蓮の数式 (中公文庫 と 33-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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本棚登録 : 258
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122065154

作品紹介・あらすじ

35歳の千穂は不妊治療を始めて10年。一方的に原因を押し付けられ、夫と義母からの嫌味に耐え続けてきた。ある日、夫の運転する車が男と接触してしまう。「金で解決しろ」と処理を押し付けられた千穂は、男に謝罪しようと姿を探し続ける。その過程で、被害者の男がディスカリキュリア(算数障害)であることに気付き手をさしのべようとする千穂と、その行動を訝しむ夫。一方的に疑われたことで、これまで抑えてきた感情を一気に爆発させた千穂は、ある事件を引き起こしてしまうのだった――。

感想・レビュー・書評

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  • 凄い作品だった。

    人間の厭らしい所と素晴らしい所が随所に散らばっていて考えさせられる事がいっぱいあった。

    ストーリー背景は何故か昭和をイメージしてしまう。携帯電話とかネットとか出てくるのにも関わらず登場する人物達が何故かその雰囲気を醸しだしている。

    ミステリーというよりは官能的であり文学的だと感じた。

    「コンプレックス」がテーマになるだろうか?
    各々のコンプレックスが積み上げられ、過去が継続して現在に至り、苦しみの中で更に苦しみを重ねる。
    勿論希望もある。しかし希望に希望を重ねる事はしない、それをしてはいけないという抑止力がそうさせる。
    弱さが顕著には出せず、理解の薄い人間関係の中で飲み込むしかないようにその弱さを溜める。そして苦しむ弱い者達が更に弱い者を苦しめる。なめあおうとしない。
    究極の人間らしさなのかもしれないと感じた。

    最後は投げかけられるような、問いかけられるかのような終焉。

    まるで自分に言われているみたいな感覚を覚えた。

  • デイズカリキュラムである麗(透)の苦境と夫との不妊に悩まされる千恵子の苦境が二人を何となく結びつけ、過去を振り切るため逃げるが、結局は友に裏切られて罪を重ねてしまう。なんか理解するのが難しかった。

  • 目に見えるものがすべてではない。
    「助けてあげてる」が追い詰めることもあるし、
    「子供を捨てた」が子供を産むための最大の愛情であることだってある。
    麗が求めていたのは理香の夫から無視されていなかったことにされたり、理香は夫への恐怖心でこちらを見てくれず戸籍もない死人としての自分を見つけてくれる誰かだった気がする。
    それは賢治や美津子のような押しつけてくるような発見ではなく、つらいことを吐き出す先ではなく、ただただ一緒にいたいと願ってくれる誰か。
    千穂に出会うまで、麗が数えられないことは理香に愛されたい理由だった。
    だけど千穂に出会ってからは千穂が見つけてくれる理由に変わった。
    悲しいことが積み重なって、事実だけ見るとずっと悲しいけれど、二人にとってはそうではないのかもしれない。

  • 何度もため息をついて本を閉じた。
    12年前の殺人事件の真相や高山透の正体のミステリーの謎解きはもちろん、二人の逃亡生活の顛末が気になって先を読み進めたいとはやる気持ちもあるのに。
    僅かな自分の大切なものを守るために躊躇も罪悪感も後悔も無く人殺しを重ねる透の心の壊れっぷりが凄まじくて、あまりに不幸な生い立ちに同情しても真っ直ぐに感情移入が出来きず、逃亡劇が順調でもモヤモヤするし悲惨な結末に突き進んでいっても悶々とする。
    一筋の希望の光が差す結末ということなのか。この悲痛な物語を読んだ後には直ぐには素直にそうは受け止められない。

  • 人の想いもその想いの受け取り方も思うようにはいかなくて、すれ違ったり誤解を生んだり、重なって重なってある日悲劇がおこる。遠田潤子さんの作品は崖っぷちを歩く人がたくさん出てくるのでいつも胸が痛い。

  • 算数障害の男とそろばん塾の女の逃避行
    ってことになるのかな
    女は既婚だが夫と姑に挟まれて・・・
    あの展開はしょうがないよなぁ
    でもやりすぎ
    流れの中で徐々に明らかになる男の過去
    そして男を追う男たち
    引き込まれました

  • 長年の不妊治療と四度の流産と、高圧的な夫、姑との苦しい生活から逃れたのは、年下の影のある青年、高山透との出会いだった。
    そろばん塾を経営していた千穂は、彼が算数障害を抱えて苦しんでいることに気づく。
    浮気を疑う夫に暴行され、それを止めない姑。ボロボロになった千穂が頼ったのは、透だった。
    罪に罪を重ねて、二人の逃避行が始まる。
    久しぶりの遠田作品。
    毎回読む前からわかっているのに、ズンと気持ちが凹む。これでもかという程、理不尽な目に合い、闇を抱えた主人公につい感情移入してしまう。
    逃げて、逃げて、逃げ切って欲しいとラストまで一気に読んだ。
    終章の恵梨視点の内容に唖然とし、無性に腹が立つ。子供だったとはいえ、麗を更にあの環境にしてしまった罪は重いはずだ。
    娘にも申し訳ない気持ちがあったから、父が真実を伝えてないだけで、読み手の自分はなんだこいつ?!と怒りが・・・・笑
    今回も遠田ワールドにどっぷりはまってしまった。

  • 今まで読んだ遠田作品の中では一番好きかも。
    遠田作品は基本暗くて重いから、読み終わった後にもう読むのやめようと毎回思うけど、なぜかまた手に取ってしまう。
    本作が一番好きと思ったのは新藤賢治という救いがあったからかな。
    相変わらず結末は悲しいけど、読後感は悪くない。

  • 自分を大切にしてくれない夫と義母の生活にぷつんと切れた妻の逃避行。逃避行の相手は闇を抱えた男。登場人物みんなに悲しい過去が…。

  • 不妊治療に疲れた人妻が年下の男と逃避行に出る話で、暗すぎて半分くらいで挫折。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠田潤子の作品

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