生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (145ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101371719

感想・レビュー・書評

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  • 最初は、金原ひとみの小説に出てくるような、美しく若きメンヘラで、支離滅裂でもパワフルなワードを高速でマシンガンのようにわめきつづける女子の圧がすごくて本を置こうかと思ったけど、まわりからは傍迷惑でわけわかんないと思われながらも、そのなかには彼女なりのまっすぐな理屈と愛があって、それが最後に、いいかげんに同棲しているだけだと思っていた津奈木に通じたと思える瞬間が最高にまぶしかった。/津奈木の「俺はいろんなものを自分に近づけないようにしただけだったのに、寧子はゲロ吐いて頭から血を流したまま意味もなく走ってて、すごいと思ったよ(略)こういう意味が分かんなくてきれいなものがまたみたいと思ったから」/北斎の富士山の絵が5000分の1秒単位でコマ送りした富士山の写真と一致しているというエピソードからの、「あたしはもう一生、誰に分かられなくたっていいから、あんたにこの光景の五千分の一秒を覚えてもらいたい」という告白。/

  • ”「あたし」は「あたし」と一生別れることはできない。“

    自分に振り回される苦しみの感覚が手にとるように感じられ...共感できるものの救いはあまりないので、引きづられて、一筋に光は見えるとはいえ真っ暗な暗闇に取り残されたような暗い気持ちになってしまいました...

  • 2019.5.31


    脱衣所にあふれていた衣類を無理に押し込んで洗濯機を回したあと、みそ汁の具を買い忘れたことに気づいていい加減死のうと思ったが、床に置いてあった段ボールの中にマロニーが入っていたのを発見し、ぎりぎりで持ち直した。

    上野の森美術館にピカソ展を観に行って「ラーラリラーって感じだね」ってコメントした時、「ラーラーリヒーって感じだと思う」と真顔で返されて、私は死ぬほど嬉しかったし、この男のことが大事だと心から思った。馬鹿みたいだったけどらあれが恋愛じゃなかったからあたしは恋愛を知らない。

    「あんたが別れたかったら別れてもいいけど、あたしはさ、あたしとは別れられないんだよね一生。うちの母親は今でも多分雨降ったら寝てると思うし、あたしだってこんなふうに生まれちゃったんだから死ぬまでずっとこんな感じで、それはもうあきらめるしかないんだよね?あきらめなきゃ駄目なんだよね?いいなぁ津奈木。あたしと別れられて、いいなぁ。」

  • エキセントリックな登場人物だけど、生々しいというか。
    普段平らにして生きてる生活を掘り起こされる。見たくない自分を見せられる。
    本谷有希子の中で一番好きかな。「腑抜けども〜」も捨てがたいけど。
    素直に生きたいけど、他人に理解もされたい。社会に適応したい。寧子は何処までも正直で、人生に対して真摯だ。だから、嗚咽するほど濃く、抱え込むには重すぎる。
    でも、「あたしはあたしから離れられない」から、そんな自分を受け入れて生きていくしかない。諦めと希望。楽しないで一緒に疲れてほしい、五千分の一秒を覚えていてほしい。これ以上ない、上手い表現だと思う。

  • 過眠、メンヘル、25歳。死にたいを連発。恋愛は生活に負ける。ってそうだなぁって心に残った。同棲してた津奈木の元カノの行動怖すぎる。芥川賞候補の表題作とその前の話しがおさめられている。葛飾北斎の富嶽三十六景ーその中でひときわ激しい神奈川沖浪裏をモチーフにしている。度を越した行動で驚かされるのは、悪くない。作者の本気が感じられた。ような。

  • ずしりと響いた。
    自分が自分のことをわかってないのに、それを全部分かってもらおうなんて無理な話、本当ですね。
    葛飾北斎の波を描いた絵が、現代の技術を駆使して撮った写真とちょうどぴったり重なって見えるその確率5千分の1
    それがうまくこの話を盛り上げてくれてて、実際にどんなものか見てみたくなった。
    本当にぴたりと重なってるように見えて、小説の内容は勿論、絵と写真、2度楽しめました。

  • だいぶ前に読んだ本谷さんの小説の印象は、極端過ぎたりダメ過ぎたりするけど何だか愛おしくなるような主人公が出てくる、ということで、久々に読んだ本作も同じく、だった。

    「生きてるだけで何でこんなに疲れるんだろう」。そう感じながら怠惰に暮らす25歳の寧子は、津奈木の家に転がり込むかたちで同棲を始めてから3年になる。
    美人だけど過去の経験から性格が破綻していて、同性の妬みも相まって何をしても続かない寧子。
    鬱からくる過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人だった。

    本当はただまっすぐに生きたいだけ。本当は普通の暮らしがしたいだけ。だけどその“普通”が上手く出来なくて、自分からは程遠い。
    ダメなのは自覚しているけれど、そんな自分のことを誰かに解ってもらいたい。そして受け止めて欲しい。
    そういう寧子の叫びが全開に溢れている。短い小説なのだけど、濃くて、とても痛々しい。そしてやはり、愛おしい。
    生きるのが下手くそな寧子という人物の中に“自分”を投影してしまう人もいるかもしれない。そういう意味では、太宰の人間失格的な趣もあるのかも。

    スルーされてるのかと思いきや本当は想われていたり(そうじゃなきゃ職なしの女を長く家に置くわけないし)きつく当たられることもある意味では愛情表現だったり。
    本当は周りにけっこう構われていることを自覚できたら、もっと幸せなのかも。育ちによる傷があるから難しいのだろうけど。

    表紙の絵にも深い意味あり。
    ほんの一瞬の偶然を見つけてかたちに出来る、その奇跡。

  • 受賞記念再読2016/01/20

    一緒に疲れてほしいという主人公の恋愛欲求
    付き合うとは、互いの願いをぶつけ、ぶつけずにいること?

  • なんでもないことで躓いて、その度に爆発。破壊。こんな激情型の自分を抱えて生きていくのは、確かにしんどい。いい出会いがあってよかった。最後の場面を読んで、とても真っ直ぐな恋愛だと思った。

  • あたしってなんでこんな生きてるだけで疲れるのかなあ。25歳の寧子は、津奈木と同棲して三年になる。鬱から来る過眠症で引きこもり気味の生活に割り込んできたのは、津奈木の元恋人。その女は寧子を追い出すため、執拗に自立を迫るが…。誰かに分かってほしい、そんな願いが届きにくい時代の、新しい“愛”の姿。芥川賞候補の表題作の他、その前日譚である短編「あの明け方の」を収録。

    冒頭で一気に引き込まれた。「お前らの安い恋のトライアングルに勝手に巻き込むじゃねぇよ」に笑ってしまった。津奈木のなんでもごめんと言う感じとかよく見受ける感じだなぁと男目線ではあるが共感してしまう。
    それに苛立って怒ってしまう。だけど怒ってそんな言葉を言いたいわけでは無いのにっていうジレンマにも共感してしまう。
    必ずしも自分の人生でリンクしているっていう物語ではないけれど、描写に共感してしまう所や、馴染んでしまう所が素晴らしい。本谷ワールドハマってしまうかもしれません。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本谷有希子の作品

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