- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101369297
作品紹介・あらすじ
江戸・深川の料理屋「ふね屋」では、店の船出を飾る宴も終ろうとしていた。主人の太一郎が胸を撫で下ろした矢先、突然、抜き身の刀が暴れ出し、座敷を滅茶苦茶にしてしまう。亡者の姿は誰にも見えなかった。しかし、ふね屋の十二歳の娘おりんにとっては、高熱を発して彼岸に渡りかけて以来、亡者は身近な存在だった-。この屋敷には一体、どんな悪しき因縁がからみついているのだろうか。
感想・レビュー・書評
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宮部みゆきの長編時代小説。
単行本は2002年に刊行されています。
1998年に直木賞を「理由」で受賞した4年後、近いところではあの大長編「模倣犯」が前年2001年に上梓されており、人気作家として揺るぎない地位を築いたころの作品です。
書きたいお話を思うさま書いて、読者が期待しているとおりのもの―ハートウォーミングな人情もの―ができあがった、というある意味幸せな1冊だと思います。
上下巻ですが、上巻の粗筋はおよそこんな感じです。
12歳のりんは生死の淵を彷徨ったことをきっかけに、この世に未練があって成仏できずにいる「お化けさん」達が見えるようになりました。
彼女の両親が始めようとしている料理屋「ふね屋」には、そんな「お化けさん」達が5人もいて、大切な最初のお客様の宴席を台無しにしてしまいます。
嘆いていても仕方ない、この際がめつくならねばと、お化けが出る料理屋という悪評を逆手に取ろうとして、霊能力があると自称する2組が、どちらが「ふね屋」に憑いているお化けを祓えるか、「お化け比べ」の宴席を開くことにしたのです。
と、粗筋というより舞台設定をまとめただけで『不思議な力を持った勝ち気で活発な少女りんが、「お化けさん達」とコミュニケーションをとってそれぞれの心残りを解消してやる。「お化けさん」達は満ち足りて成仏していく』ってお話が浮かびませんか?はい、それで大体合ってますw。
このように、安心して人情噺を楽しむことができる、というのがこの本のいいところの1つ目。
2つ目は登場人物の魅力です。
宮部みゆきはとても大きな引き出しを持っていて、そこからいろいろなキャラクターを取り出してそこここに配置して見せてくれます。
例えば主人公りん。引き出しに入っているのは「勝ち気で活発な美人」。オプションの不思議な力をプラスするとりんや「霊験お初捕り物帖」のお初に、現代に持ってくれば「パーフェクト・ブルー」の蓮見加代子でしょうか。被害者役まで広げれば、もっとたくさん名前を挙げられるでしょう。
例えば「お化けさん」の一人、玄之介。引き出しに入っているのは「世慣れた遊び人風の美男子、剣の腕は立つ」。「おまえさん」の弓之介の上の兄、三男の淳三郎が真っ先に思いつきます。
りんのおじいちゃん高田屋七兵衛とおさき夫妻も、その恩人の天ぷら屋のおやじも、「お化けさん」組のおみつとお梅も、あんこう似の長坂様夫妻も、みんなみんな、引き出しから出して相応しいところに配置すれば、作者が書き込まなくても自ら動きだしてお話を作ってくれる、大事なキャラクター達です。
キャラクターたちが紡ぐストーリーは、読者を裏切りません。決してステレオタイプではなく、これを「王道」と呼ぶのではないでしょうか。
そして3つ目、料理が美味そうです。
料理の描写がお腹に直撃する時代物としては「剣客商売」の名前が挙がるでしょうか。もちろん宮部みゆきの「初ものがたり」もそうですね。ふね屋は2回しか宴席を開いていませんが、いずれもひと工夫もふた工夫もある料理を出していますし、その工夫を含めた描写はお見事です。宴会料理だけでなく、例えばヒネ勝がその辺の堀で釣ってきた小魚のつみれを作るシーンもまるで見てきたよう。
プロの作家のこういう筆の力に憧れます。ストーリーやキャラクターを作り上げ、組み立てるのは生まれ持っての才能が必要なのかもしれませんが、料理の描写なら練習すれば自分でもなんとかならないものでしょうか。あ、そもそも描写に値するようなものを食べつけていないかあ。
そんな魅力たっぷりのこの本、上巻はダークホース島次が場をかき回し、りんの出生の秘密とそもそもことの発端になった興願寺を巡る伏線がたくさん敷かれました。
