チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102169322

感想・レビュー・書評

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  • この理想の国に犯罪は存在しない――共産主義下における建前が怖い。解説によると、この作品はロシアでは発禁書になっているとか……。ここまで極端ではなくても、どこかの国を思い起こしながら読んでいた。正しいことをしようとしているのに嵌められ、追い詰められていくレオとライーサだけど、ふたりで困難を乗り越えるうちに絆が芽生えていったこと、こんな抑圧された環境で良心に従い行動する国民がいたことが救いだった。あの冒頭の飢えた村のエピソードは、こう繋がるのかと驚きつつ、アンドレイが哀れだった。

  • 最初「カビの胞子みたいなのがついた変な地図~」としか思ってなかったのが、殺人事件の現場都市だと結構後の方で気づいて「わー!!」ってなった。何にも書いてなかったのは不親切というかお楽しみなんだろうなこれ。あと自白剤の「お前の名前は?」の所でも「えーっ!???」って。でも上巻でステパン親爺が嫁を切り捨てろって断言しちゃったのに違和感あったのが、ああこの男がそうだったんだ~と思うと何か納得。一応手紙には葛藤があったみたいなんだけど。

    下巻は上巻でばら撒かれてた断片を縫い合わせてアクション映画みたいな逃走劇。ただ派手な割にオチというか犯人との邂逅や、妻との恋愛感情の再生が説得力に欠けたのが残念。もっと会話と心理描写が要るよ。暗黒時代のライーサはよかったのに。抑えるのと不足するのは全然違うよ。

    そして姪っ子ナージャの動向が微妙に気になる書き方。
    続き物にしたいのだったら、強制収容所脱走からの~って感じの、裏切りにねじ曲がった新たなモンスター誕生になるんだろうか。
    続編って大体第一作より落ちるしな。でもこれデビュー作だし、不自由な社会で奮闘する刑事レオの葛藤と家族愛みたいなのは見てみたい気もするし。どうしようやっぱり読まない後悔より読んで後悔だろうか。

  • 上巻において出落ちと思われた冒頭のシーン。
    これこそが作者が読者に仕掛けた叙述トリックだったのかと後半で驚愕。
    ソ連で40人以上の少年少女を殺し、ケースに入った状態で出廷したアンドレイ=チカチーロ。
    彼のトラウマの一つに幼いころ兄が殺されて食べられたと聞かされ育ったことというのはwikiでも調べればわかる。
    つまり、この話はソ連の体制が生んだ惨劇を中の人が解決していく話なのかと思いきや、主人公の心のうつりかわり、家族の再生の物語らしいと解釈したら、実は……ネタバレなので、ここでストップ。
    あの出落ちはサスペンスマニアの多くが知っているあの事件を想起させるためのミスディレクションだった。
    むしろ、それがなければもっと早い段階でつながりに気付いた。
    下巻はライーサの壮絶な過去。おおよその見当はついていたが、男たちにも言い分はあるだろうが女子供、特に美しい女は普通の時ならともかく、法が守られない場所ではこういった目にあわされる。
    つい先日も正義を掲げる国の軍隊が子供たちに何をやったか明らかにされ、世界の批判を浴びている。
    その中でライーサがレオに対して恋心を告白するシーンは救いのひとつだ。
    信じることがお互いにできなかった夫婦が相棒、そして恋人になっていく。
    彼女はレオに対して愛を抱いたことはない、と上巻で告げるが、それは誰に対しても同じだったのではないかと思う。
    この二人が最後家族を作っていく決心を示すシーンに、ここまで頑張って読み続けてきてよかったと思った。

    しかし、ヤンデレな男二人に熱愛執着される主人公っていったい。

  • (上巻から続く)

    だが、安心しろ。
    後半、まったく思いもよらない方向へ話が展開していき、
    あまりの下りの急勾配に足がもつれそうになる。
    そして、救いさえ感じさせられるラスト。

    「1984年」とカインとアベル、連続殺人、子供殺し、食人にラブストーリーが混じり合う恐ろしいまでのミステリーだった。

  • さすがー!ほんっと最後まで気が抜けなかった。これだけ閉塞感を保ちながらハラハラさせるミステリってなかなかないんじゃないのかなー。しかも実際の事件を元にしてるとかー。

    先が見えないミステリであり、苦しくなるくらい鮮明に国家を描いた社会の話でもあり、夫婦がお互いの存在を確かめ合う話でもあり。苦しい描写がうまくて読むのしんどかったけど、翻訳も個人的には好きだったし、すごかった。これで新人って!気力と体力があるときにまた他の作品読みたいです。

  • おー見事に伏線回収!!
    ていうか、現ロシアでも発禁書扱いなの?!
    そこが怖いんですけど…。

    この本と並行して、偶然「卵をめぐる祖父の戦争」も読んでいたので、なんだかソヴィエトめいた12月であった…。ウクライナの大飢饉(ホロドモール)とレニングラード包囲戦、なんて悲惨な歴史だろう。

  •  十年に一度の傑作という作品は本当にある。それはもしかしたら万人が認める作品ではないかもしれない。もしかしたらベストセラーですらないかもしれない。しかしそういう作品にはやはり巡り合いたいと願う。

     新潮文庫の海外小説は新人作家発掘への飽くなきチャレンジを細く長くだが、現在も続けている。娯楽小説界にとって一つの係留索のようなものであり、そのため、時にこれはというような傑作を掘り出して見せる。

     傑作の存在に最初はあまり多くの人が気づかない。傑作の匂いを嗅ぎつけるには、どんな能力が必要なのだろうかと、ぼくは常日頃悩む。判断材料の良し悪しを問われるかもしれない。ぼくにとっての判断材料はあまりこれと言った確実なものがない。帯の文句には何度騙されてきたか知れない。カバーのシックさ、クールさにも。それらに較べると翻訳者により判断するという一つの方法は、けっこうヒット率が高いように思われる。

