NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者の光と影

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140812822

作品紹介・あらすじ

ついに「ポアンカレ予想」が解決した!ところが…。世紀の難問に挑み、敗れ去った幾多の数学者と見事に解決したにもかかわらず姿を消した天才グリゴリ・ペレリマン。数学という魔物がもたらす数奇な運命とは-。

感想・レビュー・書評

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  • 正直、ミレニアム問題もポアンカレ予想も知らなかった。理工学部の大学生になったということで、スタートラインとしてとっつきやすそうな本書を手に取ってみた。
    数学を極めすぎたことによって人生があらぬ方向に行ってしまう。こんなにも難しいことに挑戦する博士たち、人類がまだ見ぬところに到達するために全てを目の前の難問に捧げる博士たち。好きなことにならここまで熱中できるのか。天才だからここまで極めてしまうのか。
    そして数学は奥が深い。どんなに世界は変わっても数学は普遍的な態度を取り続ける。そこに数学という学問の魅力があるのかもしれない。

  • 100万ドルの懸賞金がかかっていたポアンカレ予想にまつわる本です。物語として非常に面白いです。

    理図書 415.7||Ka79 11941663

  • ポアンカレ予想解読にまつわるドキュメンタリーの書籍化。概略の尻尾くらいはなんとなく分かったような気にさせられるNHKの力量おそるべし。
    しかしテレビでやる内容ではないよな。この前のエヌスペもそうだったけど、数学はテレビ向きじゃない。活字じゃないと薄っぺらになり過ぎる。

  • これ以上集中するともう元には戻れなくなるんじゃないかという感覚に襲われる時がある、という羽生さんの言葉を思い出しました。凡人には、そんなことがありうるのか?と不思議な感じがします。しかし、ひょっとすると、元々は笑い上戸で明るい性格の青年だったペレリマンが世の中との交流を絶って数学に没頭するようになったのは、まさにその戻ってこれなくなる領域に入ってしまったからなのかも知れません。

    集中しすぎると脳神経がそういうダメージを受けるのだろうか?
    数学というよりそういうところに関心がわきました...

  • なぜ解けたかはこの本を読んでもイマイチわからないなあ。タイトルがダメだけど内容はさらっと読めて概要はわかった。

  • 数学の内容は難しかったけど、すごく興奮して一気に読み終えました。面白かった。

  • ポアンカレ予想の解決とそのなぞについてNHKスペシャルでやっていたものを本にしたもの。
    ポアンカレ予想の単純に見せかけた複雑な模様をインタビュー形式を交えながら。
    数学者ってこんな人がいるんだ、というのを感じられた。

  •  フランスの数学者アンリ・ポアンカレが、1904年に発表した論文の中で提起した難問。通称「ポアンカレ予想」。その後、その証明に多くの数学者が挑み、敗れ去っていった。
     そして発表から100年を経た21世紀初頭、ロシアの数学者グリゴリ・ペレリマンがついにその証明に成功、数学界のノーベル賞と呼ばれる「フィールズ賞」を受賞する。しかしその後のペレリマンの行動が数学界のみならず世界を騒然とさせる事になる。
     何とペレリマンはフィールズ賞の受賞を拒否。またこの問題の証明にかけられていた懸賞金100万ドルも受け取らなかったのだ。
     世界が衝撃をうける中、ペレリマンは世捨て人として人前から姿を消してしまう。やがてある噂が数学界に流れ始めた。
    「ペレリマン博士は数学の世界を離れ、サンクトペテルブルグの森で趣味のキノコ狩りを楽しんでいる」

     一体ペレリマンとは何者なのか。ポアンカレ予想とは何だったのか。それを検証したNHKのドキュメンタリーを書籍化したのが本書である。スタッフは数学の世界を右往左往しながら数学者の本質に迫っていく。

     この番組を制作したスタッフは皆数学の素人であるらしい。彼らは本書中で何度もポアンカレ予想については完全には理解できないという旨の事を書いている。だがそれが逆に効果をあげている。
     そう、それでも彼らを突き動かしたのは、数学という世界の面白さである。難問に挑み一生をなげうった学者たちの情熱に触れるたび、数学の何がそこまでさせるのかという興味がわいてくる。

