三体X 観想之宙

  • 早川書房
3.52
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152101334

作品紹介・あらすじ

(説明)アジアに初めてヒューゴー賞をもたらし、世界で2900万部、日本でも61万部を売り上げた『三体』三部作を、劉慈欣を敬愛する中国新世代のSF作家・宝樹が受け継いだ。『三体』で提示された謎のすべてが明かされる公式スピンオフ!(既刊へのアオリ)現代中国最大のヒット作にして衝撃作!『三体』人類の命運は四人の面壁者の手に委ねられた!『三体2 黒暗森林 上・下』全世界に旋風を巻き起こした壮大な三部作、ついに完結『三体3 死神永生 上・下』

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    超弩級SF小説『三体』のスピンオフ小説。
    劉慈欣の作風をうまく踏襲し、三体としての雰囲気を醸し出しつつも、二次創作ならではのぶっ飛び感を味わえるいい小説だった。

    第一部の「時の内側の過去」の時系列は、三体Ⅲ(死神永生)の下巻、太陽系が二次元化攻撃を受けた後、グァンと程心がプラネット・ブルーに退避する時だ。グァンと程心は低光速ブラックホールに飲み込まれ、天明、AAと断絶する。グァンと程心がブラックホールを抜け出してプラネット・ブルーに着陸する間(1890万年間)に、天明とAAがプラネット・ブルーで何をしていたかが語られる。
    そこで天明は、自身が脳だけになって三体世界にとらわれていた間の出来事を告白する。三体人による脳への非道な実験と、天明を懐柔するための戦略。それに屈して地球を裏切ることになった天明が、三体文明が侵略計画を練っていることをそれとなく地球側に告げるための偽装工作。水滴が地球の送信システムを破壊したあとの話。三体人の見た目。太陽系に次元攻撃を仕掛けた者の正体(潜伏者)と、潜伏者を倒すよう天明に「意識形」を使って通信し、協力を求めた「霊(統治者)」の存在。AAの知られざる秘密と、天明とAAの過去の関係。

    ここで語られる「統治者(マスター)」が、本書の核として君臨し続ける。

    第二部の「茶の湯会談」は、プラネット・ブルーでの人生に幕を下ろし、天明とAAが老衰で死ぬところから始まる。
    霊(統治者)により死から復活し、永遠の生命を与えられた天明は、捜索者の使命を果たすため宇宙#647へと旅立つ。宇宙#647の管理者となった天明は新たな小宇宙を作成し、智子を作り出す。この智子が宇宙のあれこれ、特に統治者(マスター)と潜伏者の正体を語っていく、というのが本章だ。

    智子の口から明かされる両者の存在は、あまりにインフレが過ぎている。
    潜伏者はひとつの銀河の重力勾配を変更でき、チャーコフ力を利用してすべての恒星を銀河中心に高速で落下させ、超ブラックホールを作り出し、そのエネルギーでマスターを攻撃する。マスターはいざとなれば「次元逆転」を発動させ、既存の物質を素粒子レベルまで分解し十次元の世界を再創造できるが、それをすると潜伏者が作った智子ブラインドゾーン(暗黒領域)に引っかかり位置を逆探知されてしまうため、発動できない。マスターはこの宇宙の外の「超膜」にある小宇宙に存在しており、その座標をつきとめたら、潜伏者はマスターを滅ぼせる。一方、潜伏者のほうは大宇宙のどこかの深淵に隠れていて、もしマスターがその座標を発見したら、同じように滅ぼせる。

    低次元化によって、光速をはじめとするさまざまな速度も、さらに遅くなっていた。いまや、光が宇宙の端から端まで行くのに、分や秒ではなく、月や日でもなく、千万年単位の時間がかかるようになってしまった。世界と世界を隔てる超えがたいこの深淵によって、それぞれの文明は他の文明から永遠に孤立することになり、潜伏者からのプレゼントである暗黒森林状態が完成した。すべての成熟した文明は、うかつに姿をさらした獲物にいつでも銃弾を見舞える準備を整えて、闇の中に身を潜めている。

