「あなたの定義する神という概念による」とまじめに答えてしまう。---

    私が初めて海外に行った時、それは中学3年の夏のことなのだが、タイとマレーシアでそれぞれ一週間ずつホームステイをした。マレーシアは多民族国家であるのに対し、タイはまさに仏教国であり、各家庭にミニ仏像があるような国である。タイでホストファミリーから「あなたは、仏教徒?」と聞かれ、「イエス」と答えた。また、二度目の海外経験であるオーストラリアでのホームステイでは、「あなたは神を信じている?」と聞かれ、「ブディズム」と答えた。
    これは、単に私が自分を説明する手間を省き、都合のいい返答をしたに過ぎないということは重々承知していた。高校1年生では宗教に関して小論文まで書いたが、それでも宗教に関する質問にはいつもどのように答えたらよいのか考えこんでしまう。

    p.149
    -----あなたが私の言うことを信じてくださらなかった、あの時。
    -----私は本当に悲しかった。

    この彼女の言葉は、予約したはずの列車の座席にスムーズに案内されず、「軽い東洋人蔑視の気配のようなもの」を感じた時に相手に伝えたものである。

    私が友人と2人でインドに旅行した時、何やら日本語で話しかけてくる少年がいた。私たちはあまりその少年の相手をせずに歩いていたが、少年はそれにめげずずっと私たちについてきた。彼は近くでお店をやっていると言う。私たちはガイドブックに記載されているお店に行こうとしており、少年は親切にも「その店ならこっちの道だよ」と教えてくれた。私はどうも人を信じやすい質なので(ただし、それが原因でスペインではスられているのだが)少年の言うことを比較的信じていたが、友人は「見ず知らずの人なんて信用できない、本当にそっちの道なのか」とかなり疑い、少年が教えてくれた道ではない道も確認し始めた。その時、少年は「なぜ僕の言っている道に行かないの!信じてくれないなんてひどい」と怒っていた。当然である。人に親切にして、信じてもらえなかったら、そりゃ悲しい。同情する。その後結局、少年の教えてくれた道が正しいことがわかり、目的の店にたどり着いたのだが、少年は「信じてくれなくてとても悲しかった」と私たちに言った。とても申し訳ないことをしてしまったと思う。

    おそらく、日本で(もしくは生粋の日本人が)「その店ならこっち」と教えてくれたたなら、迷わずその道を行っただろう。しかし、彼がインド人であったこと、が少なからず...と、いうかかなり大部分かもしれないが、彼の発言を信じられなくしていたのではないかと思う。ガイドブックには「日本語で話しかけてくるインド人に注意しろ」と散々書かれていたのだから、無理もなかったとも思うが、そういう先入観や偏見を強く持ってしまった自分自身を恥じている。
    そして何より、「信じてくれなくてとても悲しかった」と素直な気持ちを打ち明けてくれた少年の純粋さを尊敬する。

    p.127
    価値観や倫理観が違う人間同士の間でどこまで共感が育ち得るか、という課題。

    おそらくそれは永遠の課題であり、人類が平和への道を歩めるかどうかの答え。私は、この課題にずっと直面していたい。そう思っている。

  • 深くて、正直なところ、私の中でまだ未消化なところが多い。

    だから、うまくことばにできないのだけど、
    ウェスト夫人の博愛精神、
    梨木さんの感受性、
    幸せなことばかりがつまっているわけではないし、
    ときには少し悲しみを帯びた部分もある。
    でも、決して暗い気持では終わらない。

    もう少し、日常でアンテナを張ってみたい、
    自分の感性をしっかり持ちたい、
    そんな気持ちにさせられた。

    もう一度、ゆっくり向き合ってみたい本。

  • エッセイなのに物語のような1冊。
    ウエスト夫人の人柄に惚れ惚れしてしまう。
    こんな素敵な経験が梨木香歩さんを作ったのかなと思うと彼女の柔らかくも強い文章に納得する。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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