蓮の数式 (中公文庫 と 33-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122065154

感想・レビュー・書評

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  • 目に見えるものがすべてではない。
    「助けてあげてる」が追い詰めることもあるし、
    「子供を捨てた」が子供を産むための最大の愛情であることだってある。
    麗が求めていたのは理香の夫から無視されていなかったことにされたり、理香は夫への恐怖心でこちらを見てくれず戸籍もない死人としての自分を見つけてくれる誰かだった気がする。
    それは賢治や美津子のような押しつけてくるような発見ではなく、つらいことを吐き出す先ではなく、ただただ一緒にいたいと願ってくれる誰か。
    千穂に出会うまで、麗が数えられないことは理香に愛されたい理由だった。
    だけど千穂に出会ってからは千穂が見つけてくれる理由に変わった。
    悲しいことが積み重なって、事実だけ見るとずっと悲しいけれど、二人にとってはそうではないのかもしれない。

  • 不妊治療を10年続けていても妊娠しない主人公。同居の義母からもひたすら嫌味を言われ、夫は味方になるどろこか一緒に彼女をなじり全てを束縛しようとする。
    4回目の流産が判明した日、夫が交通事故を起こすが、同乗中の彼女に責任を負わせる。事故の被害者の若い男性はは他人と関わりを持ちたくなさそうで治療費を受け取ることさえも拒んだが、彼が算数障害であることに主人公が気づき、それがきっかけで算数を教えることになったのだが、夫に浮気の疑いをかけられ、彼と共に逃亡する。
    一方で妻をある女に殺された男性は、その事件に関わりのある若い男性を偶然映り込んだテレビ中継で発見したが、その男は子供の頃に死んでいるはずだった。違和感を感じた男性はテレビで見た男を探し、それがやがて逃亡中の男女とも絡み、事の真相が明らかになっていく。

    それぞれが闇の部分を抱え、それをどうにか処理しようとして、逃げる者、口を閉ざす者、真相を明らかにしようとする者などが交錯する。善意の悪が引き起こした事件だったり、悪意の悪が引き起こした事件だったり、どうにも救われない感じ。

  • 期待を裏切らない遠田潤子、この作品でも暗くて重い魂のブルースが延々と刻まれていく。楽しい話ではない、やるせない思いが募るばかりなのに、ページを繰る手が止まらない。

    登場人物ほぼ全員が不幸を背負っているが、特に透という算数障害を持つ男が際立っている。「不幸を捨てに行くゴミ箱」…なんという役どころを作ってしまうのか。

    登場人物たちの不幸が、透に収斂されていく切なさ。際立った悪役が2名いるのだが、彼らが(直接的には)透に不幸を捨てなかった稀有なキャラだという皮肉な設定も、上手いというか際立っているというか…。

    遠田潤子の小説を読むと、「こういう生き方をしたくない」と思うことが多いが、この作品では、これにつきる。

    他人に不幸を捨てに行くような生き方をしないでおこう。これはもう本当に。

  • この本は、先にいくつか読んだ本と少し違うパターンだった。
    いつも通り不幸な男と女が出てくるので、何となく筋は読めるが、文章力でぐいぐい引き込まれる。
    破滅に向かうストーリだが、情景描写も素晴らしく飽きさせなかった。そして、読了後はやっぱり疲れた。

  • 遠田先生の描くシチュエーションには、「こんな不幸、ある?これ以上やめて」と重たい気持ちにさせられる。
    けれども同時に、登場人物たちの片鱗には、深く共感してしまう自分もいる。

    透の、千穂から生まれたかったという気持ちは本物だったんだろうなぁ。生まれてやり直したいと思える程の希望が、千穂との逃避行にあったのだとしたら、透の人生には何も残らなかった訳じゃないと思いたい。