     ポアンカレ予想とは、すごく簡単に表現すると≪単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相と言えるか≫というものだ。
     既にこれは日本語だろうかと頭が痛くなってくるが、これは宇宙の構造にまで関係してくるとても面白い命題なのだ。本書でも現役の数学者が登場してわかりやすく問題の中身を説明してくれる。これでポアンカレ予想の表面だけにでもとりあえず触れられる。

     この問題が100年にわたり数学者たちを悩ませることになる。証明の一歩手前まで進みながらもたどり着けなかった者、あまりの難問に中途で諦めた者。生き様はそれぞれだが、彼らに共通しているのは数学で世の中を解き明かすことへの情熱である。
     ポアンカレ予想の証明に一生を捧げたギリシャ出身の数学者、パパキリアコプーロスが同僚に告げた言葉が印象的だ。
    『若い頃にギリシャに恋人がいたが、両親に反対されて諦めた。アメリカに来て以来、この有名で偉大な問題に自分を捧げなければならないと感じ、それが生活の中心になっている』『これが解けたら、祖国に帰って自分に合う女性を探せるかもしれない。そのためにもポアンカレ予想を早く証明しなければ』
     結局彼はポアンカレ予想の前に敗北した一人として一生を終えてしまうのだが、この言葉に数学者の人間的な一面を垣間見た気がする。ストイックに難問に取り組む彼も、胸の内に強い感情を閉じ込めていたのだ。同僚の数学者は言う。「彼がもし違う人生を選んでいたら、きっと女性を幸せにしていたことでしょう」この言葉に僕は泣きそうになった。

     ポアンカレが書き残した言葉が数学の本質を表しているかも知れない。
    「Mais cette question nous entrainerait trop loin(しかしこの問題は、我々を遥か遠くの世界へと連れて行くことになるだろう)」
     数学者たちは数学を通してもっと遠くの世界を目指している。

     本書を読み進めていくうちに感じるのはフィールズ賞というものの存在の大きさである。四年に一度だけ与えられ、過去70年の間に44人にしか授与されていないフィールズ賞。それが数学界で果たしてきた役割の大きさは良し悪しを含めて描かれている。
     そんなフィールズ賞の栄誉に背を向けたペレリマン。スタッフたちがある人物を通して彼とコンタクトをとろうとするラストはものすごい緊迫感だ。果たしてスタッフたちはペレリマンに会う事ができるのだろうか。

     数学者たちの姿を通して数学の世界の面白さと魅力を取材した本書。トポロジーなど数学の勉強も少しできます。「ミレニアム懸賞問題」なんてのも興味深い。
     数学は高校時代以来、という方でも読みやすいだろう。そして数学の世界の奥深さに飛び込もう。

     本書は2008年の6月に出版されたが、僕の手元にあるのは2008年11月に発行された第5刷。売れているのだ。こんな本が売れている事が僕は嬉しい。

  • ペレリマン博士は、きっと、リーマン予想に挑んでいるに違いない!彼の家の周辺では、アメリカ国家安全保障局の諜報員がうろついていることだろう・・・

  • 数学における最大の難問のひとつポワンカレ予想を証明し、一躍時の人となったものの、栄誉を拒み姿をくらませた天才数学者ペレリマンの実像に迫る、という数学ドキュメンタリー。数学という普通一般人が敬遠しがちな学問分野を扱う上では仕方のないことかもしれないが、周辺情報を盛り込みすぎて(その上それらについての解説は浅く、むしろ消化不良になる)、一番重要であろうペレリマンがこの予想と格闘する数年間の描写がかなり手薄になっていたことはいささか残念だった。とはいうものの、この本全体を通して語られる「問題と対峙する上で、ひとりでストイックに問題のことだけを追及するのか、自分の研究時間を犠牲にしてでも外部と交流をもち、自身の研究分野の底上げ及び発展を目指すか」という二つの態度の紹介は興味深かった(ちなみにペレリマンは前者のやりかた)。また、さまざまな数学者へのインタビューも普通に人生訓として読め、ためになる。

  • 歴史的難題「ポアンカレ予想」を証明したペレリマンの話。フィールズ賞を辞退し、数学界から去った、読むほどに謎が深まる話。純粋に数学に興味がある人には拍子抜けかも。サイモンシン『フェルマーの最終定理』のほうがオススメ。

  • 宇宙空間の「中」にいる人類が、宇宙の外側から見ないと分からないはずの「宇宙の形がどうなっているか」を予測できるなんて、ロマンがありますね!

