無伴奏ソナタ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF カ 1-26)

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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150119409

作品紹介・あらすじ

超大型SF映画《エンダーのゲーム》の原作短篇版など、全11篇を収録した傑作短篇集!

感想・レビュー・書評

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  • 翻訳された海外の小説を読んで
    ムッとしてしまうことは通常ないのだが、
    多分、著者と担当編集者のドヤ顔が透けて見えるせいで
    若干不快感を催したに違いない。
    (新装版なのだから、あの序文は外せばよかったのに……)

    気を取り直して、
    全11編中「まあまあ面白かった」作品について。

    「エンダーのゲーム」
     異星人の攻撃から地球を守るために設立された
     バトル・スクールで
     指揮官へと成長していくエンダー少年の物語。
     映画化された長編『エンダーのゲーム』の
     ベースになった短編。
     後続の様々なバトルもの作品に
     多かれ少なかれ影響を与えたと思しいが、
     秘策があるとはいえ、子供を矢面に立たせるなんて、
     どんなディストピアだよ!
     と、憤りを覚えると同時に、
     楳図かずおの名作短編「Rôjin」を連想した。
     また、人材不足と言いつつ
     指導者にも訓練生にも女性が一人もいない点に
     不自然さを感じた。
     少年たちがブチッと切れて
     軍内で反乱を起こす展開だったら
     拍手喝采したと思うけど(笑)。
     大仕事は片付いたから、
     後は幸福な余生を送ってくれたまえ……って言われた
     12歳男子は、その先どうやって生きていくのだろう。
     〔注〕長編版未読、映画も未見、
        読了した短編版のみの感想です。

    「王の食肉」
     イカ型(?)宇宙人夫婦である王と王妃に
     侵略・征服された土地で、
     人々が生き延びるためにやむなく選択した
     グロテスクな手段。

    「解放の時」
     楳図かずおの古い短編に少し似た感触。
     主人公の会社経営者は、
     恐らく「二つの現実」の間を行き来していて、
     一方に身を置いたときに、そこと他方とのギャップに
     違和感を覚え、混乱するのだ。
     妻が情緒不安定で
     支えが必要な頼りない女性であるか、
     逆に、しっかりした快活な女性であるか……が、
     最大の差異。
     どちらを望んでいたのか、いずれにせよ、
     彼はquietus[原題]によって
     悩みから解放されたのだった。

    「無伴奏ソナタ」
     法律の強い縛りで高度に管理されながら、
     市民に窮屈さを感じさせない世界。
     乳幼児期に音楽の天才と認められ、
     一種の英才教育を施された
     クリスチャン・ハロルドセンは、しかし、
     30歳にして掟を破り、以後、生活が一変した……。
     皮肉で残酷な話だが、人間の感情も芸術も
     本来自由であると痛感させられた。
     終盤、趣味で音楽を演奏する青年たちが、
     作曲者の背後の事情はどうでもいい、ただ、
     生み出された楽曲が素晴らしいから
     自分たちはそれを愛しているのだと語るところが
     素晴らしい。
     作品を理解するために
     作者のバックグラウンドを知るのは
     大切なことではあるが、個人的に、
     世の中の多くの人は周辺情報に関心が強く、
     作品をじっくり賞味するより、例えば、
     作者が華麗な経歴の持ち主であるとか、
     ハンディキャップを乗り越えたとか、
     個性的過ぎる家族に振り回されて苦労してきた、
     だとかの個人情報に心を動かされがちで、
     そういう意味で「頭一つ抜きん出た人物」が、
     仮に作品の内容が凡庸だったとしても
     作り手として高く評価されがちではないかと
     常々思っている。
     私は物語としての虚構に
     強い関心を抱いているだけなので、それらの情報は
     二の次という態度を取っているけれども……。

  • さすが古典SF作家の短編集と思わせる一冊!
    作品の多彩さもそうなのですが、最近のSFの傑作たちに通じるアイディアも随所に見られ、普遍的なSFの血脈を感じました。

    もっとも印象的だった短編は表題作の「無伴奏ソナタ」
    音楽を愛した天才が、国家から音楽をはじめ多くのものを奪われていく姿を描いた短編。

    国に逆らうと分かっていながらも音楽を創ろうとする主人公の静かな熱意と過酷な人生に思いをはせるとともに、ラストシーンの素晴らしさが強く印象に残ります。文章が主人公から距離をとった冷静な語り口なのですが、その分深く静かな感動がゆっくりと押し寄せてきました。

    SF作品でありながらもホラーの雰囲気を感じる作品も多く、その不気味さも相まって面白い作品も多かったです。
    「王の食肉」は人間を食べる外来生物とその生物に仕えた〈羊飼い〉と呼ばれる人間の物語。ぱっと読んだ雰囲気ではB級ホラーっぽいあらすじになるのですが、そこを描写の気味悪さで引っ張ります。そしてラストの展開でまったく味わいのちがう作品に変わり、アイディアとテーマの見せ方の巧さを感じました。

    「ブルーな遺伝子を身につけて」もSFにホラーの雰囲気をまとった作品。化学戦争で地球から逃れた人類。それから数百年。宇宙飛行士たちが再び訪れた地球には、生き残った人類が生活していたが……

    地球で生き残った人類とともに生活しているアメーバ状の謎の生物。その正体が分かったときの不気味な感じと衝撃の一方で、どこか説得力もある奇妙さもあり印象に残りました。

    他にもSFだけでなく怪奇小説の雰囲気の強い作品も多数収録されていて、著者の多彩な一面を垣間見ることのできる短編集でした。

  • 「エンダーのゲーム」が気になって読み始めたが、宇宙を舞台としていないわりと現実に則した短編も多く、読んでいてダレることがなかった。友人や家族との何気ない会話や出来事をきっかけに、これほど多様な物語にまで膨らませて作品に仕上げる作者の力量に驚かされる。「エンダーのゲーム」の長編も読んでみたいと思えた。

  • エンダーのゲームの短篇版が入ってますので、手軽に楽しむには良いですね。話の内容はどれもシリアス。?