    登場人物たちがそうであったように、私も透という人間が放っておけなくて、最後まで読んだような気がしました。
    ゴミ箱という表現をされるような透にとって、自分を人間として求めてくれたのが千穂で、彼は彼女に母親を求めていたような。

    家族であっても知らない面や分かり合えない面がある中で、殺人者であるこの2人はお互いを本能で理解し合い、必要とし合っていたのだな、と思います。

  • 先の展開が気になって一気読み。
    結末は物悲しくて気持ちもすっきりしないけれど、行き着く先で幸せになれることはない展開だったから致し方ないか。

  • 悪意と悲劇の満漢全席で、正にTHIS IS 遠田潤子な物語だが、題材を色々盛り込み過ぎで何だかどれも消化不良な印象。人物描写が丁寧な遠田作品にしては展開が早すぎて乱雑にすら思えるが、登場人物全員どこかしら歪んでいるので、そもそも共感を前提とした物語ではないのかもしれない。しかし、ラスト二頁に込められたメッセージは痛烈で、欲望の捌け口だった大西麗の虚無感や、子供らしさを奪われた新藤恵梨の届かぬ叫びを通し、読者に対しても鋭利な刃を突き付けてくる。度を越した善意は悪意を凌駕するエゴに成り得るから恐ろしい。

  • 大人買いするほどは著作が出ていないため、マイブームになっているとまでは言えないけれど、まちがいなく今いちばん惹かれる作家です。

    見初められて身分違いの結婚をした千穂。玉の輿に乗ったはずが、不妊のせいで姑と夫から嫌みを通り越して虐待を受けている。そろばん塾を経営する千穂は、透という若い男と知り合う。算数障害の透に親身になる千穂を見て、浮気を疑う夫。一方、かつて殺人事件で妻を亡くした老人は、殺人犯の息子で死んだはずの少年・麗の面影を持つ透を見かけ、麗と透が同一人物ではないかと考える。

    引き込まれ度という点では満点です。主要な登場人物に心から共感できる人柄は出てこないのに、千穂と透の逃避行の行く末がどうなるのか気になり、途中で本を閉じることができません。算数障害というものも初めて知りました。

    人は、自分の測りでしかものを見ていない。幸せか不幸せかも本人しかわからないこと。障害に対する無理解に気づかず、いかに自分の尺度でおせっかいを焼いていることか。心に闇を抱える人の役に立てるはずだとの思い込みが、時にその人を苦しめているのだと痛感します。また、報道は必ずしも真実ではないということ。本当にわかってくれている人がわずかでもいればいいんだろうか。辛すぎて、厳しすぎて、読後は呆然。それゆえ、引き込まれ度は満点だけど、好き度の点では悲しすぎてマイナス。

    蓮の花がポンポンと音と立てて咲くシーンだけが美しく目に浮かぶ。

  • 夫と義母に虐げられながら自分を殺して生きる千穂。夫が起こした交通事故の身代わりとなり、被害者の透と接触したことから、千穂の運命は大きく変わり始める…。
    久々に冒頭から引き込まれ一気に読んだ。
    婚家にいても逃避行へ出ても、透をはじめとした登場人物たちの生い立ちが明かされたり、殺人が繰り返されたりと、昏く付きまとう空気に、一体どこに終点があるのかと思いながら読んだが、終章の存在にやや救われ、読後感はそれほど重くならずに済んだ。

  • 三ヶ月足らずでこの人の作品を5冊読みました。
    こんなに続けて同じ作家の本を読むのはかなり久し振り。
    今回もまるで読者を突き放すかのような憂いを持った登場人物たち。
    算数障害を持つ透とそろばん講師の千穂。
    この二人、お互いの寂しさの埋め方が吉田修一の『悪人』の二人の関係を彷彿とさせる。

    今回の遠田作品は他と比べると少し異色な感じがして、
    何だか他の作家さんの本を読んでいる様。
    遠田節は健在なのですが。

    ここまで来たら遠田作品、制覇するしかないな。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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