若冲

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902494

感想・レビュー・書評

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  • 京の老舗青物問屋の長男でありながら、若くして弟に家督を譲って隠居、その後は描画に邁進した若冲。
    彼を突き動かしたものは、自殺した妻と、そのことで若冲を憎み続けた義弟でした…

    恥ずかしながら、伊藤若冲という絵師については、樹花鳥獣図屏風の作者であるということくらいしか知りません。
    しかし、本書の中に描かれる、憑かれたように筆を運ぶ若冲の姿や、表紙を飾る緻密に描きこまれた紫陽花双鶏図の迫力に圧倒され、若冲の画を目の前で見てみたいという衝動に駆られました。

    この時代について私がよく知らないせいかもしれませんが、どこまでが史実でどこからが著者の創作なのか、どんどんわからなくなっていきます。
    著者に誘われるままに読み終えたとき、はじめはおぼろげだった伊藤若冲という人物が、しっかりとした輪郭を持った姿で自分の中に立っていました。
    その姿がたとえフィクションであれ、この先私が若冲作品を目にするときに、より一層滋味深く作品を観る助けとなってくれることでしょう。

    人々の心の内を描き出す筆者の筆の巧みさに敬服。
    小説を読む楽しみを存分に味わえる時代小説でした。

  • 伊藤若冲と市川君圭の物語。
    と、あえて書こう。

    本作は、伊藤若冲の人生を若冲と妹お志乃の視点から描いている。
    青物屋枡源の主源左衛門(若冲)は、商いを二人の弟に任せっきりにして絵に没頭する毎日を送っている。
    それは、かつて自ら命を絶った妻お三輪への悔悟、そしてお三輪をいびった義母お清への憎しみの気持ちが原動力になっていた。

    ある日、源左衛門は店をお志乃と弁蔵(市川君圭)に譲ると言い出す。しかし、弁蔵は姉を死に追いやった源左衛門に憎しみをぶつけ姿をくらます。
    その後、源左衛門の贋作絵が町に出回るようになる。それは行方のわからない市川君圭—弁蔵の手によるものだった。

    研究本や解説本を読んでいないので細かいところまでは分からないが、作者独自の設定が結構入っているようだ(若冲は妻帯していなかったらいしので、妻の存在は大きなフィクションということだろう)。

    鮮やかな色彩で描かれながらも、決して陽気とは感じられない若冲の絵。これが悔悟や憎しみの中から生まれた、というところは好みが別れるかもしれない。

    しかし、行方をくらましてから若冲とはほぼ会うことの無かった市川君圭による贋作絵の存在が若冲に大きな影響をおよぼし、それが若冲の支えのような存在にまでなる、というところは読んでいてグッときた。

    伊藤若冲の物語は本作が始めてなのだが、若冲像は作家さんによってカラーがかなり違いそうなので他の作家さんの"若冲物"も読んでみたいと思う。

  • 追うものと追われるもの、双方の悲しみを見つめ続けたお志乃。涙でした。

  • 名前と絵を数点知ってるだけだった。なんで読んでみようと思ったんだろう。
    フィクションもあるようだが、彼のいた時代は有名な画人が沢山いたようだ。沢山の人との絡みは興味深いし、だけど人嫌いだったようだし、内に篭る感じが沢山の素晴らしい作品を生み出していったのであろうし、小説の最後の君圭の思いのくだりは込み上げてくるものがありました。素晴らしい小説だと思います。

  • 伊藤若冲をはじめて“それ”と認識して観たのは、2008年のトーハク 対決-巨匠たちの日本美術展
    http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=55
    トップアーチストを対比させて次々と展開する素晴らしい展示だったが、好き嫌い抜きで 強烈に記憶に残ったのが 若冲 vs 蕭白のギトギトの作品群。
    さぞやクセの強い人物か?と思いきや、立派な青物問屋の跡取りなのに家業をほっぽらかして画ばかり描いたと知るにつれ、なんだかわけがわからなくなる。

    今年はサントリー美術館で、クジラvs白象の巨大屏風を観て、あ〜〜この人実物は観てないんや!と確信。
    しかし、上手くて上手くて!
    ヘンテコリンなのに上手くて 観たとたん笑っちゃうくらい上手い。
    ↑イマココ 、という若冲体験の途中でこちらを読む。

    短編8編が時系列にそって並ぶ。
    隠居のいきさつ、池大雅との交友、円山応挙との出会い、家業の危機に奔走する話、蕪村の悲哀、義弟の哀れ、
    嫁が自死して、彼女の実弟が贋作画家で、生家からは疎まれ、母に嫌われ、というあたりは作家の創造。
    登場する有名画家の生い立ちがよく織り込まれているし、生家のある錦高倉市場のピンチに奔走するくだりはしっかりと実話に基づいている。
    歴史学者の研究報告に2008年に美術史関係者が気づいて若冲がどのように生家を助けたか、より詳細がわかったという、そんな経緯も面白い。
    そして、最後は 鳥獣花木図屏風の真贋を題材に、祇園会宵山の華やかさや若冲亡きあとの法要を舞台に、これまで登場したたくさんの人々を繋ぎ合わせて行く。
    時代物らしいまっとうに泣かせる手法も光って、心慰められる大団円でした。

    鳥獣花木図屏風vs樹花鳥獣図屏風、 観たいわぁ!

    ああ若冲、京都に行ったら相国寺を訪れたいが、石峰寺の羅漢さんにもお目にかかりとぉす...♡

    お供の画集は必須。

    p.s. 澤田瞳子さんて 澤田ふじ子さんの娘さんなのですね。京都の素顔にお詳しい。

  • 「人の心いうのは、誰であれどっか薄汚れて欠けのあるもんどす。むしろ時に人を恨み、憎み、殺したろと思いもするからこそ、その他の行いがえろう綺麗に見えるんやあらしまへんやろか」 若冲はんの絵はきっと、と弁蔵はわずかに声を上ずらせた。「美しいがゆえに醜く、醜いがゆえに美しい、そないな人の心によう似てますのや。…

  • #読了。第153回直木賞候補作品。初読み作家。江戸時代中期に京都で活躍した絵師の伊藤若冲の半生を描く。家族、また与謝蕪村、市川君圭らを含む絵師など、彼を取り巻く人々と、当時の京の都の様子を丁寧に描く。歴史&美術ものが得意でなく、初めのうちはとまどう箇所もあったが、読めば読むほど惹きこまれていった。

  • 歴史の網の目を縫うような快作

  • かの伊藤若冲を捉えた小説、絵はいまや誰でも知っているけど如何なる人と生りかを知ることが出来た。本に因ればあの独特な絵の根底には亡き妻への贖罪と 彼に姉の怨みを贋作によって衝き通した義弟、義弟の絵画力に負けられない意地等が相俟った結実があるという。今一つ絵にのめり込む要因や 絵によって怨みを晴らそうとし続ける義弟の心理、納得できないながら終生 支え続けた腹違いの妹の気持ち 等 腑に落ちない点はあるものの、伊藤若冲の人物像を大まかに掴むことが出来る力作です。

  • 若冲の絵は、現代人の心をも震わせる魅力があります。この作品は、若冲の人間臭さや生きた時代背景を十分すぎるほど想像させてくれます。史料が少ない人物をよくここまたで、書かれたなと感動しました。

著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

澤田瞳子の作品

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