時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)

著者 :
  • 早川書房
3.70
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本棚登録 : 1592
感想 : 180
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309046

感想・レビュー・書評

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  • あまり海外文学に詳しくないので、海外の作品をよく紹介してくれるラジオ「空飛び猫たち」を参考に選書しています。
    https://www.instagram.com/radiocatwings/

    たまーに日本の作品の紹介があり、こちらはそのうちの一つ。小川一水さんは、以前読んだアリスマ王の作品が本当によかったので、選びました。

    SFの真骨頂という感じの、ヒストリカルイフ、タイムトラベル、ターミネーター、クロノ・トリガー、シュタゲを凝縮(最高)。

    3世紀、邪馬台国の女王卑弥呼を襲う謎の増殖型戦闘機械軍、ET。ETは未来26世紀の世界を滅ぼしただけでなく、人類の完全殲滅を目論んで過去にまで出現するのであった。それを阻止すべく作られたのは、人形AIのメッセンジャー。メッセンジャーは絶望的とも言える充満年の時間遡行の旅へ。そして卑弥呼(彌与)とメッセンジャーのオーヴィルは出会う。

    歴史のイメージだと、御簾の中からは出たことがなさそうな卑弥呼さまも、この世界線では前線に出て戦うかっこいい女王です。そしてメッセンジャーオーヴィルの心にずっといるのは、26世紀においての恋人サヤカ。彼は何百との戦いを経て、疲弊しきっているが、決して諦めていない。そういう話ではないけど、影のあるイケメンに弱いもんですよね…。

    迫力のあるバトルと、そのアイデア力に感服する一作です。

  • 26世紀から何度も過去へ渡るメッセンジャーと、卑弥呼の出会い。そして、共闘の記録。
    2つの視点が交互に語られる中で、過去へ遡行しているけど、いずれも未来への希望が感じられ、追い詰められていくのも不安にはならない。不思議な時間感覚を体験できた。
    足掻いて、足掻いて、足掻いた先に、動かした心が、未来を開く。

  • 時間SF。
    卑弥呼が主人公として活躍するSF。斬新。
    読みやすく、面白いが、なかなか悲しい。
    未来の人類が過去に行けるようになったが…、過去の世界で戦争をするとなると、技術力・資源・情報など問題は山積。想像力が試されて楽しい。
    個人的に、面白いだけに、もう少しボリュームがあっても良かった。
    ET側の立場からの視点も1章くらい観たかった気もする。

  • 時間を遡りながらの長い戦いのはなし。映像的な文章ですごくよかった。戦士としての矜持や自負のためではなく、愛した女のために何万年も戦い続ける知性体。そして、その感情を受けとった人間が自らの力で立ちあがる瞬間に目頭が熱くなった。

  • 時砂の王
    210722読了。
    今年35冊目今月2冊目。
    #読了
    #時砂の王
    #小川一水

    超久し振りのSF。
    とあるポッドキャストで評判を聞いて。

    スケール感とページ数の薄さから、密度が濃い。
    そうだった、SFというのはかくも世界観に浸れるものであった。

    時間遡行を繰り返しながらの攻防戦。
    卑弥呼や魏志倭人伝に、その発想を持ち込む、というのが秀逸。

  • 何かでオススメされていて、卑弥呼が戦うSF?なんだそれは面白そう、ということで購入。

    かなり詳しく書かれたレビューが沢山あるので、あらすじ諸々はそちらに任せます(笑)

    人類を手っ取り早く滅ぼすためには、時間軸を遡って、大した戦力を持たない時代に暴れれば楽だということですかね。

    クロノトリガーというゲームで、未来で宝箱取ったり敵を倒しても、過去の時代に行くと、まだ生きている(残っている)っていうのをなぜか思い出した。

    時間を使ったお話としては面白いのだけど。
    時間超越をして卑弥呼の世界に現れたメッセンジャーOが、どのような使命を負って動いてきたのかが書かれたパートについては、感情移入がしにくかった。

    人が有する感情の物語、として分かりやすく読みたかったのかもしれない。

  • 卑弥呼は出てくるけど知ってる卑弥呼とその時代ではないのが面白かった。
    歴史改変SF。小川さんの小説は読みやすい。長編SFは設定や世界観を頭に入れるのがだるくなってきてので短編ばかり読んでたけど、また長編読もうかなと思った。小川さんの作品をもっと読みたい。

    卑弥呼とオーヴィルが恋仲になるのはなんかなって思った。命の恩人だけど。そこはオーヴィルにはサヤカ一筋でいて欲しいような、しかし10万年かけて守ってきたしなあとも思う。体感だと何年位なんだろう?何百年くらい?

