楽園のカンヴァス (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101259611

感想・レビュー・書評

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  • その場所にはいかなる不安も苦しみも貧しさもない楽園。ルソーとヤドヴィカが最後ひとつになり「夢をみた」場面は胸にしみた。
    最初、なにげに本の表紙の「夢」を見たときと、読み終えた後ではまったく印象が変わった。絵画の作者の思いの深さが伝わってきたというか。絵を見るとき、難しく考えていた。敷居が高すぎて、何を表現しているのかわからない、とか。
    だけど本書を読んで、ありのままに感じたままに受け取ればいいんだ、とすごく勉強になった。
    読みながら、絵を調べ、文章と絵を同時に見る、という贅沢な読み方も初めて経験(少々労力要ったけれど)。
    日曜画家として貧乏な画家生活を送るルソー。落選者の集まる展覧会でもからかわれ。家族も病気で次々と失った。
    同じアパートに住む婦人、井戸水でごしごし洗濯をする無邪気なヤドヴィカに恋心を抱く。そんなルソーに孤独を見た(やり切れないというか)。ヤドヴィカの夫はルソーの絵の理解者であるが、ヤドヴィカも少しづつルソーに興味を持ってゆく所が面白かった。
    対照的ではあるが、互いにひかれあうピカソとの出会い。ルソーの人柄もよく表れていた。
    聡明で、慈愛深く、いつも冷静な織絵という印象だったが、最後心理的に不安定になったところに女性らしさ(母性)を見、それを救うティムとのやり取りが印象的だった。
    動物園での場面はほっとした。
    その後、ティムの言及通り、美術館の監視員として働く織絵。「コレクター以上にもっと名画に向き合い続ける人、美術館の監視員だよ」
    世界まで昇りつめた織絵が故郷へ戻り監視員として、大好きな絵の近くで仕事をしている所、良かったです。

  • ルソーの絵の真贋を巡るミステリー。
    スマホを片手に小説に登場する作品を検索しながら読み進めました。

    アートの知識は空っきしですが、それ故に、出てくる絵画も初見の者が多く、新鮮な気持ちで楽しめました。

    そしてルソーの一枚の絵を巡る物語も非常に面白く、読後感の余韻も良かった。
    一つの絵画に、ここまで世界を広げられるものなのだと驚かされた。

    解説に美術とミステリーの親和性は高いという記述があったがその通りだと思ったし、他のアートミステリも読んでみたいと思いました。

  • 楽園のカンヴァスの前に、『マグダラ屋のマリア』と『サロメ』という重いのを立て続けに読んでいたために、あっさりすっきり流れるように読めました。
    原田マハさんは、絵画作品の持つ雰囲気に合わせて小説の重さ軽さを操っているのだと思いますが、それがまたぴったり。
    ルソーは今まで、何となく好きではあったけれど、これを読んではっきり好きになりました。ああ、本物のルソーを観てみたい!味わいたい!

  • 素晴らしい一冊。

    ルソーの一枚の絵の真贋を紐解く物語は、面白かった!この感情が溢れてやまない。

    無知の世界への扉を開いて、ルソーを愛してやまない人たちに導かれ、絵画に秘められた様々なドラマへといざなってくれたこの素晴らしい構成と物語には称賛しかない。 

    ルソーが生きた、描いた証、そして望んで閉じ込められた永遠の生が、次から次へとパンドラの箱から、理解される喜びと共に飛び出すような感覚に酔いしれた。

    そして迎えた見事な夢の出口の眩い光。

    その光を受け止めた瞬間、この絵をこの目で観て感じたくなる"熱い想い"が駆け巡った。

    • まいけるさん
      一編の詩のようなレビュー。
      今、楽園のカンヴァスを読み終えた私の余韻がさらに膨らみました。
      ありがとうございます。
      素敵すぎます!
      一編の詩のようなレビュー。
      今、楽園のカンヴァスを読み終えた私の余韻がさらに膨らみました。
      ありがとうございます。
      素敵すぎます!
      2024/04/24
    • くるたんさん
      まいけるさん♪

      ありがとうございます♪

      いやいや、この作品がそれぐらい素晴らしかったおかげです♪
      マハさんのアート小説って本当に惹きこま...
      まいけるさん♪

      ありがとうございます♪

      いやいや、この作品がそれぐらい素晴らしかったおかげです♪
      マハさんのアート小説って本当に惹きこまれますよね〜(^^♪︎
      2024/04/24
  • とにかく絵画に対する熱量が凄い。確かな説得力があり、そこに登場人物達の想いも乗っかり、終始圧倒された。
    物語も緻密に作り込まれており、散りばめられたピースが結末へと収束する様が美しい。美術的知見は一切なかったが、詰まる事なく読み進める事が出来た。

  • 「たゆたえども沈まず」で惹き込まれた、原田マハさん。
    2冊目も美術史に関連した作品を楽しませていただきました。

    詳しい訳ではないものの、絵画が好きな私にとって、作品が沢山出てくる上、お話自体も楽しめるなんてこれ以上にない喜びです(*^o^*)!

    ロマンチックで情熱的な作品でした。

    • あんずさん
      ヒボさん、コメントありがとうございます!

