その日東京駅五時二十五分発

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 467
感想 : 104
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  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103325819

感想・レビュー・書評

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  • 分量が少ないので、あっという間に読んでしまった。
    が、あっという間に読んでしまった理由はそれだけではないと思う。
    とにかく惹きつけられ夢中になって読んだからだ。

    今まで自分がどれだけ太平洋戦争がテーマの本を読んできたのかさっぱりわからないし、たぶんそんなに多くもなかったと思う。
    でも、おそらく戦争の話は、なんていうかな、本書よりきっともっと凄惨だったり鮮烈だったり、ではなかったかな?
    または、戦争を題材にした小説はそのようなものと自分が思い込んでいるだけかもしれないのだが。

    しかし本書には、そんなシーンは微塵も出てこないのだが、それでも、ひしひしと、これは間違いなくあの戦争の話だと私に感じさせる筆力が素晴らしいと思った。

    私はまだ両親から戦争の話を多少は聞いて育った世代だから、読んでいて光景が想像できるのだが、私の子供達世代はどうだろう、シーンが全く想像できないかもしれないな。

    ただ、私よりずっと若い作者が、広島に生まれたというだけで、物心ついた頃から戦争や原爆にまつわる話に囲まれて育ってきて、しかもそれがものすごく嫌だったということを作者あとがきにて知った。
    私が親から多少聞かされたなんて比じゃないのだろう。

    また本編を読んでいる時、そんな記述があるわけではないのにもかかわらず、なぜか私は東日本大震災とオーバーラップさせてというか、脳裏に浮かんだのだが、実はそのことも本書に大きく影響していたということをあとがきから知ることになる。
    本文には書いていなくても作者と同じことを思い浮かべていたのは、果たして作者の意図と筆の力なのか、それとも私も作者と同じ感覚であの3・11の震災を捉えていたのかはわからないが。

    本編で、上官が写真を燃やすところと、益岡が大阪駅のホームで別れ際にモールス信号を送ってきたところは、目頭が熱くなった。

    あとがきから察するに、これも映像化されているのかもしれないが、観たいとは思わない。
    逆に、この作者が「ディア・ドクター」と「ゆれる」の作者だと知り、どちらも(内容は覚えていないが)映像は観ているので、「ディア・ドクター」の原作を読んでみたい。(と思って調べたが、原作の小説は無いようだ)

  • 『ディア・ドクター』がすごく良かったので、小説も書くのかと。自身のおじさんの体験をベースにした、かなり短めの中篇。終戦の風景を淡々と描く。読み味はよろしいのだがちょっと値段が高くないかね。

    軽い虚無感があるのは、『楡家の人々』、『逸見小学校』とか近い感じ。

  • この戦争は終わるだろう、終わったという感覚は、きっとこんな日常の延長であったのかもしれない。と、いつも冷静で淡々としている主人公。著者の父がモデルという。

  • 伝記っぽいし、割とふつうだった印象

  • 西川さんが得意な「ありのまま」で、祖父の戦争経験をつづる。
    何もかもに乗り遅れてしまい、空振りしてまい、何の役にも立てず。むしろ、そういう人のほうが多かったのかもしれないと感じた。

  • 西川さんが、戦争を体験した伯父さんの手記を元にして書いた中編小説。戦争ものというと、戦争の悲惨さ、残酷さが描かれていることが多いが、この本には血生臭いシーンは全くない。主人公は終戦3ヶ月前に徴兵され、特殊情報部という、肉体的な訓練とは無縁の場所で働き、終戦前日に敗戦を知り、一般市民が敗戦を知る前に、故郷への電車に乗る。「全てに乗りそびれてしまった少年」の空疎な戦争体験がとても淡々と書かれていた。

  • 2017/7/28
    短い。

  • 西川美和さんの叔父さんの戦争体験をもとにした小説。
    知らずに読み始めたので『どうしてこんな淡々とした話を書いたんだろう?』と思っていて、主人公が体験して来た戦争と、故郷である広島に戻って見た現実との落差でこれから盛り上がる(と言ってはいけないのかもしれないけど)のかなと思ったらプツンと終わってしまい『え?』と思ったらあとがきを読んで腑に落ちた。
    私の祖母も亡くなる少し前に自分の半生みたいなものを小冊子にして配った人なので、誰かに知って欲しい自分の人生の一部を持っている人って案外多いんじゃないかなと思う。
    今はブログとかSNSとかで日常的に書き留めて披露する機会がたくさんあるけれど、昔はその手段もなかなかなかっただろうし、きっと余計だろうなぁと思った。

  • 戦時下、兵役へ送り込まれたものの、戦争の実感がないまま帰郷する一人の青年の話。戦争中に全ての男性が銃を持ち、人を撃ったわけではなく、このような人々もたくさんいたのだろうな、とあらためて認識。
    ずしりと重い小説も多いけれど、このすっとぼけた感じもなんだか西川さんらしいと感じてしまう。

  • その日とは、昭和二十年八月十五日のこと。そうあの日です。
    その日の東京発五時二十五分発の汽車に飛び乗った通信兵の青年ふたり。部隊が解散され故郷へと帰る彼らは日本が負けたこと、戦争が終わったことを既に知っていた。
    作者曰く「全てに乗りそびれてしまった少年」の戦争物語。銃撃戦もなければ空襲から逃げ惑うこともありません。しかし確かにそこに「戦争」はあるのです。過激な表現もなく涙を誘う盛り上がりもありませんが、目の前に「戦争」があるのです。その見えないものを見せる手法が却って映像的に迫ってきます。
    主人公の周りに配される女性の役割も面白く、訓練する兵隊を遠くからじっと見るシスターたち、汽車で乗り合わせる幼い子連れは自らの希望にすがりつき、そしてたくましい姿を見せる火事場泥棒のふたり組。彼女たちもまた「戦争」と直面せずとも、隣り合わせで生きている人たちなのでしょう。
    「戦争」という日常から「戦争が終わった」日常へと移り行く瞬間。全てが終わった後の広島の地に立ち歩み出す主人公に、そんな思いを重ねてしまいます。

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著者プロフィール

1974年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中から映画製作の現場に入り、是枝裕和監督などの作品にスタッフとして参加。2002年脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』で数々の賞を受賞し、2006年『ゆれる』で毎日映画コンクール日本映画大賞など様々の国内映画賞を受賞。2009年公開の長編第三作『ディア・ドクター』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞、芸術選奨新人賞に選ばれ、国内外で絶賛される。2015年には小説『永い言い訳』で第28回山本周五郎賞候補、第153回直木賞候補。2016年に自身により映画化。

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