海底二万里(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (564ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102044032

感想・レビュー・書評

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  • 一九世紀の読者にとって外洋を冒険することは、現代人の感覚でいう宇宙に行くような夢物語だったのだなと改めて思う。
    上巻の感想でも同じことを書いた気がするが。

    南極の棚氷に閉じ込められて、酸素がだんだん汚れて息苦しくなっていくときの展開は鬼気迫る。
    ジュール・ベルヌの筆はネッド・ランドやコンセイユを死なせることはないだろうという安心感はあるものの、死んでもおかしくない迫力の筆致だ。

    ネモ船長がエイブラハム・リンカーン号かその友軍と思われる戦艦に衝角をぶつけて撃沈してしまうところは、ああついにやってしまったのか思った。
    無益な殺しはしないはずのキャラクターでやってきたネモ船長だが、直前の沈没船パートで人間社会への恨みがトリガーとして急にあらわれ、そこから一気に闇落ち。

    ノーチラス号は多数の乗組員で動かされている描写はあるものの、ネモ船長以外の乗員の存在感はほとんどなく、数さえはっきりしない。
    アロナクス達は幅七十メートル程度の潜水艦に十ヶ月も閉じ込められていながら、クルー達と夕食を囲んで談笑することも、通路で出会って立ち話することすらない。
    これは終始、不気味な印象を抱かせる。
    彼らはかつて海戦で沈められた船の乗組員であることが示唆されるが、さながら浮かばれない沈没船の亡霊のようでもある。

    アロナクスがネモ船長を最後に目撃したシーンも、まるで幽霊のような歩き方をしていたとあるが、もしかするとノーチラス号は巨大な亡霊だったのか、それともアロナクスたちの夢だったのか。

    フェロー諸島近辺のメイルストローム(大渦)に巻き込まれてしまったノーチラス号は海の藻屑となったのか、それとも無事だったのだろうか?

    この直前に読んだ中国のSF小説「三体」では、主人公の程心たちがボートでこの海域の渦にあえて自ら巻き込まれ、ブラックホール理論(曲率ドライブ推進のほうだっけな?)を検証する場面があり、この「海底二万里」のラストシーンについて言及されていた。

    その後は読者の想像に任せるよう記述されているが、「三体」でのメイルストロームの描写はすさまじくインパクトがあったので、ノーチラス号はバラバラにされたんだろうな。
    「ふしぎの海のナディア」のノーチラス号ならなんてことはなさそうだが。

    そしてそんなすごい大渦からアロナクス達がどうしてボートで脱出できたのかは全く触れられていない。

    行く先々の海域で出会う魚介類や海藻に関する解説が膨大に出てくる。
    その量が多すぎて、正直斜め読みで飛ばしたところもあった。
    (あとがきにはこういう解説に興味がない読者のため、注釈が邪魔にならないように巻末にまとめてあるので、疲れたならむりに付き合うこと無く遠慮なく読み飛ばすと良い。)

  • 前作の続き

    なかなか希望が見えない、閉ざされた自由が続く中でそれぞれの心の内は大きく揺らいでいく

    より一層故郷への渇望をつよめる者、知的好奇心が勝る者、すれ違っていく人間関係に心を擦り切らす者

    より垣間見えてくるネモ船長の暗い過去と何者かに向けられた激しい怒り

    そんな不安定な状況の中で自然の脅威までも襲いかかってくる、絶体絶命のピンチや突如として訪れる小さな脱出への道を前にした時にアロナクス博士達が選ぶのは


    上巻に引き続きとても引き込まれる世界観になっています。

    これまで無敵に思えたノーチラス号を襲う大自然の脅威、正体不明のネモ船長が見せる激しい感情
    物語は静かに、時には激しさを伴いながらクライマックスへと向かっていきます。

    アロナクス博士達の冒険の終わりには何が待っていたのか、、、本当に最後まで釘付けの1冊でした!

