乙女の密告

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103276616

感想・レビュー・書評

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  • 理知的な言葉と構成。少し太宰治に似ていると思った。内容や言葉が、ではない。技巧を凝らした、小説の書き方に対する姿勢のようなものが、だ。
    この物語の中で、アンネ・フランクの潜行生活とスピーチコンテストへ向けた日々が同時に語られる。その中で、自分が何者であるのかを見出すのだ。アンネ・フランクとは何者か、密告者とは何者か、そして私とは…。アンネ・フランクの真実、私の真実。
    「戦争が終わったらオランダ人になりたい」と書き残したアンネの真実に気付かなくてはいけない。「アンネ・フランク」という名前を思い出さなくてはいけない。
    真実は、時に残酷な結末をもたらす。それでも、アンネ・フランクはユダヤ人だったのだ。

  • 11/04/20読了
    ただ読んでるだけじゃダメみたいです。

  • たたみかけるような短文の連続で、息もつかせず一気読み。芥川賞受賞作だが、そこはかとないアホらしさというか、何とも言えない哀しみがいいなあ。たぶん現在では絶滅してそうな「乙女」たちが主役。時代錯誤なシチュエーションがちょっとファンタジーです。「少女漫画かよ!」と随所で爆笑しながら読みました。(こういう読み方は絶対間違ってる気がする! と思いつつも)いや、面白かった~!

    アイデンティティの模索を主眼に置いているところが、『アンネの日記』に少女らしい感傷を求めがちな日本人には真新しい感覚。10代少女に『アンネの日記』を読ませるなら、これも同時に勧めてみても面白いのでは、とちょっと思いました。

  • 京都の大学で、『アンネの日記』を教材にドイツ語を学ぶ乙女たち。日本式の努力と根性を愛するバッハマン教授のもと、スピーチコンテストに向け、「一九四四年四月九日、日曜日の夜」の暗記に励んでいる。ところがある日、教授と女学生の間に黒い噂が流れ……。
    (わたしは密告される。必ず密告される)――

    第143回芥川賞受賞作

    『ヘト アハテルハイス』という言葉しか残らなかった。

  • 読み終わったあと、感想もまとめにくく、ネットで芥川賞の経緯などいろいろ調べてしまった。
    京都の外国語大学独逸語学科の乙女ばかりの世界を、『アンネの日記』のゼミスピーチコンテストとからめて、乙女の排斥性、自己確立の経緯を描く。
    といえば簡単にすむのだが、本当にこの作品はそう読み解くのが正しいのかと悩んでしまった。
    というのは、アンネ・フランクの存在が重大すぎるため、赤染氏のように軽々と小説の素材にされると、やはり戸惑ってしまうところがあるからだ。
    もしや作家はもっと深い意味をこの作品に秘めているのでは?と慎重に考えてしまうほどだ。
    芥川賞選考委員の間でも賛否両論だったようで、絶賛しているのは小川洋子氏(いかにも好きそう)、あと池澤夏樹氏で、山田詠美氏あたりがやんわりと賛成しているくらいか。石原慎太郎氏などはあきらかに反対している(いかにも嫌いそう)。
    選考委員に女性が多くなったから受賞できたのだろうなあと、赤染氏の運の強さも感じる。
    文壇もどんどん空気が入れ替わっていくのだろうなあ。
    でもこの作品、嫌いではない。

  • なるほど、乙女の生態への面白いアプローチでありました。

  • リズミカルにたたきつけられる短文の蓄積。
    そしてコミカルな登場人物。
    まるでマンガのような躍動感で、いわゆる小説とは一線を画している。
    それでいて、扱うテーマは重い。自己と他者。ことば。
    他者=オランダ人にならなくては生きることができなかった、アンネ。
    しかしアンネはユダヤ人=自己だと「密告」することで、みか子は他者=乙女になることなく、「乙女ではない」自分=自己であることを肯定する。
    スピーチは自分の一番大事な言葉に出会える手段。そのスピーチのなかで、「アンネを密告する」という言葉に出逢って、自己を解き放つみか子。

    これはかなり個人的な見解になるが、様々な媒体を通してことばというものが簡単に発信される現代において、スピーチというシンプルでアナログな、そして一度発したら修正のきかないことばの表出の中で、「自分の一番大事な言葉に出逢える」とした点に、どこか大きな決意を感じる。

    芥川賞もうなづけるいい作品。

    • 怠さん
      なるほど。やっぱりそういった解釈で良いわけだ。表現や話が浮き世離れしていて主題に気持ちが入り込まなかったけど、この解説を読んで納得しました。
      なるほど。やっぱりそういった解釈で良いわけだ。表現や話が浮き世離れしていて主題に気持ちが入り込まなかったけど、この解説を読んで納得しました。
      2011/09/25
  • 日本式の努力と根性を愛するバッハマン教授が、

    謎の誘導でスピーチコンテストに向け指導する。

    京都で「アンネの日記」を教材にドイツ語を

    学ぶ女子大生たちだった。

    「1944年4月9日、日曜日の夜」の暗記に

    頑張るのだが・・・

  • 短文がつながってできた小説。
    込み入った描写、一切なし。

    なのに…
    なんだよこの重さ…


    ひりひりする。なんか怖い。
    それが、
    ナチス迫害におびえた日々をつづった「アンネの日記」に
    重ねながらはなしが進行していくから
    余計ぞわぞわするわ!!


    いっやー
    女、いや乙女って怖い。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「込み入った描写、一切なし」
      赤染晶子って全く知らない作家さんなので、どんな作風か気になります!
      タイトルからして、密告と言う重くドロっと...
      「込み入った描写、一切なし」
      赤染晶子って全く知らない作家さんなので、どんな作風か気になります!
      タイトルからして、密告と言う重くドロっとした感じと、乙女と言う甘い感じが対決していますね。
      2012/11/30
  • こんなに読んでいてリズムカルで楽しい文章読んだことがないかも。
    読んでいてなんだか笑えてくる。
    バッハマン教授の個性的が過ぎるところ、麗子がスピーチ練習に熱心な訳、すべて最高だった。
    120頁程度で長くなく最後もなんかほんのり胸の奥が温かくなるような話だった。

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著者プロフィール

1974年京都府生まれ。京都外国語大学卒業後、北海道大学大学院博士課程中退。2004年「初子さん」で第99回文學界新人賞を受賞。2010年、外国語大学を舞台に「アンネの日記」を題材にしたスピーチコンテストをめぐる「乙女の密告」で第143回芥川賞を受賞。著書に『うつつ うつら』『乙女の密告』『WANTED!! かい人 21 面相』がある。2017 年急性肺炎により永眠。エッセイの名手としても知られ、本書が初のエッセイ集となる。

「2022年 『じゃむパンの日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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