時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)

著者 :
  • 早川書房
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感想 : 179
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309046

感想・レビュー・書評

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  • 久々につくりもので泣きそうになっちゃったよ 深夜テンションのしわざです 小川一水はコロロギ岳に続き2冊目、時間遡行ものの人という認識だけどやはり上手いな〜と思いました

  • 未来、宇宙にまで進出した人類。
    その人類を害する目的で、人類の過去に干渉する異類の生命体ET。
    ETから人類を救うべく、人類は自らの過去に遡行してETと死闘する。

    そんな設定の物語だった。

    SFとしてはどうなのかなと思う。
    科学的な裏づけに納得感が薄かったような。もちろん、科学的知識に乏しい私には読み取れなかっただけかもしれないのだが。
    時間遡行は、少なくとも現在の人類にはまだ夢物語だと思う。そんな技術を物語の仕掛けの中心に置いてあるので、どうにも科学というより空想の色あいが濃くなるというか…。

    ただ描かれる人物に私は魅力を感じた。
    時間遡行をくりかえしくりかえし、絶望的なETとの戦いに挑む「使いの王」オーヴィル。
    人型人工知性体であるオーヴィルに、ひととしての感情と使命感を灯したサヤカ。
    ETを追うオーヴィルと戦いを共にする邪馬台国の巫王、卑弥呼(彌与)。
    オーヴィルの剣であり、時間戦略知性体カッティ・サーク。
    彌与に仕える少年、幹。
    オーヴィルの同僚、アレクサンドル。

    それぞれの立場や思いは異なっても、人類を(自らを)守るためにETと闘う。
    その闘いも息詰まる緊張感だが、むしろ避けえぬ闘いに身を投じながらも、彼らの生の芯の強さが迫ってくるようで切ない。

    レビューを見るとSFとしての評価が高いようなので、そういうものかとちょっと意外だった。私としては先にも書いたとおり、SFというよりも群像劇として小説としての面白さに惹かれた。

    「自我とは履歴で、履歴を創るのは自分だ」との一文とか、ETが何故人類を滅ぼそうとするのかを知ったときのアレクサンドルの(ある種の)絶望だとか。カッティの最後に抱いた希望も。

    ラスト、落としどころというか、後日譚というか、種明かしというか。
    無理にハッピーエンドを持ってこなくても、という違和感もあったが、これはこれでよかったようにも思う。
    漫画になるが、清水玲子「月の子」のラストをふと思い出した。「月の子」のラストシーンを夢オチというひともいたが、私はあれはあれで斬新だったと思ったのだ。物語が物語ったそれまでのストーリーが夢なのではなくて、私たち読者が存在するこの現実世界のほうが夢なのだと示唆するようで、一般的な夢オチではなかったと解釈したので。
    この「時砂の王」もそれと類似のように見えた。
    私たちの生きるこの現実は、どこから継いでどこへつながり、そしてどんな結末を導くのか。「時砂の王」が導かれたハッピーエンドの展開には…私たちのいる時間枝からは、行けない。

  • 初小川一水。ずっと積んでいたがこの度読了。
    250頁ちょっとの中にいろいろな要素が盛り込まれているが、キレイにまとめられている。
    今年に入ってから三体三部作を読んでバチバチにSFにハマった身としては(前々からSFに興味はあったのでネット上で「おすすめのSF」と調べれば名が挙がるこの本を買ったのはそれよりずっと前だったが)、もう少し詳細な描写で長~く読んでいたかったが、これはこれでサクッと読めて非常に面白かった。
    小川一水の大長編「天冥の標」も読みたくなった。

  • タイムトラベル×卑弥呼という舞台設定だけでも好奇心をくすぐられるSF。更にこの舞台設定に時空を超える愛が練り込まれてる。時間軍の設定も構成も工夫されているし、邪馬台国の民衆と「物の怪」の戦闘もなかなか面白かった。もっと細かく書こうと思えばいくらでもできそうなところをスッと終わる潔さ。

  • 自分を自分たらしめるものは何か?十万年の戦争に耐え抜き、任務を達成させるような強いものとは何か?オーヴィルにとっては愛であるーーサヤカとの儚い夢のような。あらゆるものが時の風に吹かれ、時の砂に埋もれ、遥か遠くの時間枝に別れてしまっても、胸に残る愛の残像。これらが本作の根底に流れており、知性体としてのオーヴィルをぶれることなく描いている。
    叙情的な描写の繊細さもさながら、時間遡行と歴史改変をテーマにしたSFとしても秀逸である。未来からの援軍が来ないので、この時間枝が滅びることが分かってしまう辛さ。カッティ・サークの冷徹なまでの理屈は分かるのだが、どうしても情緒の部分で受け容れることのできないもどかしさもあった。それらがオーヴィルの目を通して何度も繰り返されるのだ。一人一人の人生に触れ、共に戦う仲間であるのに殆どを救うことができない。オーヴィルだけではなく、滅びる時間枝の人間を描写することで、この戦争の虚しさが身に染みるのである。
    そして卑弥呼が登場する。ちょっととんでもない展開だな、と思ったが、これが違ったのだ。日本史上、最古の統治者の一人である卑弥呼である必要性が大いにあった。また、その神がかり的な伝説にも必要性があった。人類存続の為に手段を選ばない時間軍に対し、今を生きる人間として、ただ生き抜こうとする強さが美しい。10万年の間誰もやらなかったことーーカッティ・サークに「疾く失せろ」と言い捨てることーーで新しい時間枝を生み出し、オーヴィルの心を繋ぐことができたのだ。全てが無情に消える筈だったオーヴィルを最後にただ一人救う存在だった。陳腐な言い方たが、オーヴィルに救済があって本当によかった。
    また、敵の機械群・ETの動機がとても面白い。許し難いことだが理に適っているようにも思えるのだ。ET達の視点でこの話を読んでみたいと思うくらいに。

