死の家の記録 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784102010198

感想・レビュー・書評

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  • 学生時代のドストエフスキー(1821~1881ロシア)の印象は、途中挫折の作品もあれば、いいかげん話が長いぞよ~不満たらたら(笑)。ところがあらためて読んでみると、これがじつにおもしろい。二、三作読んで終わるつもりだったが、マズイな……どうやら止まらない。彼の描写の確かさ、とりわけ人物造形の豊かさにあらためて驚いて、これは一体どこからきているの? と興味が尽きないのだ。

    ***
    1949年、(革命思想家)ペトラシェフスキー事件で逮捕され、死刑宣告をうけたドストエフスキーだったが、刑の執行直前、皇帝の恩赦によってシベリア流刑になった。本作は、1950年から4年間をすごしたシベリア獄中の体験に基づいたリアリズム小説で、冒頭から魅せてくれる。

    こんな感じで……。

    貴族地主が妻殺しの罪で徒刑囚となり、10年の刑期をつとめ、小さな町でひっそりと死んだ。そんな孤独で人間嫌いな男の手記をみつけた語り手は、それを世間に公表する。
    ……ふふっ、古典的な手法に私はにんまり。

    「……ところがその中に一冊のかなり分厚い手帳があった。こまかい字でびっしり書き込まれていたが、途中で終わっていた……それは前後の脈絡はないが……十年間の獄中生活の記録であった……わたしは何度かこれらの断章を読み返してみて、これは狂った頭で書かれたものだとほぼ確信した。しかし監獄の記録は――彼自身は手記のどこかで<死の家の情景>という言葉を使っているが――わたしにはかなり珍しいものに思われた」

    これがまことに珠玉の手記で、監獄内の生活風景、衣類、足枷、食べ物、作業の様子、風呂場、病院、ムチ刑、酒盛り、獄内の金貸し、貴族囚と農民囚、クリスマスの様子……こと細かく描かれている。

    ぎゅう詰めになった監獄内の囚人たちの性格描写はさらに秀逸だ。
    直情的で喧嘩っ早いの、見栄っぱりだの、意志力のひどく弱い者から、凶暴者、朝から晩まで祈る者に、サディスト、狡(こす)い奴、虚言癖、吝嗇(=ケチ)、手癖の悪い者(盗癖)……なんだかダンテの「地獄」を見るようなありさまで、その人間観察の鋭さに驚く。なんといっても、『罪と罰』や『悪霊』や『カラマーゾフの兄弟』といった作品群に登場する魅力的なキャラクターのモデルになったであろう囚人が、リアルに登場するからおもしろい!

    当時、社会的名誉もプライドも砕かれ、辛酸をなめたドストエフスキーだが、もしこの徒刑囚の経験がなかったとしたら、のちの孤高の長編群ははたして生まれたのか? ――もちろん誰にもわからない。卓越した作家ゆえに作品は生まれたかもしれない、が、こんなにもキャラクターが生き生きと立ち上がってくるような魅力的な作品になっていたのか? これからも世界中で読み継がれていただろうか? 

    『貧しき人々』で一世を風靡した貴族のはしくれドストエフスキーが、まさか三十路を境に多くの徒刑囚らとともに厳しいシベリアの監獄を生き抜くことになろうとは……まさに「カラマーゾフの力」かもしれない。転んでもタダでは起きず、人間万事塞翁が馬、を地で行くようなパワフルさで、人間のしたたかさと生きる力がみなぎる。愛すべき彼らと微笑み、勇気さえ与えてくれる。

    解説によれば、この作品はロシア・リアリズムの正道を踏んだもので、高く評価されたようだ。ツルゲーネフやトルストイらの賛辞もクスッと笑える。示唆に富む訳者の解説、やさしく臨場感にあふれた訳は、ドストエフスキーのみごとな観察と、ときおりみせる行き場のない悲哀をうまく醸しだしていると思う。

    読み終えてふと思った。書店に溢れているハウツー本もいいけれど、最近なんだか人生うまくいかないな……なんて思っている人は、ちょっと視点をかえて、こちらを秋の夜な夜なゆっくりじっくりながめてみるのはいかがだろう(笑)―2021.10.05―

