天冥の標 2 救世群 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-12)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309886

感想・レビュー・書評

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  • 急に現代に逆戻りと思ったけど、読み終えてみると急でもない気がしてきて何とも言えない。実は1巻ってこうだったのか?とか色々浮かんでしまう。面白かった。

  • 2010年代。感染症専門医の圭伍は、腐れ縁の同僚・華奈子と共に正体不明の疫病が発生したパラオのリゾート地へ向かう。二人が離島へ到着すると、滞在客は一部を除いて目の周りに大きな黒い斑が浮かび、既に死亡しているか瀕死の状態にあった。圭伍たちは顔に斑を持ちながら生きている少数民族の青年ジョプを発見、保護し、彼がウイルスのキャリアだということを突き止める。半年後、島で唯一の回復者となった日本人の少女・千茅は、ジョプと共に圭伍たちが管理する隔離施設にいた。顔の斑以外は完治していたが、体内のウイルスが他者に感染する可能性は残っているため、隔離され続けているのだった。その間にも疫病は広まり、「冥王斑」と名付けられた印を持つ回復者たちは激しい差別に晒されていく。〈天冥の標〉シリーズ第2作。


    10年以上前に「パンデミック下の日本」を予見していた物語としてそりゃー話題になるわ、と納得せざるをえないリアリティ。特に、大衆やメディアが感染者の倫理観を問うて非難するところなど、2年前に散々見た!という気持ちになるし、都市機能が漫然と動き続けていたり、外国の要人が出歩くのを止められなかったり、日本社会の体質を読みすぎている。2010年には"いつか"の悪夢だったものが現実に顕現してしまったのが恐ろしい。けれどこの話を2010年代に設定した著者には、その"いつか"がほど近いこともわかっていたのかもしれない。
    Ⅰ巻の舞台は完全なるSF世界だったが、今作は冥王斑の存在以外ほとんどリアリズム小説だ。日本の医師団とWHO、米軍のイニシアチブをめぐる駆け引きや、現地で適当につけられた「疾病P」という名前があれよと言う間にPlutoと紐付けされ、大層な病名になってしまうところなど、案外こういうもんなんだろうなと面白く読んだ。千茅以外の合宿所メンバーや医師たちが最後までジョプをけっして平等に取り扱わないのも日本人だな〜と思った。
    ただ、惜しむらくは主人公・圭伍のことを私は好きになれなかった。圭伍は仕事はできるけど出世欲はなく、ほどほどに堕落しているけれども熱意は失っていない、巻き込まれ型の中年男性である。この手のヤレヤレ系キャラが元々苦手なのだが、そこへさらに「冥王斑の患者は生殖行動に影響を及ぼすフェロモンを分泌する」という設定が入ってくる。そのせいで圭伍は10代の患者の乳房に触れてしまい後悔するが、自分の体が発するフェロモンのせいだと理解した患者は彼を許し、恋愛感情を持つという展開になっていく。これが個人的には受け入れがたい。
    最後には他の職員によるレイプにまで発展するこの設定に意味を持たせるのなら、世界中の隔離施設内での性犯罪が作中社会でもっと問題になっているべきだと思うし、そうでないならフェロモンではなく本人が自覚して患者の人権を不当に踏み躙る行為としてレイプを描くべきだったと思う。シリーズものなのでフェロモンの設定が今後どう生きてくるかによって意見が変わるかもしれないが、この巻を読む限りでは千茅と圭伍の悲恋を描くために付けたのかと思ってしまう。華奈子がジョプに性的魅力を感じるシーンなどはないので余計に不自然な感じがする。
    他にもお清めセックス概念が堂々と語られていたり(挿入後も喋り続けるから笑ったけど)、圭伍と華奈子を聖人にしないためにわざと露悪的に書いているのはわかるけど、その点はあまり好きではなかった。でも小説全体はとても楽しんだし、好きになれないキャラクターも巻が変わって数百年飛べばもういないと思うと許せるものだ。

  • 全10巻全17冊

  • めちゃめちゃに面白い。
    現代が舞台。

  • 3.7

  •  全10巻完結するまで読むのを温めていて、完結したと思ったら現実世界でも新型コロナウイルスの流行。持ってるとしか言いようがない。
     冥王斑は架空の感染症のはずだが、その描写、設定がかなり具体的に描かれており、著者は医師免許か何か持っているのだろうかと思わざるを得ない。参考文献が見たい。未知のウイルスに対する人々の反応や対策などは、最近見たことあるようなものばかりで、著者の構成力と先見の明には脱帽する。
     舞台は2015年の地球だが、Ⅰの舞台、2803年の植民星にもリンクする箇所があり、そのスケール感に圧倒される。まだあと8巻あるので、これからどんどん世界が広がっていくのだろう。物語にふれて、動悸が止まらないのは久々だ。
     世界で最も影響力のある100人がこの世界にもあるのなら、最初の冥王斑患者・檜沢千茅はきっと選ばれるんだろう。病に勇敢に立ち向い、他の患者に手を差し伸べる彼女の姿に、「民衆を導く自由の女神」が重なった。

  • 疫病・冥王斑の感染拡大が描かれる。特装帯の力強さに惹かれて読み始めたら、あっという間に読んでしまった…。
    2010年にこの作品が書かれていたのすごいですね。

  • 舞台を800年前の現代に移し、致死率最強のウイルスが蔓延し、人間社会の混乱を描いた話である。

    また、このウイルスがやっかいなのは、感染者が奇跡的に回復してもウイルスは体内にとどまりつづけるため、感染者は被害者であると同時に他者に感染をもたらす加害者となる。

    このような極限状態の中、感染者への差別、暴力が容赦なく剥き出しに描かれる。

    読んでいてつらい気持ちになるが、かすかな希望の光もかいまみえる。

  • 2803年の植民星から舞台は一気に現代の地球まで遡る。文章のタッチも変わり、第1巻とはまるで別の作品のよう。前巻の謎を解くカギが幾つか登場してくるが、冥王斑の発端が描かれているので、この巻だけ独立した話としても成立。パンデミックものの傑作として、まさにコロナ禍の今を知るのにもちょうど良い。

  • 丁度コロナ禍の現在、感染症・パンデミックの話。タイムリー過ぎて、感染者への差別だとか政治・権力争いとか、そういうのがものすごく近く感じた。
    冥王斑の始まり・地球の話で「なるほど、メニーメニーシープのあの病気がコレか」となったけど、あれは水が感染経路だったような?後々何かしら明かされるのかな。
    まだまだ続く天命の標、楽しみ。

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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