スケール 上:生命、都市、経済をめぐる普遍的法則

  • 早川書房
3.83
  • (8)
  • (22)
  • (10)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 274
感想 : 17
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152099747

作品紹介・あらすじ

ヒトとほぼ同じ要素でできているのに、なぜネズミは3年しか生きられないのか。企業は死を免れることができないのに、なぜ都市は成長を続けることができるのか。TEDに登壇した経験をもつ気鋭の物理学者が、生命、都市、経済を貫く普遍的な法則を解き明かす。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • とても面白かったです。しかも数式など全く出てこない中で一般の読者にもわかるように解説されていることがよく伝わりました。上巻ではスケールフリーの概念について解説しつつ、主に生命を題材にそれをあてはめています。微生物からクジラまで、様々な生命活動が「べき関数」に従って動いていること、つまりXとYの関係性を考えた場合、XとYの両方を対数化すると直線のように見える、という特徴があることを様々なデータから示しています。

    具体的には2つの挙動を示すのですが、1つは経済学でいうところの「規模に関して収穫逓増」、つまりインプットが倍になると、アウトプットは倍以上になる関係があり、本書ではそれを「超線形スケーリング(つまり傾きが1より大きい)」と呼びます。これは例えば都市で見られるのですが、人口規模が2倍になると、GDPや特許数、犯罪数など様々な指標が2倍以上になる、具体的には15%のボーナスが生まれます(つまり犯罪も2倍以上になる)。

    もう1つが「スケールメリット」つまり規模が倍になると、効率性が高まる現象です。本書ではそれを「線形未満のスケーリング(つまり傾きが1より小さい)」と呼びます。たとえば大きさが2倍の動物が必要とする食料とエネルギーは、単純に2倍(100%増)にはならず75%増にしかなりません。つまり25%の効率性アップが起こっていることになるわけです。

    上巻の最後からは都市の話が始まりますが、現代社会は人新世ならぬ都市新世だという主張は興味深いです。人類がこれだけ経済発展できた背景には、都市への人口集中があった、それによって「超線形スケーリング」と「線形未満スケーリング」(エネルギー効率など)の恩恵を受けてきたという主張です。ここで思ったのは、デジタル技術の本格的な普及とスマートシティの登場によって、この法則は崩れるのか否か、という疑問です。本書ではそのあたりの議論は行われていませんでしたが、デジタル技術がスケールを増幅する可能性もあるのではないかと感じました。

  • 都市の道路、電線、水道管の全長、ガソリンスタンド数などのインフラは、都市の規模の0.85乗に比例する。賃金、資産、特許、エイズ患者、犯罪、教育施設などは、都市の規模の1.15乗に比例する。

    薬物の服用量はまだ結論が出ていないが、代謝物質と酸素と同様に拡散やネットワーク系を通じて表層膜から表層膜へと運ばれているため、器官の総体積や重量よりも表面積に左右される。

    微粒子で散乱した光波の強度は、波長の4乗に比例して減少するため、太陽光は大気中の微粒子によって散乱し、最短の波長である青が支配的になる。

    細胞内のATPの生産量は、温度が10℃上がるごとに2倍になり、2℃の変化でも成長率と死亡率に20~30%の変化をもたらす(体温低下により寿命が延びる)。

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12696225007.html

  •  著者はサンタフェ研究所(SFI)所長の経歴もある物理学者。SFIといえば複雑系の研究のメッカとして知られるが、著者も物理を専門としながらそのパラダイムを生物や経済といったより複雑な系への適用を試みた研究者であり、本書は著者のこの思想を概説したもの。動物、植物、生態系、都市、企業に共通して見られる、スケール増減における特徴的な法則──「スケーリング則」を軸に、生命や環境を理解し直す。そして、そこから得られる統一的な概念的枠組みのもと、寿命や疾病、ひいては地球環境の持続可能性といった、まさにスケールの大きな問題を包摂的に考察していくという試みだ。
     
     全体を概説する1章に続き、2章では建築物や生物における規模と強度の関係についてのガリレオの洞察から、小規模なモデルにおける結果をどのように現実に適用するかを考察した19世紀のエンジニア達の記述を通じて、いくつかの非線形的なスケーリング則の実例が紹介される。そして、異なる領域の無関係な事象に同様なスケーリング則が見られる理由として、あらゆる事象をドミネートする物理法則が根底にあり、物理的に規定される「無次元量」こそがスケールに依存しない不変性をもたらしているとする、レイリー卿の「類似度の原則」が紹介される。
      
