昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122053304

感想・レビュー・書評

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  • ある総合戦研究所が、推測した戦争と実際に起こった戦争の内容がぴたりと一致した。
    ノンフィクションの内容であり、現存される当事者から話をまとめたものである。

    ここからわかるのは、戦前の日本における責任能力のなさ、そこから生まれる空気で物事を決めてしまう思想、それに負けて事実を隠すという行動の悪循環。
    それは、今も残っているのでは?という筆者の投げかけである。
    日本人はもっと歴史を学び、シュミレーションをし、そこから意見を出して実行することが大事である。

  • 総力戦研究所。30代の様々な省庁、大企業、軍部などのエリートが集められ、資料を持ち寄り擬似内閣をつくった。机上演習というシミュレーションで日米英の戦争を研究、結果は日本必敗。しかもかなりの精度で、緒戦で勝利、南方の資源を確保、しかし戦争は長期化し、フィリピンから出撃するアメリカ潜水艦によるタンカー撃滅で資源は届かず、最後はソ連の対日参戦で敗北。近衛も東条英機も知りながら無視。またこの本では東条英機の実像にも迫り、実務に秀でた官僚体質の、天皇の忠臣であるこ忠実であろうとした男の苦悩も描き出している。

  • 昭和16年(1941年)4月日米開戦のシミュレーションを目的として、各省各界から選りすぐりのエリートを集めて「総力戦研究所」が作られた。そこで得られた結論は「緒戦は奇襲で勝利するものの、長期戦になり終局ソ連参戦を招く。物量で劣る日本に勝機はない。よって日米開戦は避けなければならない」という、その後の展開を完全に言い当てたものだった。にもかかわらず、なぜ日米開戦は避けられなかったのか?

    1.日本的意思決定論
    ・統帥権により軍部の暴走を政府が止められなかったという憲法上
    の欠陥。
    ・立憲君主である天皇は自らの意見を表明できず、御前会議の決定
    を追認するしかなかったこと。
    ・陸軍と海軍が互いに秘密主義で、石油の保有量などの重要情報が
    共有されなかったという縦割り行政の弊害。
    ・戦争継続の可否を決める根拠となる石油需給試算表自体が開戦不
    可避の空気に支配され、辻褄合わせの数字で作られていたこと。
    。。。。等々

    2.東条英機のリーダー論
    ・東条英機は権謀術数により自ら権力を獲得した独裁者ではなく
    天皇への忠誠心を見込まれて、軍部を抑え込むために異例人事で抜擢されたリーダーだった。そのため、天皇と軍部の板挟みの中でその調整に苦悩した典型的官僚であった。つまり、 明治の元勲山県有朋は個人的カリスマで軍部を統制し統帥権の欠陥を補うことができたが、東条にはこのようなカリスマ性はなかった。
    ・戦略よりも個人的な倫理観や情緒が強く、かえってこれが仇になったこと。例えば、ナチスドイツが独ソ不可侵条約を破ってソ連に侵攻したとき、事前に日本に何の連絡もなかったことで、閣内には三国同盟解消を進言する者もあったが、東条は「信義に悖る」とこれを拒否。また、満州からの撤退については、これまで血を流してきた英霊に申し訳ないと戦略より情緒に流される。その結果、日米関係改善の好機を逃すことになった。
    ・また、総力戦研究所の結論を知っていたにも関わらず、これをさほど重視しなかったのは、日露戦争も圧倒的に不利な予想を覆して勝ったことを教訓に、戦はやって見なければ分からない、何よりも気概が大事といった感覚が強かったこと。