    • ハイジさん
      アテナイエさん
      こんばんは(^ ^)
      ドスト読みたい作品の1つですが、これは早めに読んだ方が作品への理解が深まりそうですね!
      この獄中体験か...
      アテナイエさん
      こんばんは(^ ^)
      ドスト読みたい作品の1つですが、これは早めに読んだ方が作品への理解が深まりそうですね!
      この獄中体験から、あのような個性あふれるキャラクターたちが生まれたことがよくわかります
      そして生に対するパワフルさも…
      アテナイエさんのレビューを読んだだけで、間違いなく面白いのが伝わるので、もうニヤリとしてしまいます
      ああ早く読みたいです!
      なんですけど、読む前のこの妄想タイムもとても好きな時間なので、もう少し膨らませてみようと思います(笑)
      2021/10/05
    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんばんは!
      さっそくレビューをお読みいただき、ありがとうございます(^^

      私は今回はじめてこの作品を読みましたが、とて...
      ハイジさん、こんばんは!
      さっそくレビューをお読みいただき、ありがとうございます(^^

      私は今回はじめてこの作品を読みましたが、とても易しくておもしろかったです。
      早めに読まれれば、その後の作品を読むときに楽しめると思いますし、逆にある程度作品に触れてから読まれても、ああ! あのキャラね~なんて発見があったりします。いつでもどの段階でも楽しめると思います。わたしはまたいつか再読したいと思っています。

      またドキュメンタリー風小説なので、一気呵成に読む必要もないので気が楽です。ちょっと覗いてみよう~という感じでながめてみる感じですね。ドストエフスキーの人間性のようなものが垣間見えてきて楽しいです。
      それも含めて妄想タイム、ハイジさんのおっしゃるように楽しいですね~♬
      2021/10/05
  • ロシア文学のイメージは、なんだか暗そうで苦しそうと自分勝手に思っていた。そして、その勝手なイメージから、ロシア文学を避けていたのだが、この本を読んで全く違っていたことがわかった。
    ここではドストエフスキーが4年間シベリア流刑での体験をもとに、監獄での暮らしや人々の様子などが描かれている。
    日々の様子をつづったものや人物に焦点を当てたもの、イベント的に起きたことなどについて正確に緻密に描かれている。監獄という特殊性から興味が湧く部分もあるが、多くは普通の人物がどのように生活しているかを見るのと変わらないのかもしれない。
    表現が非常にリアリスティックで、それでいて愛情に満ちた文だった。人間観察が緻密であり、その様子から考えられる心情や、監獄であったできごとを描いているが、決してドラマチックではない。また、貴族と民衆の溶け合わないことを実に実感をもって、そしてそれを胸苦しい思いで描いてもいる。
    作家が人間に対して愛情をもち、生き生きとした人物を描く作家として確立するにはこのような人間観察をできるかどうかにかかっているのかもしれない。

  • 「イワンデニーソヴィチの一日」と、この「死の家の記録」は、
    私の中でベスト・オブ・シベリア流刑小説の地位を常に争っています。
    いや、これらの他に読んだことないんですが。

    こちらに関しては、貴族がいきなりシベリアに来て精神的にかなり参ってる感じにぐっときます。
    お風呂の不潔さにうひゃー、とか囚人服がベトベトしててうげーとか。
    特にお風呂(サウナ?)の描写は圧倒的に迫ってきます。
    囚人の垢とか髪の毛とかが、自分の足にからみついてきてぬるぬるしてる気がします。
    とにかくもう迫力があるんですよ。

    他に好きな場面は囚人がクリスマスなどのイベント事に心からウキウキしてるところかな。
    どんなにどん底に落ちても、素朴にイベントを楽しみにできるなんて、
    なんて人間って愛しい生き物なんだ!と感激したものです。

  • シベリア流刑囚として過ごした4年間の体験を元に執筆された本書には、ドストエフスキー諸作品の通定音が最も濃縮された形で表れている。共に暮らした囚人や兵士達に、時には犬畜生相手にまで向けられるその洞察力は、ふとした会話や行動から対象の内面に潜り込み、当人も自覚していないその愚かしい性質や特徴を暴き立てる。獄中に置いても貴族は仲間として扱わないその態度に嘆息しながら、それでも庶民の中に人間讃歌を見い出すことを決して諦めない。長編作品の登場人物のみならず『夜と霧』を始めとする多くの作品が、この家から生まれてきた。