    マスターの目的は、素晴らしく調和の取れた美しい十次元の世界、「パーフェクトワールド」の復活だ。潜伏者はかつてのパーフェクトワールドから生まれたが、パーフェクトワールドを破壊して次元を九次元に落とした。低次元になった宇宙の中で再び戦いを煽り、宇宙をさらに低次元化させていく。

    潜伏者の目的は、「時間を作ること」だ。パーフェクトワールドは全てが調和し完璧であるがゆえに、時間の概念が存在しない。変化や進化も存在しない。その世界は楽園のように見える死の世界だ。そのため潜伏者は次元を下げ続ける(次元を一つ下げるごとに時間が伸びていくから)のだが、ゼロ次元の宇宙は、時間以外の全てが消え去った「死の世界」だ。行き着く先はマスターも潜伏者も同じで、破滅に向かって歩みを続けている。が、マスターは次元逆転によって、今ある宇宙をリセットし、もう一度同じ宇宙(ループ宇宙)を繰り返すこともできる。天明は低次元化の阻止と宇宙の再生を果たすため、マスターに協力する。

    第三部の「天萼」では、統治者と潜伏者の戦いが描かれる。捜索者(天明とディオレナ)の罠によって、潜伏者の座標が暴かれた。最終決戦で天明は勝利し、統治者は次元逆転を発動させた。
    第四部の「プロヴァンス」とその後の終章では、死神永生の下巻ラスト、グァンと程心が大宇宙に踏み出した後の話が語られる。大宇宙の先は、統治者が次元逆転を発動させた後の世界だった。次元逆転が宇宙全体に到達するには60年ほどかかるため、天明はプロヴァンスという宇宙を作り上げ、グァンと程心を招いた。
    天明はグァンと程心に次元逆転のプロセスを話すも、智子の裏切りが発覚する。智子は程心に、小宇宙に5キログラムのエコスフィアを残すよう提案していたが、それが罠だった。この質量差により「繰り返される宇宙」を作ることが不可能となり、統治者にもわからない「何か」が起こる。
    パーフェクト・ワールドはもう作られない。何度も同じことが繰り返されるループ宇宙も誕生しない。
    5キログラム軽い新宇宙でまた、生命が生まれる。その生命は前宇宙とほぼ同じでありながら、少しだけ違う運命を辿る。そして時間というものがある限り、潜伏者とマスターの戦いは続いていく。

    ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
    以上が本書のおおまかなまとめだ。
    原作の設定をきちんと拾いながらも、オリジナルの味がしっかりと付いた、二次創作ならではのいい小説だったと思う。

    第一部「時の内側の過去」の作風がメロドラマ仕立てになっていたり、ポップカルチャー的ネタ要素が挟まれていたりと、結構俗っぽい要素が散りばめられている。三体文明と地球の関係が西暦時代の日本と中国の関係に似ていることに言及したり、、智子のモデルが日本のAV女優だったり(これは流石に笑ってしまった)、二部ではループ宇宙の引き合いにハルヒの「エンドレスエイト」を出したりと、筆者の宝樹、なかなか日本フリークだ。

    ――自分たちの国土が海底に没するのではないかと憂慮してきた日本人は、歴史上、幾度となく大陸に侵攻し、新たな居住地を獲得しようとしてきた。その国民性はきわめて忍耐強く、命令には絶対的に服従し、規律に厳しい。こういう性格は、まさに地球版の三体世界だと言えなくもない。さらに興味深い事実も見つかった。日本は、雲天明の祖国の文化に影響を受けて発展してきた。しかし、雲天明の生まれる数十年前、日本は彼の祖国を侵略し、二つの国のあいだには深い溝ができていた。ところが、それから何十年か経つと、日本の大衆娯楽文化が彼の祖国を席巻し、無数の若者たちから崇拝と人気を集めることになり、その結果、積年の恨みもしだいに薄れていった......。この歴史の類似性から、三体人研究者のだれもが、地球人の三体人に対する憎しみを払拭するために、日本文化を重点的に研究し、模倣すべきであると考えた。

    一方で、「茶の湯会談」の章では、一転してハードSFらしさが全面に押し出されている。死神永生で繰り出された「次元攻撃」の黒幕に言及し、現宇宙を牛耳る統治者を新たに登場させることで、三体ワールドをより広げようとしている。伏線の拾い方と世界観の膨らませ方はまさに「三体シリーズ」そのものであり、多くの読者に「正当スピンオフ」として認められた理由がうかがえる。

