夜の木の下で

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 360
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (197ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103367116

感想・レビュー・書評

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  • 生と死についての短編集。心に残る佳編が多く、この猛暑の中でも、読んでいる間は自分がシンとおさまる感じがした。

  • 過ぎ去った時間は取り戻せない。悔やんでみてもどうにもならない。時の流れは、なんて残酷なのでしょう。
    6つの短編は、それぞれ趣の異なる内容なのですが、静かな語り口に心の奥底がそっと揺さぶられるような気がしました。哀しいでもなく、せつないでもなく、やるせないでもなく、それやこれやをすべてひっくるめて平らかにしたような、なんともいえない余韻の漂うお話でした。




    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • この本の装丁にぴったりの
    短編が詰まった一冊でした。

    大切な記憶の欠片を、
    どこか薄暗く濃密な場所から
    呼び戻してくるような。

  • 筆者の本は初めて読んだ。男性・女性、いろいろな視点で描かれた6篇のストーリー。変なロマンチシズムがなく、さらっとして、優しい。
    感情についての「気づき」が多く、それをすくって書き上げる感性が豊か。
    通底するテーマは、過去の自分を振り返り、いまの自分のありようを素直に認ること。誰もがどこかで求めている「肯定」を与えてくれる。

  • 短編集。
    文芸誌やオムニバスに掲載された時期がちがうから、それぞれの話に統一感がないのは当然のことだけど、すべての話に過ぎてしまったことへの哀しみのような感情があった。取り返しのつかない、塗り替えることのできない過去。過去への想いを背負って生きている人の姿はとても切ない。

    ---------------------------------------

    いじめについて書かれた短編、『リターン・マッチ』について。

    (簡単なあらすじ)
    「俺」が医者に話している。あいつをいじめていたこと。あいつから手紙で呼び出され、一対一で決闘したこと。その後、あいつと仲良くなったこと。
    あいつは「俺」の忠告も聞かず、キレると何するかわからない町山にも挑み、やられた。ボコボコにされたけど、でも一対一、正々堂々戦った。
    中学卒業したら「俺」とあいつで北海道の牧場で働こう、と話した。でもあいつの母親はあいつの傷を見て、弁護士に訴えると言った。そんなことしたらあいつの勇気は無駄になってしまう。あいつとあいつの母親と「俺」がもみ合いになって、「俺」はあいつの母親の頭にガラスの置時計を振り下ろした。


    強烈な話だった。
    「俺」の語りで進んでいく話なのに、どこか他人事のような、あいつに肩入れするようで距離を置くような、不思議な感覚だった。
    中学生は多感な時期だ。
    あいつの勇気はあいつの母親の命よりも重い、と感じるのかもしれない。
    そんなことも考えず、ただ咄嗟に近くにあったガラスの置時計であいつの母親を殺してしまっただけなのかもしれない。
    命とか勇気とか大袈裟な言葉を使っているけど、パニックになったら目の前で起きていることだけが世界のすべてなんだと思う。だから、あいつの母親を殺した理由は、本当にないのかもしれない。
    まちがいなく悲劇だし、救いようがない。

  • 「緑の洞窟」「焼却炉」「私のサドル」「リターン・マッチ」「マジック・フルート」「夜の木の下で」の6編。
    これまでの湯本さんの作品、例えば「夏の庭」のように少年・少女を主人公に置くのではなく、多くは既に大人になった主人公が自分の子供から青春時代に感じた怒りや理不尽さ、未来への諦念などを思い起こす形で描かれています。
    そこに登場するのは純粋で繊細で儚い者たちです(対照として異常な母親が出てくるのも特徴かもしれません)。
    ですから筆致はやや暗く重い。そしてどこか哀しみが含まれてます。
    それにしても引き込まれていく文章です。静寂。小川洋子さんの硬質な静謐感とは少し違い、どこか柔らかさのある静寂感の中で語られる物語です。

  • 「緑の洞窟」、「焼却炉」、「私のサドル」、「リターン・マッチ」、「マジック・フルート」、「夜の木の下で」
    登場人物もストーリーも無関係だけれどなんとなく共通のトーンを感じる6つの短編。
    思春期の心の痛みだとか、友達や家族への思い、取り戻すことのできない時間。せつなく辛い物語の中にも、どこか愛情が感じられたり可笑しみもあって‥人と関わること、生きることに希望を感じる読後感。

  • 思い出の中で空想と現実が混じったような微妙な立ち位置のファンタジー。

  • 短編。

    病弱だった双子の弟をアオキの木の下で思い出すこと。
    トイレ掃除を一緒にした同級生と進路。
    幼なじみの男の子との別れ、サドルとの別れ。
    いじめられっ子の同級生との友情と罪。
    祖父と一緒に暮らした時に出会った網枝さん。
    事故で意識不明の弟と看病する姉。

    静かな悲しみと穏やかな愛に溢れる感じ。
    夾竹桃って花がよく出てきたのが印象的。
    もっと著者の本読みたい)^o^(

  • あまりの装丁の美しさにジャケ買いした時に読んだ時には、このひとつひとつの物語の良さが全然わからなかった。この夏、久しぶりにじっくり時間をかけて読みかえしてみて、ようやく意味がわかったというか、この物語と私の焦点があったような気がする。

    誰もが抱える心の奥底にあるさまざまな想いをそっと浮上させて浄化させていくというか。今まで仕舞い込んでいたものをようやく語りだすことで見つけられるものがあるのですね。

著者プロフィール

1959年東京都生まれ。作家。著書に、小説『夏の庭 ――The Friends――』『岸辺の旅』、絵本『くまとやまねこ』(絵:酒井駒子)『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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