風に舞いあがるビニールシート

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163249209

感想・レビュー・書評

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  • 短編集。最後の表題作が一番好きかなぁ。
    なにかに入れこんだり、夢中になったり、愛したりっていう行為は、客観的にみると一般的なことからズレた場所を、まっすぐ進んでいるようなものなのかもしれないと、この短編集を読んで思った。
    このままどうなってしまうのか、読んでいると不安になるくらい、真っ直ぐに、人も物語も突っ走っていくけれど、落ち着くところにおさまる。

  • 森絵都さんの短編が6つ収められた作品。

    どの話も決して明るくはない話題を重すぎない筆致で綴られ、
    最終的には少し光が差し込む感じにまとめられているので、読後感がよい。

    どの話の主人公も、
    情熱、というと大袈裟かもしれないけど、それを傾けられる何かがあって、
    そこへのアプローチは様々だけど、
    等身大の愛すべき人々でした。

    かつての私も、夢中になって追いかけるものがあって、
    でも、1つかけ違えたボタンによって、
    夢中が故に自分を傷つける結果になりました。
    今は方向転換をし始めるタイミングにいるので、
    「鐘の音」には他の話とは違う共感と希望を抱きました。



    でもやっぱり一番ぐっと来たのは風に舞うビニールシート。
    国連難民高等弁務官事務所という、もはや一般企業の常識の範疇を超えた、
    ある種の使命感なくしてはできない仕事をとりまく家族の感情が、どんどん心のなかに入ってきました。
    当人が言ってる意味は頭ではわかる。でも、家族の立場で、心からの納得は簡単にはできない。
    そこから、物語のゴールに向かっていくときの心の機微がとても自然でした。

    中学生以来に久々に森さんの小説を読みましたが、やはり好きな作家さんです。

  • 6つの短編小説から成る物語

     ひとつひとつの作品が短編とはいえ 十分な読み応えを感じさせるのは 著者の森さんが持つ深い知識と作品を書くにあたって調べ上げたであろう情報量の多さに他ならない

     6話はどれをとっても面白く読後感が良い

    ◯『器を探して』の作中に『釣具小鳥将棋碁麻雀』というのが出てくるが こういう発想に感心する

     『一口含んで、泣きたくなった。昔から、あまりにもおいしいものと出会うと、弥生は泣きたくなる。生まれてきてよかった。そうつぶやくと周囲は大袈裟と笑うけれど、「食」とは人類に最も手短な、そして平等な満足と幸福をもたらす賜りものであると信じている。』
        (器を探して の文中より)

     同感!
    そうだ そうだ!
    『衣食住』というが 『食』は人の体ばかりか心もつくりあげる

    ◯『だから、私の中にいつもあるのは、自分はこの犬たちの一割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる九割を見捨ててるんだって思いなの』
       (犬の散歩 の文中より)

     ボランティアをするにあたって してあげているという優越感ではなく これしかできないけど自分のできることはしっかりさせていただくという使命感がある人間がいることが素晴らしい
    ボランティアの真髄を問う物語でもある

    ◯『守護神』では 「伊勢物語」や「徒然草」の解釈や考察が面白すぎだった

    ◯『鐘の音』は仏像の話が大変興味深かった
    私の父は丸太の木から仏を彫り起こす作業を趣味にしているからなおさらだ
    仏を彫るも 修繕するも 仏の御魂を移す儀式も 全てが厳かでドラマチックだった 
    だからこそ プラモデル用の接着剤や 最後の鐘の音のくだりはクスクスっと笑えて楽しかった

    ◯『ジェネレーションX』ではオチがあるに違いないと
    想像力を駆使して読書を楽しんだが 私の想像力を超える明るいオチが待っていた

    ◯『風に舞いあがるビニールシート』は 表題作なだけあって 濃厚なメッセージ性をはらんだ物語だった
     
    『もう君は聞き飽きたと思うけど、僕はいろんな国の難民キャンプで、ビニールシートみたいに軽々とばされていくものたちを見てきたんだ。人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていくところを、さ。』
      (風に舞いあがるビニールシート の文中より)