     第3章は生命の複雑性が根底にある単純性からどのように生ずるかの考察。物理法則を生物の分野に当て嵌める著者の試みの契機となった、20世紀の生物学者ダーシー・トムソンの「創発」の概念が紹介され、ここでも複雑系科学の根底には物理法則があることが強調される。そして、生命の根幹をなす「代謝」が生命全体に共通して表すパターンが考察される。ここで出てくるクライバーの3/4べき乗則と、生物の様々な部分が異なるスケーリングを示す(アロメトリック・スケーリング則)ため代謝が規模に関して非線形となることの説明は、生物学者ニック•レーンの複数の著作で紹介されており、自分にとっては既知の内容。しかしここでの議論は、やはり物理理論に根差す「トイ・モデル」──声明などの複雑系を本質的要素の抽出により簡素化して捉えようという物理学者としての観点に貫かれている。すなわち、生物のエネルギー供給、代謝、情報を規定するネットワークの本質的特性、すなわち①空間充填、②端末ユニット不変性、③最適化の三つの前提がヘゲモニーを握り、クライバーの法則等に見られる1/4乗スケーリングをもたらしていることが詳述される。
     さらにここから、例として血流ネットワークが常に自己相似的な規則により最適化されていることを挙げながら、数学者マンデルブロが賢くも見出したユニバーサルなフラクタル性により、あたかも次元が一つ増えるかのような効果をもたらす「フラクタル次元」が生じていることが示される。ここでマンデルブロのアイデアの起源の一つとなった数学者ルイス・リチャードソンの国境の長さに関する発見が、エピソードとしては意外性に富んでおり興味深い。

     第4章は上巻の山場とも言える。前章の議論をもとに、個々ではなく生物種全体としての生命のあり方、すなわち成長や寿命を規定する規則の起源が考察される。あらゆる生命活動に創発する1/4乗という指数は、自己相似性による「しわくちゃ性」により、前章のフラクタル性が生体ネットワーク内の端末ユニット(ミトコンドリア膜や毛細血管表面積など)の次元のノッチを一つあげていることに起因する。これがクライバーの3/4べき乗則に現れるマジックナンバー4の原因だというのだ。代謝の現場である端末ユニットが自己相似的に折り畳まれ有効面積が上昇し、あたかも次元が追加的に一つ上がっているかのような効果を生ずる。これにより体積(3次=3乗で増加)に比べ、代謝は4次=4乗で効率化されるため、生物は規模が大きくなるほど代謝=エネルギー効率が上昇する。細胞損傷は代謝に比例するため、大きな生物ほど寿命が長いことの説明にもなっている。この1/4乗スケーリング則は生物進化とは異なる純粋な物理法則によって生じた普遍的なものであり、これが生物のありようを根本から規定しているという。
     これと関連して、動物の規模の問題が考察される。動物では一般に血流ネットワークに占める直流(毛細血管におけるゆっくりとした供給)の割合が一定であり、必然的に大きな動物では交流(心拍による脈動を通じた速い供給)の全体に占める割合が大きくなるため、インピーダンスマッチングによるエネルギー効率化により規模の経済が働くという。それならなぜ極端に巨大な動物が存在しないかといえば、毛細血管などの端末ユニットはサイズ増大とともにまばらになるため、単位あたり毛細血管がサービスすべき細胞が増えるため、大きくなりすぎると低酸素状態をきたすのだという。
     これは生物の成長に限界がある理由でもある。成長するにつれ、総代謝エネルギーのうち既存細胞の維持に向けられる割合が増加するため、新組織創出に向けられる割合が減少するということになる。代謝と端末ユニット(毛細血管)は3/4乗でしかスケールしないのに対し、これが奉仕する対象である細胞はサイズに線形で増加するため、需要に供給が追いつかなくなるのだ。これも全ての動物で共通の制約であるため、どの動物の成長曲線も同一の一般曲線を描く。ここから、線形未満のスケーリングによる規模の利益が、成長に制約をもたらすと同時にそのスピードを緩慢にしているという関係性が導かれる。生体エネルギーの源であるATP産生効率は常に平均活性化エネルギー0.65eVをパラメータとして決まり、その反応速度(すなわちライフペース)は温度に比例する。つまり成長と寿命には生物共通のユニバーサルな根本原理が内在していることが示される。
     そればかりではない。これまで見たように単位質量あたりの代謝率は線形以下でスケールするということと、同じく質量に対し線形以下の3/4乗スケールに従う端末ユニットの増加率が細胞損傷を規定することを考え合わせれば、総損傷率は代謝率に比例し、大きい動物ほど代謝率が低い(エネルギー効率が良い)ため、ゆっくりと損傷を受け寿命も長いことが説明できるのだ。この細胞代謝率と寿命の相関から、低温や低カロリー食の寿命に対する正の影響も推論される。