    カッティ・サークの元ネタはあるのか調べたけどわからなかった。船の名前が出てきた。あとウィスキー。でもほんとの元ネタは詩?の出来事?
    なぜそれを人類を救うための知性体の名前にしたんだろうな……。魔女か~~。
    最終的にカッティ・サーク自身が死ぬ時間枝の計算が出来ない=可能性が残されるというのに賭けて自爆するのが良かったな。

    またオーヴィルが死ぬことで卑弥呼が奮い立ち、歴史が変わってOがやってきて、さらにOが沙夜と出会う。めちゃくちゃ好きな流れ。

    バトルは予想より多かったし、人間同士の駆け引きや、カッティ・サークという人工知能との駆け引きも良かった。また、ドイツでハルトマンに乗せてもらうのも良かった。史実の人間がちょっと変わって出てくるのが良いな。

    あと最初にオーヴィルと卑弥呼が出会う時に、Oを王と聞きとって使令の王として扱うのも良かった。これオーヴィルじゃなかったらややこしいけど。

    敵のETの正体や仕掛けてくる理由も良かった。生存を賭けての戦いだから引けない。機械が襲ってくるのももとは細菌だからかな。肉体という概念が乏しいゆえスーツの延長で襲ってきてるのかなあと想像した。

  • たった270ページに、紀元前10万年から西暦26世紀の時間と、2000億人の死を詰め込むなんて、小川一水以外にできるでしょうかあ!
    人類殲滅に襲いくる異星機械群と、究極知性…UIだな…を中心とした軍人ベースの知性体サブユニットたちが、時間を遡行して当時の人類の資源と科学を駆使しつつ闘い続ける。そのギリギリの砦、邪馬台国での舞台作りもお見事。ロマンスも詰め込んで…これ『天冥の標』くらい長くすることもできたろうなー。それを1冊に、しかも書き下ろすってすっごいなー。
    主人公オーヴィルは、ジャンプラでやってる『Heart Gear』のアンドロイド戦士と重ねて読みました

  • 西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼(彌与)とその従者の幹であったが、突如現れた「使いの王」オーヴィルと人語を発する剣カッティに命を救われる。

    彼らは2600年後の未来から来た人工知性体で、太陽系奪回軍の参謀総長である知性体サンドロコットスのサブユニットとして創られた有体知性であるメッセンジャー・O(オリジナル、個体名はオーヴィルを選択)と、遡行軍統括の時間戦略知性体カッティ・サーク(女性の声で本体は別の場所にある)であり、彌与が襲われた物の怪は「ET」と呼ばれていた。

    オーヴィルは西暦2598年に、人類の第一拠点である太陽系中枢府で生まれた。彼は人類が知識化したほとんどの情報をすでに保持していたが、人と関わることで、データでは得られない人間的な感性を育む期間が設けられていた。そこで出会ったのが補給廠の窓口で、受領者の頭にコーヒーをかけていたサヤカ・カヤニスキアであった。オーヴィルはいかにも人間的な行動を取るサヤカに興味を持ち、惹かれ合い、2人は付き合い始めた。彼女と関わることで愛を知り、そして別れを知った。
    オーヴィルの根底にあるものは、メッセンジャーとして与えられた最優先命令としての「人間への忠誠」ではなく、救えなかったサヤカとの記憶、その彼女が望んでいた言葉。「人に忠実であれ…」

    オーヴィルたちが創られた目的であり、サヤカと別れなければならなかった理由でもある、人類の敵ETとは、何者か(ETクリエーター)によって創り出された増殖型戦闘機械で、様々な形態のものが存在する。そしてその目的は人類の根絶であり、既に地球は壊滅させられていた。だが、その後の宇宙戦争において劣勢を悟ったETは、今よりはるかに弱小の過去の人類を掃討するため、時間遡行を行った。