     『誰かを助けたい』って思いがあっても 自分の身に危険を呈しても行動に移すっていうのは 誰にでもできることじゃないよなって思う
     『助けたい』と思っただけでもすごい
     『それについて知ろうと学ぶこと』…それもすごい
     でも そこに体ごと突っ込むっていうのは 死ぬかも知れないけどそれでもいいって覚悟で 
    私はそういう人間を 本当に尊敬する
    作中の彼女が最後にそう決断した全ては 最高の愛情を
    得たからに違いないと思う

     やはり 『愛情』を受けた人は 強くもなり 優しくもなれるのだと思う


     短編はあまり好き好んで読まないけど 今回この本は出会ってよかった
    朝 仕事にいく前の数分間ができた日に ちょっとずつちょっとずつ読み進めるのが楽しかったな

     

  • 市井に生きる普通の暮らしをする人、国際機関で働く非凡な暮らしをする人…様々な人の心模様を森絵都さんならではの視点で描いている。
    大人向けの本だが、何故これが中学校の図書館にあったのだろうか。

  • 森絵都さんってこの表題作で直木賞をとっていたんですね。
    この本は短編集だけど、表題作は彼女の作品の中でもそんなによかったかなぁ?という印象です。自分は断然、仏像修復師の「鐘の音」がよかったです。

    という個人の好みはさておき。
    すべて「働く」ということについて模索・葛藤・邁進する様子を描いた短編集で、さまざまな仕事が垣間見れて愉しかったです。

    「器を探して」は、人気パティシエの秘書として無理難題をこなす女性の話。パティシエ本人は難ありだけど、作り出すケーキがすばらしいという。わかるわ〜としみじみ。笑 これだ!という美濃焼に出合うところがドラマティックでよいです。

    「犬の散歩」は、殺処分されるわんこのボランディアをするためにスナックで働く女性の話。牛丼で価値観をはかる先輩を思い出して、わんこのエサで価値観をはかるのがわかりやすくて参考になりました。笑

    「守護神」は、文学の勉強に励む勤労大学生の話。これだけ勉強することが仕事の学生ですね。主人公は勤労といってもアルバイトなので片身が狭く、一見ちゃらそうなのだけども、『伊勢物語』や『徒然草』を独自の視点から読み解く姿がかっこうよかった。それを考察する働く大学生の守護神、ニシマミユキさんも素敵でした。

    「鐘の音」は、自己顕示欲の強い芸術家肌の仏像修復師の物語。若さ故に師匠とぶつかったり他人を見下す描写などが、中島敦の作品を思わせる渋さがありました。最後の吾郎は子どもを授からなかったというのは、人生の対比としてわかりやす過ぎて不要のような気もしましたが。しかし、この中では一番好きな作品ですね!

    「ジェネレーションX」は何歳になっても、結婚しても、子どもができてもバカができるような大人でありたい、という男の子の夢ですね。高校時代の野球部で10年後に集まろうという約束を果たす前日の話。みんながさまざまな人生を歩んでいて、その姿を年上の主人公が眺めているのだけど、最初は諦めに似た感情を抱いていた中年会社員が、取引先の今ドキの社員を見て奮起するみたいな。気持ちのよい作品で、セリフでの話の進め方とかが「守護神」に似ているかな。

    で、表題作は、難民を救うために国連で働く夫婦(というか元夫婦?)の話なんだけども……。ちょっと短編で扱うには感情移入しにくいなあ、というのが本音です。二人の結びつきがよくわからなかった。物語的に破綻しているわけではないですし、むしろよくできているけれども。自分が平和ぼけしているせいですかね。

  • 初読

    森絵都作品二作目。
    やっぱりこの人の作品好みーっ!

    甘辛のバランス良く読み易い。
    特にこの短編集は題材のバリエーションが豊か。

    天才女性パティシエの秘書の『器を探して』
    社会人学生専門論文請負人の『守護神』
    難民支援機関職員の表題『風に舞いあがるビニールシート』
    が特に気に入ったけど

    犬の保護活動の『犬の散歩』はあらあら綺麗ないいお話?と感じたけど
    (それだって犬好きの私は絶対嫌いじゃないのだけど)
    ギリギリでそれだけに傾かないバランス、
    仏像修復士の『鐘の音』の精神状況、密室劇のような『ジェネレーションx』、
    外れゼロ!

