- Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120048142
感想・レビュー・書評
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とある出版社のブログで紹介されていた本。
といっても、面白いと評判が高い、という程度。
主人公は古い長屋の一角に住むお針子の齣江、と思って読み進めるが、連作短編集なので、語り手も主役も入れ替わる。
齣江も主役の一人、といったところ。
いろんな時間軸が交錯して、少し不思議で哀しい本だった。
大切な人や物と心ならずも別れてしまった人に。
収録作品:ミカリバアサマの夜 抜け道の灯り 花びらと天神様 襦袢の竹、路地の花 雨降らし 夏が朽ちる 晦日の菓子 御酉様の一夜 煤払いと討ち入り 猿田彦の足跡 遠野さん 長と嵩 抽斗のルーペ まがきの花 花よりもなほ 夏蜜柑と水羊羹 はじまりの日詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まさかあやかしモノだとは思わなかった。
でも「ある男」「漂砂をうたう」のような、実直な「小説」を書く木内昇さんだからこそ、言葉が立ち上がって気配を成す、くらいの確かな世界と異世界を感じられた。
17編のお話に分かれてはいるけれども1編の小説として共通する、『大切な人への想い』や『失うもの』が静かに、不思議が絡まってラストまで印象強く流れていく。
私的に「猿田彦の足跡」でのおかみさんが見た青年のエピソードに泣かされてしまった。
泣いたかどうかなんて、いい小説かどうかに関係ないけれど、私にとっては読んだタイミングが偶然を越えていた。
良い小説でした。
読後、木内昇さんの新作を読めることは改めてとても嬉しいことだなと思った。 -
夢の中にいたよう。世俗的な人物もいる。地に足着いた堅実な人物もいる。悩みながら一生懸命生きている人たちと、不思議な次元にいる人たちとの交流。大切に読み返したい本。
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その路地には秘密が漂っている――
魚屋の次男・浩三は、同じ長屋のお針子・齣江を通じ、「いつかの人々」と出会うことに……。
ほぉ〜〜っ……これは、なんとも……いや〜、素晴らしい!!
さすがは、我が読み友さん達が年間ベストワンに選んだけあるなぁ〜〜!!!(数年前の、だけど)
なんとも不思議なお話ではあるんだけど、そこに醸し出される雰囲気?いや、空気感?とかが、妙にまとわりついてきて、四季の移ろい、匂いや、手触りなんかまでもを長屋の人々と共有している様な気分に浸る。
先をどんどん読み進めたいような、もったいなくてゆっくり味わいつつ読みたいような、またすぐ読み返したくなるような……良い時間を過ごさせていただきました〜〜♪ -
「戦前」の日本のどこかの町の、どこかの長屋の住人達を舞台にした話。あえて「」を使ったのは、確かにあの戦争の前で、多分大震災も起こる前、場所もおそらく東京なのは確実だけど、それがいつの、どこなのかははっきりと描かれていないから。
時代物ではない。ファンタジーでもない。ただ物語である、としか言えない。夢と現、こことあちらを人と時間が行き来しつつ、最後に全てが収まる所に収まる最終頁は快感の一言に尽きる。 -
文字や言葉で、音、色、風、静けさが巧みに描かれる。一文一文が短いが、気品があり、ゆっくりと深い呼吸をした時に見えてくるような風景が言葉で紡がれる。どこか奥深い世界に入り込んでいく感覚。初めての木内さんの作品。どれが幻で、現実なのか、実はその境界線は危うく、儚いものなのかもしれない。効率や合理性だけでは説明できない、豊かで大切なものを、見せてもらった。トメさんの存在と言葉が印象的。「支えてくれる人がいるのは、咎ではない。果報だ」日本語の美しさと豊かさに満たされた素敵な作品。せわしなさを離れて、没入。
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時間軸がねじれた優しい話。昆虫好きの遠野さんの顔が浮かぶ。
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長屋の人々の生活を描いた小説かなくらいに思って読み進めていたけれど、自分でも気付かないうちに不思議で面妖な世界がじわじわと入り込んでくる。
とにかくよく分からないことが、当たり前のように出てきて展開が進んでいくけど、それらに対する説明やら詳細は描かれていない。最後まで明らかにはならない。けど、そこで描かれている感情や想いは確かに心に届いてくる。
なんだかよく分からない戸惑いや切なさはよりリアルで、私達も浩三と一緒の気持ちで最後を迎えている。
なんとも不思議で妖しくて、温かくて切ない話だった。
またいつか、かみしめかみしめ、読み直したい。 -
長屋を舞台にした時代小説なのかと思って読み進めると、なんとなく違和感が。人々の日常の中にひっそり不思議なものが紛れ込んでいました。いつの間にか彼岸と繋がったり、過去と未来が交わったり。といってもあまりにひっそりとしているので普通に生活していたら見逃してしまうような不思議です。読み終わるのがもったいなくて最後の方は一日に一話ずつ読みました。梨木香歩さんの家守綺譚を思い出します。木内さんってこんな本も書くんだな。オススメです。
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敢えて分類するとしたら、ファンタジー?、小説?、なのか...
