木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(上) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.12
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感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (576ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101278117

感想・レビュー・書評

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  • 木村政彦という無敵の柔道家が力道山とプロレスを戦ったという話は聞いた事がある。youtubeで映像が残っているので見てみたが、あまりに一方的な展開でちょっと残念だった。まだ上巻だけしか読んでいないが、木村政彦の破天荒な性格と人生はもちろん、柔道の歴史についても大変興味深いものがある。講道館にも最初当身としての打撃があった事、講道館とは別に寝技を中心とした高専柔道(前三角締めはここから生まれた)や武徳会の存在、戦後一時的に生まれたプロ柔道などとても面白い。また現在の柔道が海外勢力によって好きなようにルール改正していく理由であるとか、きれいな一本勝ちが日本の伝統というがたかだか30年ほどの事であるとか、作者の徹底した調査の裏付けのもと語られる。下巻が楽しみだ!

  • 【文章】
     読み易い
    【気付き】
     ★★★★・
    【ハマり】
     ★★★★★
    【共感度】
     ★★★・・

    「木村政彦」という伝説的な柔道家がいた事を初めて知った。

    現役時代のトレーニング内容など、木村政彦氏自身の逸話も十分やばいが、師匠の牛島辰熊氏も相当やばい。

    名前からして迫力満点だけど、見た目も生き様も、全く名前負けしていない。

    まさに、この師匠にしてこの弟子ありといった感じ。

    現代人は、テクニックで上回る事は出来ても、精神と肉体で上回る事はできなさそう。

    元々の柔道(柔術)は、打撃、寝技有りの現在の総合格闘技のような、実戦的な格闘技だった。

    「生の極限は死、死の極限は生」

  • (01)
    木村政彦という主人公から離れることはないが,近代柔道史とも言える内容で,木村が活躍した20世紀前半の柔道が日本のスポーツ(*02)の中で大きな一角を占めていたことからすると,格闘技史を超えて,日本スポーツ史の重要な部分を含む内容になっている.
    また,戦後日本におけるプロスポーツの初動がどのようであったか,その動きの中でプロ柔道やプロレスリングはどのように起こったかなどにも,本書の射程(*03)は及んでいる.

    (02)
    柔道がメジャーなスポーツであったことなど,今からでは考えられないが,近代における武道の位置づけ,また武道がつなげた戦後社会の人脈なども興味深い.
    20世紀後半のスポーツは安全に競技されるものであり,木村や師の牛島らが戦前に行なっていた鍛錬は,現代の様々なトレーニングを考える上でも何事かを示している.
    柔道(柔術)がアメリカ大陸やヨーロッパへの展開することによって,かつてあった寝技につなげる最強の柔道が海外に保存され,現代の格闘技に復興されていることは,武道や武術も文化であり技術であることを告げている.

    (03)
    本書の方法として,文献調査もさることながら,関係者へのインタビューに多くを負って構成されていることにも注目すべきであろう.
    つまり,この格闘技に関わる記録は,書かれたものとしてはあまり残らずにいたこと,過去の美化も含む自伝的な記述としては残されていたこと,講道館正史よりも新聞報道などが記録として価値があったこと,これらから洩れた過去が木村という強い個性とともに関係者の記憶の中にまだ遺されていたことなどはまだ歴史的な記述の及んでいない分野があることへの示唆にもなっている.

  • 木村政彦、現代に、これほどの猛者がもう出現するであろうか?時代と師匠牛島辰熊により作られたものだか、悲しいながらも、その戦争という時代に大きく左右されてしまう。本書は単に木村一個人だけでなく、柔道史をも学べ、そこには未だ知られていない人物をも深く取り上げていて興味深い。

