食育のススメ (文春新書 612)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (291ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606122

感想・レビュー・書評

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  • 明治時代に食育について語った「食道楽」という小説から食の知識の大切さを問う本

    目次
    <blockquote>第1章 「文明の生活をなさんものは文明の台所を要す」―春の巻
    第2章 「家庭料理の研究は夫婦和合の一妙薬」―夏の巻
    第3章 「身体の発達も精神の発達も根源は食物にある」―秋の巻
    第4章 「何事にも程と加減を知ることが大事」―冬の巻
    </blockquote>
    面白かったー。最初は明治時代の小説の話か、なんかずれるなーって思ったのだけど、
    この小説は現代にも通用する……というか「美味しんぼ」的なアプローチだったようで、
    上手く描かれててひきずりこまれました。

    いきなり途中からの話でキャラの紹介もくそったれも無いのですが、そこはまあ引用の意図と違うので、名前から察してください。そこは本を一から読めばわかるので割愛します。まぁ、この小説が女性向けということで恋愛も多少絡めてあるので、それを楽しむのもなかなかいい感じですよ。
    <blockquote>さらに、「人間には二つの口がある」と、玉江が予想もしないことを話し始めました。第一の口は顔にある口で、第二の口はお腹にある口。世間の人たちは、顔にある口から滋養分を食べれば、そのすべてが身体に入ったと思っているが、それは大間違いで、お腹の口が開いていないと滋養分は素通りするだけで身体の養いにはならない、と中川は語るのでした。
    </blockquote>
    この二つの口のくだりはなかなか興味深かった。ちょうどツボにはいったというのもあるけどね。
    「そうかぁ……やや食べる量が少ないから、沢山食べればいいと思ってたけど、ちょっと下しがちだったのもあったなぁ。すこしゆっくり食べて消化しやすくしよう。」
    なんて思ったのでした。
    本文が小説の引用と解説を交互に繰り広げる格好なので抜き出し引用で紹介しづらいのですが、明治の時代にしては洋食の知識も広いし、調理法も詳しい。薀蓄もかなりコアをぶちぬいた感じでよくできてるなーって感心しながら読んでました。

    食は意外と無視されがちです。昨今話題にこそしてますが、食べることに制約があるわけでもなく、「飽食の時代」というくらいなんでも出来てしまうという状態が、食に関して偏向を招いてるきらいもあると思います。つーか、ほんとそうですよ。家のキッチンが弱いので外食に頼りがちなのですが、消化にいい粥などは外食ではなかなか賄えません。(よくてうどん程度。コンビニに粥はあるが、電子レンジといった最低限の環境が無いと厳しい)
    まあ、自分が極端な住処で暮らしてるってのもあるんすけどね。(キッチンは未使用&レンジもない)
    ここのとこはいざってときに不便なのを思い知りました……。
    しかしまぁ、そこはいつかちゃんとするということで今は我慢しかないなぁ。
    おっと、ずれた。まぁ、そういうことで、こういう食べ物の知識から、身体の医学的な面、さらに台所論やら、その当時の世論からの批評なども混ざっていたようで、メインは食なのですが、いろいろと楽しめる内容です。

    うーん、これは元の小説がかなり秀逸だったんだなぁ。「美味しんぼ」的というのは言い得て妙なくらいピッタリですよ。

  • 村井弦斎が書いた明治のベストセラー小説「食道楽」についての紹介及び解説をした本である。
    「食道楽」という本は、小説という形をとってはいるが、お話を通して当時の人々に対して、食への興味関心を持ってもらい、それによって食生活の改善を図るということに主眼が置かれたものである。つまり、明治期に書かれた食育本である。ストーリに絡ませて食を説くという形式は、非常に読んでいて分かりやすく楽しいし、さらに実用的であるということからその価値は高い。実際、食道楽はただの小説というだけではなく、実用書的扱いもされていたようである。食道楽は食への啓蒙的内容であるから、現代人にとっても耳に痛い内容が多数。

    本書は、食道楽の内容を紹介し、その背景にある明治期の人々の様子も分かりやすく解説している。明治時代の食文化がよく理解できる非常に興味深い良書である。

  • 「食育のススメ」とあるので、現代のことを取り上げているのかと思ったら、何と村井弦斎の「食道楽」を紹介する本だったとは!
    岩波文庫に入っている「食道楽」は、ずいぶん前に買って、いまだに積読状態。
    これを「しょくどうらく」と読むのだということも、本書から知った。

    「食道楽」を紹介しつつ、弦斎の実人生や、当時の時代状況にも解説が加えられていく。
    大隈重信邸の台所の様子などは、興味深い。

    筆者の関心は、「食道楽」が現代社会にも通用する先進性を持っていたことを解き明かすことにあるようだ。
    先進性はともかく、家庭小説的な道徳主義に私は若干食傷気味になるのだけれど…。

    一世を風靡したこの小説があっという間に廃れた事情を、黒岩さんは日露戦争の開戦による世の中の空気が一変したことに見ている。
    平成の私たちも、震災で空気が一変したことを覚えている。
    なにかちょっと切ない気分になった。

  • S498.5-ブン-612 200025096

  • 明治のベストセラーグルメ小説「食道楽」の解説書。当時の台所事情、食事事情、食の薀蓄、また著者村井弦斎(かなりの愛妻家)の先進的な食育論、家庭論が展開されている。
    歴史小説や映画ではなかなか見えない、当時の食を巡る背景は面白い◎
    今でこそ食材調達も鮮度管理も調理器具もガス水道も整っているものの、明治初期に手の込んだ家庭料理を楽しむことはなんて大変なことだったのか。
    因みに庶民の一ヶ月の生活費が一月30円程度の時代に岩崎弥太郎邸では食費だけで8万円、台所は今でいう3LDK住宅もの広さだったそうな。
    おったまげ。

  • 第4週 2/8(水)~2/14(火)
    テーマ 「食」

    ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00174030

  • 明治時代に こんなこと 

  • 岩波書店から上梓されている「『食道楽』の人 村井弦斎」の厚い本には感動したっけ。著者のじっくりと腰を据えた探究心は敬服に価する。しかし「食育」テーマは弦斎の一部分、読みやすいけれどなんだか物足りなさが残る。

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著者プロフィール

1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。ノンフィクション・ライター。図書館へ通い、古書店で発掘した資料から、明治の人物、世相にあらたな光をあてつづけた。
『「食道楽」の人 村井弦斎』でサントリー学芸賞、『編集者 国木田独歩のj時代』で角川財団学芸賞、『パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い』で読売文学賞を受賞。
他の著書に『音のない記憶』『忘れえぬ声を聴く』『明治のお嬢さま』など。10年間で10冊の著書を刊行した。惜しまれつつ、2010年没。

「2018年 『歴史のかげに美食あり 日本饗宴外交史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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