  • シベリアでの実体験を元に書かれているだけに、笞刑などがリアルで犯罪者の心理描写が上手く描かれていたなと思いました。それにしてもドストエフスキーは難解で、途中でくじけそうになったけど読了できてよかった。

  • 『死の家の記録』は、1860年から1862年にかけて発表された。
    ペトラシェフスキー会のメンバーとして逮捕されたドストエフスキーは、オムスク監獄で囚人として4年間過ごした。「死の家の記録」は実質上、ドストエフスキー自身の獄中体験記録とも言える。
    あらすじ
    語り手アレクサンドル・ペトローヴィッチ・ゴリャンチコフは妻殺しの罪で10年間の追放と強制労働との判決を受ける。彼は貴族地主出身であったことから、他囚人たち(多くが、地主に搾取される農民出身)から悪意・憎しみを大いに買い、当初は監獄生活に苦しむ。しかし次第に収容所生活や受刑仲間に対する自身の嫌悪感を克服して、それまでの信念を再構築してゆく。(Wikipediaより)

    感想:
    ドストファン必読書。なぜなら後年のドスト作品に登場するキャラクター達のモデルになった人々が本作に多数登場するから。獄中で仲良くなった天使のように可愛い青年アレイは『カラ兄』のアリョーシャだし、父親を殺し財産を持ち逃げした軍人はドミートリィのモデルだし、敬虔な正教徒のお爺さんはゾシマ長老のモデルに思える。また、妻殺しは本作以外だと『永遠の夫』のシナリオに重なる。ドストが獄中で培った犯罪心理学的考察は『罪と罰』、『虐げられた人々』などに反映されているのではと思えなくもない。

    本作は一言で言えば獄中での人間観察記。主人公が見た、ロシア民衆達、たまにタタール人やインド方面の囚人もいる。言葉が通じないながらも心をかよわせたり、仲良くなっていく様子はちょっぴりホッコリする。が基本的には、貴族である主人公は周囲から敬遠され、いやむしろ疎まれ敵対され馬鹿にされる対象であった。ために主人公は当初獄中で、これ以上ないと言っていいほどの孤独を味わい、収監当初は獄舎に居着いている犬しか話し相手が居ないほどであった。これドストエフスキーもそうだったんかな?ドストも犬相手に話かけたりしてたのかと思うと、侘しいと同時に少しユーモラス笑
    主人公が特に愛し、可愛がった美青年アレイ…これはカラマーゾフの兄弟のアリョーシャだよね!?いちいち描写が可愛いので少しキュンとなる。
    一言で囚人といっても、性格から出自から何もかもが違い、個性的で、いろんな奴らがいる。陽気であったり陰気であったり。
    一般に監獄生活といえば、苦しく辛く単調なものてあるように思われがちだが、本作における囚人達はそれぞれ手に職があったり、内職をして小銭を稼ぎ、稼いだ金で肉を買ったり酒を飲んだり(許可はされていないがどこかしらから持ち込んでいるのである)クリスマスには一張羅を着てご馳走を食らい、また囚人達一丸となって外部客を招き劇を演じるなど、それなりに監獄生活を謳歌しているので、
    『死の家の記録』と題されるタイトルに似つかわしくないある意味楽しげな(楽しいのかわからないが)生活ぶりが描かれる。これは帝政ロシアの時代までなのか?ソ連時代はどうだったか知らないが、当時は割とおおらかだったのかなと思わないでも無かった。それでも懲罰はかなり苛烈で、笞刑(ムチ打ち刑)の描写には戦慄してしまう。死んでしまう者もいたらしく、当時の法律や刑罰の方法、施行され方に対する非難めいた記述も所々に見られ、非人道的な体制へのドストエフスキーの強い憤りが垣間見られることもあり、とても興味深かった。

  • (裏表紙の)概要解説では、「地獄さながら」「凄惨目を覆う」という字句が並ぶ。そして、表紙の装填の絵は、おどろおどろしい絵である。以前ソルジェニーツィンの「イワン・デニーソヴィチの1日」を読んだこともあり、シベリアの監獄はさぞや壮絶な内容に違いあるまい、と想像を逞しくしていた。