  • 「単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相である」

    まったく意味がわかんねーしつまんなそー。初めてポアンカレ予想を見たとき、そう思った。
    しかしある数学者は見た瞬間これが重要な問題だとわかったという。
    でこの本だが、世にポアンカレ予想本がどれだけあるのか知らないけど、たぶん最も一般向けでわかりやすいものかと思われる。

    つまんなそうに思えたポアンカレ予想の意味がかなりわかった気になり、数学的にも実はかなり面白いものだということがわかった。
    気がする。
    まさかこの命題が宇宙の形を調べる方法を提示するものだとは想像もつかなかった。
    本当に素晴らしいよな、数学って。

    それにしてもペレルマンさんはどうしてるんだろう。気になるけど、この本によると新たな問題に取り組んでそうだという。
    なんか著者がジャーナリスト的な手柄をたてたくて、都合よく解釈してるだけじゃないかという訝りもあるけど、本当だったらなんとうれしいことだろう。
    (2008/08/08)

  • TVの放送を体調悪くなる途中まで観てたけど、おもろかった。
    本でちゃんと読みたいなぁ。

  • ポアンカレ予想を証明した数学者ペレリマンを追ったNHKのドキュメンタリー番組を元に書かれた本。

    ポアンカレ予想はフランス人数学者アンリ・ポアンカレが1904年に発表した論文の最後に残した問いかけから生まれた。その問いかけとは「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相と言えるか」である。(端的に解説できない為詳細は省略)そして数学の7つの未解決問題、ミレニアム懸賞問題の一つだった。ミレニアム懸賞問題を証明した暁には100万ドルの懸賞金が約束されていた。
    2006年、ロシア人数学者グレゴリ・ペレリマンによってポアンカレ予想は証明された。彼には数学界のノーベル賞と名高いフィールズ賞が授与されることとなった。しかしながら、彼は受賞を拒否した。さらに懸賞金の受取も拒んだ。一躍マスコミの注目の的となる中、彼はひたすらに沈黙を続けた。
    そしてついに、ペレリマンは数学界ひいては人間社会から消息を眩ました。

    【感想】
    ポアンカレ予想について易しく知りたくて読みました。一般人向けに噛み砕かれた説明で、おおよそのイメージは掴めたので満足です。しかし言葉での説明には限界があり、数式に触れなければ真の理解はできないのだろうと思います。数学者が見ている世界はどんな面白さに満ち溢れているのか、凡人ながら気になります。
    そしてマスメディアなのでしょうがないとは思うけれど、ペレリマンのことはそっとして置いて欲しいと思いました。執拗にコンタクトを取ろうとはしていたけれど、彼の身に立てば迷惑極まりない行為でしょう。彼は信念を持って社会との関わりを絶っているのですから。彼が次に表舞台に姿を現した時、歴史は再び大きく動くのかもしれません。

  • 本書は、「100年の難問」といわれたポアンカレ予想を証明した、グリゴリ・ペリルマン博士を追ったNHKスペシャルを元にした作品です。
    そもそもポアンカレ予想とは、「基本群が同相に置き換えられても、単連結体にならない可能性はあるか?」つまり「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相といえるか」というものである。
    だが、正直この予想とその証明自体は難しくてよくわからないが、数学者の「難問に挑み続ける病」、未知への憧れを追求し続ける、その純粋さには感動せずにいられない。

    【参考図書等】
    ・科学と仮説(アンリ・ポアンカレ)
    ・科学の価値(アンリ・ポアンカレ)
    ・科学と方法(アンリ・ポアンカレ)
    ・晩年の思想(アンリ・ポアンカレ)
    ・ペトロス伯父と「ゴールドバッハの予想」(アポストロス・ドキアディス)

    【引用】

    (数学者の自分の決めた行動原理を守るという点について)多くの数学者に共通した特徴と言えます。彼らの多くは自分が決めた原則に忠実で、他人との人間関係のためにその原則を曲げることは稀です。

