卵の緒 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101297729

感想・レビュー・書評

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  • 2023.12.13 ☆8.6/10.0



    瀬尾まいこさんのデビュー作、そして彼女の作品の7作目です


    僕は捨て子だ。その証拠に母さんは僕にへその緒を見せてくれない。代わりに卵の殻を見せて、僕を卵で産んだなんて言う。それでも、母さんは誰よりも僕を愛してくれる。「親子」の強く確かな絆を描く表題作(卵の緒)。
    家庭の事情から、二人きりで暮らすことになった異母姉弟。初めて会う二人はぎくしゃくしていたが、やがて心を触れ合わせていく(「7's blood」)。


    作品紹介の文章をお借りすると本書はそんな二作で構成されています。


    表題作『卵の緒』は、捨て子疑惑を抱く小学生の男の子・育生とその母親・君子の絆を描いた心温まる物語です。
    血のつながらない親子…という深刻な話ではなく、母親は実にオープンであっけらかんとしていて、心から息子を愛し、ストレートな言葉で愛情を表現します。


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


    「母さんは、誰よりも育生が好き。それはそれはすごい勢いで、あなたを愛しているの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?それで十分でしょ?」

    「想像して。たった十八の女の子が一目見た他人の子供が欲しくて大学を辞めて、死ぬのをわかっている男の人と結婚するのよ。そういう無謀なことができるのは尋常じゃなく愛しているからよ。あなたをね。これからもこの気持ちは変わらないわ」


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



    息子の育生も素直で優しい子です。「親子の証」って何? の答えを軽やかに示してくれています。どこか、『そして、バトンは渡された』に通じるものがあるなと思いました。

    本書にせよ過去読んだ作品にせよ、改めて瀬尾さんは、ちょっと複雑な家族関係を、重くならずに優しく、だけどちょっぴり切なく描くのが元々上手だったんだなぁ、と実感しました。


    「家族」という言葉ひとつとっても、さまざまな形があります。家族というのは、人と人との結びつきの形、その呼称にすぎません。だとしたら、いろんな家族が、いろんな結びつき方が、あってもいいはずです。



    この本を読んでいると、描かれている家族の日常の風景が静かに心に沁みてきて、こわばっていた心をほぐしてくれる。肩の力を抜く手助けをしてくれる。世界を見つめる視野を広くしてくれる。



    さらに、瀬尾さんのあとがきの一文がとても印象的です。



    ”そこら中にいろんな関係が転がっていて、誰かと繋がる機会が度々ある。それは幸せなことだ。”



    この考え方が瀬尾さんの作品の原点にあるんだなぁと、妙に納得してしまいました。


    瀬尾まいこさん特有の優しさや温かさ、人との関わりを大切にしたくなる物語は、今後も読み手である私たちの心を、明るく照らし導いてくれる気がします。

    • ちゃたさん
      こんばんは。ちゃたと申します。この作品名作だと思います。卵の尾ではけらけらと笑い飛ばすカラリとした君子が魅力的です。7s bloodはラスト...
      こんばんは。ちゃたと申します。この作品名作だと思います。卵の尾ではけらけらと笑い飛ばすカラリとした君子が魅力的です。7s bloodはラストの圧倒的な解放感がよかったです。(ドラマ化されているのでいつか見たいです。)私も心がこわばった時に瀬尾さんの本はオススメだと思います。またのレビューを楽しみにしています(^o^)
      2023/12/15
  • 「卵の緒」と「7's blood」の゙2作が収録されている。
    両方とも子どもの視点から語られる家族の話。

    同じシチュエーションだと暗くなる事もあるけど、この作品は違う。どことなく明るい感じが漂う。登場人物の雰囲気かも知れない。

    特に「卵の緒」のお母さんが愛情に溢れてて素晴らしかった。

  •  瀬尾まいこさんのデビュー作、未読でした。2つの短編が収められています。

     表題作『卵の緒』は、捨て子疑惑を抱く小学生男児とその母親の絆を描いた心温まる物語です。
     深刻な話‥ではなく、母親は実にオープンで心から息子を愛し、息子も素直で優しい子です。「親子の証」って何? の答えを軽やかに示してくれています。何か、『そして、バトンは渡された』に通じるものがあるなと思いました。瀬尾さんは、ちょっと複雑な家族関係を、重くならずに優しく少し切なく描くのが元々上手だったんだなぁ、と実感しました。

     もう一編は『7’s blood』。こちらは腹違いの姉(七子・高校生)と弟(七生・小学生)の絆を描いた物語で、少し血が繋がっています。
     設定の違いはあれども、2篇とも家族とは、愛情や人の繋がりとは何か、を考えさせられます。