  • ■著者は敬虔なモルモン教信者だそうな。が、そんな(……たいへん失礼ですが)化石のような価値観をもつ宗教者が、それも(……たびたび失礼ですが)どちらかといえばカルトに属する宗教者が、どうしたらこんな柔軟で強力なイマジネーションを併せ持つことができるのか。頭ン中どんなになってるのか、一回覗いてみたいものだ。
    ■以下の4作品はまさに珠玉の短編。未読の方には絶対おすすめ。
    「エンダーのゲーム」……10歳の天才戦術家アンドリュー ”エンダー” ウィッギンが、人類の存亡を賭けたエイリアンとの全面戦争に臨む。しかし本編のテーマはバトルアクションなどでなく、エンダーの心の葛藤と成長。他に類がないような不思議な作品だ。
    「王の食肉」……クトゥルーのイカみたいな邪悪なエイリアンが出てきて人間どもを召し上がる、ぱくぱくと……。メリハリがある展開がトン、トン、ト――ンと進んで、着地も素晴らしい。
    「死すべき神々」……ワン・アイデアものだが、哲学的かつ感動的。まさに良質なSF短編の見本です。
    「無伴奏ソナタ」……ひとりの超天才音楽家の一生。モーツァルトなら、”死と絶望がその人の報いだった”だが、こちらは最後に救いがもたらされる。

  • 「エンダーのゲーム」を代表作に持つSF作家の短編集。同著には「エンダーのゲーム」の短編版も収められているので、著者の作品未経験者には入りやすい一冊かもしれない。

    外国のお伽噺から残酷フィルターをとっぱらったかのような作品がとにかく上手い。人体が欠損しまくる話が特に面白く、「王の食肉」と「無伴奏ソナタ」はここ数十年間のSF短編の中ではトップクラスに面白かった。

    是非、荒木飛呂彦に漫画化してほしい「四階共用トイレの悪夢」などバリエーションのある理不尽さが書けるのも凄い。

  • 「SF好きならどう?」と同僚に勧められたのが
    この人の「エンダーのゲーム」という作品。
    長編と短編があるようですが、
    バトル物SFに興味があまり向かなかったので
    短編版のこちらを選択しました。
    で…
    エンダーのゲームに関しては
    ガンダムみたいなロボット系のSF好きなら
    長編版のほうが楽しめるかもしれません。

    その他、短編もなかなか面白い作品が多かったです。
    単に「面白い」というより
    数年後「あれ…なんか、こんな話どこかで読まなかったっけ…」って
    忘れた頃にウズウズしてしまうような、
    何か知らないうちに妙な種を植え付けられるような内容が揃っています。

    個人的には
    ・王の食肉
    ・深呼吸
    ・四階共用トイレの悪夢(←独りでトイレに行けない怖さ)
    そして
    ・磁器のサラマンダー
    です。
    磁器のサラマンダーは泣いてしまった…

  • 怖い、恐い、コワイ。広くいろんな意味で。
    「エンダーのゲーム」の背景に対するクールで静かな恐さ、「王の食肉」のタイトルそのままの生々しさ、「タイムリッド」の軽く乾いた感じ、などさまざまなコワさの11編。
    残酷で、時に人の心の罪悪感を突く。
    思うようにならなさ、無力感が漂う。
    どれもが怖くて、虚しいような悲しさもあった。
    当初、多少の苦手意識を抱えながら読んでいたけれど、今はいい意味でもう一度読みたいという気になっている。

  • 王様:「無伴奏ソナタ」を書いたのはそなたかな?
    オースンスコットカード:はい。わたくしでございます。

    とか言ってる場合じゃなくて。

    かの有名な「エンダーのゲーム」を含む、実に11編もの短編集。正直、もうお腹いっぱいです。どれもこれもどうにもこうにもあまりにも抽象的で寓話的。SFを読んでいるというよりは高尚な文壇作品を読んでいるという印象が拭いきれなかった。抽象的にもほどがあるだろ!と文句を言いたい。だって読んでいてちっとも面白くないんだもの。あと、著者のあとがきもつまらんかったな。

    比較的とっつきやすくて面白いのはやはり「エンダーのゲーム」だ。長編もあるらしいが読んだことはない。なのにこんなことを言ってはあれだが、この短編で十分に完結しているのでは?子供時代を戦闘ゲームに捧げたエンダーたちの「ぼくらはこれからなにをするんですか?」という問いかけには誰も答えることができないだろう。

    表題作の「無伴奏ソナタ」は、これ面白いんですか?と聞きたい。どこが面白いんですか?と聞きたい。僕にはわからなかった。。。

  • 短編集。エンダーのゲームの元になった短編も収録されております。

    SFからホラーっぽいのからいろいろあったけれど,SFは徹底された管理社会の生むひずみみたいな作品が多かったかな。

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