  • 柔道史上最強として知られる木村政彦を中心に、柔道史を大河小説的に描いたノンフィクション。
    上下巻のボリュームに圧倒されるが、余談の多い歴史作家のような文章は、講談本のようにぐいぐい読者を引き込んでしまい、あっという間に読み進んでしまう。
    タイトルを見た読者のほとんどは、力道山がプロレスの試合で裏切り、ヤクザに殺害された事件が話の中心と思うところだけど、上巻の時点ではその話はほとんど出てこない。
    上巻のポイントは、平面的にしか知られていなかった柔道成立過程、つまり明治以降、古流柔術がスポーツ競技化されることで講道館柔道なっていった、というような単純なものでは無かったということ。古流柔術は昭和になってもまだ十分勢いがあり、競技団体としては講道館の他に、大日本武徳会と高専柔道があり、それぞれルールや元にした流派の違いから、まったく違う世界を持っていたこと。また、現在ではほぼ忘れられてしまった牛島辰熊や安倍謙四郎といった天才的柔道家について詳しく調べられていることなど。
    修行者、武道家が刺激を受け、モチベーションを上げたい場合、これ以上の本はなかなかないと思う。何100年も前の歴史の中の達人たちの話ではなく、ほんとについ先日まで生きていた武道家たちが、今では考えられないほどの肉体と精神力を持ち、超人的な練習を行い、破天荒というより無茶苦茶なこと平気でやってたことを知ると、俗に言われている自嘲的な日本人論が非常に薄っぺらく思えてしまう。

  • この本で初めて木村政彦という柔道家を知ったが、強さも逸話も伝説的。
    13年連続日本一、250㎏をベンチプレスで持ち上げ、1日9時間の乱取り(スパーリング)、さらに空手やボクシングにも精通するまさに格闘技の「鬼」。
    244ページの写真の人間離れした肉体を見れば決しておとぎ話でないと感じる。もはや「刃牙」の世界の住人。強い奴が大好きな男子にとってはかっこよすぎる存在。こんな男が本当にいたなんて!

    最強の男が栄光を掴みながらも時代に翻弄されていく。全盛期を戦争に奪われ戦後は闇家業に身を投じる。思想も持たない、駆け引きもできない木村にとってこれほどの悲運はない。
    そんな中でも豪快で柔道バカな木村の人間性も魅力的。

    また柔道が元々、総合格闘技的な性質があったことや講道館以外にも寝技に特化した高専柔道、古流柔術の流れを汲む武徳会といった他流派の存在は新たな発見。

  • 第43回大宅壮一ノンフィクション賞、第11回新潮ドキュメント賞をダブルで受賞した作品である。『ゴング格闘技』誌上連載時(2008年1月号~2011年7月号)から話題騒然となった。ハードカバーは上下二段700ページの大冊である。単なる評伝に終わってなく、戦前戦後を取り巻く日本格闘技史ともいうべき重厚な内容だ。にもかかわらず演歌のような湿った感情が行間に立ち込めているのは、著者が七帝柔道の経験者であるためか。実際、増田は泣きながら連載を執筆し、「これ以上書けない」と編集者に弱音を漏らした。
    http://sessendo.blogspot.jp/2016/10/blog-post_13.html

  • 本当に強い男の作り方が書いてある。本当にすごい。一番強い人で間違いないと思う。

  • 「木村の前に木村なし、木村のあとに木村なし」と言われた伝説の最強柔道家、木村政彦。なぜ力道山に負けたのか、緻密な取材と丹念な資料分析で解きほぐされた真実。

  • 冒頭からの引き込まれ方がすごかった。絶対的ヒーローの力道山が崩れていく。木村政彦も他の人物も単に持ち上げるのではなく、人間らしい部分とともに忠実に書かれているので信頼性も高い。

著者プロフィール

1965年生まれ。小説家。北海道大学中退後、新聞記者になり、 第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して2007 年『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)でデビュー。2012年、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で第43回 大宅壮一ノンフィクション賞と第11回新潮ドキュメント賞をダブル 受賞。他の著書に『七帝柔道記』(KADOKAWA)、『木村政彦 外伝』(イースト・プレス)、『北海タイムス物語』(新潮社) などがある。

「2022年 『猿と人間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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