     瀬尾さんのあとがきの一文がとても印象的です。
    「そこら中にいろんな関係が転がっていて、誰かと繋がる機会が度々ある。それは幸せなことだ。」
     この考え方が瀬尾さんの原点にあるのだなと、妙に納得してしまいました。
     瀬尾まいこさん特有の優しさや温かさ、人との関わりを大切にしたくなる物語は、今後も読み手である私たちの心を、明るく照らし導いてくれる気がします。

  • 『血は争えない』、親子を語る場面などでよく聞く『父母の気質や性向は、何らかの形で子どもに受け継がれていること』という意味をもつ言葉です。この言葉をはじめ、『血筋』『血統』『血を引く』、と人と人の関係を説明するのに『血』はとてもよく登場します。英語では、『Blood will tell.』という言葉に置き換えられるように、世界的にも親子を語る時に『血』は欠かせないものなのかもしれません。それ故に私たちも何かと『血の繋がり』を意識します。幼い頃に、自分は本当にこの家の子どもなのだろうか?という不安に人知れず苛まれた人も多いのではないでしょうか。私もその一人でした。小さい頃から祖母と同じ部屋で寝起きする一方で、妹は父母と同じ部屋で父母に挟まれて寝ていました。私には食べ物の好き嫌いは一切許してもらえなかったのに、妹は好き嫌いし放題などなど。そんなこともあって、自分が生まれた時の話をしつこく聞いたり、小さい頃の写真に自分が父母と写ったものがあるか探したり。そんな幼い身であっても意識してしまう『血』とはなんなのでしょうか。『血』が繋がっていなければ親子とは言えないのでしょうか。親子とは…。

    『僕は捨て子だ』という衝撃的な一言から始まるこの作品。主人公・鈴江育生は『「僕は捨て子なの?」と聞いた時のばあちゃんやじいちゃんのリアクションが怪しい』『そして、驚くことに母さんの僕に対する知識があやふやなのだ』と、自身が母親と血が繋がっていない子ではないのかと思い悩みます。『ついでに言うと、僕の家には父さんがいない。僕の記憶にも、さっぱり残っていない』と、元々記憶の範囲内にはすでに母一人子一人の生活を送ってきた小学三年生の育生。そんな時に担任の青田から聞いた『へその緒はね、お母さんと子どもを繋いでいるものなの』という話に執着します。『ついに長年にわたった僕の捨て子疑惑を明らかにする時がやってきた。へその緒一つで今までのもやもやがすっきりするのだ』と勢いづく育生。でも母・君子がそんな育生の問いに見せてくれたのは卵の殻でした。『育生は卵で産んだの。だから、へその緒じゃなくて、卵の殻を置いているの』という君子。すっかり言い含められた育生は『この母さんなら卵で僕を産むこともありえるだろう。それに、とにかく母さんは僕をかなり好きなのだ。それでいいことにした』と納得するのでした。

    この本には、書名にもなっている〈卵の緒〉の他にもう一編〈7’s Blood〉という作品も収録されています。分量的にはこの作品の方が長く、こちらも『血』がテーマ。でも、〈卵の緒〉とはある意味真逆、『血の繋がり』のある姉弟が主人公となっています。『七子と七生。父さんがつけた』という姉と弟の名前。でも、『私たちは名前を見れば兄弟だってわかるようになっている。だけど、私と七生は兄弟じゃない。出所が違う。七生は父の愛人の子どもだ』という複雑な思いが渦巻く『血の繋がり』。父親はすでに他界し、七生の母親は刑務所に、そして七子の母親も病床に伏した状態での高三の姉と小五の弟の二人暮らし。『血の繋がり』を意識する二人。でも、それぞれの母親は別に存在し、それぞれの家は別にあると言う微妙な関係性。それ故に、ケンカをしても『本当の姉弟じゃない私たちは、ずれた関係を自然に修復する方法を知らなかった』と七子は悩みます。

    〈卵の緒〉と〈7’s Blood〉の間に関係性はありません。しかし、それぞれが『血の繋がり』とはなんなのかということに違う方向から光を当てていきます。いずれも主人公の少年は小学生という共通点。その言葉、行動に彼らそれぞれの境遇、置かれた立場の中で一所懸命に考えた純粋なまでの思い、気持ちが滲み出ています。それだけに、読み手にはストレートに彼らの心の内が伝わってくる分、いずれの話の読書でも心が大きく動かされるのを感じました。第三者的立場で見れば、両作品とも事象として特別に何か大きなことが起こるわけではありません。でも小さな彼らにとっては、とても大きな変化、彼らの人生を左右するであろう大きな変化にも身を寄せて生きていく他ありません。それ故にそれぞれの結末には、それぞれの冒頭で抱いた『血の繋がり』とは別の『血の繋がり』について考えさせられることになりました。そう簡単にどうこう言えるものではない、それが『血の繋がり』というものなんだなと改めて感じた次第です。