    数学は長年培われた人類の知恵の集合体で、いわばそれ自体に生命が宿っていると考えていたのです

    数学者とは結局、「難問に挑み続ける」という病から逃れられない生きものなのだろうか。

    自分の人生を他人に勧めようとは思わないが、自分はこれで良かったんだと。その気持ちはわかります。数学者が難問に惹かれる気持ちは、皆同じですから。
    数学者は常に、楽しみと苦痛とが織りなす日常、そして『特別な数学の世界』とのあいだを往き来しています。数学の世界への扉を開けられる者は限られていますが、そこには永遠の真理があり、すべてを理解できる者だけが、その世界で完璧な美を目撃することができるのです。まるで迷宮に迷い込んでしまったかのように、クリスタルの壁に乱反射する美しい光に数学者は思わず取り憑かれてしまうのです。

    数学者は、例えば英語や中国語と同じように「数学語」という特殊な言語を身につけていると考えるべきだという。その言語をマスターしなければ、数学者の言うことの真意はわからない。つまり、数学的基礎をひととおり学んでいない人間が数学者と同じ視点に立つことは容易ではない、という意味だ。

    (学生時代、教師の期待している考えと自分の考え方が合わなくて苦痛だったが、)ところが数学者になってみて、自分は正しいことをしていると感じられるようになりました。『こうすべきだと他人から言われた方法をやるのではなく、自分の直感に従うべきなのだ』と思い、最終的には『理屈を積み重ねなくても論理の本質を掴み、それを一目で見ることができる物事の考え方』を見つけるのが好きになりました。

    数学の本質とは、世界をどういう視点で見るかということに尽きます。数学的な考え方を学べば、日常はまったく違って見えてきます。文字どおりの『見る』、つまり網膜に映るという意味ではありません。学ぶことによって見えてくるという意味です。

    ある一面で数学者とは、世の中に存在する無数の事柄のあいだに共通点を見出し、それに名称を与えて巧みに分類する仕事だ、と言えなくもない。

    「物理学や化学における『真理』は時代によって移り変わる。しかし数学的真実は、一〇〇〇年前も、そして一〇〇〇年後も真実であり続ける」

    (賞金が、難問に取り組む一番の動機となるかという問いに対し)「それはあり得ません。この質問には、ひとりの数学者として答えさせてください。数学者が問題に挑む動機、それは未知なるものへの憧れです。数学者に意欲を起こさせるものは、子どもたちに意欲を起こさせるものとまったく同じです。ただ、知らないことを知りたいのです。  子どもは自分の周りの世界を理解したい生きものです。生まれついての科学者なのです。私たち数学者はいわば、大人になってもその好奇心を持ち続けているだけなのです。数学者の好奇心は、南極や北極やアマゾンを発見した探検家たちとも変わりません。いまやこの地球上では、まったく未開拓だと思われる場所はだいぶ少なくなってきました。でも頭の中の知的世界には、何の制限もありません。未知なるものは無限にあるのです」

    「例えば登山家は、普通の人とは違い、山で命を落とすことを恐れません。数学も同じなのです。たとえ命と引き替えでも構わない、世の中の他のことなど、愛する数学に比べれば、取るに足らないものだ。数学の真の喜びを一度でも味わうと、それを忘れることはできなくなるのです」

    数学者は数学に人生を賭けている。いわゆる浮世離れした「天才」というのではなく、好きなことを続けるために世間に惑わされない自分なりの行動規範を作り、それを守るために地道に努力を続ける人たちだと感じた。

    【内容:アマゾンから転記】
    ついに「ポアンカレ予想」が解決した!ところが…。世紀の難問に挑み、敗れ去った幾多の数学者と見事に解決したにもかかわらず姿を消した天才グリゴリ・ペレリマン。数学という魔物がもたらす数奇な運命とは―。

  • 遠くの世界に連れていってくれる素晴らしい本

  • 数学的な記述はほとんどないので、誰でも気楽に読むことができるが、理系の人が読むと少し(だいぶ?)物足りない。

    Poincare予想は位相幾何学的な言葉で記載されているので、その主張を理解するだけでもすこし解説が必要であるが、穴が開いていない(単連結な)3次元空間は球体と同位相ということを二次元の例、つまり、平面上で穴が開いていない平面は球体の表面と同位相でしょ、というよくある言葉で置き換えている。
    Perelmanの証明は全くといってよいほど記載されていない。

    PerelmanがPoincare予想を証明したときに、位相幾何学ではなく微分幾何学のツールを使って証明したようであるが、その時に、位相幾何学者は3回ガッカリしたそうだ。