      そちらはピカソがメインなのでしょうか…?早速探して読もうと思います(*^o^*)教えてくださりあ...
      ヒボさん、コメントありがとうございます!

      そちらはピカソがメインなのでしょうか…?早速探して読もうと思います(*^o^*)教えてくださりありがとうございます!
      2023/10/29
    • ヒボさん
      ゲルニカなのでもちろんピカソです♪
      個人的にはゴッホが主役のリボルバーもおすすめですよ☆
      ゲルニカなのでもちろんピカソです♪
      個人的にはゴッホが主役のリボルバーもおすすめですよ☆
      2023/10/29
    • あんずさん
      やっと今日、おすすめいただいていた「暗幕のゲルニカ」を読み終えました。
      ヒボさんのおかげで素敵な作品と出会えました!
      次は「リボルバー」を読...
      やっと今日、おすすめいただいていた「暗幕のゲルニカ」を読み終えました。
      ヒボさんのおかげで素敵な作品と出会えました!
      次は「リボルバー」を読みたいと思います(*^^*)
      2023/12/10
  • 7年くらい前に不眠症と言っている友人が、「読んでみて」と言って貸してくれた。
    これが私と原田マハさんの作品とのはじめての出会い。
    その後、何人かの友人にこの本を購入し強引に手渡した。もちろん、両親にも読ませるつもりで渡し、大原美術館とルソーに関心を持たせた上で、家族で大原美術館所蔵のルソーの作品を見に行った。

    久しぶりに読み直してみた。おそらく7回以上は読んでいる。

    「ここに、しらじらじしい空気をまとった一枚の絵がある。」読むたびに、気になるこの表現。しらじらじしい空気ってどんな感じだろうと想像する。「生の歓びに満ち溢れているはずの春の森は静寂にさらされ、生々しい命の気配はない。とすれば、これは現実世界を描いたものではなく、天上の楽園のを表したものだろうか。あるいは、画家が夢見たそのままの風景なのだろうか。」この言葉の通じる「しらじらしさ」を確かめたいという衝動に駆られる。そして、そのまま作品の中に引き摺り込まれ、一気に読んでしまう。流石に、今では1冊読むのに1時間かそこらで、読み終えてしまう。

    何度、読み返してみても著者の画家・アンリ ルソーへの愛情と作品に対する精通した知識、そして何より展開のスピード。ルソーの知識がなくても、ルソーの世界に関心、興味を抱いてしまう。
    キュレーターの原田マハさんだからこそ本作が、小説にとどまらず、美術本、ルソーの解説本として誕生出来のであろうと思う。

    最後に、7年前に本作を友人に借りた日、私も寝不足になった。寝れないから読む本ではなく、読むと寝れなくなる本である。

  • 会社の方からお借りした一冊。原田先生の作品を読むのは3作目。

    最初は、美術!?アート!?ルソー!?私には縁のないどこか遠くの御伽噺?と思っていたが、とんでもない。

    物語への引き込まれ方が半端ない。グイグイ引き寄せられて物語の世界の住人になってしまう。

    アートなんて全然わからない私が、スマホ片手にルソーやピカソを探してしまう。
    こんな風に美術作品を見たことは無かった。

    話の展開もとても上品でとにかく読んでいる間中心地よく感じた。

    とても良い本に出会わせてくれた会社の方に感謝したい!
    本当に素敵な作品だった。

  • 今年、読んだ本の中でピカイチに面白かった。ミステリー小説でもあり、冒険小説でもあり、恋愛小説でもある。本当に日本人作家が書いたのかと疑うほどの海外翻訳作品のようなダイナミックさと日本人作家特有の繊細さを併せ持つ傑作。ラストでは鳥肌が立った。

    恐らく物語の核となるアンリ・ルソーの『夢を見た』というタイトルの絵画は作者の創作だろうが、絵画の下にもう一つの絵画が隠されている例は良く耳にする。それだけに設定に十分な説得力があるのだ。また、程良いテンポで物語が展開し、章を追うごとに少しづつミステリーが解き明かされて行くという構成も良い。

    読んでいて、これほど最終章が待ち遠しくなる作品はなかなか無い。

    表紙の装画の雰囲気にどこかで見た絵だと思っていたのだが、お気に入りのギル・ゴールドスタインのアルバムのジャケット装画『眠れるジプシー女』を描いていたのがアンリ・ルソーだった。

  • 表紙に惹かれ、作品紹介のあらすじを一切見ずに読み始めた。「ジヴェルニーの食卓」を読了後の影響で、読み初めはルソーの絡みが少ないと印象を持った。

    しかし、読み進めるとルソーの名画を中心に様々な事象が絡み合いながら物語が進み、原田マハさんの世界観に引き込まれ、何度も読みたいと思う本だった。
    画家が想像した景色を時代を超えて私たちと共有できるのは、なんとロマンがあることか、本を読み進める中で感じた。

    サイズ感や絵筆のタッチ、ルソーの「夢」を前にして私たちが素直に何を感じ取るかは、画集では伝わり切らないので、やはり本物を美術館で眺めたい。
    都会の喧騒の中にあるMoMAで密林に迷い込む錯覚を与える画力と、一目で誰の絵かわかる個性的なルソーの画風は、「日曜画家」と呼ばれるのが惜しい天才である。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

原田マハの作品

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