思い出トランプ (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101294025

感想・レビュー・書評

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  • 直木賞受賞の三作を含んだ短編集。

    余計な煽りも装飾もないのにぐさりと心に刺さり読み手を引きつける鋭い文。
    同じ経験があるわけでもないのに共感を誘う観察眼と筆力。
    向田さんの作品はエッセイから始まって3冊目だけど、どれも裏切らない確かさで読むほどに魅了されます。
    心の奥底の探り合いの描写はともすればドロドロした嫌な感じになるものだけど、一本筋が通っていて後味が清々しいのはこの方の素晴らしい持ち味だと思う。
    闇と浅蜊の白さ、包丁と水の美しい組み合わせが秀逸。
    そしてどの作品も最後をしめくくる言葉まで見事でした。

    30回って色々をくぐり抜けた大人にこそ味わってほしい一冊。

  • 直木賞受賞作「かわうそ」「花の名前」「犬小屋」の3編を収録した短編集。

    夫婦や愛人の心の機微をいきいきと描いた作品ばかり。昭和の情景がよみがえる。もし向田さんが生きてらしたら、少子化、核家族化の現在を、物事が全て便利に簡略化、電子化された今を、豊かになったこの日本の生活をどのように描くのか、読んでみたかった…。

  • こわい。こわいよお、向田さん…!
    ああ、この人はいったい人間の何をみていたのだろうと思うほど、人のこわいところばかり書いてある。
    人って、他の人からみると本当にミステリアス。
    信用するのがこわい。
    当たり前ね、自分のみているその人だけに、その人の人生があるわけじゃないから。
    どんなに近づいても、きっとそれはそうなんだろう。

    でも何だか割り切れない。
    私は、誰かを100%信用してみたい。
    預けきってしまいたいと思う。

    だから、こわいと思ったんだろうか。

    でも、でも、うーん。
    面白い!

  • どう感じたか言葉にするのは難しいんだけれど、決していい気持ちにはならないし、爽やかでもないし、はっきり言ってしまえば不愉快、に近い感覚。目を背けたいようなリアルさが、一方で目を逸らせなくさせるような。眉を顰めながらゴシップ記事を読み漁る、低俗な浅ましさを自分の中に見つけて、そんなこと、もとから知っていたくせに改めて突きつけられると落ち込むというか、とにかく、きっと何度読んでも傷つくんだけれど、手放すことができない本になりました。

  • 5年ぶりぐらいの再読。
    「犬小屋」はストレートに怖い話だ。
    一番好きなのは「だらだら坂」、「大根の月」。
    「大根の月」と「花の名前」は今の私には堪える内容だ。
    何回も読んでいるのに何故か本棚になくて、先日購入した。

  • 女の狂気を感じた。そしてそれを描写する筆力から、うまくまとめる構成力から、何から何まで恐いと思った。でもほかのも読みたい。

  • 20代の頃、初めて読んだ向田邦子さんの本です。
    最初読んだ時、「何?これ。すごくいい本やん!こんな小説があったんだ~」と良い本を見つけた嬉しさに何度も何度も読み返し、その後向田邦子さんの本を読みあさりました。
    今まで読んだ向田さんの本の中では最初に読んだこの本が一番好きで、一番いいと思っています。
    今回改めて読み返して、本は相変わらずの名作なものの、自分自身が知らない内に変わっていたのに気づきました。
    徐々に刺激のあるものに慣れてしまってたんだな~と。

    この本は昭和という時代に生きた、どこにでもいる人々のちょっとした心の機微や生活を描いた13篇からなる短編集です。
    昭和というとほのぼのして良い時代と過ぎた日々を懐かしく思いがちですが、そうでなく生の昭和の人々がここには描かれています。
    誰もがもつであろうズルさやしたたかさといった心の醜さ、暗い部分、そういったものをドロドロとせず日常の中にさりげなく織り込んで描かれている。
    繊細な感覚で。

    無邪気な中に残酷さを兼ね備えるかわうそのような妻をもつ男性の話。
    太って目が細く、野暮ったい上に気の利かない女を囲う男性の話。
    夫に面白みがないと言われる男眉の女性の話。
    など。

    特に印象に残っていたのは「大根の月」というお話です。
    これを読んだ以後ずっと今まで私は満月に満たない月を見ると切りそこないの大根を思い浮かべるし、包丁を扱うのにかなり神経質になりました。

    この本には大人の悲哀があります。
    ほろ苦さがあります。
    この良さを分かった20歳の自分は結構大人だったんじゃないかと我ながら思ってしまいました。

  • こんなんだっけ? と思いつつ読んだ。
    前に読んだの10年くらい前だからなー。

    割とブラックな話が詰め込まれた短篇集。
    向田さんはエッセイのほうが面白いかな。

  • 友人から借りた再読の本。

    自分の記憶の奥底に沈んでいたものが、読み直してズルズルと出てきます。
    「男眉」と「花の名前」。自分の中に知らずに刻み込まれていたことに、再読して気付き、ドキリとしました。

    ドロリとしたものをサラリと書きあげるのは、さすがだと思います。

  • 中学生の時分、向田邦子さんの文にはまったきっかけになった。現代にはないその時代の良さを知ることが出来る。そして、女性らしい艶っぽいのに飾らない言葉の選択はさすが向田邦子さんだなぁと。同著者の父の詫び状と同じくらい大切にしている本。

