本格小説(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101338149

感想・レビュー・書評

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  • その当時に生きた人にしか感じられなかった惨めさと華やかさ
    いまの時代では想像できない世界が同じ日本だったんんだ
    苦しくも悲しくも悔しくもあるんだけど
    読み始めると、先が気になり、どんどん読み進め
    最後の最後には、単純に夢のように浮かれていた気持ちが
    びっくりするほど水を浴びせられたような気分になり
    すごい小説を読んでしまったなぁという気持ち
    でも、水村さんの他の小説、すぐに読みたいとは思えない
    衝撃が強すぎる

  • +++
    夏目漱石の遺作を書き継いだ『続明暗』で鮮烈なデビューを果たし、前代未聞のバイリンガル小説『私小説from left to right』で読書人を瞠目させた著者が、七年の歳月を費やし、待望の第三作を放つ。21世紀に物語を紡ぐことへの果敢な挑戦が、忘れかけていた文学の悦びを呼び招く。
    +++

    上巻を読んでから時間が空いてしまったが、やっと下巻を読むことができた。上巻から持ち越された緊張感と昂揚感はそのまま続き、東太郎、冨美子、よう子、そして三枝三姉妹や関係者たちもそれぞれ歳を重ねて状況はずいぶん変わってくる。よう子は重之ちゃんと結婚し、娘も生まれたが、太郎に対する気持ちが消え去ってしまったわけではなかったのである。太郎とよう子、夫の重之三人の関係は、危うい緊張感の上に安定し、しあわせの極みとも言える時を過ごしもする。彼らが主役の物語でありながら、それよりも、語り手とも言える冨美子の一生の物語とも思われ、最後に語られる事実にその感をさらに強くするのである。人というもののむずかしさ奥深さ、底知れなさを思わされる一冊である。

  • 感想



    貧乏、学歴、金持ち、努力、恋愛、上流社会の三角関係と、どのページを開いても飽きさせない話でした。

    これら全てが戦後からバブル期が終わる頃までの時代の流れに合わせるように織り込まれていました。




    文章は丁寧な日本語が使われていて読みやすいです。

    内容が面白くてサクサク読めて、

    続きが読みたくて暇を作っては読み一週間かかってしまいました。

  • 主体としての「I」が育たなかった日本で、「私」を主語に本格小説を書いた著者の姿勢に圧倒される。
    主体としての「I」を書こうとすれば、自分がとるに足らないことも受け入れられる。と言いながら、これだけの量、精密さ、言葉の崇高さを維持して書きあげるって、どんなモチベーションなんだろうか。登場人物は、そこまで私であることに自覚的に暮らしているようには見えないし。主体としての「私」とは何か、何度か読み直さないといけない本。

  • これを読み終わった知人の勧める言葉があまりに熱烈だったので、惹かれて手に取る。
    まず普段翻訳ミステリばかり読んでいる目に、古風で流麗な日本語が気持ちよく、そちらにうっとりする。
    そしてまた、著者の自伝らしきまえがきも面白く、これがこんなに面白いのに、本編がどのように始まるのだろうかと思っていたら。
    これがもう、面白くておもしろくて、ただ、こればかりを読みふけるわけにもいかないので遅々としてページが進まない(通勤電車に持って歩くには重かった)のが何とももどかしく…。休み時間に読んだ小説の続きが気になって仕方ない授業中、のような感覚。寝ても覚めても、どこかがこの小説の世界とつながっているような感覚をずっと持っていた。
    斉藤美奈子氏によると、すべてを読み終えてから冒頭を再読すべきとのこと。さあ、読み終わった今、ふたたびその楽しみに浸ることとしよう。
    これからは、数十年前に読んだきりで、しかも内容をおそらくさっぱり理解していない『嵐が丘』を読み、水村さんのほかの著書を読むことを楽しみとして読書計画を進めていくことにする。
    この本を教えてくれた知人にはひたすら感謝である。

  • まさに「嵐ヶ丘」!
    面白かった
    読み終わったのが寂しい(´・_・`)
    もっとこの雰囲気を味わい続けていたい

  • うーーんと昔に「嵐が丘」読んだ時も思ったんだけど、
    主人公が二人とも嫌いなんだよねー。
    既にそこが致命的なんで、きれいな描写は楽しみつつ、
    なんだかなあ~

    最後の衝撃の(はず)の部分もイマイチしっくり来なかった。

  • 日本現代文学史に残る傑作。粗筋だけを言えば恋愛小説といって何ら差し支えはないが、ここにはそうしたカテゴライズに収斂できない何かがある。

    文学の一つの楽しみ方は、後世に残された我々が文学作品を通じて当時の世相を追体験できることである。そうした意味において、この作品を読んだ100年後の人々は昭和という時代の美しさを追体験できるのは間違いがない。

    そして現代に生きる我々の使命は、こうした優れた文学作品を100年後にも残すよう、適切な評価を下すことだと思う。

    文学技法的に言えば、所謂「信頼できない語り手」(現代作家ではカズオ・イシグロの作品に多く見られる)を用いることにより、読者を最後の最後まで裏切り続ける手練が見事。日本語表現の持つ美しさを楽しめるという点でも、川端康成にも通じる世界観がある。また、ある一時代を舞台にした家族史という見方をすれば、北杜夫の「楡家の人びと」にも近い。

    文庫本で、上下巻合わせて1200ページ弱。読了に時間はかかるかもしれないが、それに見合う価値はある作品。

  • 誰一人として満たされ尽くすことなく、時代に翻弄される。救いようのない話ではある。

    とはいえその救いようのなさとそれゆえの感動を、冗長さを感じさせずにここまで喚起出来るのは、さすがの名作ゆえんか。

    小田急線に乗るのが、ちょっと楽しみになるかも。

  • 果たして東太郎は実在するのか、架空の人物なのか。

    著者が最初に断っているように、これは私小説ではない。本筋に入るまでの長い話は私小説の形式を取っているようだが、これはあくまで後半の本格小説への導入部と考えるべきである。
    著者はおそらく、どこまでもフィクションのリアリティを表現することにこだわった。導入部の私小説に架空の人物を紛れこませることで、煙が形を持って実体化するように、その人物があたかも実在したかのように読者に錯覚させる。
    そして後半の本格小説に突入する。仮に、これが東太郎の目線で語られる話だったら、リアリズムは逆に薄れてしまったであろう。旅行者、女中と話し手を介することによって、彼の壮絶な人生を巧妙に描き出すことに成功している。
    もちろん、著者の美しい描写力があってこその手法なのだろうが。

    戦後の古き良き時代。家督を享受して優雅に暮らす三姉妹と、どん底からはいあがる少年。その凄絶さに惹かれた少女、少女の成熟を守りつづけた青年。そして女中という身分を懸命に果たした女性。様々な人生が交錯するさまは、一大叙事詩を眺めているようでした。いつまでも心に残る、よい小説です。

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著者プロフィール

水村美苗(みずむら・みなえ)
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、08年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞、12年『母の遺産―新聞小説』で大佛次郎賞を受賞。

「2022年 『日本語で書くということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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