幻覚の脳科学──見てしまう人びと (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150505196

作品紹介・あらすじ

実際には存在しないものを知覚してしまう「幻覚」。その様々な症例やメカニズム、芸術・文化におよぼした影響を綴る医学エッセイ

感想・レビュー・書評

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  • 視覚障害者が〈見る〉はっきりとした幻覚、シャルル・ボネ症候群。感覚遮断によって生み出される「囚人の映画」。さまざまな薬物に手を出した著者自身の体験から語られるトリップ幻覚。愛する人やペットを失った人びとが見る〈幽霊〉まで、脳神経科医が出会った実際の事例を元に、脳が見せるさまざまな幻覚を語るノンフィクション。


    原題はずばり「Hallucinations」。この言葉は1830年代に「幻覚」の意味で使われるようになったが、元は「さまよう心」という意味だった。それ以前、幻覚は単に「apparition(亡霊)」と呼ばれていたという。MRIによって脳の活動を見ることができるようになる前は、幻覚を見ること=狂気と同義だったのだ。
    読みごたえがあるのはやはり著者自身の大麻、LSD、抱水クロラール(鎮静剤)などによる幻覚体験を綴った第6章。虹の七色に含まれる「真の藍色」を見ようと、60年代当時は合法だった薬物をサックスみずから調合した。
    「それは天国の色であり、私が思うに、中世イタリアの偉大な芸術家ジョットが生涯をかけて出そうとしたが出せなかった色だ。天国の色は地上では見ることができないから実現できなかったのだろう。しかしかつて存在したのだと私は思った。それは古生代の海の色。かつての海の色だ」
    こんな恍惚とした体験もあれば、禁断症状が見せる幻覚の何も信じられなくなるような恐怖も味わい、サックスはその後薬物をやめたという。
    本書に書かれている事例の中で、私にも心当たりがあったのは入眠時幻覚。子どもの頃は寝転がって天井の木目を見ているうちにそれが動いたりチカチカ光ったりし、気がついたら寝ているようなことが多かった。サイケデリックな色味のフラクタル模様が万華鏡のように移り変わる映像もよく見た。昔のiTunesのヴィジュアライザがそれにそっくりだった。
    シャルル・ボネ症候群の女性が見る「黒いヘブライ文字が白いバレエの衣装を着て」「文字の上のほうを腕のように動かして下のほうでとても優雅に踊る」ステージの幻覚や、皿の上の果物を幻覚が勝手に補充して、まだ残っていると思って手を伸ばすと皿が空になっているという話がどこかおちゃめで面白かった。超常現象を否定する論者(大槻義彦みたいな)が、長いドライブの途中で宇宙船に攫われる幻を見た話も。アメリカ人のエイリアン・アブダクション信仰って、だだっ広い道が感覚遮断状態を作り出すせいなのか?

  •  幻視だけでなく、触覚、嗅覚など、様々な感覚についての幻覚に触れている。どれも興味深い。
     幻覚は精神病や薬などのイメージがあるが、感覚が失われると、それを補うように幻覚を感じる人が多いというのは知らなかった。
     言われてみれば、確かに、失われた(切断された)足が痛い、などというのはわりと聞いたことがある話だ。
     なるほど、視覚や嗅覚が失われ、それがないとわかっているのに見えてしまう、感じてしまって苦しい、というのはあり得そうな話だ。
     幻聴というと統合失調症という思い込みがある。本書を読むまで自分もそうだった。けれど、そうではなく、本人がそれを幻覚と自覚していたり、その内容も統合失調症のように悪口とは限らず、聞き流して精神に支障を来すものではないものであったりと、病的な幻覚と区別する必要がある、というのは、知らない世界を知ることができた。
     私に限らず、幻覚というのは病的なイメージがあるので、幻覚が見える本人も口に出さないことが多い。けれど、精神的な病気ではなく度々あり得ることだという前提でよく聞き取りを行うと、わりと幻覚を見る人もいる、という。
     薬による幻覚の話も詳細に記載されている。「薬物、駄目、絶対」という流れで薬物乱用者の気味が悪く怖い幻覚はよく知られているところだが、そうではなく、世界の真理を知ったような経験をした体験記は、正直、味わってみたいと思ってしまった。
     知的好奇心が旺盛な人は、読むと薬に興味をひかれそうで怖い本だ。
     余命が幾ばくもないという宣告をされたら、是非薬物やってみたいかも……。今は健康で長生きしたいからやらないけれど。

  • 様々な幻覚の体験談を著者の実体験も含めてまとめた一冊。
    身体のある器官の機能が喪失・または器官自体が無くなることで全く自分の経験に関係のない脳が記録した幻を見たり、はたまたその器官が今でも存在するかのような感覚を覚えるというのはなるほどなと思った。
    幻覚と宗教の考察も面白く、幻覚への見方は変わったが、
    自分が求めていたものとは少し違っていた。

  • 脳神経科医が著した、
    幻覚に関する症例を紹介した書物です。
    幻覚は脳が普段と違う働きをすることによって、
    ひき起こされるものですが、
    その原因も症状も様々であることを知りました。
    幻覚の種類には
    幻視・幻聴・幻触・幻臭・体感幻覚・幻肢などがあり、
    表出の仕方は人それぞれ。
    しかも、大多数の人が幻覚経験があるらしいです。
    ふり返ってみると、
    自分にもいくつか思いあたることがあります。
    また、この本を読むと多くのことに納得させられます。
    小さいおじさんを見ただとか、
    霊が見えるだとか、
    神の声を聴いただとかいう人がいますが、
    そういう人たちは、
    確かに見たり聴いたりしているのかもしれないと
    思えるようになりました。
    それらはすべて現実ではなく、
    脳の異常な働きが原因なのですね。
    ただ、あまりにリアルであるため、
    幻覚だと気づかないだけなのです。
    こうなると、
    ふだん自分が見たり、聴いたり、触れたりしているものが、
    ほんとうかどうかわからなくなってしまいます。
    脳の仕組みって、不思議ですごいものですネ。




    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • はじめに
    第1章 静かな群衆―シャルル・ボネ症候群
    第2章 囚人の映画―感覚遮断
    第3章 数ナノグラムのワイン―においの幻覚
    第4章 幻を聞く
    第5章 パーキンソン症候群の錯覚
    第6章 変容状態
    第7章 模様―目に見える片頭痛
    第8章 「聖なる」病
    第9章 両断―半視野の幻覚
    第10章 譫妄(せんもう)
    第11章 眠りと目覚めのはざま
    第12章 居眠り病と鬼婆
    第13章 取りつかれた心
    第14章 ドッペルゲンガー―自分自身の幻
    第15章 幻肢、影、感覚のゴースト
    引用クレジット
    参考文献

  • 幻覚の脳科学──見てしまう人びと (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 幻覚を見ている間、何もないところをまるで何かを見ているかのように目は動く。幻覚者によると映画のような感じらしい

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