  • 人間を見つめる深い洞察力に心を揺さぶられた。感動の一言。

  • どれも深いお話だと思いましたが、なかでも、かわうそ と 大根の月 が印象に残りました。また読み返したくなる本です。

  • この本を始め、向田さんの本はどれも何度読んだか分からないぐらい何度も読み返していますが、読むたびに彼女の文章に惚れ惚れします。彼女が選ぶ言葉やそれらを並べる順序、それらを切るタイミング、また鋭い比喩など、なにしろ好きです。
    短編集の『思い出トランプ』は、後ろめたさとか嫉妬とか僻みとか狡さとかの、人がもつ暗い部分を読ませる作品ばかり。読後感のいい作品ははっきり言ってないのですが、一つ読み終わるたびにしみじみ「向田さんすごいな」と思います。
    初めて読んだときに一番衝撃を受けて、以来私にとって『思い出トランプ』といえばこれ、という作品が『大根の月』。子供を産んでからは、読むたび涙が出てしまいます。

    人間誰でも暗い部分を持っているだろうけれど、それはこうやって上手く文学作品に昇華され得るものかもしれない、と思えば、そんな暗さを無理に否定したり持ってないふりしたりしなくてもいいかもな、と思えて、少し楽になるかもしれない。そんな本です。

  • 短編集です。私の知らない、昭和に生きる人の生活が書かれています。
    人間の内面の汚いところが絶妙に描かれている感じ。
    このじとっとしたものを上手く書いてるところがやっぱり天才作家なのかも。と思った。

  • かわうそから始まる短編集。ドロっとしたものを嫌味なく描く姿勢に驚かされます。以下メモ。花の名前。それがどうした。女の名前。それがどうした。夫の背中はそう言っていた。

  • 向田邦子作品を読んだのは、高校の現代文の授業で取り上げられた「あ・うん」以来の二作目。漫画ばっかり読んでいたあの頃、向田邦子の良さは全然理解できていなかったなー。今回あらためて読んでみて、胸にグサッと突き刺さってきた。無駄がなく研ぎ澄まされた文体。人間くささがはっきり表れて共感せずにはいられない文章。どれも15ページほどの短編なのだけど、よくこんなに短く収められるなと感心するほど、中身が濃くそれぞれの物語が印象深い。私が生まれる前に書かれた作品なのに、古さを感じさせず、こんなにも共感できるとは。やはり名作と言われるものは読む価値あり。

  • 描写がいい。
    いい意味で生々しい人間模様。

  • したたかで浅ましくもある人間の本性。
    向田邦子の観察眼というのはすごい。

  • 負けを承知で男に一票。同情票。

  • 初向田作品。

    タイトルの通り、なるほど短編13作が収録されている。なるほど。
    今のところ「日常」というキーワードがこんなに似合う短編小説もないと思う。
    なさそうでありそうな、怖くないような怖いような、そんな作品。
    日常ってドラマの連続なのね(*^^*)

    私的に『大根の月』と『耳』がゾッとした。これぞ日常で起こりそうな事故、恐怖。
    子どもって怖い!

    個人的に気になったのがどの夫婦も基本的に妻は夫に敬語なこと。
    昭和ってこんな感じだったのかしら。

    ツワブキの花が見てみたい。

  • もうすぐ、向田さんの命日なので、読んでみました。昭和の肌感覚・呼吸が生々しく感じ取れる短編集です。

  • エッセイと勘違いして読みましたが、
    どんどん引き込まれました!
    短編集ですが、とにかく怖い。
    でも面白い。

  • じーんっ。。。
    しみました。

  • 古き良き日の庶民のひとこま。人生のキビ。人間のサガ。

  • 短編集

  • 向田さんの場合、どの文章もすばらしい。思い出トランプ読んで、参ったと思った。

  • さらさら心地よく読めるのに、たまに抉るようなとこがあっておもいろい。

  • 友に薦められ、
    向田作品をこの歳になって初めて読んだ。

    この歳まで読んだことがないのは、
    誠に恥ずかしい限りである。
    いかにわたしがものを知らず、
    本を読んでいないかを晒すようなものだが、
    本当にことだからしょうがない。

    本書は短編を13作品集めたものだが、
    どの作品も読んだ後も、
    言いようの無い闇というか、
    曇りみたいな、
    澱のようなものが心に残った。

    光景はいづれも日常なのである。

    でも、ボタンの掛け違いというか、
    そういう悲劇というかエピソードというものが、
    描かれている。

    光景が日常なだけに、
    ひょっとしてこういうものが、
    自分にもおこるやもしれぬと思えてしまう。

    それが、自分の中で澱となる。
    読後も、その澱が消えることはない。

    この澱の残り方こそに、
    向田作品の秀逸さを見出した次第である。

  • 20120509 そこにくるか!視点が面白い。何か嫌な気分になるが後から気持ちが和む。

  • 1980年(昭和55年)第83回直木賞受賞作。
    これはイイ。
    小説らしい小説だ。
    短篇らしい短篇だ。
    向田邦子、有名ですよね。
    でも一度も読んだことなかったし、航空機事故により51歳で亡くなってしまったことも知らなかった。
    テレビの脚本で才能を発揮したらしい。NHKの「阿修羅のごとく」はあのテーマ曲と共に、記憶に残っている。

    才能のある人だったんだなァ~
    惜しい。

    なんでもないところから小説家は物語を作り出す才能がなければならない。
    そういう点で、この人は上手い。

    しかも、書ききらずに余韻を残している。

    久しぶりに、他の作品も読みたいという作家に出会った。

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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