アメリカン・デス・トリップ(上)

  • 文藝春秋
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (599ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163203003

感想・レビュー・書評

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  • <上・下巻併せての評です>

    「アメリカが清らかだったことはかつて一度もない。悪党どもに幸いあれ―」

    「電文体」が帰ってきた。一文が短い。まるで電報。一文に単語が五つ以上使われることは滅多にない。新聞の見出しが躍る。電話の録音の書き起こし。マフィアのボスのバカ話。ハリウッドのスキャンダル。ときどき無性に読みたくなるジェイムズ・エルロイ。シリーズ中残る一作は「アンダーワールドUSA」三部作の第二作。アメリカ史に影を落とす要人暗殺の連鎖を背景に、男たちの報われることのない闘いを描く。

    前作で死んだケンパー・ボイドに代わり、ウェイン・ジュニアが登場。ラスヴェガスの富豪、ウェイン・テッドロー・シニアの一人息子。ウェイン・シニアはクー・クラックス・クラン。子は父を憎んでいる。憎悪がウェイン・ジュニアの糧だ。ピート・ポンデュラントはそんなウェインを弟のように見守る。三人の主人公が交代で視点人物を務める。もう一人はウォード・リテル。懐かしい友に再会した気分だ。

    ジャック・ケネディの死に始まり、マーティン・ルーサー・キング、ボビー・ケネディの死に終わる。アメリカの暗黒史を暴くクロニクル。一九六三年十一月二十二日、ラスヴェガス市警刑事、ウェイン・テッドロー・ジュニアのダラス到着に始まる。以後、ラスヴェガス、ロサンゼルス、メンフィス。さらにキューバ、ヴェトナム、ラオス国境のケシ畑。舞台は太平洋をまたぐ。時はヴェトナム戦争の真っ最中。

    ピートにとってヴェトナムはもう一つのキューバだ。ピッグス湾で仲間を見捨てたケネディが許せない。軍から横流しされた武器をキューバに送る。夢よもう一度だ。イデオロギーではない。金儲けも関係ない。ハヴァナには夢があった。カジノがあった。そこにピートの生きる場所があった。ケネディは腰が砕けた。カストロはハヴァナを奪った。ピートは夢を忘れられない。

    ウェインはダラスに送り込まれた。指令は黒人のヒモの殺害。ウェインは殺せなかった。逆にダラスの刑事を殺してしまう。ピートの助けを得て死体を処理。辛くも罪を免れる。ところが、ヒモ男はウェインの妻を惨殺する。復讐に狂ったウェインは仲間の黒人三人を殺し、刑事を辞める。化学専攻のウェインはヘロイン精製に通じていた。ピートはウェインをヴェトナムに誘う。ウェインは見る。ヴェトナムを。ヘロインに群がる男どもの姿を。ウェインは見続ける。見ることは知ることだ。ウェインは強くなる。

    ウォードは孤独だ。理想や主義を捨てた堕落したインテリ。誰も彼を理解できない。権力者の黒子となって相手を援ける。相手は誰でもいい。大富豪でも、マフィアのボスでも、FBI長官でも。イデオロギーも信仰も介入する余地はない。相手に合わせて仮面をかぶり、カメレオンのように色を変える。盗聴し、強請り、人を動かす。帳簿を誤魔化し、金を動かす。ウォードが動く方に世界は動く。人が殺される。ウォードは怖れる。

    シェルシェ・ラ・ファム。女を探せ。犯罪の陰に女あり。エルロイの女たちは魅力的だ。顔やスタイルは当然のこと。会話が弾み、機転が利き、歌が歌え、ダンスが踊れ、数字に強い。腕が立つのは男も同じだが、男は女に勝てない。エルロイの男たちは女に弱い。ノワールのヒーローなのに。惚れっぽい。人間臭い。そこがいい。

    男たちの見果てぬ夢が終わる。夢は美しすぎた。ヴェトナムはキューバに代わる楽園ではなかった。ボビーの目指すアメリカの正義は潰える。マフィアが潰す。フーヴァーが潰す。組織は一度握った権力を離さない。そのためには裏切る。裏切りに次ぐ裏切り。大義は国家に裏切られ、男は愛した女に裏切られる。ドラッグが見せる束の間の美しいトリップ。夢の終わりはいつも切ない。

    オズワルドは、何故ジャック・ルビーに殺されたのか。マーティン・ルーサー・キングを殺したかったのは誰か。ボビーの死を願ったのは。史実と虚構をつき混ぜ、どこまでが本当でどこからがフィクションなのか、そのあわいを判然とさせないエルロイ・マジック。これが事実である必要はない。しかし、これが事実であってもよい。そう思わされるだけの重さが宿る入魂のノワールである。今のこの国の報道など、この小説一文ほどの重さもない。

  • レビューは下巻にて。

  • ジェイムズ・エルロイのアンダーワールドUSAトリロジーの2作目にあたるタイトル「アメリカン・デス・トリップ」の上巻。
    1960年アメリカで起こったケネディー暗殺、マーティン・ルーサー・キングの公民権運動、ベトナム戦争という一連の出来事の裏側を3人の男の視点から炙り出す。今回は前作にあたる「アメリカンタブロイド」の終末であるケネディー暗殺直後のダラスから始まる。引き続き悪意に満ち、熱情に浮かされ、破滅へ向かう焦燥感に満ちた作風となっている。
    今回も主人公3人の視点を切り替えつつ挿入文書と新聞記事をはさんで出来事の時系列を補足している。今回の「アメリカン・デス・トリップ」は前作「アメリカンタブロイド」の生き残りが二人。そして新しい主人公が追加されている。この計3人の視点からアメリカの歴史の裏側が炙り出されていく。
    今回歴史に翻弄されるのはこの3人。
    マフィアの弁護士で元FBI捜査官のウォード・リテル。
    元警官で元ハワード・ヒューズの用心棒、マフィアの殺し屋でもあるピート・ポンデュラント。
    ベガスの権力者を父親にもつ悪徳警官、ウェイン・テッドロー・jr。

  • 「ケネディの死、ヴェトナムの泥沼。発狂したアメリカの地獄を覗き見た三人の男の破滅と栄光。かつてない激烈さで綴る暗黒小説大作」

    たたみかける文体がどうも読みづらく、退屈さを覚えてしまう。原文の英語では全く違うのだろう。
    内容は、思わず事実なのだろうか、取材方法は?とか思わず考えてしまった。

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