  • 児童文学ということで気楽に読み始めたものの、予想以上に想像力が必要だった。
    序盤〜中盤は、海洋生物を列挙することに大半のページが使われており、多くの生物は分類学上でどこに位置するかが書かれているのみ。文をさらっただけではピンと来ないことが多かった。
    あまり細かいことは考えず、ふんわりと想像しておくのが良いのかもしれない。

  • 今でこそ光の届かない深海を探る手立てがあり、深海の生態系について(僅かでも)知ることができている。それはつい最近の出来事であると、無生物な荒涼とした深海の描写で思い知らされる。深海1万メートルにもヨコエビの仲間が生息しているらしい、と判明したのはつい最近の研究によるもの。
    大西洋に海底ケーブルが敷設され、地球上を循環する大海流の存在が判明していても、150年前の海中はまだまだ未知の世界。漁師や船乗りの話、貴重な標本から判ることにも限りがある。それは海にはロマンがあっただろう。
    今でも、「地球最後のフロンティア」と呼ばれる深海にはまだまだロマンが潜んでいる。いつかは私も、アロナクス教授のようにこの目で見てみたい。

    また、読んでからディズニーシーの海底二万マイルに乗るとなんとも趣深いというか、ネモ船長の解釈違いで体が痒くなるのもまた一興。もっと陸の人間を蔑んで欲しい。

  • どこか不穏なネモ船長のすべての謎を残したまま、物語はクライマックスへ。無期限にノーチラス号に閉じ込められるという極限状態は、ロックダウンの時になんとなく似ている。しかし知的好奇心は、そのような状況も救うのだ。

  • ちょいちょい入る海の生き物の名前列挙するやつ、全部読み飛ばしたけど、すごい知識量、勉強量だなーと思った。二万里なのか二万マイルなのか二万海里なのか、よくわからないまま生きてきた。そして、どれでもないということがわかってよかった。どうやら正解は2万リューらしい。リューと里でたまたま音が似てるし、たまたま距離も近くて2万リューで8万km(2万里は約7.8万km)らしい。これからは、堂々と「二万里」派を表明して生きていける。あと、数字の前に「海底」という単語がくっ付くせいで、海面から下方向に向かって2万里だと思ってたけど、これも違った。

  • 下巻の途中からトラブルが起こったりネモ船長の秘密みたいなのがわかってきて急激に面白くなった。最後の終わり方も完璧やったな〜。また読みたくなるわー。ネモ船長の毒舌がおもしろい。
    専門的な人もそうでない人も楽しめる作品でした。

  • リアリティが凄い。
    本当に教授の手記なんじゃないかと思ってしまうくらい、現実と空想のギャップがない。
    上巻が続く海洋冒険ロマンから、少しずつ不穏な空気が漂い始めてからラストへ至る勢いもとてもよかった。
    謎が謎のまま終わったところが、むしろ読後のドキドキ感を残してくれた気がする。
    現代技術なら、ノーチラス号は再現できるのだろうか?

  • 19世紀にここまで、想像できることがすごい。ノーチラス号と船長はどうなってしまったのか。

  • 面白かった。ようやく下巻を読了。
    間に色んな別の本が入ってしまった。
    巻末の解説の受け売りになってしまうが、本書は、ただのSF小説ともカテゴライズしきれないものがあると思う。その最たるものは、いうまでもないかもしれないが、ネモ船長の存在だ。謎めいており、最後まで読んでも、まだ分からない面が残っているような…、不思議な余韻の残る人物だった。結末は言えないが、彼をめぐる謎解き物語の要素さえあると思う。
    また、SF小説ではあるが、当時の最先端の科学的知見が山ほど盛り込まれている。魚類や海棲の哺乳類の知識はくどいほどだし、それだけではなく、気象や地理、物理学、エネルギー、さらに歴史的な側面で様々に知識が語られる。今でももちろん科学的に間違っていない内容も少なくないと思われた。つまり、非常によく調べられた上で書かれている。
    もちろん、冒険譚としても興味が尽きることがなかった。具体的な世界の地名などをもっと身近に想像出来ればもっと楽しめたかもしれないが…。こんな極限状況にありながら、主人公と仲間2人の絆は強固で、好感がもてた。
    難点があるとすれば、メルヴィルの『白鯨』のように魚の名前と描写が本当にくどいほど細かく、すごい分量で押し寄せてくる。これに辟易して読み進めるのを躊躇してしまう読者もいるかもしれない。
    海をめぐる物語、印象的な船長、『白鯨』とも似ているが…、こちらは明るさも、暗さも、より起伏に富んでいたように感じた。

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著者プロフィール

Jules Verne, 1828 - 1905.
フランスの小説家。
『海底二万海里』『月世界旅行』『八十日間世界一周』
『神秘の島』『十五少年漂流記』など、
冒険小説、SF小説で知られ、SFの父とも呼ばれる。

「2016年 『名を捨てた家族』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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