    日本語訳者があとがきで、「ぼく自身、本書を読みながら、あまりのもっともらしさに感動したり、破壊的なネタに大笑いしたり、意外な伏線の拾いかたに感服したり、堂々たる本格SFぶりに圧倒されたり、いくらなんでもやりすぎだろうと呆れたりしたものの、基本的にはおおいに楽しませていただいた」と述べているとおり、本書はこの「ぶっ飛び感」を許せるかどうかで、大きく評価が変わってくるだろう。「ちょっとやりすぎじゃないか」という意見があるのもうなずける。ただ、私としては本編同様にかなり楽しませてもらえた。何でもアリが許せる三体ファンなら、ぜひおすすめの一冊だ。

    三体III 死神永生 下 のレビュー
    https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/4152100214

  • 本作は、三体「ファン同士が交流するネット掲示板文化から生まれた作品」であり、「《三体》三部作の熱烈なファンが、個人的な解釈によって、原典の中にあるいくつかのギャップを埋め、謎を説明しようとした試み」(序)、「三部作を読み終えたあとに残るさまざまな疑問を、(ありえたかもしれない "その後" の物語というかたちで)時に鮮やかに、時に強引に解決し、《三体》ファンなら誰もが見たいと願うようないくつかの場面を果敢に描い」た並行譚(訳者あとがき)。

    訳者は、「一度でも三部作を読んだ人なら、その内容を細かく記憶していなくてもだいじょうぶ。ディテールを忘れているからといって『死神永生』を読み返す必要はない」と書いているが、いやいやそんなことはないでしょう。『死神永生』読んで一年以上経ってるので、ほとんど何も覚えていない。なので、ああそうだったのか、などと感慨に耽ることは全くできなかった。巻末に『死神永生』のあらすじがついていることに後で気がついだが、これを先に読んでおくべきだった。

    まあ、訳も分からず読んだにしては、結構楽しめたかな。第二部以降では、「この宇宙の母と息子の、もしくは統治者と潜伏者の――あるいは、星淵属の神話にある追放された死神と創世神の――永遠の闘争」が壮大な宇宙オペラとして描かれていて、これはこれで楽しめた。

    十次元宇宙=パーフェクトワールド、次元逆転、低次元化攻撃、意識形、超膜などなど、ユニークな世界観(宇宙観)も楽しめた。

  • 三体Ⅲから少し時間が経ってしまったが、巻末にあらすじが書いてあったので難なく思い出すことができた。ありがたいです。
    内容は面白かった部分もあるし、いや、随分ここぶっとんでるな?的な部分もあった。(程心とAA、雲のからみが少なすぎないか!?)でも総合的に見れば上手くまとまっていたように見える。特に最後の章始まりから終わりまでは、そういう未来もあるのかもなとワクワクしながら読みました。個人的には好きな終わり方でした。

  • 『三体』の二次創作。インターネットに発表した作品が評価され、本家公認となって出版された。雲天明が三体世界に囚われた状況を語る。拷問は過酷であった。三体人側には残酷なことをしているという自覚もない。現代日本の人質司法や外国人収容と重なる。三体人は地球人と接触することで、だますことを覚えた。その結果、だまして商品を売買することが行われ、三体世界は混乱した。ルールに基づいて競争することが市場競争である。それがなくなると市場は崩壊する。
    智子は日本人をモデルとした。三体人は自己を大陸を侵略した日本になぞらえている。良くも悪くも中国人にとって日本は存在感のある国なのだろう。

  • 思っていた以上に同人誌だった!
    二次創作だと思えば、どう展開しようがその著者の捉え方なので別にいいんだけど、何も本編と同じ装丁で、厚い本で出す必要はなかったんじゃないか。
    同じ訳者・同じ出版社・同じ装丁・作者公認・公式スピンオフ!なら、続編とはいかないまでも、三体本編の世界感に近いものを(勝手に)期待していた。