  • アレクサンドルは凍結から目覚めたのか。釈然としない?知性対サンドロコットスのサブユニット
    因果効果、時間枝、ハイブリッド、カッティサーク 奪われた人類の
    釈然としない部分はあるけど数万年単位の大きな人類の戦い、壮大だった。時間遡及し歴史改変した時間枝がパラドックスで消えるのでなく「滅亡する」という選択肢が絶望的。

  • 邪馬台国の王室を抜け出した彌与こと卑弥呼と幹。山中で出会ったのは、片腕が鋭い鎌になった、熊ほどの巨大な生物だった。隣国から逃げ惑う民衆とともに、怪物に立ち向かう王ことO。Oは実は26世紀から怪物ETを倒し、その時間軸の中で人類を守るために派遣されたメッセンジャーと呼ばれる人間兵器だった…。

    卑弥呼の時代に人類を滅ぼす宇宙からの知的生命体が飛来するが、無限にある時間軸の中で人類が滅亡しないように守る時間跳躍者たちという設定はよく考えられていると思う。卑弥呼の時代、第二次大戦、また10万年前という人類(日本?)の転機を題材にするというアイデアは良い。

    また、過去の時代への過剰なまでの干渉と、史実とはまた異なる様々な事件など、SFとして読める部分が多い作品であり、第二次大戦時に共通の敵がいるにも関わらず国同士でいがみ合うというシミュレーションは面白かった。そこだけ引っ張れば良いと思ったのだが。

    一方で、卑弥呼の部分を頑張りたかったのはわからぬではないが、中途半端に古典語を使おうとしすぎて、少々どころか多少読みにくい。「兵」は「へい」で良いと思うのだが、必死に「つわもの」と読ませようとしたり、漢文的に当て字をしたりするため、何が何をしたのか、筆者の独りよがりで読者に理解させようとしていないと感じる部分が多かった。

    なぜか奈良から秩父へ移動してピンチに陥る邪馬台国軍なのだが、描写がうわついていて「うさぎ」はボーパルバニーと言いたいんだろうな的なことは、読者が先回りして理解してあげないと行けないのは、かなり困る。

    かと言って難しいわけではなく、描かれていることは非常に浅いし、言葉がわからなくても知ったかぶりで読めるという話でもある。

    中二的な言葉選びというところなのだろう。大人にはちょっと…というところ。

    また、宇宙を渡って地球まで来た上、太陽光をエネルギーに種族を増やして時間の跳躍もできる敵が、鉄も持ってなければゴムも知らないというのも不思議だなあ。

  • 未来の人型人口知生体と卑弥呼、敵は古代神話に出てくるような物の怪。
    この取り合わせが、作者の発明。

    きわめて“ひと”に近い人口知生体が、二度と自分の過ごした時代には戻れない宿命を帯びて、人類の滅亡を救うべく、歴史をさかのぼる。
    時間SFとしては定石のストーリーであるが、滅亡させようとする勢力の理由と、滅亡してしまう理由が、現代の我々への警鐘であることにポイントがある。

    敵である「増殖型戦闘機械」群との戦闘がその時代ごとに違ってきて、ついに決戦となった邪馬台国の地の戦いの描写はとても迫力があった。

    短いページ数のなかで、壮大なスケールを感じることができた。

  • 重厚なSF読みすぎてちょっと浅く感じた。おもろかったけどね。

  • 初一水。『卑弥呼』と聞いて相当期待したんだけど…思ってた程ではなかった。結局ETとはなんだったのだ?私は別の人類が造ったものだと思う…。オーヴィル(人工生命体)のサヤカへの想いは、紛れもなく愛だった。目の前の人を救うのか——はたまたそれらを見捨て、人類の未来を選ぶのか——よくある疑問だが、わたしは名もわからぬ人類より、目の前の大切なひとを救うことこそ未来を救うことに他ならないと思う。それにしてもオーヴィルの時空を越えた、長い長い闘いには言葉もないよ…。星三つ半。

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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