    一方、人類の存続を目的とするオーヴィルたち知性体も時間遡行を行うが、ETに先を越され、再遡行が必要になる。カッティは、ETが通過する時間枝を見捨て、一気に十万年前に遡行するという無機質な作戦を提示するが、人と触れ合い、感情を獲得しているオーヴィルたち一部の知性体はそれに反発した。結果的に、十万年前に定住してETを迎撃し続ける部隊と、時間枝の分岐点を守りながら遡行を繰り返して十万年前に向かう部隊とに分かれた。

    後者のオーヴィルたちは、四百回以上の戦いの末にようやく本隊との合流を果たす。
    そこでカッティから、クリエーターの正体が一億二千万年後、化学合成細菌から進化を遂げた生命体であることを知らされた。
    クリエーターは時間遡行理論を手にして過去を調査し、地球人の無人観測基地の設置により、自分たちの先祖である細菌類とその母星が一度壊滅しかけていたことを突き止め、その復讐のためにETが送り込まれたという。

    その途方もない事実と遡行戦の疲労により、オーヴィルは極東の小さな島(後の邪馬台国)で、ステーションを築いて凍結に入った。そして千二百三十年後、ETの出現により眠りから目覚め、邪馬台国の女王を助ける。
    その時代は、十万年前から勝ち続けてきた人類側の遡行軍と、未来を喰い荒らしてきたETとの、時間戦略的な拮抗点であり、決戦の時であった。

    彌与は「使いの王」に従い、ETとの戦いに身を投じた。その中で倭国(日本)を知り、世界を知り、「使いの王」の苦しみを知った。そして、彌与はオーヴィルを苦しみから救いたいと願った。たとえサヤカの身代わりだとしても。それから二人は閨を共にするようになった。
    しかし戦況は圧倒的に不利となり、彌与は味方である高日子根の愚行により負傷、カッティは自爆、オーヴィルは深傷を負い死亡。人の軍は希望を失ったかに見えたが、彌与が立ち上がり、声を張り上げ宣言した「人類は負けない、海を渡ってでも生き残る」と。

    その時、空に超巨大戦艦が現れ、オーヴィルによく似た男の姿があった。彼は二十一世紀時間軍パスファインダーのオメガと名乗った。彼の時間枝は、彌与の決意によりたった今産まれ、そして未来からの援軍はつまり、人類の勝利を意味していた。

    オメガの時代に、オーヴィルたちメッセンジャーの戦いは、魏志倭人伝の御伽噺として伝えられていたが、オメガはオーヴィルの亡骸に触れて記憶を引き継ぎ、全てを理解した。メッセンジャー・Oであり、「使いの王」であったオーヴィルの意思は、同じ頭文字を持つオメガに引き継がれた。

    オメガはETとの戦争を終結させた後、元いた時間枝で大勢の人々に歓迎されていた。その中で、不思議な格好をした沙夜という名の娘に出会い、胸の高鳴りを不思議に思いながら声をかける。あの日のオーヴィルのように。



    270ページと少なめの長編小説だったが、上記の要約できていない要約以外にも、オーヴィルの同僚のアレクサンドルが恋人シュミナに向けて書いていた児童文学の話、高日子根の彌与に対する思惑や、オーヴィル亡き後、おそらく従者の幹と彌与が結ばれ、その子孫の沙夜と、Oの意思を受け継いだオメガが出会ったであろうことなど、魅力的な内容を含んでいる。また、1963年に優秀なパイロットとして少しだけ登場したハルトマンは、史上最多の撃墜記録を持つ、実在したパイロットのエーリヒ・ハルトマンであり、オーヴィルが史実を利用して人選するという話のつくりには、卑弥呼に関しても言えることだが、歴史的興味を掻き立てられた。
    未来の知性体であるオーヴィル視点の記述では、本のことを「私製書籍ー脆くてハンドリングの悪い、恐ろしく低密度なデータベースだ。」というように
    書かれていたことも印象的だった。
    あえて苦言を呈するならば、カッティとオーヴィルの死後、彌与たち人の軍が海を渡り漢土に逃げ切ったとしても、それからETに滅ぼされずにどうやって生き延びたのかと言うこと。オメガのいる二十一世紀には超巨大戦艦が造られるほどに発展していることにも疑問が残る。
    とはいえ、そこまで考えさせられた本作は、史実を基に時間遡行や宇宙戦争を絡めた壮大な物語であり、その広大なスケールを見事に書き上げた「時間SF小説」の傑作だった。

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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