    登場人物の、そんな設定やそんなふるまいは見たくなかったというのが多々あり、著者の宝樹と私の解釈違いというやつなのだろうけど、公式でまざまざと見せられると萎える。
    こういう売り方をした出版社の罪だと思う。
    (日本訳者あとがきに、vipperとかのノリに近いとあるけど本当にそう。帯に書いておいてほしかった。売れないだろうけど。「中国のネット掲示板発!三体二次創作!○○は実は日本の〇〇似!?」)

    逆に三体の面白さは、説明不足だろうが謎が残ろうが、面白くならなそうな場面は潔く一切書かないことなんだと思った。

    合う人には合うだろうけど、私は本棚の特等席にある三体の隣にこの本は置かないし、読んだことは忘れようと思う。

    (次元と時間のあたりは面白かった。三体と別の短編になってたら、ふつうに楽しめたかもしれない。今まで読んだ宝樹の短編はとても良かったし。)

  • 中華SF『三体』のファンの手による公式スピンオフ。読めば読むほど「同人誌っぽい…」と思うんですが、ほとんどの同人誌と同様、原作へのリスペクトはしっかり感じられ、登場人物の描き込みも、原著者が公認するレベルなんだろうなぁと思いました。(ただ、同人誌的な読んでいて感じる気恥ずかしさは本著にも健在です(笑
    三体人の正体にしても、ロジカルに肯ける面があって、しかし、そう思うと地球人と三体人は生活空間が意外とカブらず、良い感じに共生できた可能性もあるのではと思います。

    SFというよりはもはやファンタジーなのかな、という印象でしたが、オチのつけ方は力業ながら収めるところに収めてきたなぁと思いました。
    日本との関わりという点で言うと、やはり智子に触れざるを得ないのですが、従順で有能な召使なのに…(ネタバレのため自粛)…と描かれていて、これは中国本土の皆さんが日本に抱いているイメージなのか…?と悲しく思う次第です。
    あと、エンドレスエイトまで出てくるのかー!「あのつまらないアニメ」はわかるけど、1回目は面白いのよ。しかし、本著が世界に翻訳されて広まるとすると、涼宮ハルヒもおこぼれに預かる構図になる…カオスですね(笑

    著者自身の力量を測りかねるところがあったので、やはりオリジナル作品を一度読んでみたいところです。

  • 三体のファンの人が書いた作品。

    本編で脳みそを送られた雲天明目線の内容です。

    三体と同じ人が書いたのではないか?と言うぐらい違和感はありませんでした。

    十次元とか、難しいことはよく分かりませんが、最後に、ええっ、そういうこと!?となりました。

    やっぱり、程心は好きになれません。(あんた、なんてことを!ということばかりしているような)

  • 途中着いて行けないところもあったが、おおむね、これまでの作品の内容を補完する内容だった。

  • 劉さんが書いているのではなく、大ファンだった宝樹さんが書かれた公式スピンオフ。
    二次創作が爆発的に話題を読んで、それを作者本人も認めて後々公式に発売されると言う流れが凄いなぁとは思ったけど、読んでみて自分は別に不快な気持ちとかは全く感じずむしろ三体本編で語られなかった部分が解消されてスッキリした。
    雲天明の脳の行方とか何をしてたか気になってたし、1番モヤモヤしてたマスターと潜伏者の戦いなんて本当に謎すぎたからこのスピンオフで書いてくれてかなりスッキリ!
    そして実は劉さんが...
    って言うあのオチ!
    個人的にはああ言うオチは凄く好きな方なのでおおっ!
    って思った。

  • 劉慈欣氏の三体シリーズの「二次創作」←これ大事。続編じゃない。
    青色惑星に残された雲天明とAAの関係から、天明と“マスター”とのやりとり、そして三体の先の物語。著者の三体への愛が溢れまくる一冊。私は好き。ラスト最高→

    ご都合主義な部分もあれば、よくまぁアレをこう繋げたなーってところもあり、劉慈欣氏っぽい箇所もあり読んでいて楽しかった!
    三体シリーズをキャラ小説としても読んだ人は多分好きじゃないかな。とくにラスト。ニヤニヤできる(笑)雲天明物語になってるんだけど、それもラストで納得。

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