    ところで、この作品では全編に渡って、とても自然に、とてもさりげない日常風景の中の一コマとして、『母さんはにっこり笑って、ハンバーグを口にほうりこんだ』『七生の作る肉じゃが。味がよく染みたジャガイモが口の中でほろりと崩れた』といったような食事の風景がとても印象深く登場します。重いテーマをほっこり感で優しく包んでくれる、とても瀬尾さんらしい、素敵な作品だと思いました。

  • いい作品
    簡単に言うと
    ●愛情
    ●信頼
    ●幸せ
    全部、正解も無いし 形もない
    なんでもアリって事ですね。

  • 「僕は捨て子だ。」

    こんな書き出しから始まる表題作、『卵の緒』。

    瀬尾まいこさんは本の書き出しを考えるのがお好きだそうですが、たしかにインパクトのある書き出しは読者の想像をかき立て、一気に物語の中に引き込む力がありますよね。

    育生の家族は、もしかしたら周りから見たら同情されてしまうような複雑な形をしているのかもしれないけれど、本人は少しも自分が不幸だなんて思っていない。
    それは、君子からの愛をずっと受け続けているから。だからこそ終盤、君子から重大なことを打ち明けられてもすんなりと受け入れられる。

    たとえ血が繋がっていても、当の本人たちがちっとも幸せとは感じられていない家族がきっとたくさんある中、育生と君子の関係は本当に理想の家族の形のひとつ。

    「育生は私が出会った中で一番優しい男子だわ」
    「私の表現能力は類まれなものがあるよ。特に育生に関してはね」

    言葉って大切だなぁと思います。私自身、子供のときに親からかけられた言葉はプラスのものでもマイナスのものでもいまだ自分の中に根強く残っている。

    君子さんを見習って、子供への愛情をしっかりと言葉にして伝えていこうと思います。

    もうひとつの『7's blood』もとても良かった。血が繋がっていてもいなくても、人と心地よい関係を築くことは可能なんだと思わせてくれる2つの物語。

    これが瀬尾さんのデビュー作だなんて、ほんとにビックリです。

  • いろいろな家族の形があると、あらためて気づかされる二編のお話。楽しい事ばかりじゃないけど、心許せる人と繋がるって幸せだと思いました。優しい気持ちになれる読後感。

  • 「卵の緒」では育夫とお母さんのやりとりがなんともいえず好きだ。ケラケラ笑うお母さんに自分のの気持ちまで明るくなる。
    「7s blood」では、後半の圧倒的解放感、心地よい空気感がたまらない。
    とても読みやすいし、爽快感がありページをめくる手が止まらない。
    何故かわからないが、いきなり引き込まれていく。
    瀬尾さんの作品の秘密をもっと知りたくなった。

  • 「優しく、温かく、鋭く、痛い。
    人と人とが繋がっていく。結びついていく。解けていく。別れていく。そんな、人であるがゆえの関係を、こんなに穏やかに、痛く書き上げられるものなのだ。
    それを知った上で、もう一度、あなたとあなたではない誰かとの関係を見つめてごらんよ。
    耳のそこでそんな声が響いたりする。」

    巻末のあさのあつこさんの解説より。

    この解説通り、「家族」のそれぞれの姿に温かくほろ苦い、読んでいる間じゅう耳と喉の間で涙がでてくるのを我慢してる時のあの痛みがずっと優しくあった。


    瀬尾まいこさんのデビュー作とのこと。瀬尾まいこさんのあとがきにはいつも、なるほどそこからこの物語が生まれたのか、と気付かされます。
    育生や七生や七子の何年後かにまた会えたらいいな。
    会えないかなぁ。

  • 「僕は捨て子だ」とインパクトのある文章で始まる『卵の緒』。
    へその緒がないのを「卵で産んだ」とけろりと言い切る、本能のままに明るく生きる母がステキだ。

    もうひとつの『7's blood』は「出所」が違う姉弟の物語。
    こちらの母もさっぱりとした思いきりの良い人。
    姉弟二人でお互いの髪を切るシーンは切ない。
    共に家族の繋がりや距離感について考えさせられた。
    優しい時間がゆっくり流れるような物語だった。

著者プロフィール

1974年大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒業。2001年『卵の緒』で「坊っちゃん文学賞大賞」を受賞。翌年、単行本『卵の緒』で作家デビューする。05年『幸福な食卓』で「吉川英治文学新人賞」、08年『戸村飯店 青春100連発』で「坪田譲治文学賞」、19年『そして、バトンは渡された』で「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』等がある。

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