- Amazon.co.jp ・本 (498ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163914022
感想・レビュー・書評
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https://blog.goo.ne.jp/mkdiechi/e/6832d41e01bf926674b9824075cabe95
ブログ「旅と本とおしゃべりと」と、ほぼ同じ内容です。
あまり得意ではない作家さん。
本作も、読んでいて苦しくて挫折しそうになった。
でも、読み終わってみれば、著者の中で一番好きかも。
(読了した本は少ないのだけれど)
主人公のロシア正教会の聖画師・山下りんという人に惹かれ、
旅先に彼女の絵があると知ると、訪ね歩いた時期があった。
同じ頃、近代建築に夢中で、ニコライさんこと、お茶の水の
ハリストス正教会の大聖堂へも、何度も通っていた。
思い入れがある人をモデルにした小説だから、
若きりんのまっすぐさゆえに、周りと衝突する姿が苦しくて、苦しくて・・・
後半、楽になったのは、彼女が聖画師として生きると決めてから。
かなり偏屈な変わり者の婆さんと、周りからは見られているけれど
それでも・・・。
私が自分の年齢に近いりんの方が好ましいのかも。
また瀬沼夏葉はじめ、私自身がかつて好きだった明治の人々が
立ち上る空気感は、さすがだなと、感服。
そして、今ならではなのが、革命前のロシアの文化。
「日本人とロシア人、似ているのです。
素朴で敬虔で、森や草、小さき儚き生き物、聖なるものに親しむ」とは
ニコライ主教の言葉。363頁。
わたしたち日本人は、欧米諸国と比肩しようとしたことによって変わったとは
作中で、晩年の主教の見方。
ロシアは革命、ソビエト時代を経て、変わってしまったのだろう。
かつてのロシアならば、今のウクライナでの所業はできないはずだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『類』でとても好きになった作家です。これもすごい小説だ!これだけの文献、資料を基に生き生きとした人物像を描き出す力に脱帽。文明開化の時代にこんなに熱く生きた女性がいたなんて!読後の充実感をかみしめています。結構生臭い教会の歴史、恐怖のロシア革命など激動の歴史の流れのなかで、画業に対する情熱はもとより、主人公の潔い強い性格が魅力的です。明治の世に初めて見た西洋の芸術はとても明るい白光に見えたことでしょう。そして信仰の光もまた明るく白い光だったでしょう。すばらしい名作です。
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開国して変わっていく日本と新しい芸術、明治の人々の雰囲気が伝わってきておもしろかった。
絵は、ただひたすらに美しさを求めるべきなのか、それとも見る人になにかを伝える術であるべきなのか。絵の根源について考えさせられた。 -
明治から昭和にかけて日本のロシア正教会でイコン絵師として活躍した山下リンの伝記小説です。
絵画に対して一途なリンの一念は下級武士だった兄を動かし、理解ある師匠にも巡り合います。しかし、特に宗教心も無く絵を描きたい一心で正教に帰依し、日本女性初のロシア留学として向かったペテロブルグの修道院では、自らが望むルネサンス調の絵画では無く、暗く沈んだ稚拙ともいえるギリシャ正教のイコンの複写ばかりさせられ、周りの修道女たちと衝突を繰り返します。5年の予定が精神的なストレスから体に変調をきたし2年で帰国。その後も悩みながら日本の聖堂でイコンの絵師として働きます。
若い頃の一念は包容力を持つ周りに支えられ稚気と捉えられますが、留学中の余りの一途さ頑なさは、周りから強い非難を受け四面楚歌に陥り、帰国後は一部を除き心を閉ざしたような生き方でした。それは晩年まで続きますが、どこか飄々とした味に変わって行きます。そんなリンの生き様を明治の士族の没落や、印刷技術(リトグラフ)の発展、日露戦争などの時代背景を交えながら描いていく、最近の朝井さんらしい、骨太でしっかりした読み応えのある物語です。
リンは一生独身を通すのですが、若い頃からの女性の一生を描きながら恋愛の一かけらも出て来ないというのも珍しいですね。
それにしてもまかてさん、2018年以降は『悪玉伝』江戸時代の辰巳屋乗っ取り騒動と言う一大疑獄事件の主人公・吉兵衛の物語、『落花狼藉』吉原の創設者の妻・花仍の一代記、『グッドバイ』幕末の長崎で茶輸出で財を成した女性・大浦慶の物語、『輪舞曲』大正期の伝説の女優・伊澤蘭奢の一生、『類』鴎外の“不肖の子”類の生涯、そして本作。江戸から少しずつ現代に近づきながら、時代の隅で活躍した人物を題材にした一代記が続いていますね。今後もこの方向なのでしょうか。個人的には『残り者』の様なエンタメ時代劇や『ちゃんちゃら』の様な人情時代小説、そしてファンタジーの『雲上雲下』といった作品も大好きなのですが。。。 -
感動の一冊だった!江戸時代末期から明治大正昭和を駆け抜け前半は凄まじい塗炭の苦しみと言葉もわからないロシアへの絵師となる為の修行、誤解と絵師としての理想の狭間で苦しみ、それは凄まじいものだったろう。最終章は歌うが如くの文体は流石です。昭和13年生まれの小生にはその直前迄の歴史をなぞる作品だった。感動、感動の一冊をありがとう。
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明治5年「絵師になります」そう言い残して故郷を離れたりん。のちに日本初のイコン画家(聖像画家)となる彼女の人生。芸術表現とイコンの狭間でもがき葛藤しながらも、絵を描くという信念だけは曲げず生き抜くさまは、強さと無鉄砲さのギリギリの綱渡りのようで胸が苦しくなる。東北言葉をあやつる師、ニコライ司教の優しさ。「しゃあんめぇ」と穏やかに笑いりんを支えてくれた兄。若かりし日には、その若さと無知ゆえ衝突ばかり繰り返したロシアでの日々。出会った師たち。
明治という時代の移り変わり、ロシアとの関わりなども巧みに描かれていて、読む手が止まらなかった。
白光の彼方にいるりんや、時代をともに生きた人々を想って余韻が溢れるような作品です。 -
著者渾身の傑作長編。朝井作品は本当にハズレがない。日本初のイコン画家・山下りんの生涯を描く。「明治の世にて、私も開化いたしたく候」立志を胸に絵筆ひとつを武器に、絵を学びたい一心で、明治の世に羽ばたき、ロシアでの苦学の後、芸術と信仰の天秤でもがきながら、辿り着いた署名の無い信仰の対象としてのイコンを精魂込めて製作し倒す圧巻の生涯を、流麗でありながら力強い筆致で描いた大作。圧倒されます。タイトルも装丁も秀逸。笠間でイコンの作品が観れるそうで行って鑑賞したくなった。
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長く長く、迷い、壁にぶちあたって、濃密な生涯に疲れてしまいました
周りの人も濃く生きているのでそういう時代でも有ったのが感じられます -
一人の女性の人生として、読み応えがあった。
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イコン画家とあったので、元々宗教的な方かと思ったが、そうではなかった。結婚せずに生きるのはとても難しい時代に、画師として身を立てようとするのはとても大変だっただろう。
ロシアに渡った際のイコンの描き方についての戸惑いの部分は、読んでいてもどかしく感じた。言葉が通じていれば、違った展開になったのかもしれない。
山下りんのイコン画を何処かで見てみたいと思った。