双頭の船

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (259ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103753087

感想・レビュー・書評

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  • 小さなフェリー「しなまみ8」は、東日本大震災後にボランティア船として近場の海を行き来していた。自転車修理のボランティアとして船に乗り込んだ海津知洋だが、色々な人に出会い色々な経験をする。船はたくさんの人達を乗せていくうちにだんだん大きくなり、ひとつの町になり、「さくら丸」と改名する。
    東日本大震災で亡くなった多くの人達と、大切な人を失った多くの人達が乗り込んでいる不思議な船。あちらの世界とこちらの世界の境界があやふやであったが、やがてあちらとこちら、陸と海、それぞれに行き先を定めていく。
    これは、震災で家を、ペットを、大切な人を失った人々のために書かれた魂の再生の物語だろう。それぞれの道を前を向いて進んで行こう。人にはそういう力があるのだ。そんな思いが伝わってくる。

  • 船、というのに、冒頭から熊運んでるんで、
    どうなるんだ?と思う。
    よーやく船登場。
    短編集なのかな、と思いきや、冒頭の女性が再登場、
    ベアマンとかも再登場で、なーるほどつながってたのかーっと。

    3、11よりの物語。
    人だけでなく動物もたくさん死んだ。
    船はノアの方舟的なイメージなのだろうか?
    元気なじーさん登場で、少し不穏な気配漂うも
    それなりの決着をみ、船は二手にわかれることとなる。

    あっちとこっちをつなぐ場が、突然に、唐突に
    別れを余儀なくされたひとたちには必要だったかもしれないなあっと思う。
    正直、メディアを通してでしか目にしていない私には
    あの災害は頭では痛ましいと思うし、それなりの支援もしたけれど心ではどこか他人事である部分は否めない、
    この物語が誰にとって必要となるのかは、分からない。
    いいねえ、と言われる花は咲くの歌だって、
    綺麗事だ、という意見もあるそうだし、
    でも、それでも物語を紡ぐことが作家なんだろう。

    船が成長する、そのイメージの豊かさを
    いいなあっと感じた。

  • 船が育つファンタジー。浮遊感のある小説だった。ふわふわしてるんだけど、読ませるし、意味わからないんだけど、いいなって思う。いつも選択が出来ない主人公が、また選択できなかった、と思うとこなど小説ならでは。進められるより偶然選んで読みたい本かな。

  • 被災地の周辺をモチーフにした作品。でも辛い感じではなく、いやな気分になることなく読めるファンタジー。どういうわけか、この世界では船は成長するらしい。でも、人間社会のいろいろを痛烈に皮肉っている描写も多く、ところどころ痛快だったり、ぞっとしたり。軽く読むとフワフワしたファンタジー。深読みすると人間社会の縮図をみているかのようなブラックユーモア。結局人間が集まると、カリスマが現れて権力争いが勃発、動物的になればそういうしがらみから解放されるかというと、やはり知性がある以上完全に動物にはなりきれない。と、いいつつ、ベアマンに引っ付いて行く千鶴がちょっと羨ましかったり。なんとも不思議な小説だった。軽く入り込めてあっという間に読み切れてしまう作品。

  • <閲覧スタッフより>
    古いフェリーがボランティアで被災地をめぐるなか、どんどん形を変えて一つの小国家に拡大してゆく。やがて船の住人たちは自由航路と沿岸固定との2派にわかれ別々の道をゆく。池澤夏樹が描く現代の方舟です。

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    所在記号:913.6||イケ
    資料番号:10225379
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  • 東日本大震災をモチーフにした長編小説。311を随所に連想させつつも(実際に被災地に取材に行っているらしい)、決して重くはない。
    それにしても、これを読むと「天空の城ラピュタ」で主人公シータが言った「人は地に足をつけていないと生きられないのよ」という台詞を思い出してしまう。
    地に足をつけて生きていくのかのか、あの日の辛さを封印するために別の生き方を選ぶのか・・・文体が軽い分余計に考えさせられる。

  • これも『書店ガール3』の震災特集で取り上げられた本の1冊として紹介されていたのがきっかけで読む。東日本大震災を受けてのお話。まだ、震災文学はどう評価していいのかよくわからないけれど、読んで嫌な感じはしなかった。というより、何を考えればいいのか、ヒントをもらったような気がする。それが何かはまだうまく言葉にできないけれど。

  • 大工さんと保母さんのくだりが好き、
    家族ってイイな〜
    2014/5

  • 2011年の3.11からしばらく経って、震災を題材にした小説が幾つか出版された。それらを僕は一括りにして震災文学と呼んでみたのだが、この作品は悲しさも喪失感もすべて昇華させた。圧倒的な自然の猛威を前に怯んで怖気づいてしまった文学の力で立ち向かうことができることを教えてくれた。

  • 東日本大震災がテーマの連作。

    前後どちらへも進めるように二つ頭がついた船『しまなみ8』が被災地ボランティアの『さくら丸』となって活動する。
    優柔不断だが恩師に勧められ船に住み込んで自転車修理をする男。
    繊細な作業で流された金庫を開ける金庫ピアニスト。
    妻と子1人を亡くした大工さんと、夫と子1人を亡くした保母さんが隣同士の仮設住宅で暮らし、それぞれの生き残った子どもたちを通して家族のようになり籍を入れる。
    船にはこの世から去ったはずの人々や動物も乗っているて、動物たちは一匹ずつ獣医に手厚く世話を看てもらってから天国へ送られ、人々は突然現れたミュージシャンに天国へ向かうように諭される。
    ベアマンは世界の動物をあるべき場所へ戻す活動をしていて、彼の恋人はさくら丸で活動しながら再会を心待ちにしている。
    船の上には仮設住宅が建設され、その中で船を独立国家にしてしまおうと意見する荒垣が現れ、船長と並びさくら丸のふたつの頭になる。
    最後には過去の苦しみを忘れて旅立つべきが、過去を見据えて岸に残るべきか、選択を迫られる時がくる。

    テーマが重いのにファンタジー要素が満載で混乱する。
    いろんなシステムの中でたくさんの人が生活しているのにどこか地に足がついていないような不安定なかんじが読んでいてしんどい。
    後半の船はどこへ向かうべきかの論争で、世界中を航海するという意見が出たのが不自然に感じた。
    震災とその復興に向けての活動だけで、話としては十分なのにベアマンの動物愛護の話もちょこちょこ出てきてよくわからない。

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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