充たされざる者 (ハヤカワepi文庫 イ 1-5)

  • 早川書房
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感想 : 74
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  • Amazon.co.jp ・本 (948ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151200410

感想・レビュー・書評

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  • 「充たされざる者」(カズオ・イシグロ : 古賀林 幸 訳)を読んだ。
    読んでいる間中〈混乱〉か〈苛立〉もしくは〈混乱と苛立〉に支配される。
    『ライダー』は泥濘んだ方泥濘んだ方へと足を踏み出さざるを得ない状況に落ちていく。
    カズオ・イシグロ氏は読み手の辛抱強さを試しているみたいだ。(笑)
    過去に一度挫折した作品だが、今回は腰を据えてじっくりと向き合った。
    最後の最後に救済が待っていた。

  • 現代人は皆どこかの集団に属し、多くの人がその立場にある責任や役割を果たそうと頑張る。高名なライダーは、その立場にある人の責任や役割を果たそうとする多くの人から様々な要求を受けてしまい、その約束を律儀に果たすため、自分の用事やピアノの調整の時間も失ってしまう。クリストフのポーターダンスは、年齢的に無理なダンスなのだが、老ポーターとして強い責任感を持ってやり遂げた。皆の期待に沿い責任を果たしたことから無理がたたって亡くなってしまったのは暗示的なものを感じた。痛々しくコミカルなダンスは視覚的で強く印象に残った。

  • そろそろ桜が咲こうかという時季になんだけど、今年みた初夢の話。
     燦々と陽光降り注ぐ部屋でクリスタルピアノを弾いているYOSHIKIが、メロディを奏でるのをやめ、グラサンを指先でスッとあげながら、こちらを見ると、じゃ、20分後に、これ舞台で歌って下さい、と言って出て行った。 
     オッケー!任しときな!と安請け合いしたのはいいものの、よく考えたら、俺、歌詞を知らないや、ということに気づいた。さすがにお客さんの前でカンペみながら歌うのも失礼だし、手のひらに書いて、それみながら歌うってのも、様にならないし、さて、どうしよう・・・
     ってところで目が覚めた。 
     完全に大晦日にみた紅白の影響だ。

     だいたい夢って、その先の展開が読めなくなって困ってくると、目が覚める。自分の想像力以上のものは出てこない。
     じゃ、もし覚めなかったらどうなるかっていうと、この小説みたいな展開になる。
     延々と困った、困った、が続く。
     
     充たされざる者、ってそういうこと?

     主人公はたぶん世界的に有名なピアニストのライダー。故郷に凱旋公演で戻ってきた。街中誰もが彼のことを知っていて、誇りに思っているので、あっちこっちで声をかけられる。有名人の宿命だから、それは我慢しなくてはいけないこととわかりつつ、公演を前に肝心のピアノを弾く練習が出来ない。
     会う人会う人、私がどれだけあなたを尊敬しているかとか、昔あなたに会ったことがあるとか、今度こういう会があるからぜひ来て下さい、ちょっと寄ってひと言スピーチをしてくださるだけでいいんです、とか。
     ライダーも、忙しいのに、まあ、ちょっとだけなら顔を出しましょう、とあっちこっちで安請け合いしてしまうので、もう、スケジュールがメチャクチャ。そもそも自分の公演までのスケジュールってどうなってんの?となってしまう。

     困った。困った。

     まんがにっぽん昔ばなしのおじいさんのナレーションが延々とリフレインする状況に陥る。
     そのうち、時間の流れもおかしくなり、空間もあやしくなってくる。
     そして、ひたすら、困った、困った。

     だまし絵のエッシャーの世界を小説で表現したらこんな感じになるんじゃないかな。なんか拗れてて、どこかでループしてて、知らないうちメタモルフォーゼしちゃったよ、みたいな感じ。

     この作品、傑作か駄作か評論家のあいだでも評価が分かれているらしいが、たんに好きか嫌いかだと思う。
     自分はこういうの、嫌いじゃないから、途中退屈したけど、最後まで読んで良かった、面白かった、と思えた。でも人には薦めない。

     だって長いんだもん。

  • 悪夢を彷徨うような不条理な小説でした……
    ふわふわ、あてどなく1000頁近くも彷徨うのはいささか疲れました。

    なのにシュールリアリスティック的ではなく、最後まで読ませる力があるのは、作者の確かな手腕によるものでしょう。

    そんな夢の中で、挟まれる断片的なエピソードは、誰でも覚えのあるような根源的な傷を抉ってきます。
    両親とシュテファンの関係とかお辛い…
    ライダーの両親が来ないこととの相似性もありますね。

    ブロツキーとミス・コリンズとの関係は、ゾフィーと自分との関係とも相似しているような気がする。
    過去、現在、未来を淀んだ形で顕現した世界なのかもしれない

    そう考えると、グッと面白くなった

  • ブロツキーとは何者なのか
    Audible体験、悩んだ末に分厚さ的にも内容的にも自力で読破できるか不安な本作を選んでみたけど朗読いい感じ。しょっぱなのホテルのポーターの哲学とかハンガリアンカフェとか家族関係をつらつらと綴る感じとか幼少期過ごした部屋の話とか不思議だけどなんか好き
    9番⚽
    ボリスを私の息子だと言い出すライダー
    『2001年宇宙の旅』
    度々思い出したように出てくるゾフィーへの苛立ち
    ブロツキーに延々とチンポとキモい性生活の話聞かされるの嫌過ぎるんですが…

  • 正直に、読むのにとても疲れた一冊。
    カフカの小説のような不条理感がずっと続き、時間の観念が崩され、いまどこにどれくらいいるのかわからなくなりながら、停滞しそうで停滞しない感じの物語に翻弄される。そして疲れる。
    最後まで気の抜けない感じで、「よし、読むぞ!」と気合いを入れないと読み進められない感覚は久しぶり。
    読後の達成感を味わいたい方は、是非。

  • 933

  • 世界的ピアニストのライダーは、あるヨーロッパの町に降り立った。「木曜の夕べ」という催しで演奏する予定のようだが、日程や演目さえ彼には定かでない。ただ、演奏会は町の「危機」を乗り越えるための最後の望みのようで、一部市民の期待は限りなく高い。ライダーはそれとなく詳細を探るが、奇妙な相談をもちかける市民たちが次々と邪魔に入り…。実験的手法を駆使し、悪夢のような不条理を紡ぐブッカー賞作家の問題作。

  • これまでのイシグロ作品と一線を画す非常に不思議な小説。読んでも読んでもつながらない、なにか少しずつずれていく、現実もしくは非現実。自分の考えの小さなサイクルが帰ってこない、ボールペンの試し書きのような思考と行動。なんでしょう、理解できないものは永遠に平行線になる、といったような不寛容を感じされる、まさに”充たされざる者”の物語。そういう解釈にたどり着くラストになぜかすっと入る読後感。

  • 読み切れない!
    話が進まない。時間をおいて、改めて読もう。
    いまの自分の経験値では楽しめない。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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