- Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163819204
感想・レビュー・書評
-
「あまりによくまとまった話は嘘くさいものよね、ひとが生きて病んでいる状況なんて言葉で簡単にまとめられるはずないもの」
そういう在りようをできるだけまとめずに心にとどめることで、「ひとが死ぬのを黙って見ていることのできるしぶとい神経の持ち主」になれたらと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
信州の総合病院に勤務する陽子医師の日々の心模様と同僚や患者との経緯が、なかなか興味深い。医師という職業につくのは、何もエリート育ちばかりではなく、また、病人を前にしてどのように考察するのかなど、目を開かれる思いがした。エピソードに挿入された三好達治の詩が、一瞬高校生時代の気持ちにさせた。
-
還暦を迎えた医師陽子の1日に絡めて、同期で何くれとなく支えてくれた黒田の病歴要約が綴られる。
医療の最前線から退きつつあるがベテランとして敬意を抱いている後輩の佐野や桑原との関わりなども。
健康状態など重なる部分もあり、生き方についても共感できた。
表紙もいい。 -
待望の南木佳士の新刊書が出た。この作家はデビュー当時から新刊書が出ればほとんど必ず読んで来た。地味な小説だが、内容もさることながら、重厚で滋味のある文体が好きなのである。 声高に訴えるのではなく、重低音で呟くような語り口なので、読後に余韻がいつまでも残るのである。読むのが至極楽しみである。
-
南木佳士さんの文章はピアソラの奏でるバンドネオンの音色に似ている。
その鍵盤は老人の入歯のようにカタカタと鳴り、蛇腹から漏れだす音は肺病を患った人の嘆きのように響く。
南木さんの小説は、生きることの不安から目を逸らして空々しく生きていこうとしている僕に、その危うい足下を正視しろと教えてくれる。
南木佳士さんの小説は読むものに光や希望をもたらしてくれるわけではないが、生けるものとしての当たり前の生の営みを寛容し、明日もまた生きていく覚悟を与えてくれるのだ。