八日目の蝉 (中公文庫 か 61-3)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122054257

感想・レビュー・書評

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  • この本に登場してくる女達はみな世間一般の幸せと呼ばれる暮らしを手に出来なかった人たち。地上では七日しか生きられないはずの蝉の命が八日目を迎えられたら「ラッキー!」と思えるのが普通。でも、彼女たちは「死ねなかった、生き残ってしまった」と感じる。
    どうして自分だけ余計なものを背負わされ、生き続けなければならないのかと自問する。

    かつて薫とよばれた少女が自分の受け容れ難い境遇を呪い、反抗とあきらめと無と…なんとか折り合いをつけながら生きてきた様と、犯罪だと頭では分かっていたのに割り切れない衝動から、母性だけで乳飲み子を奪い逃亡生活を続けた誘拐犯、希和子の生きる様。両者の生は確かに強烈だ。
    出所後、「がらんどう」である自分にはもう何にも残っていないと認識しているのに、ふとしたときに手の中に温かいぬくもりや重みやかすかな光があるように感じるのは、全身全霊をかけて、愛し守ろうとした愛し子と過ごした月日が、身体に浸み込み焼き付いてしまっていたから。
    一方、誘拐された女も、小豆島でのささやかな幸せに満ちていた、母と呼んでいた人との暮らしを否定することはできなかった。再びそこに降り立った時、あふれるばかりに心地よい感覚が呼び覚まされ、初めて彼女は、自らの体の中に他者の存在を肯定的に認識することができた。未来と呼べるものを思い描くことができた。

    二人の女の生様はどちらも社会的性ではなく、原始的な性を強く刻印した在り方だと思った。読み進めていくうちに何度も熱いものがこみ上げ頬を伝わったのは、自分にも同類の血が流れているのが感覚的にわかったから。
    傑作に出会えた充足感。

  • 希和子の行為は犯罪で、到底共感できないはずなのに、責めるどころか、逃げ切れればいいのに、と思ってしまう自分がいる。
    薫への強い愛情があり、薫自身もそれを感じている。
    だからこそ胸を打つものがあり、救われる気がした。
    http://koroppy.cocolog-nifty.com/blog/2014/01/post-c730.html

    • honno-遊民さん
      同じように、「逃げる女」をテーマにした角田光代の「紙の月」という作品も、お勧めです。(今、ドラマが放映されてるけど)
      同じように、「逃げる女」をテーマにした角田光代の「紙の月」という作品も、お勧めです。(今、ドラマが放映されてるけど)
      2014/01/15
    • KOROPPYさん
      >hongoh-遊民さん
      おお、情報ありがとうございます!
      今のクール、好きな原作の映像化が多いので、
      たくさんドラマを見てます^^
      >hongoh-遊民さん
      おお、情報ありがとうございます!
      今のクール、好きな原作の映像化が多いので、
      たくさんドラマを見てます^^
      2014/01/16
    • honno-遊民さん
      ドラマの感想もぜひ!
      ドラマの感想もぜひ!
      2014/01/16
  • 角田光代さんの本は初読み!
    おもしろくてすらすら読めました(^_^)

    誘拐のお話なのになんだか切ないなぁ〜。途中希和子と薫が入った宗教団内エンジェルホールのシーンは怖かった。

    他の蝉には見られなかったものをみられるのが「八日目の蝉」

  • 最初から引き込まれる。
    事件が起こり、不思議な親子はどうなっていくんだろうと思いながら読み続けてしまう。

    誘拐された子はどちらの母親といるのが幸せなのだろう。と考えてしまう。
    親子の愛がとっても温かいのに切ない。
    そして不器用な人達。

    本当の母親も、誘拐した母親も、子どもたちも誰も憎めない。

    終わり方も素敵!!

    久々にすごく面白い本を読んだなぁ、と思う一冊でした^ ^

  • 自分を育ててくれた母親は、誘拐犯だった。


    前半部分は、行き当たりばったりな逃亡生活が多少だるかったですが、
    後半視点が変わった部分からとまらなくなりました。
    題名につながる「八日目の蝉」のくだりが素敵だと思いました。

    文庫のあとがきの最後に「読み終わった後は、どうしようもない全ての登場人物をいとおしく感じるだろう」とありましたが…ほんとうにそうか?!
    どう考えても父親は本当に救いようのない男だし、
    母親も非常に自分勝手で母親失格でしょと思うし、
    育ての親も行き当たりばったりすぎて不幸すぎるでしょって感じだし…

