カデナ

著者 :
  • 新潮社
3.91
  • (28)
  • (55)
  • (31)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 240
感想 : 51
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103753070

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • これはベトナム反戦の話であり、家族の話なんだなと思った。

    朝栄さん、阿南さん、タカ、フリーダ。

    4人の持つバックグランドはまったく違うけど、危険な任務の遂行に向かわせる動機は、多くの人の命を救いたいだけではなく、それぞれの家族に対する思いにあったんじゃないかな。

    だからパトリックとフリーダには家族になって欲しかったな。
    何年か後に打ち明けて、許しあって。

  • ベトナム戦争当時の沖縄。米国兵相手に模型店を営む嘉手苅朝栄、空軍基地で働くフィリピンで米国人とフィリピン人の間に生まれたフリーダ曹長、軍人相手のロックバンドでドラムを叩くタカ。三人はベトナム人「阿南さん」の指示のもと、それぞれの反戦活動を行うことになる。
    沖縄的なのんびり感、戦争の現実、日本への返還、基地への反感——、などが暖かさと調和を持って描かれる不思議な小説。まあまあ面白かった。

  • 池澤夏樹初めて,時代の空気が感じられるとてもよい小説だった.

  • 2012年(も)、なにかと話題だった沖縄の基地問題、また年末恒例のNAHAマラソンに参加できなかった代わりにと、1968年の沖縄を舞台とした作品を読んでみた。著者の作品は詩集と芥川賞選考コメント、書評くらいしか読んだことがなかったけど、読みやすさと読み応えが、いい塩梅で設えられた手練れの一作だった。10年(だっけか?)、沖縄に移り住んでただけあって、登場人物も臨場感あふれる動きを見せる。主要登場人物3人の視点から描かれるそれぞれの心情が真に迫って切ない。 
    先の総選挙の結果から、またまた長いものに巻かれよ的な、KYを良しとしない大政翼賛な世相になっていきそうな危険を感じる今、反体制、反ベトナムの地下組織的レジスタンスを続ける知花先生の「無理なことを大義として掲げてしまうと組織は動きが取れなくなる」「やめる者を引き留めはしない。それが運動を健全に進める大事な条件」と、”国家より個人が優越する”と語る場面が目を引く。
    自分の記憶がかすかに存在する時代の日本(本土)と、それとは異世界の沖縄の様子をタイムマシンに乗って垣間見てきたような不思議な郷愁を味わいながら、ゆっくりゆっくり時間をかけて読了した。佳作なり。

  • ベトナム戦争時の沖縄を描いた作品。沖縄に住むサイパン出身の男性と基地に勤めるアメリカとフィリピンのハーフの若い女性の目を通して語られる。

    途中でもういいかな〜と思ったけれど、『ジェノサイド』的な戦争の本質に迫るところや、沖縄の人独特の考え方(どこが自分の所属する場所か? 結局人とのつながりだけ、というような)が描かれたところは重しろかった。

    最後の長い説明はいらないような…

  • 読んで良かったと思った。飛行機で飛んでいって、荷物を下ろすだけ、の感覚、地図にプロットするだけ、の感覚、ほんとうに恐い。荷物が特別なもののときには、荷物を下ろしたあとの行動が違う…なんか、文字だけ書いているこの感覚も気持ちが悪い。
    B52、ミグ、1968年…たった40年前のリアルな現実。しかし、沖縄はまだ。

  • ベトナム戦争も末期に差し掛かり、
    厭戦気分が漂いつつある時代の、沖縄嘉手納基地。
    ひょんな事から繋がった4人がベトナム人を戦火から守る
    「戦い」を始めた。
    B52に象徴される、米軍の「正義」のカタチは
    反対側から見れば常に圧倒的な暴力に過ぎない。
    この過ちを懲りずに今も繰り返している。

    それに対抗する「小さなレジスタンス」を
    ふつうの人が行う事にこそ、
    作者は希望を見出そうとしているように思う。

    沖縄、米軍、戦争....。
    この異常な状況が平常となってしまっている
    沖縄の現状を、私たち本土の人間は
    やはり理解しきれていないと思う。

    そんな重いテーマにもかかわらず、
    どこか軽く、笑い飛ばすような調子で
    話を進められるのはやはり、
    作者が10年以上も沖縄に暮らしたからこそ
    出来ることなのだろう。

  • ベトナム戦争時代の沖縄の物語。
    …というだけで,興味がわきました。読んでみて,いろんな立場からの戦争に対する感覚というか,感触が伝わってきました。4人のその後も読んでみたいです。

  • 何を信念とするか?人を助けるとは?人を裏切るとは?「ママへの手紙」がすべて。

  • 「嘉手納」という文字を見ると、いろいろなことを考える。

    基地、オキナワ、戦争、占領、アメリカ、交渉、ベトナム戦争・・・

    文字で見てしまうと、思考はそこから進まず、その圧倒的な事実を前に萎縮してしまう。正直、あまり考えたくないなーと。

    この小説は「カデナ」だ。
    そこに基地はあるが、血の通った生身の人間たちが生きているのだ。
    ベトナムの最前線に爆弾を「配達し」に行く、パイロット。
    パイロットを愛しながらも、彼の仕事を否定するような密偵行為を続ける、フィリピン人。
    戦争で家族を全て失いながらも、アメリカ人相手の仕事を続ける男。
    基地でライブを続けながら、基地からの脱走兵の手助けをする少年。
    その時、そこには確かに様々な人達の日常があっただろうに、
    「基地・嘉手納」として視点が、全ての日常を変えてしまっているのだと思った。
    池澤夏樹のこの視点、さすがだと思った。
    ストレートに書くのではなく、私の知らない「カデナ」を見せてくれることが、私の中の「嘉手納」を更に深くしてくれた気がする。

全51件中 11 - 20件を表示

著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池澤夏樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×