- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121015969
作品紹介・あらすじ
米軍の撤退完了から、三十年が過ぎようとし、ベトナム戦争は忘却の淵に沈みかけている。ベトナムでもアメリカでも、この戦争を知らない世代が増えてきた。だが一方で、その実像を明らかにし、両国の誤算と誤解の解明を目指す試みも始まっている。ベトナムは、「民族の世紀」と「アメリカの世紀」が激突した戦場であり、各地に飛び火する地域紛争の原型だった。広い視野に立つ精密な記述で、ベトナム戦争の全体像が浮かび上がる。
感想・レビュー・書評
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初出は2001年だそう。中公新書。著者の専攻はアメリカ中心の国際政治史みたいな感じかと。
「失敗の本質」が面白かったのと同じように、「ベトナム戦争」という物語が、当事者たちの「思惑」と「現実」のずれ、幾多の偶然によって紆余曲折したものだった、という観点がすごくフェアで、一種わくわくしました。
相手があるプロジェクトだし、巨大なプロジェクトだし、誰も一枚岩でもない。お互いに「全然思ったようにいかない」という蛇行の末に、でもなるべきようになったと言うことか。
アメリカにとって、味方(というか傀儡)である南ベトナム政権が、言ってみれば「ほんまに阿保ばかりやった」という苦悩が、巨大な悲劇というのが喜劇でしかない色合いが濃ゆい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
まえがき
第1章 米ソ冷戦の狭間で
第2章 解放者から征服者へ
第3章 北方の巨人の影
第4章 破綻する国家建設戦略
第5章 地域創造の論理
第6章 二つの「ネバー・アゲイン」
あとがき
年表
主要参考文献(英語)
主要参考文献(日本語)
主要人物小辞典
事項索引
人名索引 -
すでに相当の知識を持っていないと、最後まで読み通すのが辛いです。。。
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アメリカ外交史を専門とする政治学者で、筑波大学教授の著者によるベトナム戦争の通史。
文章がよい。学者の文章にありがちな無味乾燥な生硬さがなく、文学的香気もあって格調高く、それでいて読みやすいのだ。
ただ、構成が難あり。
通史なのだから淡々と時系列で書けばよいものを、本書は〝ベトナム戦争の全体像を異なる6つの視点から読み解く〟といって、全6章をそれぞれ〝別の視点からの通史〟にしている。
たとえば、第1章では米ソ冷戦の一局面としてのベトナム戦争が描かれ、第6章では米国内の〝政府対世論の戦い〟をまとめて振り返っている……という具合。
凝りに凝った構成ではあるが、読んでいると頭が混乱してくる。「前の章で死んだ重要キャラが次章では生きている」みたいな「時空の歪み」(笑)を感じてしまうのだ。
とはいえ、個々の章はそれぞれよくできている。
素直に全体を時系列構成にしたら、もっとよい本になったと思う。 -
ベトナム戦争とはなんだったのか?
この戦争について
アメリカとベトナムが戦った悲惨な戦争。
映画のネタにもなっている。
その程度の知識。
本書の前にベトナムの歴史を読んで
下地の知識を得ていたのが良かったのか
読み応えのある内容だった。
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自分はベトナム戦争のことも、その前後の東南アジアにおける植民地支配や朝鮮戦争、それに関わる日本のことも、何も知らないことを痛感し、恥じる。
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ベトナム戦争を6つの視点から解説する。
1 冷戦
2 ベトコンと北ベトナムの主導権争い
3 北京とハノイの戦い
4 ワシントンとサイゴンの戦い
5 アメリカと東南アジア諸国との外交
6 米国内における政府と世論
良い本だった。
一つの歴史的事件はこのように繰り返しいろいろな視点から論述するべきであるといえるし、1945年から1975年までの歴史が繰り返し記述されるのも(毎度毎度日本が負けてフランスが帰ってきて・・・)タイムリープものの読み物として面白かった。
ベトナム戦争に限った話ではないし、考えてみればどんな歴史だって複数の側面を持つのだから、この記述はもっとあっても良いように思う。