    ところが、である。すこぶる面白いのであった。興味深いという面白さだけでなく、くすっと笑える面白さもいっぱいなのである。筋金入りの犯罪者である囚人たちであるから、アクの強い濃厚なキャラの男たちが次々に登場。その人間模様に、驚き、あきれる。一方で、無邪気な喜怒哀楽が可愛らしい。人間味あふれる、というか、悪魔のような極悪人に対しても、人間存在への共感の眼差しがあり、その観察と視点はときに温かいのであった。

    そして、人情のあたたかさにほろり、とさせられるエピソードも。なぜか筆者(主人公)の身の回りの世話をしてくれるスシーロフという囚人が居る。彼は監獄内の下男でもなんでもないのだが、無償の厚情で主人公の世話を続ける。謝礼として少しの銀貨を渡そうとすると、そんなつもりじゃない!と怒って涙をこぼす。「彼はなぜ、そうまでしてくれるのか、私にはさっぱりわからないのであった」みたいに書いてあり、それもまたいとおかし、である。

    この男のところで、ふと、タルコフスキーの映画『ストーカー』の案内人を思い出した。全くの余談だが、もしかすると、タルコフスキーにも、ドストエフスキー文学の人物像イメージが、意識的または無意識的に流入していることもあるかもしれない。かように、タルコフスキーにおけるドストエフスキーの影響、なんてことを考えると楽しい。

    さて、ドストエフスキー自身が実際に4年の間、「シベリア」のオムスクという辺境の地の監獄で徒刑囚の日々を経験。そのときのメモを集成したのが本書である。なので、ほぼノンフィクションと言ってさしつかえあるまい。(冒頭導入部、ある貴族囚人の手記を発見し、その手帳を読み始める、という体裁をとっているが)

    ちなみに、シベリアといっても、オムスク地区は中央アジアのキルギスの近くのようだ。シベリアと言っても、その範囲は広いようで、ウラル山脈以東すべて、という場合や、極東を除く場合もあるようだ。かなり広い。
    シベリアというわりには、ソルジェニーツィンで描写されたような、地獄のような極寒はほとんど描かれていない。また、食事事情もさほどひどくない印象。驚くことに、監獄内で、また町と監獄の間で、食糧や酒をお金で売り買いしていたりする。鉄の足枷こそしているが、生活の様子は、意外とのどかな感じもするのであった。

    大岡昇平の「俘虜記」も、器用でしたたかな男たちが登場して面白いのだが、通じるものがあった。

    ひょうひょうとした文章表現も味わいがあって楽しい。
    そして、全編を通じて、在りし日の記憶を静かに語る感じである。たとえば「彼はいつも〇〇をしているのであった。」というトーンで、やさしく、ここちよい。
    これらは訳者工藤氏の巧さかもしれない。

  • 読むのは3回目。今回始めてこの作品の重要さに気づいた。ドストエフスキーは獄中体験からその後の創作のインスピレーションを得ていたのだと思う。たとえばキャラクター。彼の作品に登場するキャラの多くは、おそらく獄中にいた囚人をモデルにしている。…という発見に興奮していたものの、訳者解説に同じことが指摘してあってがっかりした。

  • 読みやすい作品ではなかったけど、この本好きだー!!
    作品は力強いし、人物の描き方に奥行きがあって良い!色んな印象的シーンがあって泣ける!
    作品がネガティブな状況だけで終わってないところも好き!ドストエフスキー・・・愛してる!

  • 法を犯して罪を背負った人々に、足枷をはめさせ労役を科し、鞭の浴びせて自由を奪う。
    そんな死の家に押し込まれた囚人たちの生活模様を描いた物語。
    壁の中での生活は、本当に人を更正させることができるのか。
    考えさせられる小説です。


    この作品は、ドストエフスキーの実体験をもとにリアリズムの手法によって書かれていて、19世紀ロシアの監獄のスケッチとしての価値もあり、また、優れた観察眼による緻密な人間描写は、文学としての完成度を最高のものにしています。

    「カラマーゾフの兄弟」を始めとする、ドストエフスキーの後年の大作たちの原点とも言える、大変素晴らしい作品でした。

  • ドストエフスキーの経歴を考えれば、この内容は生の体験から得た情報がたくさん入っているようでとても真剣に読んでしまいました・・・
    もちろん、書いてある事の心情だったり、そういう描写もとても良かったのですが、シベリア流刑を受けていた囚人たちの生活、行動、そういう事が詳細に描写されていて想像しながら読むのがとても面白かったです。

