- Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150310004
作品紹介・あらすじ
西方の辺境の村にて「アトランティス王国滅亡の原因はこの世の外にある」と知らされた哲学者プラトンは、いまだ一度も感じたことのなかった不思議な緊張と不安を覚えた…プラトン、悉達多、ナザレのイエス、そして阿修羅王は、世界が創世から滅亡へと向かう、万物の流転と悠久の時の流れの中でいかなる役割を果たしたのか?-壮大な時空間を舞台に、この宇宙を統べる「神」を追い求めた日本SFの金字塔。
感想・レビュー・書評
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光瀬龍さんの『百億の昼と千億の夜』、日本のSFではかなり有名で、ランキングだとだいたい上位3位までに入ってるような人気作品(最近のランキングだとまた違うのかも)。
私がこの作品を知ったきっかけは、ひとつは庵野秀明で、エヴァの頃に読み返したと言ってたこと。もうひとつはコレクターズというバンドで、彼らもSF小説のタイトルからとって曲名にしていることがよくある(『百億のキッスと千億の誓い』)。
さらに、高校生の頃の押井守と光瀬龍さんとの関係や、漫画版は萩尾望都さんが描かれていること。しかしそれぞれ別々に読みたかったりマイブームになったので、あくまで偶然。それらがつながってきて、押井守・萩尾望都・庵野秀明はまるでこの作品のシッタータ・あしゅらおう・オリオナエのよう。
光瀬龍さんの経歴が面白い。東京教育大(現在の筑波大)の農学部→理学部卒業、その後文学部哲学科に編入…これらの前にも東洋大学の東洋哲学科や、明大の農学部に入って自主退学を繰り返している。
つまり理系の農学や生物学と、文系の哲学をどちらも学んでいて、この小説はそのままそれらを融合させているような内容でした。
そして、ほとんどエヴァな内容。エヴァだけではなく前作のナディアから、ものすごく影響を与えていると思う。しかし人間を作ったのは神ではなく宇宙人というのは、SFではよくある話。
後半のゼンゼンシティの部分からは、押井守的なものを強く感じた。
とある都市が戦争状態になる部分の描写からは、東京大空襲を連想させられた。調べると、光瀬さんは東京大空襲のあとに疎開しているから体験されてるのかも。
他に、後半のある部分からは当時の学生運動のことを感じました。
シッタータ、悉達多は中盤まず出てのちに再登場する。この時のヴィジュアルは、私の頭の中ではイナズマンや仮面ライダーなど石森先生的なちょっと気持ち悪い感じに再現されてしまうのだけど、萩尾先生の漫画版ではたぶん違って、普通に美男子なのではと……読み比べてみたいです。
近い時期の作品で他に思いつくのは、平井和正&石森章太郎の『幻魔大戦』(1967年)や、横山光輝の『バビル2世』(1971年)など。
話はちょっとずれて、私はNHKのシルクロード系の番組が好きでよく観ています。主に仏像や画の伝来について、他に食文化の番組。有森也実が出てた法隆寺金堂壁画の鉄線描のルーツを探るものや、ヤマザキマリ先生が出てた『シルクロード・美の回廊2』など。これは弥勒信仰の源流を辿る番組で、弥勒…マイトレーヤ、ミイロ、ミスラ、西はミトラスとイタリアまで行く。なので、『百億の昼と千億の夜』で弥勒が重要なのは面白かったです。
小説の内容については「めちゃくちゃ面白い!」と「そうでもない…」が交互にやってくる感じでした。
萩尾望都先生のあしゅらおうの表紙イラストが素晴らしい。この時期のハヤカワのデザインはカッコいいものが多くて良いです(これは岩郷重力)。
解説の、高校生の頃の押井守と光瀬龍さんの話が良かった。私も似たような経験したことがあるからよくわかるし、泣けます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
圧倒的なスケール!壮大なのに細かいところまで作り込まれていて、作品の世界に呑み込まれてしまった。
押井守が解説を書いている、というので読んだけれどその解説(というか思い出話)も読後の余韻を膨らませてくれるいい話。