    あとがきには文句を言いたい。w

  • 角田光代さんの本を読んでみようと思い『対岸の彼女』とともに購入した小説。
    内容としては0章、及び1章では、愛すべき人を奪われ子供も産めず苦しんでいた希和子が、愛した人とその妻の間に生まれた子供を誘拐し、紆余曲折しながら多くの女性に匿われ、東京から小豆島まで転々としながら逃亡を続けていくというものがえがかれている。2章は希和子が捕まり、恵理菜とはぐれた数年後の、恵理菜の葛藤と人生がえがかれている。
    結果としてすごい楽しめた小説。この物語はドラマや映画などでも実写化されているがどれも知らなかったため先の展開に常にハラハラしながら夢中でページをめくり続けられた。背景描写や主人公の心情が丁寧にえがかれており、気持ちに寄り添いながら同情して読めた。誘拐犯が悪いのはわかるが、どうしようもなく希和子のことが悲しく切ないなと感じられた。いつか捕まるのはわかっていたが、自分としては逃げてくれと切望していたため、捕まったときは「うわぁ、ぁぁ」としばらくため息をこぼしていた。2章の方の恵理菜に対しても、もし自分がこの立場ならこう考えるだろうという心理状態が大体一致していたため、最後に見つけ出した答えにほっとしたというか安心したようなそんな心地になった。
    小説全体として男性がクズ、使えないやつばかりで、母親側から見て男って子育て面ではやはり見劣りするのかなと思えた。時代もあると思うけど。こういう面も面白いと思えた。
    「八日目の蝉」というタイトルも心に刺さった。千草ええこと言うやん。1人残されるのがつらいと思っていたが、他のものが見れなかったものが見れる。物事を良い面から捉えること、どんな内容結果だって自分にとって必ずプラスに働くように考えられると個人的にそう思えた。
    トータルで面白かった。周りにも紹介したいし、ドラマや映画も割と高評価であるから見てみたい。面白かった。

  • 10代の頃に観た映画は断片的な記憶しか無い中、同僚が「小説の方が泣ける!」と息巻くので拝読。
    憎き者達の間に産まれた赤ん坊に対し突如として湧き上がる母性は理解しかねたが、守るべき物を手放した者の心境として真理だろうか。
    結末を知りながら、とても面白く読めた。

  • 1985年のある日、若夫婦が出かけたアパートへ忍び込む希和子。
    じつは不倫相手・秋山の妻が生んだ子を見て、気持ちにふんぎりをつけるつもりだったのだが…
    泣き出した赤ちゃんをとっさに抱えて思わず逃げ出し、転々とすることに。

    何も知らず懐いてしまった子どもに、生めなかったわが子の名・薫とつけて可愛がります。
    転がり込んだ集団エンジェルホームに警察の手が入り、小豆島へと逃げるのですが…
    逃げていく様についハラハラ、逃げ延びて欲しいような気持ちにさせられます。

    発見されて親元に帰された子ども・恵里菜(本名)は、どうなったのか?
    母だと思っていた人間が誘拐犯と知らされて、実の親にもなかなかなじめないまま、子ども仲間でも遠巻きにされて育ちます。

    誘拐事件とその報道のひどい内容で、壊れかかっていた夫婦。
    ここでまた微妙な問題を抱え込んで、どこかぎこちない家庭が築かれていった様子が次第にわかってきます。

    実際にあった有名な事件を幾つか想起させつつ、さまざまな立場の人間のありようを丁寧に掬い取るように描いているのがおみごと。
    少しずつ救っていく展開で、しみじみとした気分になります。


  • なぜ私は「私」を引き受けることになったのか。
    そうか、きっと皆ずっとそうおもってきたんだ。

    私にはこれをお腹にいる誰かに見せる義務がある。私が見たことあるのも、ないのも、綺麗なものは全部。もし、そういうもの全てから私が目をそらすとしても、でもすでにここにいる誰かには手に入れさせてあげなきゃいけない。だってここにいるこの子は私ではないんだから。

    「その子は、朝ごはんを、まだ、食べていないの、」

  • これは心にずっしり来るなあ。。
    小豆島に行った時に、本作品の映画をかなり推してたので、試しに手に取ってみたらイッキ読みでした。
    子供を育てるという事、家族のありかた、愛のもつれ、考えるだけで苦しくなるような事ばっかりでしたが、千草も恵理菜も自分を見つめ直して、辛いことばかりじゃないと強く考えて、母親をやり遂げようとする姿は心打たれました。
    希和子もいつか小豆島に行けるといいな…。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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