     本書はかのローレンス・ブロックの翻訳で知られる田口俊樹。そこで本を手に取るまでは行ったものの、スターリン体制化のソヴィエトの時代、あの連続殺人事件に関わる、といっただけで、今さらサイコ・スリラーでもないだろう、とぼくは本を書棚の平積みコーナーに戻してしまったのだ。

     『このミス』でこの作品が2008年度海外部門の一位に輝いたときも、ぼくはさほど衝動を受けなかった。最近富に選択傾向に距離を感じるようになっているぼくにとって『このミス』は全然絶対的な価値を持たないでいるのだ。なので、一位になった作品くらいは気が向いたときに読んでおこう、くらいの気持ちでとりあえず買ったのだった。それが年末の『このミス』に触発されて年明けて冬の真っ只中。

     それでも、ぼくはこの作品を手に取らない。結局読み始めたのは、単身赴任先から月に一度だけ帰る札幌への航空機の中、真夏の八月のことだった。

     ところが、読み始めるや否や、ぼくは作品世界に捉えられることになる。1950年代のソヴィエトというある種、何もかもが極度に懐疑的な時代に展開するその物語の苛烈さに。人間たちの命の重さ、罪深さに。まさにこれは十年に一度の傑作ではないのかという実感に捉われながら、ぼくは札幌の我が家に到着してからも、カウチに横になってずっとこの本に捉われ続けた。

     上下巻を一日一冊ずつ二日間で読み終える。そのストーリーの重たさが一つの魅力なのだが、その重心を象るものは、警察官である主人公が弱き人民に対し持つ権力の重さであり、夫婦、親子の愛という以上に生存への渇望の激しさであり、それらの日常生活に染み入ってくる社会的懐疑の深さである。国が、上司が信じられぬ中で、主人公は連続殺人事件の真相に触れてゆく。鉄路をめぐる殺人事件の奥を探る行為は、記憶をめぐる失った兄への追悼の儀式でもあるかのようだった。

     この作家は、イギリス人の母とスウェーデン人の母との間に生まれた1979年生まれの29歳だという。信じがたい才気だ。読者の側がいかに知らぬ時空だとは言え、その時代の重さを感じさせてやまない圧迫感に似た小説の持つ迫力を、青年と言っていいような年齢の新人作家が書いたのだと言う。まさにこれは天才の仕事なのかもしれない。

  • レオとライーサのアクション?が見所。推理は順調に進むのだが、犯人を追いかけるためには逃げ続けなければならない二人。走っている列車から降りたり、川の中を歩いたり、トラックの下に隠れたり。ドキドキしながら楽しめた。しかしそこには上巻のようなリアリティも感動もなく、ご都合主義ともいえる展開になっている。特に列車や逃げ込んだ村でのエピソードは、主役だけ弾に当たらないハリウッド映画のようだった。正直になれば助けてもらえるんだったら、なぜミハイルはブロツキーを一度は殺そうとしたのかと思わざるをえない。ミハイルの葛藤、正しいと思う友人さえも裏切らざるをえない社会こそがこの小説の出発点ではなかったのだろうか。

  • 旧ソ連で、1980年代に実際にあった連続殺人事件をモデルに。
    時代を1950年代に変えて、別な設定も加えた迫力の展開。
    極限状況で起きることは、想像を超えます。

    恐怖政治が吹き荒れたスターリン時代の末期。
    理想的な社会には犯罪はないという建前から、事件の捜査はおざなりになりがちだった。
    しかも、いったん容疑をかけられれば、拷問や脅迫で罪を認めさせられてしまう。

    国家保安省のレオ・デミドフは、地方の人民警察に左遷されたが、気づかれていない連続殺人の捜査を続けようとする。
    ところが、事件が起きるたびに逮捕される人が増えてしまい、犯人と決めつけられてしまう。
    その過程では、同性愛と発覚しただけで収容所送りになる人間も。

    ヴォルアウスク人民警察署長のネステロフは、他の地方で同様のことが起きていないか調べて欲しいというレオの依頼をいったんは退けるが、家族の休暇のついでに、調べ続けることにする。
    下手に発覚すれば、家族の命にまで関わる危険な行為だった。

    レオは、手がかりを求めて、モスクワに潜入するが…
    妻ライーサの同僚イワンを頼るが?
    逃走しながら、決死の捜査。
    犯人を公の捜査で逮捕することは諦め、ただ犯行にストップをかけるために。
    ひそかに見も知らぬ一般の人の助けも借りていく…協力して貰うことは出来ると妻が勧めるのです。
    権力側にいた夫が知らなかったこと、一般の人は恐怖政治のこの体制に忠誠を誓ってなどいないということでした。
    愛情なく結婚した妻が、異常事態の中で、夫への気持ちを新たにしていくあたりは感動させられます。

    著者は1979年ロンドン生まれで発表当時29歳。
    英国人の父とスウェーデン人の母を持つ。ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学中から脚本を手がける。処女小説「チャイルド44」は刊行1年前から注目を浴びていたという。
    2008年度CWA賞最優秀スパイ冒険スリラー賞を受賞。

  • 読み応えがすごい!

    ロシアの作品だから,人の名前がなかなか馴染めなかったけれど,
    内容はとにかく面白い!

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著者プロフィール

1979年、ロンドン生れ。2001年、ケンブリッジ大学英文学科を首席で卒業。在学当時から映画・TVドラマの脚本を手がける。処女小説『チャイルド44』は刊行1年前から世界的注目を浴びたのち、2008年度CWA賞最優秀スパイ・冒険・スリラー賞をはじめ数々の賞を受ける。

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