    まずはじめに、自分ではなくPerelmanによってPoincare予想が解かれたことにガッカリし、次にその証明が位相幾何学ではなく微分幾何学を使用して解かれたことにガッカリし、そして最後にその証明が全く理解できなかったことにガッカリした、そうである。

  • 2020.11.5

  • Nスペは観たけれどずいぶん前なので忘れている。でもたぶん番組の流れ通りだった気がする。四色問題の解決に、ブラックボックスである計算機の結果を信じてよいのか?という問いかけが、昨今の「AIを信じていいのか」に通ずるものがあると思った。天才サーストン博士が自分の育てられ方を窮屈だと感じていたように、大人の思惑と違う行動をする子に対して大人はどう対処してよいか分からず、自分の考えを規範とするしかなくどうしても押さえつけてしまうことはよくありそう。ポッキリ折れてしまわなければ良いけれど。本書に登場する数学者たちが純粋すぎてなぜか悲しくなる。今もこのような静かで孤独な闘いがどこかで行われているのだろう。でもたぶん本人たちはそれを望んでおり、それで良いのだと思う。

  • おや?
    っと本屋で立ち読み。

    「ポアンカレ予想」って何?
    宇宙の形を予想するの?

    そんなスゴイ人が賞を断ったんだって?

    今は、世界中の研究者が実際の宇宙の形を調べているんだって。久しぶりに宇宙の話も面白いですね。

  • 1228円購入2011-02-28

  • 本書は、数学について書かれたものではなく、数学者という特殊な生き物について書かれたものである。したがって、「100の難問(ポアンカレ予想)」についての解説はほとんどなく、これを解いたペレルマンおよび、その関係者について焦点があてられている。 この方法は、決して悪いわけではなく、むしろ、ポアンカレ予想とは「3次元ホモトピー球面は3次元球面に同相」であり、これは・・・などと数学用語を並べたてるよりは良いのかもしれない(数学を学んだこと、特にトポリジーが大好きだった私にとっては若干ものたりないが)。 というわけで、この本は、謎の数学者ペレルマンに肉薄しようとする。しかし、このペレルマン、数学以外に興味がなく、外界との接触も断ち、母親と隠れるように生活している。数学者なら誰しも憧れるフィールズ賞まで拒絶し、数学ミレニアム問題を解いた者に与えらる100万ドルさえも拒否。どこまで、変わっているのか、天才もここまでくれば狂人と区別がつかない。このような人の人物像に肉薄するためには、一緒に過ごしたことのある人か、ペレルマンと同じ志を持っていた人に当たる以外手がなく、実際にそうしている。 そのインタビューの中、ある数学者が、「このような難問に一人で立ち向かうことは、なにより恐ろしいまでの孤独と立ち向かわなければならない。その厳しさが、明るく快活だったペレルマンをあのようにしてしまったのではないか」というようなことを言っていた。その時、10年解けなかった問題に取り組んだ日々のことを髣髴とした。ああ、そうだった。数学とはそういうものだった。覚醒と狂気の狭間にあるその断崖に一人立ち、深淵ともいえるその狂気に引き込まれる恐怖と、引き込まれたい願望との葛藤。これこそが、ペレルマンをしてポアンカレ予想を克服させ、と同時に人格を破壊させた。数学の本質とはかくも厳しいものである。

  • NHKスペシャルを書籍化した本なので、とても読みやすい。
    テレビだったら、さらにわかりやすかったんだろうな。
    ポアンカレ予想とそれに挑戦する数学者について、何となく触れることができた。

  • ペレリマン博士。ロシアの天才数学者。ポアンカレ予想を証明した。フィールズ賞を受賞したが拒否した。100年の間解かれなかったポアンカレが予想した問題(単連結な三次元閉多様体は三次元球面と同相である)がどうして解かれたかを追った内容。面白かった。

  • NHKスペシャルが元である。数学のミレニアム問題にもあげられているポアンカレ予想がついに証明された。一般向けのため数式はもちろんほとんどない。したがって数学者以外にはこの難問がどう難しいのかさえわからないが、この難問に挑んだ数学者の数々のドラマが推理小説並みに面白い。
    著者の春日真人氏は東大大学院理学研究科を卒業したディレクターである。おそらく製作者に数学の要素がなければこの人間ドラマにスキャンダラスな面を強調しただけの全く面白くなかったであろうことは想像に硬くない。