  • 予想外に面白かった。死の家に閉じ込められた徒刑囚がこんなにも人間味に溢れているとは思わなかった(あくまで今作中の話だが)。特に動物に関わるエピソードは微笑ましい物が多い。
    時間があったらもう一回読みたい。

  • ドストエフスキーが投獄されていた時のことを参考にして書いたほぼノンフィクション。
    かなり時間をかけて読んでしまったので名前が全く覚えられなかったですw反省。
    彼は刑務所をプラスの面、マイナスの面両方から見てるんですね。抑圧されて荒れてしまったことから、風呂や病院の不潔さ、貴族に対する態度、これはマイナスの面、プラスの面は囚人たちの団結力とか、演劇の感性度とか。それからムショ内の商売、取引。
    彼は病院に入院してこれを書いていたらしいですが、それにしてもすごいなって思います。立派な記憶力、観察力を持っていて、だからこそあんな長大な小説が書けたのでしょうね。

  • 登場人物おのおのの描写は読む者の脳裏にくっきりと浮かび上がってくる。

  • ぺトラシェフスキー事件で逮捕され、死刑宣告を受けたのち、刑の執行直前に恩赦によってシベリア流刑を言い渡されたドストエフスキーの、獄中体験をもとにした記録。「死の家」とは監獄のことである。

    ドストエフスキーは、それぞれに強烈な個性をもった数々の囚人や刑吏の言動を克明に記録し、その心理状態に透徹たる観察眼を向ける。人間が非人間的になる様を剔抉する描写は、流石だ。

    囚人は、過酷な監獄生活の中で、粗暴であったり狡猾であったりと野獣的な存在に陥っている。然し、その描写は必ずしも常に陰鬱な調子を帯びているわけではなく、獄中に生きる者たちのしたたかな生活力、ときには明るさや人間味さえ感じさせるところがある。それは一重に、ドストエフスキーが彼ら≪不幸な人々≫に向ける人間的な愛情ゆえだろう。彼は、民衆たる囚人と知識層たる己との階層の懸隔に悩みながらも、民衆に対する愛惜を失わなかった。

    他方、当時の非人道的な刑罰制度に対しては、筆鋒鋭く批判を向ける。

    この作品には、或る意味で実に率直なヒューマニストとしてのドストエフスキーの姿を見ることができるように思う。

    "何かの目的がなく、そしてその目的を目ざす意欲がなくては、人間は生きていられるものではない。目的と希望を失えば、人間はさびしさのあまりけだものと化してしまうことが珍しくない・・・・・・"

  • こんな格好のいい題名の本はドストエフスキーしか認めません!!
    読み応えありました。
    お風呂のシーンがかなり衝撃的。また読み返そう。

  • 2010.8.26

    ドストエフスキー4年も監獄にいたのか。。。

    監獄の様子が鮮明にイメージできたわけじゃないけど、囚人の性格・行動の描写は興味深い。

    虚栄心とか仲間意識とか、僕らも潜在的に抱えているものが、監獄という状況によってあぶりだされてる。人間とはどういう存在なのだろうと考える時に必要な視点。

    クリスマスの演劇と馬をかわいがるエピソードは暖かいな。

  • プリズンブレイクみたいでおもしろかった

  • 思想犯として逮捕され、死刑を宣告されながら刑の執行直前に恩赦によりシベリア流刑に処せられた著者の、四年間にわたる貴重な獄中の体験と見聞の記録。

    獄中体験記ということで、初めはグロテスクなシーンが多いのではと想像していたが、実際に読み始めてみると、囚人たちの人間味あふれる個性に強く惹かれ、あっという間に読み切ってしまった。
    獄中の中にあって不自由な生活を強いられてはいても、「人間」を失うことのない囚人たちの生き様に、深い興味を覚えた。

  • ドストエフスキーがシベリアに流刑になった時のお話です。

    タイトルは非常に怖そうだけど、決してそんな事はなく
    シベリアの囚人達の話が淡々と述べられていました。

    ロシア文学で辛い所の登場人物を覚えるって作業が
    そこまで要らない作品でした。
    名前は複数個ないし、何回も出てこないから!

