小説のように (Shinchosha CREST BOOKS)

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感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900885

感想・レビュー・書評

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  • いちばんはじめの短篇「Demensions」で涙がとまらなくなってしまった。やるせないような救いと赦しが訪れたから、そして彼女じしんにどんなにか辛い過去があったのだろう、なんてかんがえてしまったから(あるいはそこに至ることがあったかもしれないという最悪の妄想)。
    そしてなにこれ。
    「『 いかに生きるべきか』は短篇小説で、長篇小説ではない。このこと自体ががっかりだ。なんだか本の格が落ちるような気がする。この本の著者は文学の門の内側に安住している存在ではなく、門にしがみついているだけのような気が。」
    ほんとうチャーミングなひと。
    ここも。
    「純粋な子供、異常で卑劣な大人、あの誘惑。うかつだった。最近はやたら流行りで、ほとんどお決まりになっている。森に、春の花々。ここで著者は現実から抜き出した人物や状況に醜悪なでっちあげをくっつけるつもりなのだろう、話を作り上げるのは面倒だが中傷はできるというわけだ。」

    あぁ、完璧。と読み終えるたびにおもうのだが、まいかいそれをさらに超えてくる。これまでの短篇たちがまるでプロトタイプだったかのように(もちろんそれらも素晴らしくてだいすきのだけけど)おもえてしまうほどの。なんてこった。ようく熟れた、ちょうどたべごろをみわけて差し出された極上の果実。とろける。なんて、アボカドのことをかんがえていたらなんだかおなかがすいてきちゃった、AM 4:00。満たされない、幸せ。Too much happiness。

    ほんとうはこの巻で、彼女は"ほんとうに"最後にしようとしたのかもしれない。そうだったらさらに完璧なラストだったのに。なんて。だからもう次を読むのはやめたいとおもったりしたのだけれど、彼女の衝動に共鳴するように(したくて)、わたしも最後の巻の物語たちのもとへと、手をのばさずにはいられない。




    「カチッ。今度は恋に落ちている。とてもじゃないけれど、こんなことがあり得るとは思えない。眉間への一撃、突然の災難ともでも考えない限り。人間を無能にしてしまう運命の一撃、澄んだ目を見えなくしてしまうたちの悪い冗談。」

    「いつも小説なのだ。ニータは小説に絡めて「逃避」という言葉が使われるのを耳にするのが嫌だった。現実の生活こそが逃避なのだと、冗談半分にではなくくってかかりたいところだった。たが、これは議論することなどできないほど重要な問題だった。」

    「概して、わたしは男に対するほうが用心しないでいられる。男はそんな交流を期待しないし、まずたいした興味も持たない。」

    「どんな女に対してであれ結婚の祝いを述べるなど、わたしには偽善的行為の極みに思えただろう。」

    「ピントがずれている。だが、妻なんて── そして夫もたぶん同じく── だいたい五割がたそんなもんじゃないか?」

    「「男が部屋を出ていくときは何もかもそこへ置いていくのだということを覚えておきなさいね」と彼女は友人のマリー・メンデルソンに言われたことがある。「女が出ていくときは、その部屋で起きたことを何もかもいっしょに抱えていくのよ」」

  • う、う、う、おもしろかった・・・
    なんだかもうすっかりこの人のファンです。

    「林檎の木の下で」もすごく好きだったけど、そっちは読む人を選びそうなので、人に薦めるなら断然こっちかな。

    どの作品も始めは、お菓子などをぽりぽりかじりながらお気楽に読み始めるんですが、途中でギョッとさせられる。
    気の抜ける作品がひとつもない!
    でも、それでいて奇抜なストーリーで読ませるタイプの作家ではなくて、じんわり、しみじみ、一文一文を味わって読める、というか、そういう風にじっくり読んでしまう作品たちです。

    「林檎の木の下で」もそうでしたが、自分の心の中の奥の方に、名前も分からないまましまいこんでいる感情みたいなものが描き出されているような気がします。
    登場人物たちは不条理にも思える行動を取ったり、きつい出来事に遭遇したりもするんですが、でも、なぜかそれらは特別なことに見えず、どこかなじみのあることに感じられます。
    やさしいまなざしで日常を切り取る、っていうのとは全然違って、どっちかっていうとむしろ厳しくて意地悪な目線なんですが、でも読んでいて全然辛くなく、逆に読んでいる自分がやさしいまなざしになってしまいます。

  • わかるようでわからないようでわかるような本だった。難しいけどわかる…
    心情の表し方が新しい感じした

  • 空気感,設定,表現諸々ドンピシャでどちゃくそ好き。海外文学だから読みずらさがあって読むには時間かかるけどおもろい。

  • ノーベル文学賞受賞者の作品ということで借りてみた。
    同じような動機で借りた「林檎の木の下で」は数ページで挫折したけど、こちらの短編集は素晴らしかった。
    1つ1つにここまでドラマがあるのかと。やりたいことがあってこれまた急いで読んだけど、本当はじっくり読みたい。

  • 短編集。久しぶりで本棚に残したい本に出逢った!何かの書評で絶賛だったので、気になって読んでみたのだが、1話目から本に引きずり込まれた!

    離婚、結婚、死別、そしてささいな人生の選択など。誰にも起こりうる人生の岐路と、その際に回想する様々な思い。どの作品も、日常の出来事を捉えながらも、過去と思いが交錯し、人生の不思議さを改めて思い知らされる。誰かの秘密の日記を覗い
    てしまった間隔に陥る。

    また題名のつけ方も素敵!

    短編好きに本当にお薦め。

  • 淡々とした語り口なのに、続きがすごく気になった。
    とてもおもしろい。

  • 大自然の悠久たるカナダの大地を背景に、ゆったりとした語り口で、長編になる内容を詰めた短編集だった。思うように育たなかった息子や、過去の出来事の関係者の気持を、今になって知ったり、思い出したくない過去を、思い出させられたり。長く生きてるといろいろあるけど、多分この主人公は、逞しく乗り越えていくだろうと思わせる。

  • 人々の生活をおおっている幕をめくり、そばに寄り添ってじっと眺め続けるような短編集だった。長い時間が小説の中に流れていて、私も一緒に時を過ごしたような心地がした。
    ここで物語は語り終えられるだろう、というところからもまだまだ先がある。でもそれが人生なのだなあ。

著者プロフィール

Alice Munro
1931 年生まれ。カナダの作家。「短編の名手」と評され、カナダ総督文学賞(3 回)、
ブッカー賞など数々の文学賞を受賞。2013 年はノーベル文学賞受賞。邦訳書に
『ディア・ライフ (新潮クレスト・ブックス) 』(小竹 由美子訳、新潮社、2013年)、
『小説のように (新潮クレスト・ブックス)』(小竹 由美子訳、新潮社、2010年)、
『 林檎の木の下で (新潮クレスト・ブックス)』(小竹 由美子訳、新潮社、2007年)、
『イラクサ (新潮クレスト・ブックス)』(小竹 由美子訳、新潮社、2006年)、
『木星の月』(横山 和子訳、中央公論社、1997年)などがある。

「2014年 『愛の深まり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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