  • 太平洋戦争が始まる昭和16年の夏、次の世代を担うエリートたちが集められ、想定内閣を組閣し日本の今後をシミュレートささられる。
    戦争に反対する昭和天皇。天皇に忠誠を尽くす東条英機は開戦を避けようと尽力すぎるが、自分が陸軍大臣時に決めた路線を覆せずに開戦に踏み切る。
    誰も望まなかった戦争が太平洋戦争だとわかる。陸軍が血を流して勝ち取った中国戦線を縮小出来ないという主張が足を引っ張り、ドイツとの共闘を決めた松岡外相の読み違いが方向付け、誰もが止められなかった。
    敗戦後、国民は指導部や軍部による戦争と位置付けたが、本当にそうだったのだろうか?
    歴史に学ぶことを本当にしているのだろうか。
    戦争を避けるためには、憲法の再確認するためにも、国民投票を行うことが必要だと感じたのでした。

  • 978-4-12-205330-4 283p 2012・10・5 11刷

  • 日本が無謀な戦争に突入した要因として、ABCD包囲網、旧憲法の制度的欠陥と統帥部の横暴などはよく指摘されるところ。
    これらに加え、本書では、「空気」による意思決定が指摘されている。「開戦やむなし」という空気が醸成され、つじつま合わせのための数字が恣意的につくられ、日米開戦という意思決定に至る過程は、あまりの杜撰さに暗澹たる気分になる。著者も指摘するとおり、神は細部に宿るのであって、具体的な事実の積み重ねのたいせつさを思い知らされる。
    また、東條英機に関する挿話が印象的。一般によくいわれる「独裁者」としてではなく、天皇陛下への忠誠心と統帥部との板挟みに苦しむ官僚型の人間の姿が描かれている。彼の所業は必ずしも正当化されるべきものではないが、彼のおかれた状況には同情を禁じえない。
    左翼・右翼のいずれにも寄らず、緻密な取材に基づく具体的な事実が淡々と、それでいて生々しく記述されている点が素晴らしい。

  • 戦争の始まりについて、よく理解できた。
    いろんな方面から戦争に突入せざるおえなかったと思う。
    ただ、やっても負ける。それを分かってても、やるしかない当時の主導者の決断は凄いね。
    結果的に神風が吹かなかった…。

    アメリカの圧力(石油輸出禁止)
    軍部の暴走
    それを止めれない、組織構造

  • 読んでおく価値あり。

  • Fri, 05 Nov 2010

    83年にでたものが十数年ぶりの文庫化.
    時を経て,当時何とか生きておられた歴史の証言がよみがえる.

    さて,開戦前から日本の敗北は運命づけられていたというのは,ある程度有名な話だが,ここでは,総力戦研究所という集団にフォーカスがあてられる.
    僕自身ぜんぜん知らなかった名前だった.

    開戦直前ではあるが昭和16年に各省庁や軍,有力企業から
    優秀な30代の「とうのたった」若者達が研究生としてあつめられた.
    日本の若い知能を結集して,来るべき「総力戦」に備えるためだ.
    近代の戦争は過去の戦争と形をかえ国家が相手を完全服従まで
    もっていく「総力戦」へと形をかえてきていた.
    特に二次大戦では,資源としての石油の必需性がまし,開戦もそして戦況も
    この資源によって特徴付けられていた.

    彼らは「模擬内閣」を樹立し,戦況を刻々とシミュレーションしていた.
    そして16年にすでに出ていた答えは,
    奇襲作戦の成功, 海上での敗北, シーレーンを維持できず,本土空襲を受け敗戦
    という流れであった.
    各省庁から得られる,経済的,資源,兵站,国民の雇用情勢,など
    様々なデータからうらづけられて,出した結論だった.

    もちろん,ここからの提言が聞き入れられることにはならなかったのだが・・・.

    この歴史の証言を組み合わせながら,日本が「理屈では負ける戦争」に
    転がり込んでいった,プロセスを追っているノンフィクション.

    さて,本書を読んでいて,思ったポイント,新たに知ったポイントをいくつか.

    ・戦前の日本は戦後の日本とほとんど変わらない.

    下の意思決定システム.メンタリティ含め.
    日本の歴史教育って,戦前と戦後にギャップを置きすぎですよね.
    戦前というとすぐに「軍政」的状況をイメージするけど,それは明治維新から
    のちの時間を考えると,その一部でしかない.