下巻でどのように回収されて、どんな大団円を迎えるのか、すぐに続きを読んでいきたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
うまいものである。
深川にあたらしくできた料理屋にはお化けが出る。
そのお化けとなかよくなった料理屋の十二歳の娘おりんは、お化け達が成仏できるよう、お化け達の過去を調べはじめる、という筋書き。
下巻の解説で、菊池秀行は「健気(けなげ)」こそ、宮部みゆきが書き続けている、人間のかくあるべき姿である、と書いている。そのとおり、健気な少年少女を描くことが宮部は実にうまい。
悪の総大将、興願寺の和尚は、仏を求めて人を殺したという。どこまで堕ちたら仏は救ってくれるのか、それが知りたくて娘も井戸に落とした。──このテーマで重厚怪奇な小説が書けそうだが、宮部はそこには行かない。
P71:「瓦灯(がとう)」:灯りをともす陶器製の容器。
「江戸庶民の間では素朴な素焼きの瓦灯も広まったようです。これは人が起きている間は釣り鐘形をした素焼きの陶製の器の上で火を灯し、寝るときは火皿を釣り鐘の中に納めるような構造になっていました。」http://research.kahaku.go.jp/rikou/akari/sub2.htm -
江戸深川で「ふな屋」を始めた太一郎と多恵の若夫婦だったが亡者が暴れてメチャクチャになってしまう。太一郎と多恵の一人娘12歳のおりんには亡者の姿が見える。
なぜ、この「ふな屋」には亡者が現れるのか、おりんが謎解きに奮闘する。上巻では、謎解きが始まったばかりです何も分からない。下巻を読むのが楽しみ。 -
ぼくは好き。大切な人を思いながら、少女のひたむきな心がわかるしそれに接せる有り難さを感じることができる。
ヒヤリ感と暖かさのバランスがいい。 -
「お化けさん」って、おいおい。
主人公の「いい子」ぶりが鼻につく。 -
登場人物全員、キャラがたっててリアリティがすごい。
宮部さんに勝る時代物の書き手はそうそういないと思う。
作中の料理もとてもおいしそうで、作るまでの庖丁人さん達の試行錯誤を読んでるのもとても面白い。
ただラストがあっさりしすぎててそこだけ不満。長くなってもいいからもうちょっと練ってほしかったよ。 -
おなじみのお江戸ファンタジー( ´ ▽ ` )ノ。
前振りがかなり長くて、これがゴーストストーリーだと分かるまで、少々戸惑っちまったぜ( ´ ▽ ` )ノ。
あいも変わらず、登場人物は超美形ばかり( ´ ▽ ` )ノ。
おりんちゃん、12というには幼すぎやしねぇかい?( ´ ▽ ` )ノ。
池波正太郎オマージュか、いつになくお料理描写に力が入ってるけど、あんまり美味そうじゃねえな( ´ ▽ ` )ノ。
まぁ、続きがどうなるか、下巻をお楽しみにってこってぇ( ´ ▽ ` )ノ。
2015.6.3 -
師匠の下から独立し料理屋「ふね屋」を開業した太一郎一家。しかし開業初日の宴の席で突然抜き身の刀が暴れだす。高熱で生死の境をさまよった太一郎の娘おりんにだけ刀を持って暴れた亡者の姿が見えた。
ふね屋に住み着く他の亡者たちと仲良くなったおりんは、家族のため亡者たちのことを調べ始める。
まず言いたいのがおりんちゃんが可愛いです! 霊たちと仲良くなり亡者たちを”お化けさん”と呼ぶあたりなんかが特にツボです。
亡者たちの個性もどれも光っています。おりんと仲良くなる侍・玄之介や姉御肌のおみつ、宴会で暴れたおどろ髪を含め五人の霊が登場しますが、それぞれの個性が非常に立っていてやり取りも軽妙です。宮部さんの時代物の安定感はやっぱりすごいです。
作中の料理描写も見ものの一つ。いろいろな騒動のせいで料理がちゃんと食べられる場面はないのですが、創意工夫を凝らした料理の数々はどれもおいしそうです。
いろいろ書きましたが結局おりんちゃん頑張れ!という一言に集約される上巻(笑)。宮部さんなので可愛さ、軽妙さだけでは終わらないと思うので、下巻も楽しみです。 -
やっぱり読みやすい。この人の文章。
上下巻共にあっというまに読み終えた。
上巻にはられていた伏線が下巻ですっきり!!
玄乃介さまのにっこり笑顔が頭に浮かんで
つい、顔が火照る(笑)
おりんちゃんみたいに生きたいな。
お化けさんたち全員の成仏話をもう少し
詳しく読みたかったので★-1で。 -
お化けがもともと住み着いていた料理屋に新たに入居した家族を巻き込んで起きる騒動。上巻では誰も幸せになっていないが下巻ではどうなるのか?さらさらと読み込ませる文章は作者の妙だろう。下巻が楽しみ。