    但し読書中に何回も寝れます!
    盛り上がりとかは作品中に全然無いから。。。

    でも囚人がかなり細かく描写されていて
    おもしろかったです。

  • ドストエフスキー自身のシベリア流刑の体験を元にした作品(だと思う)。
    刑務所内での人間関係、人間の性格など、今後の作品に活かされていると(訳者あとがきを読んで知ったが)あって、感慨深く思った。
    途中退屈になりながらも、長い作品を読み進めていっての最後の言葉、その開放感には、胸を震わせるものがあった。
    自由な現代に生きながらもどこかにある息苦しさに、響く一言だった。
    読み終えてじわりと来た。

  • この本は表面上は『妻を殺した貴族の監獄の記録』と言うことになっていて、小説の形を取っているのだが、実際はドストエフスキー自身の監獄の体験記と言う形のドキュメンタリーである。

    ストーリーと言うものはほぼなく、監獄の情景や人間の、密度の濃い描写が延々となされるため、読み続けると疲れるかも知れない。しかし時々手にとって少しずつ読んでみることで、19世紀ロシアの『滅び去った民衆』、つまり『最底辺の人々』の暮らしぶりに自分を共鳴させることができる。

    その意味で、『カラマーゾフの兄弟』よりも現代に流行ってもいいと思える一冊。格差社会の現在の日本の中で、我こそは最底辺だと自称する自虐的な人たちが最近増えているが、そう言う人に読んで欲しい。選りすぐりの最底辺の人たちが屈強に生きる様が、そこには描かれている。
    しかし、分かりやすく『最底辺』と言う言葉を充ててみた訳だが、それはあまりに表現力不足で、囚人達に失礼と言うものかもしれない。

    『地下室の手記』とともに後の五大小説の母胎となったと言うことはあまりにも有名。これはどちらにも言えることだけど、読んでひたすら暗くなる、と言うわけではなく、陰鬱な描写の中にも突拍子に明るい描写が混じっていたりして、思わず噴出してしまうシーンすらあったりする。ドストエフスキーの小説は多くはこのような特性を備えているので、意外と読後感は悪くないと思う。

    罪を犯し監獄に入れられても、人生はまだまだ続くのだと言うことを学んだ。人間はつまるところそこで死刑にされるなり、あるいはこれはシャバでも獄内でも同じことであるが、病気やら自殺やらと言った要因で、要するに死ぬまで生き続けるのであり、その結果人生は続くのである。『滅び去った民衆』と言う表現が出てくるが、社会的に破滅したとしてもまだまだ人は生き続けるのだ。

  •  実際、わが国にはいたるところに、その境遇や条件のいかんを問わず、常にある不思議な人々、温順で、間々ひどく勤勉だが、永久に貧しい下積みから浮かび上がれないように運命によって定められている人々がいるものだ。これからもおそらくあとを絶たないだろう。彼らはいつも素寒貧で、いつもきたない格好をして、いつも何かにうちのめされたようないじけた様子をして、年じゅうだれかにこきつかわれて、洗濯や使い走りなどをやらされている。(本文より)

     <a href="http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20010118/p1" target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20010118/p1</a>

  • 思想犯として逮捕され、死刑を宣告されながら、刑の執行直前に恩赦によりシベリア流刑に処せられた著者の、四年間にわたる貴重な獄中の体験と見聞の記録。

  • 人間観察の面では芸術といってもいいでしょう。ただし、活字好きでないと途中でくじけます。暗く・重く・卑屈な感じがどうしてもありますから。

  • ドストエフスキーの入門編としては入りやすいと思う。もっともつらい拷問は何か?ある種ドキュメンタリでもある作品。

  • 学生の頃一度よんだきり。読み返して、これはとびっくりして死の家は「生の家」であり精神の故郷だったんだと遅れて気がつきました。

  • 読むのに疲れた。主人公っていらんかったんじゃないかな?妻殺しってどうなったのかな・・。

  • ロシア+監獄+死の家というタイトルからして、陰気で鬱々した内容かと思ったら違った。舞台は刑務所なのに何故か上品で、ほのぼの日常物と言えるような小説。

  • イサイフォーミチとかのエピソードおもろい。

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著者プロフィール

(Fyodor Mikhaylovich Dostoevskiy)1821年モスクワ生まれ。19世紀ロシアを代表する作家。主な長篇に『カラマーゾフの兄弟』『罪と罰』『悪霊』『未成年』があり、『白痴』とともに5大小説とされる。ほかに『地下室の手記』『死の家の記録』など。

「2010年 『白痴 3』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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