  • 2007年に放送されたNHKスペシャルの内容らしいが、番組は観ていない。

    本書は番組の内容を取材の様子を交えながら、一冊の本に書き下したものである。フランスの数学者であり、物理学者でもあるアンリ・ポアンカレが提起した超難問「ポアンカレ予想」に関して、これを解決したグリゴリー・ペレリマン博士に迫ろうというドキュメンタリーのような内容だ。

    内容は、ポアンカレ予想とはどんな問題かというところから始まり、時間を追ってその難問に挑戦した数学者たちの成果や苦労などが描かれている。数学についての詳細な記述はもちろん出てこないが、専門用語などは注釈にしてわかりやすい解説になっていると思った。
    数学の話も、先生方が語るたとえ話をもとに、丁寧な説明でおもしろい話になっていると感じる。ペレリマン博士の具体的な結果については理解するのが難しいが、それでもどんなことをして、そこがすごいのかはなんとなく伝わってきた気がする。

    残念ながら、最後の下りではもう一度博士と再会することもなく、賞金の辞退やロシアにこもってしまった理由などは不明のままになったが、「間違いなく何かに挑戦し続けている」という文面が非常に印象に残った。また博士の新しい論文がarXivなどに現れることがあるのかもしれない。

  • よくわからない。

  • 非常に高潔な数学者が,多数の凡庸な数学者が作り出す社会と絶縁したというのが本当のところなのではないかなと邪推します。瑣末な研究を沢山行って生まれる業績で,学会に幅を利かせる人はどの業界にもいるからねぇ。


    *****
    彼の怒りは理解できないわけでもないですが。おそらく彼の心の中では,[フィールズ賞を]辞退したほうが気が楽だったのでしょう。(p.119 スメール博士の言葉)

     数学の本質とは,世界をどういう視点で見るかということに尽きます。数学的な考え方を学べば,日常はまったく違って見えてきます。文字どおりの『見る』,つまり網膜に映るという意味ではありません。学ぶことによって見えてくるという意味です。(p.146 サーストン博士の言葉)

    私は身に沁みて知っています。最初に何かを考えだすとき,そこには孤独がつきものなのです。(p.156 サーストン博士の言葉)

     サンクトペテルブルクに戻ったペレリマン博士は,ステクロフ数学研究所に勤務し,何かに取り憑かれたかのように研究に没頭した。学生時代の博士を知る同僚たちは,その変わりように唖然としたという。
    「大学院で一緒に勉強していた頃,ペレリマン先輩は明るい普通の若者でした。私たちは一緒にパーティーに参加したり,新年をお祝いしたりしたんです。夏休みには勤労奉仕でコルホーズ(集団農場)にも行きました。他の仲間となんら変わることはなかったんです。
     でも,アメリカから戻ってきた彼は,まるで別人でした。ほとんど人と交流しなくなったのです。昔みたいに声をかけることもできない。私たちとお茶を飲んで議論することもなければ,祝日を祝うこともありません。驚きました。以前はあんな人じゃなかったのに」
     ペレリマン博士はセミナーなどの共同作業がある日以外,研究所に顔を出さなくなっていった。人付き合いを極力避け,研究に打ち込む日々が続いた。(pp.175-176)

     数学でもっとも特別な瞬間は,問題を違った角度から眺めたとき,以前見えていなかったものが突然明確になったと気づく瞬間です。鬱蒼とした森だと思っていたのに,適切な場所に自分が立つと,木が整然と並んでいるのが見えるのです。他の角度から見るとその構造は見えずに,混沌とした木だけが見えます。でも,適切な方向に自分が向くと,突然,この構造が見えます。数学とはこのようなものです。私にとってペレリマンの論文はその連続でした。私は何度も『美しい』と思いました。(p.196 ジョン・モーガン博士の言葉)

  • あたし、数学が好きな人フェチかも。

    でもこの本は、
    数学ができる人には物足りないと思う。

    微積がわかんないあたしくらいバカちんで、
    数学好きが好きな人くらいが読んだら丁度いいかも。

    読み終わった時に、春日真人さんを始め、取材クルーの皆さまに心の中でお礼を申し上げた。

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