本格小説(下) (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101338149

感想・レビュー・書評

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  • 下巻です。
    期待を裏切らず、最後まで深みのある恋愛小説で、どっぷりと美しい世界観に浸りました。
    (著者は嵐が丘のような話と言っていますが、私は谷崎の細雪、小池真理子の恋がよぎり、再読したくなりました。特に恋の主人公は同名フミコ!)

    そんな中ラストの冨美子の件は、一瞬小説全体の美しさを汚された気がしましたが、そういう事情のお蔭で彼女の語りには包容する力があり愛があるわけですから、生々しさも許容しなきゃな、という気持ちに変わりました。

    また、上巻で感じていた三枝家や重光家等の名家の品格を、時を経て現代の富裕層である久保家には少しも感じず(だからと言って決して下品という意味ではなく)、現代日本への寂しさを感じました。
    あの時代を生きた人々が、現代の、小粒で薄っぺらい人材と世の中を嘆く様を見て、確かに現実の経営者や政治家には気迫も個性も足りないかも、と考えたりもしました。松下幸之助や田中角栄に匹敵する今の人、思いつかないもの…
    恋愛小説なのにそれ以上のことを考えさせられる、とても素晴らしい作品です。読んでよかった☆

  • 現代版(というには、もうふた昔前の設定だが)和製『嵐が丘』。お屋敷、美人姉妹、別荘、女中…そういった時代がかった設定がギリギリ許された戦後が、物語の主を占める。この時代でないと、東太郎のこれだけの深い恨みと憎しみは生まれなかっただろうし、悲劇的な恋愛も生まれなかっただろうと思う。
    非常に読み応えのある小説だった。

  • 2000.01.01

  • 東太郎の人生の話と思いきや、最後冬絵の登場と語りで、この物語はフミ子の人生の話だったのではないか、と視点が逆転した。
    そして、この物語に登場した、愛を交わしあった人々、本当は誰もが愛して愛されてはいなかったのではなかろうか…と、気付いてしまった。それぞれが語る愛が、交わっているようで、実は何だか宙に浮いてしまっているような。それは、語り手に話を進ませる方法をとったからなのか。もし、渦中の誰かの一人称か、まったくの三人称で小説が構成されていたら、きっと違っていたのかも。
    漱石の『こころ』は、渦中の「先生」の語りを執った一人称だが、あの作品ではまさに、「先生」の主観(思い込みともいえる)で物語が進んでいく。一方この『本格小説』は、フミ子の語りでありながら徹底的に事実から第三者的な立場が貫かれている。しかし、最後の冬絵の台詞で、それまで冷静な第三者的な物語と信じ込まれていたものがガラガラと崩れ、フミ子の語りによるフミ子の人生の物語へと姿を変えたような。
    そんなカラクリも仕込みつつ、文学の可能性を試している著者の仕事っぷりに脱帽する。
    本当に面白かった‼

  •  これは、説明不要、とにかく面白いので読め!って感じの本です。
     
     軽井沢に別荘を持つ裕福な家庭に生まれた少女・よう子と浮浪児同然の少年・太郎の恋が軽井沢で芽生えますが、階級の格差と時の流れによって、いつしか二人は離れ離れになる。その後、成長した太郎がアメリカで経済的な大成功をおさめて、よう子の前に姿を現します。

     戦後の日本を舞台に描かれた『嵐が丘』とも言われていますね。
     メロドラマにどっぷり、というような読書は普段しないのですが、これは例外。とにかくグイグイ引き込まれますので、未読の方は是非)^o^(

  • 2014/12

  • 「山荘」だとか、「アメリカ」だとか、全く縁のないキーワードばかりでした。土屋富美子さんの語り口が、ですます調が、お上品でした。

  • 小説は、主観的な内的な心象風景を物語で紡ぎながら、その中に美しさとそれから生まれる哀しみがあらわされれているもの・・かなと。
    どの時代でも、文化、社会の中で人が思うようには生きていけない辛さみたいなものが澱んで、人が巻き込まれ、自分からまきついていくような人がいて、そういう時代に翻弄される劇的な物語を、人は惹かれるものである。

    この本の主人公が登場しているとき、嵐が丘の冷たい暗い風がいつも感じられる。この小説が「嵐が丘」を意識していることは、最初から感じられるのだが、嵐が丘を感じながらも、この小説の舞台は戦後である。貧しい家族に恵まれない辛い子供時代を過ごした主人公は、時代背景が嵐が丘とは違うがその主人公太郎の立ち位置がヒースクリフが非常に似ているためそのように感じるのだろう。

    この本の好きなところはいろいろあるが、ラストの意外性がすごいと感じさせた。嵐が丘を意識しながら、全く別の次元のものに昇華したと感じた。

    小説とは、これを言うのだなと感じさせてくれる本である。

  • 2015.09.17読了。
    今年13冊目。

  • 久々に本の世界観に引き込まれました。偶然、自分に繋がりのある土地が出てきたこともあったと思う。

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著者プロフィール

水村美苗(みずむら・みなえ)
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、08年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞、12年『母の遺産―新聞小説』で大佛次郎賞を受賞。

「2022年 『日本語で書くということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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