- Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103017745
作品紹介・あらすじ
ある夜とつぜん電話をかけてきた、同級生と称する男。嘘つきで誠意のかけらもない男だと知りながら、私はその嘘に魅了され、彼に認められることだけを夢見る-。私のすべては、23歳で決まる。そう信じる主人公が、やがて24歳を迎えるまでの、5年間の物語。
感想・レビュー・書評
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久々本谷さん。
そう!これ!
この痛さが限りなく本谷イズム。
まじで人間って痛い生き物なんだなーっていう。
本谷さんのいいとこは、それもこれもぜーんぶわかってての、あえての痛さってとこで。
客観視した痛さをいかに生々しく表現するか。
恐ろしい恐ろしいってレビューが多いけど、
恐ろしいか?
これに似たようなこと、数限りなく日常で起きてる。
みんな無意識に他人を見下して生きてんだよ。
てかどっかで自分以外を見下さないと生きてけない、
くだらない生き物なんだよ人間てやつは。
向伊は狂気的にその魅力に、気持ちよさにとらわれてしまっただけで、
みーんな持ってます。
人を下げることで自分が上がった気になるんだよ。
少なくともこいつよりは価値があると。
そうしないと自分という存在が不安で不安でやってられないんだよ。
簡単な話だ。
人を蔑むだけで、みるみるうちに自分に価値が生まれる。
某掲示板なんてそれのオンパレードなんじゃないの?
だから怖がることはない。
それは私たちの世界を取り巻いてる。
まーでもここまでになるともうちょっと病の域ですね。
逆に生きづらくなるね。
でも面白い。
こうゆうとこに、人間の面白みが凝縮されてると思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者は、ずいぶんこの世の中を生き辛いと
感じてきたんじゃないかな、というのが読み終わって、
読み進めていくなかでいちばんに思ったことだ。
人の悪意を人一倍感じ取ってしまう、
そしてそれ以上に自分自身のもつ悪意に気付いて、
もがいたりもして、その一方で、
どれだけ物事を曲がった見方ができるかで、
より斜めにみられる方が人として上であるような
錯覚を覚えてしまう自分もいたりする。
と、ここまで書いて、著者のことを想像しているのか、
それとも自分自身のことを書いているのか分からなくなった。
ただ、本谷さんは、かつては生き辛く思っていたとしても、
そういう人びとの有り様、自分を含めての、
気持ち悪いとさえ思える人間の世界を、
すべて受け入れて、むしろ血や肉に変えて生きているのかな、と思う。
好き嫌いは分かれる話だし、元気が出るといった類でもない。
ただ、同じようにもがいている人がいるように思えて、
混沌とした人間というものを、もっと広く受け止めたい、という気持ちになった。 -
確信犯っていうのかな。期待した状況に持っていくためには自分を苦しめることさえ構わない。大きな大きな蟻地獄の穴をこしらえているようでうすら寒い思いをしました。
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嘘を楽しむ詐欺師的な男性(向伊)の魅力や無気味さがもうひとつ伝わってこなかった。あるいは、ダマされていると思っている事柄すべてが、実は女性主人公(熊田)の勘違いなんじゃないだろうか?と思わせる視点にも比重をおいて向伊の「悪」を曖昧なものにしても良かったとも思ったりした。
しかし、あくまで熊田の一人称的で葛藤に満ち満ちた内界ストーリーで筋を通すならば、事実や意図についての自分の解釈そのものが疑われてしまうような「妄想的世界」にハマり込んでしまうことを著者は避けたかったのかもしれない。それでは精神のバランスが保つことができないのだろう。それならば、熊田自身の知覚に関しては緻密に描かれているのに反して、向伊の魅力や無気味さが伝わってこないかんじも「自閉的な世界」として納得できる。「男性を本気で好きになったことがない」という熊田の社会的認知的限界が、本谷の表現の枠組だとするならば。
本書でも本谷独特の人間の匂い(ex.二人の頭皮)や肌触りの表現が際立って印象的だ。女性である主人公の感覚が際立っているように。感覚と思考が洪水していき、そしてそれがある閾値を超えて制御不能となると、意識が変容することによってしかリセットできないというシーンも生々しい。みな病んでいる。その病みを、誰かに救われる類いのものではなく、克己されるべきものとして肯定してしまうエネルギーに感嘆させられる。 -
ぬるくない。
「彼女は頭が悪いから」とすこし似た部分があって、こっちは創作なのにこちらのほうが息苦しくてたまらなかった。
最初から後半までのめりこんで読んだけれど、心に残るにはもうすこし終盤に何か欲しいきもする -
人間の自意識が存分にえぐられていて、読んでいて居心地が悪い。でもそれがヒトの本当の姿なのだと思う。
主人公の女の完全に独りよがりな目線で語られるがゆえ、多くの解釈の仕方がある。それを読み手に委ねる余裕を持たせた作品。
真実は分からないし気分が悪くなる作品なので好き嫌いが大きくわかれそうだけれど、わたしは好き。ページ数は薄いけど、その分量とは思えない読後感。
「悪いひと」として描かれた男が語り手だったら、と違うストーリーを妄想するのも一興かと。 -
申し訳ないけれど、何がどうなってるのか全然わかりませんでした。
部分的にちょっと共感できるとこもあったかな。 -
こういう作品を読むと、
映像にはできない活字だけの魅力があることを知る。
本谷女史の作中に頻繁に登場する
「被害を受けている私に気づいて!」と叫び狂う女性。
その進化形が”熊田”だ。
そう言い切っていい。
彼女の目線で見た世界の美しさ、鮮やかさ、
そして、その歪みっぷり。(!)
世界の輪郭のクッキリさと生臭さたるや、、、
これは日々の人間観察の賜物なのか。
否、持って生まれたとしか思えない
本谷さんの表現力と洞察力を感じてしまう。
ストーリーは、片田舎の厳格(とも言い切れない)な
家庭に育った熊田と、
東京文化(をも超越した)の塵界にまみれた
美男子・向伊の愛(嘘)の物語。
向伊は本当にそんなやつなの?
熊田の被害妄想なのでは?
と考えている間に、次々と勃発するジケン。
熊田と向伊のかけ引き、恋人・原との別れ話、両親との家族会議。
それは第1ラウンド、第2ラウンド、第3ラウンド…と魅せられて、
ラストラウンド:グラドルとの飲み会で完全にノックアウトする。
私は普通じゃない。いつか、鬼になる。
向伊と同じレベルで“感じて”いるんだ。
異常なまでの「嘘への執着」を見せながら、
最後の一節で淡々と年を取っていく熊田。
ぬ・る・い!
そこに答えがある。
もはや、
自己嫌悪型深読み陶酔ポイズン・ラブストーリー。
ひとそれぞれ解釈はあるでしょうが。
おもしろい。
嘘は、いかに騙すかよりも、いかにばらすか。
同感、ほしよっつ。 -
傑作!!これこそ本谷さんって感じ。
なんか読み終わった後に「うわぁー」って言いたくなる感じ。
やられてしまった、ぬるい毒