「司馬遼太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140885178

感想・レビュー・書評

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  • 司馬遼太郎さんの描く歴史小説を、冷静に分析しつつ、そのエッセンスを熱く示してくれていると思います(^^)

  • 第二次大戦中、陸軍の戦車(走る棺桶)連隊に配属され終戦を迎えた司馬遼太郎が、終戦後「なんとくだらない戦争をしてきたのか」との思いに悩む。これが、司馬の日本史に対する関心の原点となったという。
    その陸軍を作り上げた権力体のもとを辿っていくと、織豊時代に行き着く。その戦国から、幕末、明治の小説を取り上げながら、司馬遼太郎が「鬼胎」と呼んだ昭和初期の「日本人の姿(メンタリティ)を見つめ直す」構成になっている。

    日本人には2つの側面(p.54)があるという。
    ○合理的で明るいリアズムをもった、何事にもとらわれない正の一面
    ○権力が過度の忠誠心を下のものに要求し、上意下達で動く負の一面
    歴史を動かす人間」とは、もちろんひとつ目の人間である。「思想」で純粋培養されたひとではなく、医者のような合理主義と使命感を持ち、「無私」の姿勢で組織を引っ張っていくことができる人物(例えば大村益次郎)である。

    なぜ日本の陸軍では不合理がまかり通ったのか。深く考えないという日本的習慣はなぜ成立するのか。明治時代の日本の軍隊は常に新しい強力な武器を持って相手を圧倒する精神があったかもしれないのに、いつからそのような国になってしまったのか(p.71)。
    司馬が「鬼胎」と呼んだ時代の萌芽は、日露戦争の勝利(日比谷焼討事件)にあるという。「日本国と日本人を調子狂いにさせた」(p.149)。多くの軍人が「華族」になり、隣国など他者を貶めて優越感を感じる「歪んだ大衆エネルギー」にも繋がった。もし勇気あるジャーナリズムが日露戦争の実態を正しく伝えていれば、これ以上の長引く戦争は日本を自滅させることがわかったはず(他にも、日本に大きな負の要因要員をもたらした。太平洋戦争で、ソ連が仲裁に働くという期待から、戦争を長引かせ被害を甚大にした。北方領土問題も作り出した)。

    時代を変革するために必要なのは、「合理主義」と「客観性」。そして「リアリティ」と「変化に対応できる柔軟な頭」。こうして、国・集団を誤らせない、個人を不幸にしないリーダー像を司馬遼太郎は描く。
    そのリーダー像の対極にあるのが、伝統(形式)に囚われた人物や組織の在り方、合理主義とは相容れない偏狭な「思想」にかぶれて仲間内だけしか通用しない異常な行動を平気で採ってしまう人や集団。「思想」は人間を酩酊させる。この結果が、敗戦(300万人を超える不条理な死)であった。

    最後に、日本人の最も優れた特徴は「共感性」(いたわり)だという。日本語に主語がないのは「無私の心」があるからだともいう。相手の気持ちになりやすい。気持ちが溶け込んでいる。異文化の人にも適応し理解できる能力、そして「自己の確立」。これらが21世紀に生きる人に重要だと締めくくる。それにしても、司馬遼太郎の小説から受取るメッセージは、現代と未来の日本人に向けた強烈なメッセージでもあると改めて痛感する。

  • 何となく知っていて、頭のなかで整理したかったことが、明瞭に分かりやすく書いてあり、とても良かった。何で敗戦へと突き進んでいったのか、何を学ぶべきか良く理解できる。

  • 司馬遼太郎の作品を読んだことはないが、どういう風に歴史を解釈して描いているのかよく分かった。

    そして、その国民的歴史小説家を歴史学者・磯田道史が解説しているためより理解が深まった。

    幕末の気運とか、どうやって滅んでいくのかとか、勉強になった。
    歴史から学ぶことは多い。

  • ご存知、「林先生の初耳学」などの名物講師、磯田先生が国民的作家、司馬遼太郎の小説から日本史を学ぼうという面白い試みです。
    まずはユニークなエッセンスをいくつか紹介します。(詳細は本書を読んでください)

    織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の違いを好きな女性像で分類しています、信長は「美しい女」、秀吉は「貴き女」、家康は「産む女」(P38)

    司馬作品の特徴の一つとして、トップの視点ではなく参謀や軍師の視点から小説を書くのは、客観性をとても重視したからに違いない、つまり権力や国家を客観的にみる視点がなく昭和前期の日本が行く末を誤った反省からきている。(P40)

    養老孟司先生は、日本人は戦争で目に見えない思想というものに痛めつけられた、神州不滅(日本は神の国)、七生報国(7回生まれ変わっても国に尽くす)という思想を吹き込まれてひどい目にあったので、戦後は即物的なものを信じる合理主義が高じて物質文明へとひた走った。(P75)

    大村益次郎にみるリーダーシップの要素は、合理性と客観性(無私の精神)。(P78)

    尊王思想が武士ではない平民が「天皇の家来」と名乗ることを可能にし、攘夷を掲げて政治に参加する明治維新の原動力となった。(P106)

    戦国時代以前の子供が「僕は勉強して征夷大将軍になりたい」といえば「僭上の沙汰」でうつけものと卑下されるが、明治になると「僕は、陸軍大将になって国家のためにつくしたい」といえば「偉い」と褒められるという「圧搾空気」感の差。(P127)

    統帥権の独走を許したのは、日清日ロで戦勝国となったのは、憲法や議会ではなく軍が頑張ったから一等国になれた、軍こそが国家の中心だという自信過剰を招き、国民も歓迎したから。(P171)

    日本人の体質をうまくまとめています。
    集団の中にひとつの空気のような流れができると、いかに合理的な個人の理性があっても押し流されてしまう(一億総体質)、日本型の組織は役割分担を任せると強みを発揮する一方で、誰も守備範囲が決まっていない(無責任体質)、想定外の事態に弱い(融通が利かない体質)など、司馬氏は日本人の弱みを作品中に描き出している。(P184)

    とてもわかりやすい内容ですので、一読をお勧めします。

  • 2017.9.3 amazon

  • 勉強にはなった。

  • 近年の歴史家の司馬遼

  • 第二次世界大戦へのつながり。
    なるほど

  • 司馬遼太郎の思考をその著作から読み解いた本。
    司馬遼太郎の著作を通して、日本の歴史・日本人の特性を知り、今後の日本について考えられる良著。
    なぜ司馬遼太郎さんの著作は多くの人々を惹きつけ、考えさせるのかが理解できる。

    印象に残ったキーワード
    ・着眼大局、着手小局
    ・格調高い精神にささえられたリアリズムと合理主義をあわせ持たなければならない
    ・司馬さんが21世紀を生きる日本人に伝えたかったこと。「「共感性」を伸ばすこと」「自己の確立」

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著者プロフィール

磯田道史
1970年、岡山県生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(史学)。茨城大学准教授、静岡文化芸術大学教授などを経て、2016年4月より国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』(新潮新書、新潮ドキュメント賞受賞)、『無私の日本人』(文春文庫)、『天災から日本史を読みなおす』(中公新書、日本エッセイストクラブ賞受賞)など著書多数。

「2022年 『日本史を暴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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