時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309046

感想・レビュー・書評

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  • 26世紀、謎の戦闘機械によって地球は壊滅的な被害を受け、人類滅亡へのカウントダウンが刻一刻と進む中、それに抗おうと人類は自ら作り出した人工知性体を過去へ送り込む。目的は敵が現れる前に地球を抑え、出現時に壊滅させることである。それに対して敵も時間を遡るようになり、戦闘機械と人工知性体による際限り無い時間遡行戦争が始まった。幾度も過去への遡行を繰り返すうちに人工知性体のオーヴィルがたどり着いたのは3世紀の邪馬台国。そここそがが未来の全人類の存亡を懸けた最終防衛線であった!

    幾度も戦闘機械と対戦して勝ったり敗れたりしながら邪馬台国にやって来て卑弥呼に出会う。話の舞台はいいと思うし、オーバーテクノロジーはそうなんだけど、それでも制限をつけることでその時代にあった戦い方をしているのは面白いですね。
    紀元前98579年から紀元2598年までの超長期に渡る壮大な物語で、時間枝が幾重にも生まれる中で何が正しくて何が正しくないのかといった葛藤も書かれています。1つの世界を守ることで他に生まれたいくつもの世界を見捨てるのは良いのか?みたいな。
    ただやっぱりキャラクターが薄いというか感情移入しにくいというか感銘を受けないというか・・・主人公が魅力に欠けるのかな。なんだろうこの消化不良感は?
    ふーん、ふーん、ふーんって感じで読み終わってしまいました。

    SFは現実には存在しない架空の未来の技術を使い、それでどういう話を仕立てあげるかっていう作者の想像力がメインだとは思いますが、それでもやっぱり小説としてキャラクターといったものや、文学的なテーマとかも必要だと思うんですよね。
    それがちょっと感じられないかなーって。

    そんな批判めいたことを書きましたが、手離しでオススメはしませんけどそこそこ面白かったですよ。
    SFものとしては比較的読みやすいと思います。

  • タイムトラベル×卑弥呼という舞台設定だけでも好奇心をくすぐられるSF。更にこの舞台設定に時空を超える愛が練り込まれてる。時間軍の設定も構成も工夫されているし、邪馬台国の民衆と「物の怪」の戦闘もなかなか面白かった。もっと細かく書こうと思えばいくらでもできそうなところをスッと終わる潔さ。

  • 自分を自分たらしめるものは何か?十万年の戦争に耐え抜き、任務を達成させるような強いものとは何か?オーヴィルにとっては愛であるーーサヤカとの儚い夢のような。あらゆるものが時の風に吹かれ、時の砂に埋もれ、遥か遠くの時間枝に別れてしまっても、胸に残る愛の残像。これらが本作の根底に流れており、知性体としてのオーヴィルをぶれることなく描いている。
    叙情的な描写の繊細さもさながら、時間遡行と歴史改変をテーマにしたSFとしても秀逸である。未来からの援軍が来ないので、この時間枝が滅びることが分かってしまう辛さ。カッティ・サークの冷徹なまでの理屈は分かるのだが、どうしても情緒の部分で受け容れることのできないもどかしさもあった。それらがオーヴィルの目を通して何度も繰り返されるのだ。一人一人の人生に触れ、共に戦う仲間であるのに殆どを救うことができない。オーヴィルだけではなく、滅びる時間枝の人間を描写することで、この戦争の虚しさが身に染みるのである。
    そして卑弥呼が登場する。ちょっととんでもない展開だな、と思ったが、これが違ったのだ。日本史上、最古の統治者の一人である卑弥呼である必要性が大いにあった。また、その神がかり的な伝説にも必要性があった。人類存続の為に手段を選ばない時間軍に対し、今を生きる人間として、ただ生き抜こうとする強さが美しい。10万年の間誰もやらなかったことーーカッティ・サークに「疾く失せろ」と言い捨てることーーで新しい時間枝を生み出し、オーヴィルの心を繋ぐことができたのだ。全てが無情に消える筈だったオーヴィルを最後にただ一人救う存在だった。陳腐な言い方たが、オーヴィルに救済があって本当によかった。
    また、敵の機械群・ETの動機がとても面白い。許し難いことだが理に適っているようにも思えるのだ。ET達の視点でこの話を読んでみたいと思うくらいに。

  • 未来の人型人口知生体と卑弥呼、敵は古代神話に出てくるような物の怪。
    この取り合わせが、作者の発明。

    きわめて“ひと”に近い人口知生体が、二度と自分の過ごした時代には戻れない宿命を帯びて、人類の滅亡を救うべく、歴史をさかのぼる。
    時間SFとしては定石のストーリーであるが、滅亡させようとする勢力の理由と、滅亡してしまう理由が、現代の我々への警鐘であることにポイントがある。

    敵である「増殖型戦闘機械」群との戦闘がその時代ごとに違ってきて、ついに決戦となった邪馬台国の地の戦いの描写はとても迫力があった。

    短いページ数のなかで、壮大なスケールを感じることができた。

  • 久々にSFっぽいSFで満足。面白かったが最後の2010だけはもう少し夢がある感じにして欲しかったかな。

  • 時間SF。
    卑弥呼が主人公として活躍するSF。斬新。
    読みやすく、面白いが、なかなか悲しい。
    未来の人類が過去に行けるようになったが…、過去の世界で戦争をするとなると、技術力・資源・情報など問題は山積。想像力が試されて楽しい。
    個人的に、面白いだけに、もう少しボリュームがあっても良かった。
    ET側の立場からの視点も1章くらい観たかった気もする。

  • 壮大な話が読みやすい文章で書かれている。
    翻訳本にはない日本らしい言葉遣いが美しく、清々しい気持ちになった。

  • 10万年に及ぶ壮大なストーリーをコンパクトにまとめている。悪く言えば粗筋のよう。細かい事は考えない方がよい。

  • ネタバレせずには何もかけない。

    キャラはいい。わりとオーソドックスな造形だけど、かっこいいものはかっこいい。

    タイムパラドックスにかなり正面から向き合っている。でもやっぱり、今平和なのはこれから俺たちが救けに行くから、ってへんだよね。どうやって過去の戦禍を知るのか。平時ではないから開発される道具は、平時には開発されないんだよね。

  •  タイムパラドックスに並行世界に宇宙生物に人工知性に「邪馬台国」とてんこ盛りの内容だが、緻密な設定と骨太のストーリーが緊密に結びついていて、アイデア倒れでない一級の「小説」になっている。ただしラストの方の展開が個人的に気に入らなかった(実体としての「くに」「故郷」を否定する一方で、「想像の共同体」としての国家意識にすがるナショナリズムと、敵を殲滅してめでたしめでたしというマッチョイズム)。

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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