千年の祈り (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900601

感想・レビュー・書評

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  • 静かだけど、強くかなしい。

  • 日常の過酷さを包む一枚の毛布

    淡々と、静謐な印象を受ける文体で、確かに読み応えがある。
    人生は不条理で、厳しくて、自分の思うとおりになんて一つもいかない、そんな話ばかりですが、鬱々とした気持ちにさせるわけではなくて、どこかカラリとしていて、いい意味で感情が揺さぶられない印象の作品でした。

    宦官を排出してきた村の視点で描かれる共同体の声が、とても印象に残りました。

  • 世界中で起こる紛争やら衝突やらのニュースを見ていると、考え方の違いや利害の衝突、自国の国益といったことばかりについ目が行きがちです。
    中でも、中国というお隣さんは、その国民性をおもしろおかしく報道されることが多いので、外見は似てても中身は全然違う国だわ、と感じる機会が多い。
    だけど、このイーユン・リーの描く小説を読むと、まったく逆のことを思います。
    主人公たちが背負っているものや状況は私とは全然違うけれど、彼らの痛みや悲しみはすごく理解できる。外側にあるものは全然違うけど、中身は同じだ、と強く感じます。
    これこそが物語や小説のすごいところだよなぁと海外文学を読むたび思います。
    自分の中に、いつの間にか作り上げている国境の壁みたいなもの(トランプ氏じゃなくて、自分が作っている)が少し小さくなる。

    この本は短編集ですが、収録作品すべて良かったです。全部。ほんとにぜんぶ。
    私には、物語が、描かれている世界が、宝石みたいにキラキラしているように見えました。人間の内側からほのかに発光しているものが文字を通して再現されているみたいに。

    収録作品はどれも好きですが、特に、「あまりもの」と表題作の「千年の祈り」が良かったです。

    「あまりもの」はもう切なくて切なくて泣けました。
    「これが恋というものだろうか」だなんて。いきなり不意打ちを食らった感じでした。
    主人公の見つける喜び一つ一つに胸を突かれました。
    少年に対してだけじゃなく、もはや会話すらできない寝たきりの老人に対し、いつの間にか愛情に似たものを注いでいる姿を読んでいると、人というのは愛されるだけじゃなく、愛することも必要な生き物なんだろうか、と考えてしまう。

    「千年の祈り」は、中国のことわざ「修百世可同舟」がとにかく印象的だった。
    「誰かと同じ舟で川をわたるためには、300年祈らなくてはならない。互いが会って話すには、長い年月の深い祈りが必ずある」っていう考え方。好きだなぁ、と思った。
    あの人とも、この人とも、ああ、私たちは祈って祈ってやっと出会ったのかなぁ、なんて。もっとちゃんと人との縁を大切にしなくちゃ、って毎度思うことを改めて思う。

    この小説の主人公、父親の抱える「秘密」は、娘が考えているような裏切りとか過ちからきたものじゃない。でも、それを娘に説明することができないのが、読んでいて切ないです。
    言葉というのものの重要性と無力さとを両方思い知らされます。

    この二つの作品に限らず、すべてが切ない物語ばかりなんですが、同じく中国系のアメリカ人作家、ケン・リュウの小説ほど救いがなくはないのが、ほっとします。
    ケン・リュウの「紙の動物園」も同じくらい素晴らしい短編集だったけど、あっちは悲しすぎて悲しすぎて、読むのがつらかったです。
    でもイーユン・リーのこの小説集は、同じく人間の悲しみを描いてはいるんだけど、もっとずっと救いがあって、どの小説も、ある意味ハッピーエンドなのがいいです。
    最近は、年をとったせいか、悲しすぎる小説は読んでいてしんどいんですよね・・・。

    最後の訳者の解説も良かったなぁ。
    下手な小説家とかが解説を書くと、変に奇をてらって中身のない解説になっていることが多いのだけど、翻訳者が書く解説って素晴らしいものが多い気がします。
    その作品を一番理解している人だからかな。

    中国語ではなく英語で小説を書くことについて、著者が第一言語の中国語では書けないが、第二言語の英語なら表現できると言っていた、と解説にありましたが、これはいろいろと考えさせられました。
    少し分かるような気がする、と思う。
    私にも、英語(第二言語)の方が心理的に言葉にしやすいことって絶対にあるなぁと思う。

  •  世界の名作が読める『新潮クレスト・ブックス』の一冊。北京出身でアメリカ在住の作家イーユン・リーの全十編からなる短編集です。主人公は皆、市井の中国人。共感できる一編があるはずです。
    (一般担当/take)平成29年3月の特集「名作を読もう!」

  • ラヒリ以来の衝撃を受けた短編集。
    中国出身の作家が描く、中国では出版不可能な物語の数々。

  • 中国を主に舞台にした小説でも、社会と個人というテーマが短編全体に流れているような気がしていて、そのテーマや風習はそれぞれ事情は違えど、他の色々な国も抱える問題だったような気がする。いくつかの短編は長編でも読んでみたい。

  •  中国の市井の人の暮らしぶり、しぐさの表現がすばらしい。映像を見ているかのような感覚になった。
     書かれている多くの人は、隣近所の目を気にしながらも、それから隠れるかのような孤独な人物が多い。
     障害の娘がいる夫婦の気持ちが少しずつ、ずれていく話の「黄昏」。宦官を祖先にもつ村から出た独裁者に似た顔をもつ男の話の「不滅」。正しい正しくないに関係なく死が存在する「死を正しく語るには」。後者の2作品は、文革という現代中国なくして書けない作品だったと思う。
     母語の中国語でなく、英語であったからこと、より客観的に文学という極みに至ったのが納得できる。

  • それぞれの人の、それぞれの愛の形を、静かでありながらとても熱く描いた短編集。心が穏やかになるような、でも、どこか切なくなるような、そんな話がたくさんあった。

  • 自分の大切な人にも読んでほしいと思ってしまった作品。
    とりあえず、母親に貸しました。どんな感想を聞かせてくれるかが楽しみ。

  • 中国の人々の孤独を表した短編集。
    彼らの抱える孤独や苦しみや時に孕んだ狂気が癒えるわけではないのが生々しい。

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著者プロフィール

1972年北京生まれ。北京大学卒業後渡米、アイオワ大学に学ぶ。2005年『千年の祈り』でフランク・オコナー国際短編賞、PEN/ヘミングウェイ賞などを受賞。プリンストン大学で創作を教えている。

「2022年 『もう行かなくては』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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