    私にはまだ森絵都さんがどういう人なのかわからない。
    作家の主張、本人が作品に出ずにはいられない(それがその人を作家たらしめているのだが)
    特に女性作家はそれが一度鼻につくとそのまま受け入れ難くなってしまうので
    そうはならずゆっくりと読んでいきたいなぁー

  • 6つの物語集、私にいちばん響いたのは仏師にならず修復師にもなれず家具職人の道を歩く男の話 「鐘の音」。直木賞受賞の「風に舞い上がるビニールシート」よりも沁みました。

  • 6編の短編集です。

    お話としては、半分くらいは特殊なお仕事をされている。もう半分は忙しい主婦、学生、だったりする。シチュエーションが物語の中で知識欲を満たす材料になっています。

    さて、描かれているのでは、大小あれど人の苦しみである。現状の仕事や恋人に対する不満というよりは、もっと良く変えたい、自分はもっとうまくやれる、幸せになれる、といった心情でしょうか。最終的にはどのお話も、収まるように収まってイイ話となっています。

    のほほんと生きていたら、変わろうとするエネルギーが沸きにくいです。
    主人公だちは変わらざる得ない環境におかれるのですが、人は変わろうとするものだ、というところに共感するし、そうありたいと思います。

    ---
    「器を探して」:カリスマパティシエ女史の片腕。クリスマスにわざと仕事振り回され、自分のやりたいことを考える
    「犬の散歩」:保護犬の里親をさがすボランティア。
    「守護神」:大学レポートの代筆を頼むフリーター。レポートへの学習意欲がないのではなく、レポートに没頭する時間が取れない。
    「鐘の音」:仏像への偏愛をもつ修復師見習い。
    「ジェネレーションX」:クレーム処理のメーカーの若手が若者らしい草野球を計画。それをそばで聞いてる中年が、その純粋な若い精神性に感じるところあり。
    「風に舞いあがるビニールシート」:国連関連組織で難民保護で駆け回る夫との価値観の違いに苦しむ

  • 直木賞を受賞した短編集。

    どれも専門的な内容であるにも関わらず説明的にはならず
    すらすらと読めてしまうあたりに
    森さんの手腕を感じます。
    すごく丁寧に言葉を選んで、資料を読み込んで書かれているように感じ
    万人に勧められる良本です。

    ・器を探して…上司に振り回されイブに美濃焼を探す
    ・犬の散歩…持病のある犬の里親探し
    ・守護神…レポート代筆依頼のリベンジ
    ・鐘の音…仏像の修復師と不空羂索
    ・ジェネレーションX…草野球の参加者を集めるために
    ・風に舞いあがるビニールシート…元夫の死を整理できないUNHCR職員


    一生懸命な人こそ、自分の限界を感じたときの対処が下手で、
    そんな生き下手な人たちがたくさん出てきます。
    彼らへ向けられる何気ない一言や、彼らを見守る温かい存在が
    少しだけ彼らを救ってくれる。
    本当にいい気持になる短編集でした。

    短編集苦手だったけど、克服できそうかな。

    それにしても、
    「いつかパラソルの下で」とか
    「風に舞いあがるビニールシート」など
    印象に残る言葉を作り出すのがうまいなー。

  • 何を勘違いしたのか私は表題作をスポーツの話かと思っていたら、それは大間違いだった。

    著者の作品はこれで7冊目なのだが、直近に読んだ森氏の4冊の印象(あまり良くなかった)とは違い、読んでいるうちに「これって直木賞取れるような作品じゃない?」とやや上から目線で思った自分。
    後から知ったら直木賞受賞作だった。
    穴があったら入りたい。

    犬の里親探し・仏像・国連と、いずれも相当緻密な取材・研究をなされなければ書けないものを題材としていながら、説明的にもなっていないし、押しつけがましくもないし、物語をぶち壊してもいない。素晴らしいと思う。

    私は自分のプロフィール欄にも書いているが、「主人公が小さくとも明日への一歩を踏み出すような読後感の良いもの」が好き。
    実は本書はどの話も、まさに主人公が彼ら自身にとっての明るい方向へ歩み出す終わり方なのだが、それが読者に対して「ほら!」とか「はい!」とかいうあからさまな形ではない。
    あ~読後感良いわ~と、すぐさま思うようなものでもない。
    でも後から気付けば、「そういえば」どれも明るい方へ踏み出していったなあとじわじわ来る。うまく言えないけれどそんな感じ。

    「ジェネレーションX」はこの中では軽い文体で笑っちゃう感じなんだけれど、私はこれが一番好き。

著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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