    ・東條英機は非常に人間的で真面目.最終的には開戦に反対していた.

    ちょっと,驚いた.もう少し,知りたくなりました.

    ・日本型意思決定システム(合意重視)による悪循環の典型を見た.

    しかし,それと同型のものは,僕たちのすぐそばに今もあります.
    というか,殆どの日本の組織がそうだと思います.

    ・「統帥権」の問題が明確に

    「統帥権」の問題こそが明治憲法の大きな穴であり,日中戦争,二次大戦にころがりおちてしまった制度的不備の根幹であったことが,実感できた.
    もう一つ指摘するならば,そのような制度的不備を,憲法改正などでのりこえられず,敗戦という,ところまでいってしまった点だろう.
    一旦走り出したシステムの不備は,なかなか改正できない.それが既得権益を生み出している場合などなおさらだ. 現在の日本の政治システムも様々な欠陥が指摘されているが,憲法改正の気配は見えない.

    これは,実は「日本型意思決定システム」 と 「個人より集団の重視」ということと関係しているのではないか?とおもった.要は,既得権益をもっている人がいるなかで全会一致の改革なんて出来るわけがないんだ.論理的に.

    及び,組織自体には組織を変革する力はない.組織は自らをスタビライズ,固定化するダイナミクスの方が強い(ように思う). 個人が動けないと組織は変わらないように思うのだ.

    制度としては「改正」の仕組みはあっても,実際に作動するかどうかは,別問題だ.それが変えられないまま転がっていく,状況は現代の日本と恐ろしいほど重なった.そして,石油禁輸をかけてくるアメリカ. これも,皮肉なことに昨今の中国のレアアース禁輸と重なって見えた.

    自国による石油を求めて戦った二次大戦であったが,現在,状況は何か変わったのだろうか? アメリカによって中東からのシーレーンを確保して貰うことで成り立っている日本経済.それが止められるリスクを常に最小化するように,日米安保などでバランスを保ち続ける戦後. そう考えると 安倍さんが「戦後レジームからの脱却」なんて言ったことに,アメリカが過剰反応したこともうなずける

    もっとも,当の日本人の多くは「もはや戦後ではない」というフレーズと同じくらいにしか感じていなかったかもしれないが・・・. (ちなみに,安倍さんの「戦後レジームからの脱却」が具体的に何を意図し,何を意図しなかったのかは,今でも僕はよくわかっていない.

    さて,戦前から戦後,石油の時代が続いた. 二次大戦も,中東問題も,石油の奪い合いで国が動いた.化石資源はそして現在も尖閣問題を巻き起こしている.ロシアパイプライン問題. まだまだ,化石資源の奪い合いとしての国際情勢は続いている.

    ブレトンウッズ体制で金本位制が終わり,ニクソンショックで金本位制から実質「石油本位制」へと世界はシフトした.パックスアメリカーナは,石油経済とともにあった.

    いつの時代も,歴史を繰り返さないように,繰り返す歴史に逆らうために,歴史をまなぶことは大切ですね.

  • 戦争の知られざる裏側を描く。
    日本が歩んだ無謀な戦争のプロセスがここに。

    2014.12.30

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著者プロフィール

猪瀬直樹
一九四六年長野県生まれ。作家。八七年『ミカドの肖像』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。九六年『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞。東京大学客員教授、東京工業大学特任教授を歴任。二〇〇二年、小泉首相より道路公団民営化委員に任命される。〇七年、東京都副知事に任命される。一二年、東京都知事に就任。一三年、辞任。一五年、大阪府・市特別顧問就任。主な著書に『天皇の影法師』『昭和16年夏の敗戦』『黒船の世紀』『ペルソナ 三島由紀夫伝』『ピカレスク 太宰治伝』のほか、『日本の近代 猪瀬直樹著作集』(全一二巻、電子版全一六巻)がある。近著に『日本国・不安の研究』『昭和23年冬の暗号』など。二〇二二年から参議院議員。

「2023年 『太陽の男 石原慎太郎伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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