- Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122018594
感想・レビュー・書評
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R3.9.26 読了。
「スティル・ライフ」「ヤー・チャイカ」の2編からなる小説。どちらも静かで美しい言葉で綴られていた。読み始めてすぐにその世界観に引き込まれてしまった。
「ヤー・チャイカ」では、変わったペットやスケートの上手な異国のおじさんが出てくる独特の世界観が良かった。
自分にもこの2編の小説のような出会いがあったら、人生が面白くなりそうで憧れてしまう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者、池澤夏樹さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。
池澤 夏樹(いけざわ なつき、1945年7月7日 - )は、日本の小説家、詩人。翻訳、書評も手がける。日本芸術院会員。
文明や日本についての考察を基調にした小説や随筆を発表している。翻訳は、ギリシア現代詩からアメリカ現代小説など幅広く手がけている。 各地へ旅をしたことが大学時代に専攻した物理学と併せて、池澤の作品の特徴となる。また、詩が小説に先行していることも、その文章に大きな影響を与えている。
で、今回手にした作品、『スティル・ライフ』。
この本の内容は、次のとおり。
しなやかな感性と端正な成熟が生み出した唯一無二の世界。
生きることにほんの少し惑うとき、
何度でもひもときたい永遠の青春小説。
芥川賞受賞作品
シングルファーザーと巣立ちゆく娘の物語「ヤー・チャイカ」伴録 -
再読。カミオカンデのニュースを受けて。
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この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。
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すべては冒頭の文にあらわれている。
星や宇宙のことを考えるとき、日常に救いがあった当時の私は、一瞬にして引き込まれた。
そして、男二人の出会い頭の会話。
一般的にみれば荒唐無稽な内容を、全くおかしなことと捉えていない。
チャンネルが合うというのだろうか。こういう一生に一度か二度あるかないかの景色を切り取った小説は改めてとても好きだと思った。リチャード・バックのイリュージョンが好きなのも似た理由かもしれない。
一人でバーに行くと
ふとチェレンコフ光を思い出すことがある。
億単位の水や巨大なカミオカンデの美しさへ一瞬にしてつながり、日々の世俗的な疲れが洗い流されていく。若い頃出会えた幸運に心から感謝。 -
自分が死んだとき、1冊だけ棺に入れるとしたら、この本。
何がそんなによかったのか、と思って読み返そうにも、最初の2pだけで胸がいっぱいに。つまり、冒頭の2pが私にとってはすべてみたいです。
成長と共に、世の中と、自分自身の世界とのズレに、あれ?おかしいな?と思いもやもやしていた学生時代に、この冒頭の2pが、すとんと入っていき、沁み渡りました。ああそうだ、この言葉があれば自分はこれからも自分を見失わずに生きていける、と思った。
それ以後、世界と自分との齟齬に苦しむことは格段に減ったように思う。
そういうふうに思える文章に出会えたことに感謝したい。
私の中では神様です。 -
タイトルの「スティル・ライフ」って画材の静物、あるいは静物画という意味なんですね。 そっか、うん、確かにこの物語そのものがひっそりとしながらも存在感のある静物、なんだなぁ、と納得です。.
先日読んだ、朝日新聞のコラム集「終わりと始まり」がよかったので、芥川賞受賞作である「スティル・ライフ」も読んでみようかな、と。(#^.^#)
染色工場でアルバイトをする青年が主人公なのだけど、芯に硬いものと柔軟なもの、二つを兼ね備えているような彼が好きでした。
池澤さんって、理系の村上春樹って言われている人なんですって。
うん、なるほどね・・・・。(#^.^#)
で、このお話に出てくるメインキャラは ぼく と、アルバイト仲間の佐々井。
二人とも、リアルな世界からちょっと離れた所に身を置いて、でも、そんな自分が結構気に入ってたりするところが似てるかな。
落ち着いた話しぶりや、じっと何かを見つめる姿勢が静かに私の中に入ってきて、気もちよく読めました。
で、お話のヤマは、突然佐々井から持ちかけられる“仕事”の話。
ネタばれです。
なんと、佐々井は8ケタ(って〇千万だよね)の横領犯で、でも、そのお金には手をつけないまま、もうすぐ時効を迎える、という設定。
そのお金を資金にして、株取引で利益をあげ、それを利子としてつけ元本も返す、という。
一攫千金といった株の儲け方ではなく、地道に売り買いをして利益をあげていく、という過程も面白かったし、佐々井が残していったプロジェクターや山、川、星などの写真を一人で見る ぼくもよかったです。 -
池澤夏樹の作品を読むのはこれが初。
今まで読んで来た作家さんの誰にも似ていない独特な世界観の文章を書かれる方だなと感ました。
特に「スティル・ライフ」は読んでいると周囲の音が吸い込まれ静寂に包まれていくような不思議な感覚に陥りました。
「ぼく」の語りはとてもシンプル。
淡々と進んで行くように見える語りの中に、時折美しさを放つ一文が静かに現れる…
その美しさに何度もはっとさせられました。
しかし、ストーリーの展開はやや淡白な感じがします。
ストーリーよりも言葉や表現の美しさに魅力を感じる人にハマりそうな小説です。 -
コロナのせいで心が荒れてきたので何か精神的に静まる本をと思い、30年ぶりくらいに再読。若い頃に読んでとてもとても感銘を受けたことだけは覚えていて具体的なあらすじはほぼ忘れていたのだけど、書き出しの「この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。」という一文で一気に時間が巻き戻った。
「大事なのは、」と語り手の「ぼく」は言う。「外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること」「並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかること」そのためにどうすればいいのか、方法としては「たとえば、星を見るとかして。」ああこうだった、こうだった、この文章が好きだった、と次々思い出す。
「ぼく」は染色工場のアルバイトで佐々井という年上の同僚と親しくなる。二人はとりとめのない星や世界のことなど語り合う。中盤で佐々井の過去が明かされ、ぼくにある仕事の依頼がされることで急に現実味を帯びてくるが、全体的には寓話めいている。80頁ほどの、短編といってもいいくらいの分量しかないのもいい。小説というよりは散文詩のようだ。
若い頃と同じ感受性の瑞々しさでは読めなくなっていたが(おばちゃんの感受性はもうカラカラだ)それでも懐かしさと相まってとても感銘を受けた。かつての自分は、定住する場所を持たない佐々井というキャラクターにスナフキン味を感じていたのかもしれない。
中編「ヤー・チャイカ」も収録。こちらは父子家庭の娘と父親それぞれの視点で、父親が知り合うロシア人とのエピソードを絡めて進む。娘の空想の世界での、恐竜ディプロドクスを飼っている話がとても好きだった。解説は須賀敦子。 -
何回も何回も読んで心を浄化したい小説です。明晰な言葉を使う中に、人間として生きる優しさが込められています。
独特な世界観ですが、アルゴリズムを日常で考える事が好きな方にはときめくものがあると思います。 -
スティルライフのような小説にまた出会える日が来るなら それを楽しみに生きていける そんな 流れ星のような小説