時代背景は昭和初期、辺りなのだろうか。
自然のままか、それに近い緑と影・自然が織りなす臭いや湿り気・土や草の匂い、空気がきれいだった分だけ冬でも日差しは強く、その分影も濃かった...。
”不思議さ”のタネ自体は珍しいものではないと思うが、設定や表現・各人物の交錯などで、静かに面白く読めました。
”まえがき”も”あとがき”も無いのですが、妥当です。
有ったら無粋だし邪魔なだけで、当然のことながら心得て構成されているようです。 -
これいい。
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多分、明治時代の東京下町、時間が前後し、過去現在未来が入り交じり、不思議な世界が作られる長屋を舞台にした短編連作。
最初読み始めはなかなか物語の雰囲気、風景、世界がイメージしづらかったが、読み進めていくうちに、不思議世界に私自身取り込まれていくようで作品の世界に浸ることが出来た。不思議世界と言っても、ホラーやおどろおどろしい雰囲気ではなく、「花伝書」に書かれた世界観、能の幽玄の世界等が軸となり、やさしくおぼろげな霞の中の世界といった感じをもった。そこには悲恋が絡んでおり、それも読者を悲しいながらもふわりと心の奥に落ち着いていくストーリーになっている。 -
東へ行けば天神様のお社。
西へ行けばお屋敷の土塀。
その間にある長屋に暮らし、針仕事を生業とする齣江。
老婆と魚屋の次男は齣江の家に上がり込み日々を暮らす。
不思議なことがあっても、それ以上踏み込んではいけない。幻想的な世界観に大満足の一冊。 -
今の自分と、ここを通っていた頃の自分は随分隔たっている。うろたえているふうな、喜んでいるふうな、そして胸のずっと奥底で泣いているような顔。とてつもない不安。答えなんぞ分からない。だけど進む。生きるっていうことはそういうこと。ちょっと不思議な世界。だけど、それ以上にめずやかに感じたのは、今の世の中には決してない、人肌の温かみと人情。不思議な違和感の正体が実はここにある。
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この世の中のは、自分が知りえない世界がある
時空が交差して、並行して、霞んで見えたりする
先を知って生きるのは辛いんじゃないのかな
特に、人の寿命を知って生きることは辛い
わたしは、もし過去に戻れるのなら
今のわたしの記憶はなくしてしまいたい
この本の中にしかない世界に思いっきり浸りました
とてもとても好きな本と出会ってしまった -
この世の中にある次元というのはひとつきりじゃない…すごーく不思議でモノクロなイメージがつきまとうお話がラストははっきりした彩りをつけた感じです。
夏だけが終わる、なんて不公平…その表現が深い。
夏蜜柑を見たらこれからちょっと切なくなりそうででも決してさみしさだけじゃなく生を重ねていく未来に繋がる物語です。 -
不思議なのですが、じんわり心地よく、切ない話。
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切なさと悲しみを足すと愛しさになるんですね。
お話の中に出て来るすべての人が愛しくて愛しくて。そっと抱きしめたくなるような一冊でした。
途中で、トメさんやコマさん(漢字が出ません!)がこの世のものではないということがうっすらわかってくる頃から、ページをめくる手が遅くなってしまいました。
なぜ?どうして?という疑問を明らかにするよりも、火鉢に寄りかかって舟をこぐトメさんと、日向で昼寝している浩三と、そして凛として針を動かしているコマさんの、三人のいるこの部屋がいつまでもそのままであって欲しいと、そう思ってしまって。いつまでもこの温かくて優しい空間で生きていて欲しい、そう思うとページをめくる手がゆっくりになってしまうのです。
でも、読み終わった今思うのは、この世のどこかでこうやって人生を生きなおしている人たちがいるんじゃないか、大好きだった誰かもどこかでそっとまたしばしの「生」を振り返っているんじゃないか、ということ。そう思うとなんだかちょっと嬉しかったりして。