世界が滅びに向かっていく大きな物語に巻き込まれながら、それでもひとつの生命として問い、戦い続ける登場人物たちが、身体的には(ほとんど神様だったりサイボーグだったり)ずいぶん隔たりがあるのに、不思議と親密さを感じる。 -
2014年5月15日読了。ギリシャの哲学者プラトン・釈迦国の太子シッタータ・ナザレのイエス、そして阿修羅王は、地球に栄えたあまたの文明を滅亡に向かわせたものの真意を知るべく時空を超えた旅に出る・・・。山本弘・大森望・押井守ら多くのSF作家に影響を与えた大作SF。あらすじを読んだだけでのけぞるスケールの大きさだが、内容もすごい。著者自身が後書きで述懐しているとおり、情熱のほとばしるまま書き殴っている感に意味も理屈もわからずとにかく読み進まされてしまう・・・。どこで風呂敷をたたむのか分からぬまま放り出されるラストの情景は、たぶんコレが描きたかったがために著者がこの小説を書いたのだろう、と思わされる余韻に満ちたもの。なお著者が後書きで挙げている影響を受けたSFの多くは私の愛読書とも重なっており、個人的には趣味の近さを感じる。面白かった。
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宗教と宇宙と。善と悪と。生と死と。
一冊の中に壮大な世界が存在していました。。
存在か、無か。
何度も読み返しています。 -
昭和48年版を20日以上かかって読了。宇宙史であり、宗教書であり、哲学書である本書。光瀬氏の作品は初読だが、その圧倒的な世界観に軽くひねり潰された。こういうの好きかも。とても40年近く前の作品とは思えない。いつまでも色褪せない物語。
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高校時代に初読したものを、再読四回目。いやはやすごいわ。宇宙の、人類の、原初からはるか未来の破滅までを、壮大な想像力で紡いだSF。生命の誕生と文明の進化、破滅には、何者かの意志が働いているのか、いないのか、働いているとするならば、それは何者なのか。色とは。空とは。彼岸とは。それをプラトン、悉達多太子、阿修羅王、梵天、帝釈天、ナザレのイエス、イスカリオテのユダといった登場人物(?)を駆使して語る。しかし、やはり難解だわ。萩尾望都先生の漫画化の助けを借りてなんとか読了。死ぬ前に後何回か読むんだろうな。
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生命誕生から星の終焉まで壮大なスケールで描かれる。仏教×SFといった感じか。解説で押井守氏も書いていたが、最後は寂寥たる喪失感だけが残った感じ。
あと、カタカナだらけの文章は表現上仕方ないにしても読みにくいなと思った。 -
突然滅亡したアトランティスの謎を探るため古文書探しの旅へ出たプラトン。道中に立ち寄った街の宗主に、「自身の目で見つけるだろう」という意味ありげな言葉を受け、気を失う。そして目覚めるとアトランティスの司政官となっていた。時空を超えた超大作。
中心人物は阿修羅王・シッタータ(釈迦)・オリオナエ(プラトン)の3名。哲学、東洋仏教、神道を中心に、壮大な世界観を描いた宇宙叙事詩。
~memo~
後に萩尾望都氏が一部設定変更を加えて漫画化。 -
「百億の昼と千億の夜」は僕らの世代のSF原体験だ。「時をかける少女」や「謎の転校生」といった「少年SFシリーズ」で、ジュブナイルSFの面白さに目覚めた僕らは、成長すると共にもっと新しいSF、もっと面白いSFをがむしゃらに求め始めた。そんな時に出会ったのが本書だったのだ。作者の光瀬龍は「夕ばえ作戦」の著者としてお馴染みの作家だった。そして勇んでページをめくった僕の目に飛び込んできたのは、「寄せてはかえし、寄せてはかえし、かえしては寄せる波また波の上を・・・」という呪文のようなリフレインだったのだ。僕は焦った。これは「夕ばえ作戦」とは違う、何だか判らない、何だか難しい・・・
でも僕はその「判らなさ」そのものを愛したのだった。分からなくても何かとても貴重な体験をしているという確かな実感があったのだ。
大人になった今なら、この物語にもっともらしい理屈を着けることもできるかもしれない。だけどあの時の感覚を僕は信じている。あの時、あの独特のリフレインから感じとったことは間違い無く僕の血となり、肉となっているのだと。