- Amazon.co.jp ・本 (442ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102146019
作品紹介・あらすじ
未来における大戦のさなか、イギリスから疎開する少年たちの乗っていた飛行機が攻撃をうけ、南太平洋の孤島に不時着した。大人のいない世界で、彼らは隊長を選び、平和な秩序だった生活を送るが、しだいに、心に巣食う獣性にめざめ、激しい内部対立から殺伐で陰惨な闘争へと駆りたてられてゆく…。少年漂流物語の形式をとりながら、人間のあり方を鋭く追究した問題作。
感想・レビュー・書評
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戦争の最中、イギリスから疎開する少年たちの乗った飛行機が南太平洋の孤島に不時着する。大人がいなくなった世界で、少年たちは秩序を設け協力し合いながら助けを待とうとするが――。
手放しで面白いと言ってはいけないほど混沌に満ちた作品だけど、読んで良かった!と素直に思える凄い本でした。
規律を重んじるラーフとピギー。それに反発するジャックとロジャー。孤独を好むサイモン。そして多くの小さな子供たち。秩序の象徴である「ほら貝」や火を起こせるこの島唯一の文明の利器「ピギーの眼鏡」を巡って、少年たちなりに「うまくいっていた」スタートから徐々に雲行きが怪しくなっていきます。
志高くあくまでも理性的であろうとするか、あるいは自衛のために本能を曝け出すか。舞台は助けが来るかも分からない極限の状況下であると考えると、どちらが正しいとも間違っているとも言えません。そう思ってしまうのは、少年たちを通して“人には元来激しい暴力性や攻撃性が備わっており、それらは普段理性が抑えている”という人間の本質が浮き彫りになるからです。
ラーフやピギーでありたいと思いながらも、ジャックやロジャーになり得る自分がいる。子供だからではなく大人も、人間なら誰しも。普段は心の奥の奥にしまわれている闇を引きずり出されたようで思わず背筋がぞっとします。
小さな世界で起こった無垢な少年たちの悲劇にも終わりが訪れます。しかし彼らの心の傷は甚大であるし、そもそも脱出した先にあるのは戦争最中の自国。再び理性だけでは乗り越えられない悲惨な状況が待ち受けているかもしれないと思うと、なんとも恐ろしく救いのない作品です。
周囲を冷静に眺め「蠅の王」と真正面から対峙したサイモンは、この作品の唯一の良心だったように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前から読んで見たかった本。
日本語訳がちょっとわかりにくい所があった。
初めはリーダーを選び、理性的に行動していた彼らだが、架空の魔物をみた話から一転、思わぬ方向へ。
幼さ故の残虐さが怖い話だった。 -
ある戦争期のお話。
イギリスの少年たちが疎開のために飛行機に乗っていた。が、途上で撃墜され、ある孤島に不時着した。幸運にも島には食べ物があった。樹々に果物や椰子の実が生り、なにより豚がいる。大人たちの助けが来るまで少年たちは自給自足することに。
全員でリーダーを選び、ルールを決めた。ほら貝を吹くと集会の合図。発言するには必ずほら貝を持つこと。救助のための目印に山の上で烽火を焚くことになった。助かるため、決して火を消すな。煙を絶やさないよう当番を決め順々に担当することに。
でも食べるものが欲しい。島には豚がいるし。捕まえて食べよう。そうだ、狩りに出よう。
選ばれたリーダーがいう。いや、烽火を絶やさないことが大事だ。少し年上の少年がいう。いやいや、飢え死にする前に豚を捕まえ食べよう。
烽火を焚くか/ 食べ物を探すか。意見が対立する。これがもとで少年たちは分裂し、いがみ合い、敵対関係へと発展し・・。
これは無人島でサバイブできない愚かなイギリス少年たちをただ描いたものでも、スクールカーストを書いたものでもない。おそらく本質は人が集まると必然的に生じてしまう、統べる/統べられる関係性(政治)を描いたものだろう。
どのように力(権力)が生まれ、それを目的のために機能させるか。力の維持がいかに難しく、破綻すればどのような現実が待っているか。その非情さと残虐性までも描く。少年漂流物の冒険譚の形をとりながら、政治の機能と破綻を物語として描いている点にこの小説の凄みと魅力がある。政治学や国家論で必ずこの作品が言及あるいは参照される理由がここにある。
無人島に不時着した当初の少年たちの間にも、政治があった。ほら貝を吹けば集会の合図で、ほら貝を持った者が発言権がある。リーダーを選び、役割を分担する。秩序とルールがあり、統べる/統べられる関係性、つまり政治が機能していた。
ところが、救命のための印(烽火)か。飢え死にしないための食糧(豚狩り)か。意見が対立する。難しい問題だ。どちらがより正しく、どちらが優先されるべきかは簡単には判断できない。でも、だからこそ、少年たちの意見は鋭く対立する。政治は権力をもったリーダーが全体的な理念に基づいて集団を組織化していくための技術でもある。ここでは、少年たちの考え(全体的な理念)を巡って集団は分裂する。人を束ねるための方法が分からない(うまくできない)がために力の均衡が崩れる。対立が先鋭化する。集団が暴走し始め、凄惨な現実を迎える。
子どもだから上手くできなかったのか。大人なら上手くやれたか。この問いへの答えは明確に書かれていない。
が、島の外の世界では大人たちが戦争をしている。無人島で少年たちが繰り広げた争いは、大人の世界の縮小版でしかない。沖合に停泊した端正な巡洋艦の描写で小説が終わるのは、そういうことだろう。冒険譚としてスリリングな展開や感動があるわけでもないこの小説の後味は悪い。が、含まれる意味や示唆はどこまでも深く広い。 -
読んでみたかった本。思春期の頃に出会いたかった。
この手の作品の感動は無垢な頃の方が大きいと思う。
読むには、あまりにも歳をとり過ぎた。
人の心の変化は現実の世界では、もっと恐ろしい。 -
2017年の読書目標、宿題。
学生時代、授業で初めて本書を知った。
おぞましいと思った。
とても読めないと思った。
しかし、この作品についてはずっと頭にあり、何か考える時に「蠅の王」的な事項、と区分したりと一つの足がかりにまでなっていた。
それで未読は酷いと覚悟を決めて開いたのだけど。
確かに厳しい、しかしそれ以上に展開に納得する私がいた。
学生時代に読んでいたら、多分こうは思わなかっただろう。
だが、これが現実に起こり得ることだと今の私は知ってしまっている。
実際、現在の日本とそう遠い世界だとは思えないのだ。
私は蠅の王とどう対峙していくのか。
それを考えていかなければならない。
やはり読んで良かった。 -
狂気の物語と書いてたけど流石イギリス、お上品な狂気だなあ……とか考えて読んでたけど、蠅の王の辺からは一気に息の詰まるほんとにとんでもない狂気の連続だった。レベル違いすぎる……。
最初から読んでたら、自分も少し運が悪ければこうなり得るって思えるのがほんとに怖い。最初は統率されてても、ほんとに小さな切っ掛けで崩れてしまう人間の文明の脆弱性が身に染みる……。
最後まで救いがなくて、陰鬱とした気分になる。読み終わった時のじわあって来る感動が最高の小説だった。 -
イギリス。戦争。飛行機事故。無人島。嫉妬。執着。集団。閉鎖空間。子供だけの世界。作られた秩序。保たれなかった秩序。崩れた秩序。理性が退けられ、本能が支配し、秩序の失われた世界で起こる事は一つ……。