     第5章以降は、いよいよ基礎科学におけるスケーリング則を離れ、人間が集団を形成する都市における複雑性の創発という実践面に話題を移す。すっかりキャッチワードとして定着した感のある「人新世」に対して著者は、集合体としての人間が指数関数的に実効代謝率を上げる契機となった産業革命以降の時代の呼称として「都市新世」という概念を提唱し解説してゆく。マルサス的桎梏を乗り越えて指数関数的成長を維持するため、安易なイノベーション万能主義に傾倒する経済学者に対し、著者は伝統的イノベーション創出ですら閉鎖した系では熱力学第二法則の制約から逃れられないことを指摘し、地球という「閉鎖系」の枠組みではなく、太陽エネルギーを利用する「開放系」のもとでの新たな次元のイノベーションを起こさなくてはならない、と説く。そしてまさにこの種のイノベーションの生じる場として都市の有機性が必要となるというのが、下巻に続く著者の主張だ。
    ※ちなみに下巻のあとがきでここの部分を訳者が批判しているが、これは僕は的ハズレだと思う。確かに厳密には地球は閉鎖系ではないが、化石燃料から生じるエントロピーを人間が地球外に放出できるようになるには相当な年月が必要だろうから、事実上の閉鎖系として扱って何の問題があろう。また「人口やGDPはどこの国でも頭打ちになりつつあるのだから、イノベーションで指数関数的増加を克服する必要性はもはやない」という指摘も、残念ながら資本主義を理解したものとは言い難い。資本主義はその起源からも、常にどこかにフロンティアを必要とする。フロンティアがなければ富の移転による経済成長が起きないからだ。確かに先進国の人口もGDPも指数関数的増加とは程遠いが、だからといって経済成長をギブアップした国がどこかにあるとでもいうのだろうか。どの資本主義国家も人口以上の豊かさの増加を放棄できず(人口減少国家の最たる日本ですらそうだ)、だからこそ科学技術分野のみならず、金融政策においてすらイノベーションを起こすことで新たなフロンティアを追求しようとしているのだ。この資本主義の試みが不毛だというのならともかく、この現実を否定するのはあまりに浮世離れしたナイーブな見方だと思うのだが。

  • 上巻は生物、サイズと心拍数と寿命の関係は一定だが、それは規模の経済が働き大きい方が効率的にエネルギーを使うことができるため。

  • 面白いが似た本をたくさん読んでおりあまり違いがわからなかったので1点減点。「スケール」と題するなら「スケール」についての言及がもっと欲しい。

  • 見かけと本質を科学で解き明かす試み。具体的な事例の箇所は面白い。ブルネル、ガリレオ、ベルイマン、人新世、都市のもたらす長寿。あらゆる生命界の不思議はスケール計算式で表せられる。
    数式の箇所は難解といえば難解。。飛び飛びに読み、少しずつ理解していく本。著者は75歳。トットナムスパーズのファンw
    面積保持分岐法則。送電網。樹木。血管。
    インピーダンス整合。超音波のヌルヌルも。
    あらゆる動物の血圧は同じ。生涯心拍数も。
    血液も心臓近くは波打つ交流、末端はただ流れる直流。

  • スケーリングやばい、指数関数えげつない、フラクタルふしぎ。

  • 星は3と4の間か。非常に良い本だが、ちょっと難しい。学際の面白さがあるが、一方で研究の最終形は見えなかったので消化不良。しかし、大変面白い本なのは変わりない。特に最後の翻訳者の感想が良かった。それで自分が何が分からなかったかが、分かった。

  • 上巻途中まで
    議論が核心の周辺を回っているだけの様で中々深くならない様に思い、途中放棄

全17件中 1 - 10件を表示

ジョフリー・ウェストの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
スティーブン・ピ...
リンダ グラット...
ギュスターヴ・ル...
劉 慈欣
J・モーティマー...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×