しかし、新書だが質量ともに濃密な本なのだが、エピソードを6つに割ってしまったので、一つ一つが物足りないというのはある。とくに4に関しては、当時の南ベトナムの様子はそんな通り一遍で良いのかという気はする。
でもこれはないものねだりだろう。この本にある内容を頭のなかに叩き込んで、そこから自分の気になるところを深掘りしていくというようにすべきものだろう。 -
ベトナム戦争についてわかりやすかったし面白かった。中古本を購入して手元に置いているほど。
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ベトナム戦争について多面的に論じたもの。ベトナム戦争は計6つの視点から論じられている(p.vii)。すなわち(1)米ソ冷戦の一場面として、(2)南ベトナム内の反政府勢力(民族解放戦線や臨時革命政府)と北ベトナムのせめぎ合い、(3)中国と北ベトナムの駆け引き、(4)アメリカと南ベトナム政府の困難、(5)アメリカと東南アジア諸国の覇権争い、(6)アメリカ国内の政府と世論の争い。ベトナム戦争というとすぐに浮かんでくるのは、冷戦の一場面としてのアメリカ対北ベトナムだが、この本は複数の視点からベトナム戦争を論じることにより、埋もれがちな多くの見識を与えてくれる。
視点それぞれを章分けしているので、章ごとに時間が行ったり来たりするし、記述のその都度でその都度の出来事が取り上げられる。一貫したベトナム戦争の通史のようなものはないので、全体の見取り図をまず把握していることが前提となるだろう。また、基本的に政治的側面に限られた記述となっているため、実際の戦争の様子、すなわち戦史や、戦争における人々の様子は書かれていない。
興味深かったのは南ベトナム反政府勢力と北ベトナムのせめぎ合い。ベトナム戦争は北ベトナム(ベトナム民主共和国)と南ベトナム(ベトナム共和国)の内戦という様相もある。この構図において南ベトナムの反政府勢力は一見、北ベトナムの手先、北ベトナムが南ベトナムと戦うための手段に見える。しかし南ベトナムの反政府勢力にはそれなりの考えがあり、指令するハノイの北ベトナム政府と微妙な対立を含んでいた。実際に戦い、南トナム政府を倒したのは自分たちだという矜持もあり、サイゴン陥落後、南ベトナムの臨時革命政府は北ベトナムと別個に国際連合に加盟申請を行ったりもしている。だが結局は北ベトナムに吸収され、「ハノイの指導者たちに裏切られたことになる」(p.92f)。
また、南ベトナムに傀儡政権を樹立し、それを何とかコントロールしようとするアメリカの苦悩が書かれている。特にアメリカが担いだゴ・ディン・ジェムの治世に詳しい(p.158-172)。南ベトナムに民主主義的な政権を樹立しようとするアメリカのお題目に反して、ジェムは地縁と血縁が重用される縁故的運営(「ジェムクラシー」)を続けた。南ベトナム政府軍の士気と忠誠心は異様に低く、脱走兵や命令への不服従が続出する事態。ジェムに代わる人間を立てようにもまともな候補がいないといった状況が書かれている。
1972年に和平協定の調印への交渉が進んでいたさなかの年末、アメリカは戦況がほぼ北ベトナムの勝利で決していた中、あまりもう意味のない北爆を行う。それについての記述が実に原爆投下の論理を思い出させた。
「いったん北爆を北緯20度以南に限定していたニクソンだが、ハノイが合意を拒否すると、12月18日には北爆を全面再開した。ラインバッカーII作戦、俗に「クリスマス爆撃」と呼ばれる。ハノイ、ハイフォンにはあわせて12万トンの爆弾が降り注いだ。それはナチスの大量虐殺にも匹敵する蛮行だと批判された。図体が大きく、速度の遅いB52爆撃機はしばしば対空砲火の餌食になった。しかし、昼夜を分かたぬ敵中枢部の徹底破壊がハノイを追いつめ、戦争を早期に集結させたのだとする見方も米空軍首脳を中心に根強い。」(p.49) -
ベトナム戦争自体の通史的な解説書ではなく、ベトナム戦争によって周辺国にどのような影響があったか、国際情勢はどう動いたかを書いた本であり、戦争自体についての記述はほとんどない。第一次インドシナ紛争からカンボジア内戦までのインドシナ史と主要人物くらいはしっかり把握していないと読み通すことすら難しいだろうと思う。そういう意味で★マイナス1。「我々はなぜ戦争をしたのか(原題:Missed Opportunity)」や「Best and Brightest」のようなベトナム戦争通史がわかる本を先に読んでおいた方がいいでしょう。「南ベトナム解放民族戦線」を「民族解放戦線」と書くなどの安易かつありがちなミスも多くある。